ソーシャル・ジャスティス基金 第14回助成先(2025年助成公募)審査結果
◆公募テーマ:
―次の両テーマとも、未来を担う世代が中心になって取り組む活動を積極的に支援―
特設テーマ:『ネット/SNSにかかる社会的公正・人権の問題』に取り組むアドボカシー活動
基本テーマ:『見逃されがちだが、大切な問題』に取り組むアドボカシー活動
◆助成決定額:総額400万円(各事業100万円)。
◆助成決定先:4事業(下記)。
※助成公募を25年9月に行い(公募の概要はこちらから※ご参考)、有効応募総数53件より書類審査を通過した申請者への面接審査を経て決定。
◆助成期間: 2026年1月から1年間以上2年間以下。
◆特定非営利活動法人トイミッケ
『可視化されづらい不安定居住&不安定就労層への、市民と連携したアウトリーチ支援および実体調査事業』(助成期間:1年6か月間、助成額100万円)
【事業概要】
ネットカフェ等を主な居所とし日払いのスキマバイト等で生計を立てる不安定居住・不安定就労層は、コロナ禍を経たことや物価高によって困窮は増えているにも関わらず、公的調査は2017年以降途絶えており実態が不明だ。就労しているため福祉窓口にもつながりにくい。当団体は、市民協力とICT活用により緊急支援アウトリーチを21年から展開してきたが、相談者は若年化し20・30代が5割を占めるまでになった。本事業では、これまでの相談者と今後1年間につながる方を対象に、原因・生計維持の方法・ニーズを有識者と共に明らかにし公表、行政等への申し入れを行い、必要な社会制度の拡充につなげる。相談者の困難に対応するため、専門性をもつ多様な支援団体との連携も継続していく。
【選考骨子】
- 居住・就労が不安定な人たちが生活保護の対象とならず生存権が脅かされている現状を放置することは、社会に対する怒りや憎しみの一因となり分断を進めてしまうと洞察した上での活動であり、社会的公正の観点から重要だ。
- 本問題の当事者としての経験をもとに、支援する熱意を堅実なビジョンで具現している。
- 調査の対象は実態をつかむ必要性・喫緊性が高く、また、調査を支援につなげていく意識と実力がある。
◆特定非営利活動法人 監獄人権センター
『監獄をアップデートする。人権意識の向上と有用な支援の提供』(助成期間:1年間、助成額100万円)
【事業概要】
「懲らしめから立ち直りへ」の命題のもと「拘禁刑」の運用が25年6月に開始された。しかし当団体へ、各地の刑務所の受刑者からは実態が何も変わっていないことや、報道は良いところばかり見せられて書いていることが相次いで投書されたり、元刑務官や元刑務所スタッフからは、受刑者に対する深刻な人権侵害に関する情報が複数寄せられたりしている。さらに、出所者を対象とする就労・住居支援事業は再犯防止・社会復帰の主要な取り組みながらも、元受刑者のニーズに即さない形式的な事業が散見されている。そこで本事業では、刑務所の処遇や社会復帰支援事業の実態を調査・分析すると共に、受刑者へのアンケート調査や、刑務所出所者・元刑務官へのインタビューも行う。これ等を基に、人権侵害状況の改善や有用な社会復帰支援のあり方についての政策提言の基盤となる冊子を作成し、衆参法務委員・国会関係者・法務省・地方議会議員・研究者・メディアに対して問題提起や情報提供を行う。さらに、広く市民に対して、実績のあるFM番組「刑務所ラジオ」やSNS等を通じて発信すると共に、海外の専門団体への情報提供によってグローバルな発信も行う。
【選考骨子】
- 今年、新たに拘禁刑が、これまでの懲役刑と禁固刑に代わって開始されたタイミングであり、その本来の目的の実現に本事業は貢献する。
- 実施団体は専門性が高く、また当事者も活動において重要な役割を担っている。
- 一般的には看過されやすい問題だが、当事者との信頼関係を長年構築してきたことを礎とし、当事者の実の姿を効果的に発信している。
◆一般社団法人 反貧困ネットワーク
『在留資格がない高校生・学生の声を本にして社会に届ける活動』(助成期間:1年3か月間、助成額100万円)
【事業概要】
仮放免の子どもたちは日本生まれや幼少期から日本在住の人たちだが、在留資格がないため強制送還が相次いでいる。慣れ親しんだ日本で学び続けられないなど、在留資格がないといえども子どもたちが本来もっている「子どもの権利」が奪われている。そういった高校生・学生の仮放免当事者に大学生チューターが伴走を続けてきた。その信頼関係が基盤となって、当事者自身から、社会に向けて発信したいという声が出ている。本事業では、仮放免の高校生・学生と大学生チューターがワークショップで「専門学校・大学受験拒否」や「仮放免高校生の高校無償化対象外」問題などを扱い、子どもの権利の侵害として直面する問題を解決につなげる行動を見出す。必要に応じて、チューターが当事者を訪問して聴き取る。また、省庁・自治体・教育委員会等との交渉の場に当事者が参加し、社会に発信したい自らの言葉を現実的に構築していく。そうした当事者の経験を盛り込んだライフストーリーを書籍化し、市民社会と問題を共有して理解を広げ、政治を動かしていきたいと考えている。
【選考骨子】
- グローバル化が進むなかで必然的に増えている外国籍の子ども・若者の「子どもの権利」が侵害されている状況への取り組みは重要だ。
- 排外的なヘイトスピーチにさらされる恐怖から声を上げられない状況に追い込まれている子ども・若者が安心・安全に発信できるように紙媒体を活用することは道理にかなっている。
- 書籍化に至るまでに、当事者の子ども・若者が自分の意見を練り上げ発しやすくなるプロセスが多面的に組み込まれている。
- 団体間連携や政策提言の見通しが現実的であり、書籍の発行を、社会のよりよい理解、よりよい政策につなげられる実力がある。
◆果てとチーク
『公共劇場での演劇作品上演を通して、社会的マイノリティが直面する抑圧や構造的暴力を可視化し、レクチャー及びラウンドテーブルイベントから対話の機会を生み出す事業』(助成期間:1年3か月間、助成額100万円)
【事業概要】
二つの演劇作品の上演を通して、社会で透明化されている社会的マイノリティへの構造的暴力を現実に即した形で活写し、通底するテーマに関するトークイベント等を主催する。それにより、市民が他者の持つ背景や困難を想像し、断絶ではなく対話を目指す姿勢を獲得できることを目指す。演劇という形態を単なるアートではなく社会対話の一つとして選択している。その創作における目標は、自分たちを取り巻く社会構造自体を、そこに加担する人間の一人として、観客と共に批判的に問い直すことである。本事業では、インターネット上で加熱し現実世界の価値観まで歪めてしまう、女性やLGBTQIA+への加害をドライに描き出し、当事者の可能な限り正確な現状を観客が可視化できるようにする。二元論による他者のモンスター化をせずに、各登場人物を私たちのすぐそばに存在する一人の人間として描いていく。
【選考骨子】
・社会的マイノリティの人権に関する問題について、アートの力を活かして社会対話を行う活動の価値を広げ高める助成の意義を鑑みた。
・演劇に多様な観客と演技者が同じ空気を共有できる身体性があることを活かし、その一人ひとりが差別や抑圧の社会構造に加担している現実に気づくような作品によって、社会をよりよく変えることに貢献する実力がある。
・本事業の上演作品のテーマに限らず、社会的公正にかかる課題に取り組む他の市民活動もアートの力を効果的に活かせるようにつながる起点になっていくことを期待する。 ■

