┏━━ メルマガ第23回━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
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★1.【巻頭】~委員長のひとりごと~(上村英明)
9月1日の朝日新聞などで朝刊に目を通すと、90年前の関東大震災の特集がいつものように組まれており、90年を経ても学ぶことがある、という活字が2年前の東日本大震災の情景や今後予想される関東・東海などでの大地震の予測記事と組み合わされていた。しかし、こうした記事が出てきたということは、8月6日、9日、そして「終戦記念日」と称される8月15日を中心とする「戦争を考える季節」が終わったことを意味している。憲法改正や靖国参拝などの政治情勢を背景に、今年も多くの新聞紙面で、第二次世界大戦を締めくくったこの時期に、この大戦に大きな加害責任のある国家の国民あるいは市民として、この教訓をどう学ぶかに関する特集や関連記事、読者からの投稿などがさまざまな形で展開されていた。軍国主義から民主主義国家への転換点がこの大戦の敗北である以上、その教訓を繰り返し学ぶ姿勢は極めて重要だろう。
しかしである。こうした「戦争」に対して、これを繰り返すなという反省が氾濫する中で、その原因ともなった「植民地主義」や「帝国主義」への反省は、残念ながら今年もほとんど見られなかった。近代国家となった日本は、いつから植民地主義的拡張政策を取ったのか、それによって誰をどのように支配し、その不当に搾取した利益をどのように配分したのか、そして、植民地主義の影響は現在きれいに払しょくされているのか。8月15日は、第二次世界大戦における日本の敗戦の日であると同時に、日本の植民地主義が反省を始める日でなければならなかったのではないか。
今年は「終戦」から68年目に当たるが、植民地主義への反省はいまだ国民的あるいは市民的議論にさえなっていないような気がする。
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目 次
★1.【巻頭】 ~委員長のひとりごと~ (上村 英明)
★2.【SJF News】
・アドボカシーカフェ「働く世代の貧困問題と生活保護法改正」9/24 ご案内
・ソーシャル・ジャスティス基金 2013年度 助成先 発表フォーラム ご案内
・報告:アドボカシーカフェ8/31
★3.【今月の言葉】 「ロヒンギャ民族」 (轟木 洋子)
★4.【コレに注目】 「特定秘密保護法案」(辻 利夫)
★5.【コレを読まなきゃ】 『みんなで決めた「安心」のかたち』 (黒田 かをり)
★6.【運営委員の近況】 (上村 英明)
★7.【事務局だより】
委員長のひとりごと以外のコラムは、毎回委員が交代で執筆します。
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★2.【SJF News】
●イベント予定
【アドボカシーカフェ】「働く世代の貧困問題と生活保護法改正」9/24ご案内
【ソーシャル・ジャスティス基金2013年度助成先 発表フォーラム】10/19ご案内
●報告:アドボカシーカフェ(8/31)
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●イベント予定
―――9月24日(火)開催 【アドボカシーカフェ第19回】 ☆ご参加募集中☆
『 働く世代の貧困問題と生活保護法改正
――生活保護と日本の貧困問題 第2回―― 』
ゲスト: 川村 遼平 さん(NPO法人POSSE事務局長、若者の貧困・格差問題に取組む)
☆ NPO法人POSSEは、「ブラック企業対策プロジェクト」を、9月11日に設立。
コメンテーター: 嘉山 隆司 さん(元 新宿区 福祉事務所ケースワーカー)
モデレーター: 辻 利夫 (SJF運営委員、認定NPO法人まちぽっと事務局長)
@文京シビックセンター4Fシルバーホール、18:30-21:00(受付開始18:15)
詳細は; http://socialjustice.jp/p/20130924/
ご参加の登録は; https://socialjustice.jp/20130924.html
―――10月19日(土)開催 【ソーシャル・ジャスティス基金2013年度助成先 発表フォーラム】
登 壇:
2012年度助成先
(「多様な学び保障法」を実現する会,監獄人権センター,レインボープライド愛媛)
2013年度助成先(近日中に発表予定)
上村英明 /運営委員長 (恵泉女学園大学教授, 市民外交センター代表)
黒田かをり /副運営委員長 (CSOネットワーク理事・事務局長)
轟木洋子 /副運営委員長 (国際草の根交流センター事務局長)
プログラム:
第1部 2012年度助成団体の報告 助成団体とSJFからの活動報告・会場参加者との対話
第2部 2013年度助成団体の紹介 SJFから審査報告・助成団体のプレゼン・会場参加者との対話
終了後、自由参加の懇親会を開催します。
参加費:☆無料☆登録はこちらから https://socialjustice.jp/20131019.html
日時と場所:
10月19日14:00~16:30(受付開始 13:45-)、西武信用金庫 本店
詳 細:こちらから http://socialjustice.jp/p/20131019/
●報 告
―――8月31日(土)開催 【アドボカシーカフェ第18回】
『セクシャル・マイノリティから見た、日本の「新しい」家族と生活
~セクシャル・マイノリティのことを知り、誰もが生きやすい社会を目指して 第3回~』
ゲスト: 加澤 世子 さん(NPO法人レインボーコミュニティーcoLLabo理事)
吉岡 利代 さん(NPO法人ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表代理)
コメンテーター: 島田 暁 さん(「レインボー・アクション」代表、映像作家)
モデレーター: 樋口 蓉子 (SJF運営委員)
当日の様子は; http://socialjustice.jp/p/20130831report/
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★3.【今月の言葉】 「ロヒンギャ民族」 (轟木洋子)
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ビルマ(以下ミャンマーと同意語)が日本にぐんと近くなってきた。ここ1、2年で民主化や少数民族との和解など劇的な変化を見せ、今年春には長年拘束されていたスーチー氏の来日も実現。すでにヤンゴンにはANAが直行便を運航し、人口4千万を超えるこの国への経済界の期待が高まっている。
しかし、この国の「ロヒンギャ民族」を取り巻く状況は、まったく改善していない。それどころかこの民族の難民化は進んでいると聞く。これまで民主化を求めてきた多数派のビルマ民族、またその他の多くの少数民族も、長い間軍事政権下で抑圧の対象であったことは共通しているが、彼らのように長らく人権をはく奪されてきた人達にとってさえ、ロヒンギャはまったく次元の異なるセンシティブな問題であるようだ。
ロヒンギャは、バングラデシュ国境近くに住むイスラム教徒。国籍さえも与えられず、そのため国民としての保護対象とはならずに差別され、軍などによる攻撃、拷問、レイプなどのためにバングラデシュ側に数万人が逃れている。気になるのは、ビルマ国内で信頼の厚い仏教僧侶の中から、ロヒンギャの迫害を促すような声が大きくなってきていることだ。日本とビルマの間で、人やモノが流れだし、文化や経済の交流が進むことは望ましいことだが、このロヒンギャ問題が解決しない限り、ビルマ国内での重大な人権侵害は終わったと言えない。
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★4.【コレに注目】 「特定秘密保護法案」 (辻 利夫)
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東京五輪決定のニュース一色に覆われているメディアではほとんど報じられていないが、この秋の臨時国会にも提出されるという特定秘密保護法案が、9月3日から17日までパブリックコメントの募集をしている。特定秘密を漏らした公務員だけでなく、特定秘密を漏らすように促した民間人、特定秘密の提供を受けた国会議員も刑事罰が科せられる。最長で懲役10年である。特定秘密の対象が網羅的で、秘密を守りたい行政機関の裁量で秘密指定されるため、国民の知る権利、報道の自由を大きく制限するものになるだろう。メディアの取材活動が厳しくなり、萎縮することになるのは明らかだ。
1985年6月、中曽根内閣のときに自民党が議員立法で防衛秘密、外交秘密を対象とした国家秘密法案を提出し、市民団体、野党、報道機関、法曹界などがこぞって反対運動を展開し、廃案になった。当時、市民サイドの運動の中心になったのが、情報公開法を求める市民運動を事務局とする、国家秘密法に反対する市民ネットワークである。この運動のさなかの1986年4月にチェルノブイリ原発事故が起きて、日本でも原発反対運動が全国的に拡大した。国家秘密法が成立すれば、原発の情報がさらに隠されるということで、両者の運動が相乗的に広がったという記憶がある。
今回の特定秘密法案は、特定秘密の対象分野として、防衛、外交、安全脅威活動の防止、テロ活動の防止の4つを挙げている。原発情報も「テロ防止」の分野に入るのは間違いない。他にも幾つもの危惧すべき点があるが、国会が閉会中ということもあって、議論がほとんどされていないことが最大の問題だ。たとえば、NPO法人情報公開クリアリングハウスの三木由希子理事長は、「どんな行為が違法とされるのか、具体例が示されないので、判断のしようがない」と、新聞でコメントしている。特定秘密の提供を受けた国会議員も刑事罰の対象になるのだから、野党議員は自らのためにも、法案の中身を具体的につめる必要がある。
なお、法案の経緯と問題点については、情報公開クリアリングハウスのウェブサイトにわかりやすく掲載されているので、ご参考にされたい。
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5.【コレを読まなきゃ】
『みんなで決めた「安心」のかたち: ポスト3.11の「地産地消」をさがした柏の1年』
五十嵐泰正 +「安全・安心の柏産柏消」円卓会議、亜紀書房、2012年12月
(黒田 かをり)
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首都圏にありながら豊かな農地が広がる千葉県柏市は、新鮮な地元の農産物を味わう「柏産柏消」のライフスタイルが、まちの魅力となっていたそうだ。ところが、2011年3月21日、放射能の「ホットスポット」を持つことになり、誰もが見えない放射能に恐怖を覚える日々が始まった。これまで地元農産物を食べていた人たちが買い控え、農家の苦悩が始まる。そして消費者と生産者の間に溝ができる。そのような中から、柏周辺の農家(生産者)、消費者、流通、飲食店、測定業者、NPOが、立場の違いを超えて、顔の見える関係を築き直すために円卓会議を始め、筆者が関わるストリート・ブレイカーズ(ストブレ)は事務局を担った。ストブレは、震災前より、柏の生野菜市の開催や農場訪問などを行うことで、生産者と消費者や飲食店をつなぐ活動をしていた。すでに築き上げていた信頼関係がなければ、円卓会議の発足は難しかっただろう。そして立場が異なる人たちを同じテーブルにつかせたのは、それぞれの柏への愛着だった。
本書には多くのメッセージが散りばめられている。「地産地消」とは何か。地産地消にこだわる人の多くが地元農産物から離れたのはなぜか。円卓会議は、この理念の再確認からスタートしている。
筆者は、福島にも触れ、原発事故がもたらした最大の悲劇は、地域間・地域内の分断、「移動する」と「留まる」の間の溝などとしている。移動する権利と、慣れ親しんだ土地で生きる権利とは、本来等しく尊重されるべきものにもかかわらず、いまだにこの原則が十分に理解されているとは言い難い、と述べている。
本書に記された柏での実践は、行政が正面から取り組みにくい地域の課題に、民間の多様な主体が連携することで向き合い解決していこうとする一つの事例として、福島のようにいまだに困難を抱える地域にとっても、またその他の地域にとっても重要な示唆を与えるのではないか。
* 本文は、『オルタ』2013年5月号(4月25日発行・月刊、発行:NPO法人 アジア太平洋資料センター(PARC)に掲載された筆者執筆の書評に手を加えたものです。
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★ 6.【運営委員の近況】 (上村 英明)
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8月の前半は、大学の出張と春学期の学生レポートの採点、成績評価などに追いまくられたが、中旬からは例年になく穏やかな夏休みとなった。(もちろん、「穏やか」と言っても、今年もエアコンを使わなかったので、酷暑の日々はたいへんであったが・・・。)もちろん、社会的な活動も以下のように行った。
・8月7日:地元の葛飾区の高齢者の勉強会で、「植民地主義と先住民族から歴史を再考する」と題して講師を引き受けた。具体的内容は、尖閣諸島問題で、いかに政府の言説を信じ込んではいけないかという論旨である。70歳~80歳の世代であったが、こうした課題への関心は極めて旺盛であった。
・8月28日:「ニッポンCSRコンソーシアム:ステークホルダー・エンゲージメント・プログラム:人権Due Diligence Workshop 2013」の第4回で、先住民族の権利に関してコメントを提供した。これは、最近盛んになった企業のCSRの質を高めようとする貴重な試みだが、出席している企業担当者の話によれば、とくに人権を含むCSRは日本では企業の基本文化としては育っていない、とのことだ。しかし、こうした試みは重要だろう。
この他は、連れ合いと映画鑑賞によく出かけた。8月では、「ローン・レンジャー」、「終戦のエンペラー」、「風立ちぬ」を見た。
「ローン・レンジャー」は、小さい時にTVでみた米国ドラマの「謎解き」になったが、自らチェロキー民族の血を引くジョニー・ディップが「トント」と呼ばれるコマンチ民族の「友人」をむしろ主役として演じ、米国の歴史が手短にだが正面から描かれている点は、かつてのTVドラマから隔世の感である。
いっぽう、「終戦のエンペラー」の鑑賞は仕事半分であった。この映画の日本語版の原作では、仕事先の大学の創設者・河井道が戦後の象徴天皇制の成立に関係があったとされており、この映画がそれをどのように描いているかに関心があったからである。しかし、正直に言えば、映画としては駄作だろう。天皇の開戦時における戦争責任は確定できないが終戦に貢献したことは明確とする従来の史観が、GHQ将校の薄っぺらな恋愛物語を通して確認されているに過ぎない。米国政府がその占領政策に資するとして天皇制の存続を確定していた事情や、ソ連・英国・中国などとの駆け引き、米国国民の感情なども一切描かれていない。焼け野原となった東京のコンピュータグラフィックスや、皇居にGHQが自由に出入りできなかったなどの点は面白かったが。
最後に、「風立ちぬ」は、宮崎駿の映画としては何か期待するものがあったが、これまでの作品のような鋭く明確なメッセージがほとんど伝わらなかった、というかわからなかった。海外のジャーナリストから批判を浴びたとも言われるが、とても残念である。
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★7.【事務局だより】 ~助成団体とのコラボレーション~
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こんな課題があったのか、こんな取り組み方があったのか…助成先候補団体との出会いは衝撃的だった。謹んで真摯に受けとめつつも我が身に立ち返り、一人でも多くの人々と次なる一歩を踏み出すべく、アドボカシーカフェやフォーラムの企画や広報、またファンドレイジング等を通して社会全体の課題意識を高める試行錯誤を続けてきた。
一方、本年度の助成先団体からは、SJFと共催のアドボカシーカフェを通して多様な層へのネットワークを広げることができたケースや、アドボカシーカフェを参考にした市民の議論イベントを地方で開催したケースを伺ったことがある。
身近なところから取り組み始めた地道な活動どうしが、つながって広がっていく様に、夏の疲れは吹き飛んでいった。
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運営委員のプロフィール
● 上村 英明 運営委員長(恵泉女学園大学教授、市民外交センター代表)
● 黒田 かをり 運営副委員長(一般財団法人CSOネットワーク 理事・事務局長)
● 轟木 洋子 運営副委員長((財)ジョン万次郎ホイットフィールド記念国際草の根交流センター事務局長)
● 伊集院 尚子(株式会社アスラン代表取締役)
● 大河内 秀人(江戸川子どもおんぶず代表、NPO法人パレスチナ子どものキャンペーン常務理事ほか)
● 辻 利夫(NPOまちぽっと事務局長)
● 土屋 真美子(NPO法人アクションポート横浜理事、NPOまちぽっと理事)
● 樋口 蓉子(草の根市民基金・ぐらん運営委員長、NPOまちぽっと副理事長)
● 平野 光隆(ミタイ基金理事)
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