ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第12回助成中間3次報告
NPO法人CoCoTELI(2025年6月)
◆助成事業名・事業目的:
「精神疾患の親をもつ子どもの“こえ”を可視化するWebメディア」
精神疾患の親をもつ子どもの“こえ”を社会に届け社会課題としての認知向上を図ること
子ども全体の15〜23%いると言われている精神疾患の親をもつ子ども支援の領域は狭間とも言えない空白の領域であると言い切れるほど日本において抜け落ちている観点である。
私たちNPO法人CoCoTELIは精神疾患の親をもつ子ども・若者支援の土壌をつくるためのファーストステップとして、彼ら・彼女らを対象とした住む地域が関係ないオンラインでの居場所づくり・支援を行っている。現在居場所に45人弱(2025年6月現在:約95人)、公式LINEの追加が約115人(2025年6月現在:280人)と多くの当事者の“こえ”を聴いているが、そもそも課題としても認識されていない精神疾患の親をもつ子ども・若者の困難や生きづらさ。他の子どもと比べて2.5倍高いと言われている子ども自身の罹患率。など支援の土壌をつくるためには社会課題として認知向上を図る必要がある。しかし、現状は課題として社会に多様な“こえ”や課題感を伝える手段が『関係者が発信すること』以外ほとんどない状況である。いつでもどこでも見ることができ、レバレッジが効く Webメディアという媒体を用いて当事者の”こえ”を社会に届け社会課題としての認知向上を図ることを目指す。
◆助成金額 : 83.5万円
◆助成事業期間 : 2024年1月~25年12月
◆報告時点までに実施した事業の内容(主に前回の報告時以降=25年1月~):
【ストーリー記事】
4記事を公開
・留学を機に変わった考え方〜うつ病を有する父の元で育ったミユさん〜(仮名、21)https://cocoteli.com/storys/miyusan
・家族への葛藤を抱えながら自分の人生を歩み始めた〜ゆうたさんの34年間の歩み〜https://cocoteli.com/storys/yutasan
・今は過去よりも少しだけ自分が思っていることを言える〜統合失調症を有する親をもつ学生時代と大人になった今〜(サクラさん:仮名、34歳)https://cocoteli.com/storys/sakurasann
・「家を出たい」と「家族を支えなければ」の間で揺れた気持ち〜うつ病を有する母親の元で育ったみなみさん〜(25歳、仮名)https://cocoteli.com/storys/minamisan
※現在、1記事公開前、1記事執筆中
【事実記事】
2記事を公開
・「自分のことは後回し」そんなあなたが“今日からできるセルフケア“(執筆者:伊藤絵美先生 – 洗足ストレスコーピング・サポートオフィス所長)https://cocoteli.com/facts/selfcare
・“子どもだから”と我慢しているあなたに知ってほしい”子どもの権利”(執筆者:間宮静香先生 – 弁護士)https://cocoteli.com/facts/childrights
※現在、1記事公開前、2記事編集中、2記事執筆依頼期間中
【ポッドキャスト】(https://x.gd/9J0RA)
全9回(前編後編でゲスト5人、内2人はCoCoTELIスタッフ)公開
・#1 「#CoCoラジ 始まります!ピアスタッフゆーとさんはなぜCoCoTELIに?」
・#2「ゆーとさんの当事者経験を聴いてみた」ゲスト:山縣勇斗(NPO法人CoCoTELIピアスタッフ)
・#3「仲田さんの人生に大きな影響を与えた人とは?」ゲスト:仲田 海人さん(一般社団法人 Roots4理事)
・#4「ヤングケアラーに必要な支援ってなんだろう?」ゲスト:仲田 海人さん(一般社団法人 Roots4理事)
・#5「当事者から見る虐待や依存症」ゲスト:風間 暁さん(特定非営利活動法人ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)社会対策部/NHK Eテレ 木曜20:00〜『toi-toi』制作委員・準レギュラー)
・#6「どんどん他責にして生きていこう」ゲスト:風間 暁さん(特定非営利活動法人ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)社会対策部/NHK Eテレ 木曜20:00〜『toi-toi』制作委員・準レギュラー)
・#7「母を優先した1時間半通学とワンルームでの親子生活」ゲスト:亀山 裕樹さん(大谷大学社会学部助教)
・#8「ヤングケアラー×貧困」ゲスト:亀山 裕樹さん(大谷大学社会学部助教)
・#9「今振り返ると思い浮かぶクライエントの子どもの存在」ゲスト:出口 龍之介さん(NPO法人CoCoTELI ソーシャルワーカー)
※現在、1回分公開前、2回分編集中
〇「ストーリー記事」における、サムネイルの修正を行なった
以前は、AIで生成された記事のイメージに沿った風景画等を用いていたが、パッと見ても何が書かれている記事かがわかるように、タイトルの文字ベースサムネへと変更した。それによる効果測定はできていないが、現在CoCoTELIに繋がっている子ども・若者からの評価は高い。事実記事でも同様にサムネイルをタイトルの文字ベースにするかを検討中である。
〇風間暁さんからの検索流入が多かった
風間さんが、先日NHKで放送された「ハートネットTV:特集・逆境的小児期体験ACE(エース) 第1回 成人後も続く“生きづらさ”」に出演されたことで、「風間暁」の検索ワードでのHP流入が多くあった。
今回は、風間さんがCoCoTELI代表平井の友人であったことから生まれた偶然ではあったが、そういった時事性に沿ったテーマの回を増やしていくことはリスナーを増やしていくという意味で必要なアプローチであると感じたため、今後ポッドキャストのゲスト構成(当事者だけでなく、実践者や研究者と話題や注目の集まるテーマから、当課題を考える回など)について検討していきたい。
◆今後の事業予定 :
ストーリー記事
3記事公開予定
現在、1記事公開前、1記事執筆中。
事実記事
5記事公開予定
現在、1記事公開前、2記事編集中、2記事執筆依頼期間中
- テーマ:アサーション(執筆者:谷水美香さん)
- テーマ:精神障害のある親としての子育てについて(執筆者:山田悠平さん)
- テーマ:バウンダリーについて(執筆者:村上貴栄さん)
- テーマ:依存症について(執筆者:風間暁さん)
- テーマ:発達障害について(執筆者:黒川駿哉さん)
ポッドキャスト
ゲスト5~7人分公開予定
- ゲストの属性については要検討
– 当事者?
– 支援者の方?
– 研究者の方?
– などの検討をチームで進めていく
広告出稿
Google Ad Grantsを活用した広告運用を行い、PV数増加を目指す
SNS活用強化
X等の文字メインのSNSを活用し、記事内容の一部抽出→記事リンクへの誘導によるPV数増加を目指す
参考:https://x.com/cocoteli/status/1925044046155641036
メディアページ/別ページでの誘導リンク設置などHP上構成の検討
「HP上で記事を開くまでの動線が少ない」「文字が詰まっていて読みづらい」「直接リンクを踏んで記事を読むと別記事に飛びづらい」などページのUI/UX面の課題は多くあるため、引き続きプロボノの方とのmtgを重ね少しずつ修正を図っていく(別事業等の修正等との同時並行のため、修正に時間がかかる可能性あり)
◆助成事業の目的と照らし合わせた効果・課題と展望:
【Ⅰ】次の5つの評価軸それぞれについて、当事業において当てはまる具体的事例。あるいは、当てはまる事が現時点では無い場合、その点を今後の課題として具体的にどのように考えるか。
(1)当事者主体の徹底した確保
大きな変更点はないが、取材→公開プロセスの中での「話したくないことは話さなくて大丈夫という点の共有」「初稿執筆後のチェック→修正プロセス」などの記事チェックを徹底して行なっている。また、ストーリー記事の取材やPodcastゲスト出演された方に対して、謝金の支払いに加え、オンラインカウンセリング1回分の無償提供をセットにするなどの対応を行っている。
(2)法制度・社会変革への機動力
メディアはストック型コンテンツであることから、スタッフが直接説明を行わずとも、当事者を取り巻く課題感を伝えることができるコンテンツが整備されたことには非常に大きな意義があると考えている。また、支援現場や啓発活動の中で課題感を問われた際、スタッフが口頭で説明するだけでなく、ストーリー記事を案内できるようになったことで、よりリアルで具体的な課題を伝えるツールとしても活用され始めており、本メディアが果たす役割は大きいと捉えている。今後の課題としては、記事のPV数(閲覧数)の向上。より多くの方に読まれるコンテンツとするために、タイトルやSNSでの導線設計、読者層の分析等を含めたPDCAサイクルを回していく必要がある。
(3)社会における認知度の向上力
SNSやメルマガでの発信や(2)でのスタッフから直接の紹介などを通しての流入はあるが、認知度向上への大きな寄与には至っていない。Google Ad Grantsの活用/Podcastでの時事性や高い注目度のあるテーマと絡めた発信/SNSの活用強化などの施策を実施していく必要がある。現在、組織として相談対応やその他業務で申請当時想定していた以上の逼迫状態にある(申請当初の見立てが甘かった反省もある)ため、インターンやボランティア等の採用も含め検討していく必要がある。
(4)ステークホルダーとの関係構築力(相反する立場をとる利害関係者との関係性を良好に築いたり保持したりする力)
現在、親の立場の方が執筆する記事の編集中である。対談記事を想定していたが、対談等のコンテンツはより詳細に話ができるPodcastの方が適しているのではないか?という意見からPodcastでの実施を検討している。親が精神疾患の子ども・若者支援は、どれだけそういった意図がなくても「精神疾患を有する親=悪」のように見えてしまう、無意識の暴力性を持つ場面があると考えている。メディアだけでなく、組織全体でもっとできることがあると考えているため検討していく必要がある。
(5)持続力
月額寄付サポーター数が100名を超え、6/20現在119人となっている。少しずつ仲間の輪が広がってきていることを感じている。25年度は別事業も含め拡大期に入っていくため、ファンドレイジングチームを立ち上げ、ファンドレイジング面でもPDCAを回し始めた。
【Ⅱ】Ⅰの評価軸はいずれも、強化するには連携力が潜在的に重要であり、その一助として次の項目を考える。
(1)当事業が取り組む社会的課題の根底にある社会的要因/背景(根本課題)は何だと考えるか。
複雑な課題であるため、単純化することは望ましくないが挙げるとすれば以下の点と考えている。
精神疾患の親をもつ子ども・若者は、児童福祉と精神保健医療福祉という二つの制度領域の“狭間”に置かれやすく、支援が届きにくい“見えにくい存在”である。 児童福祉領域では虐待、不登校、ヤングケアラー(末尾※)など名称が付与され政策的優先度が高い困難への対応が主たる対象となり、予算も重点的に配分される。また、精神保健医療福祉領域では主たるクライアントが「メンタルヘルスに不調を有する本人」であるため、家族支援は制度的・財務的インセンティブが乏しく、実施体制も限定的である。
さらに、親子関係に困難を抱える子どもが多いことから親の金銭的負担による民間支援を構築するのも難しく、財務的課題が大きい。この構造的ギャップにより、精神疾患の親をもつ子ども・若者への包括的な公的・民間双方の支援は極めて希薄なまま推移していると考えている。
(2)その根本課題の解決にどのように貢献できそうだと考えるか。
今回助成いただいて実施するWebメディアはまだまだ知られていない課題の認知向上に大きく寄与する可能性がある。現在日本において精神疾患の親をもつ子ども・若者のストーリーや彼ら・彼女らを取り巻く事実に関してまとめられているサイト等はほとんどないなかで、Webメディアを構築し課題の具体をイメージしやすくなるコンテンツが増えることは多くの人が問題意識を持つきっかけになることが期待できる。
また、今後、精神疾患の親をもつ子ども・若者やその親を取り巻く課題の解決を目指す取り組みを進めていくなかで、メディア構築による課題の認知向上がなされることは、人や社会の巻き込みやすさに好影響を与えると考えられる。
(3)そのような貢献にむけて、どのような活動との協力/連携が有効だと考えるか。
別事業・団体全体としての他団体連携は、支援におけるケース単位や団体でのコラボイベント等の形で行なっている。Webメディアに関して言えば、事実記事を執筆いただいた皆さまにより深くテーマを深ぼらせていただく外部向けイベントやPodcastのゲストの方をゲストに呼んだオフラインイベントなどはどこかのタイミングで行うと何か生まれそうな感覚がある。また、精神疾患を有する本人の立場の方の団体等とのPodcastコラボ週間など、メディアに限定してもさまざまな連携の可能性があると考える。
現在は、コンテンツ拡充が第一優先となるが今後コンテンツが揃ってきた際には、既存コンテンツを活用した次の展開としてイベント等の開催は効果的であると考えている。
※CoCoTELIとしては、「精神疾患の親をもつ子ども」と「ヤングケアラー」は「重なることはあるが別である。ヤングケアラーの一部のケースが精神疾患の親をもつ子どもであり、精神疾患の親をもつ子どもの経験する可能性のある困難の1つがヤングケアラーである」と考えています。以下、簡単に理由を記載させていただきます。
①ヤングケアラーという言葉の社会的な認識について
ヤングケアラーの定義には、精神疾患を有する方のケアに関する項目も記載されており、精神疾患を有する方の家族としての子どものケアについても認識されています。しかし、現状ヤングケアラーの言葉の用いられ方や「ケア」の社会的認知は「家事」や「介護」がメインであり、「情緒的ケア」は時間的に計りづらかったり物理的な作業があるわけでもなかったりするので、ケアとして認識されづらい現状があります(もちろん、家事や介護をしている当事者もおり、その場合ヤングケアラーとして認識されやすくなっています)。
②精神疾患の親をもつ子どもが経験する困難は名前がつくものばかりではない
「精神疾患の親をもつ子ども」という言葉は、「虐待」や「ヤングケアラー」のように具体的な困難を定義している言葉ではありません。実際、親が適切な治療や支援、地域コミュニティとつながっており、家族間で対話ができているなど、何不自由なく暮らしている家庭も多くあります。
その一方で、グラデーションのある状況の中で「ケア」が発生している場合も少なくないと推測されますが、それだけでなく例えば;
・「虐待」や「ヤングケアラー」には当てはまらないけれど、親のメンタルヘルスの状態によって日々の生活が左右される
・親の体調が悪くならないよう常に親を優先して行動し、自分の気持ちが分からなくなってしまう
といった「名前がつかない困難」も多くあります。これらは「情緒的ケア」と表現できる部分もありますが、社会的に「ケア」として認識されることは難しいのが現状であると考えています。
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