ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第9回助成最終報告
NPO法人アクセプト・インターナショナル(2022年7月)
◆団体概要:
前身団体である日本ソマリア青年機構は「紛争地ソマリアの問題を解決する」ことを目的に2011年9月に設立され、2017年4月にNPO法人アクセプト・インターナショナルとして法人化されました。これまで当法人は「排除するのではなく、受け入れる」ことをコンセプトに、海外事業を中心に展開し、ソマリアやケニア、インドネシアなどでテロリストやギャングとされる人たちの社会復帰支援を行ってきました。更に海外事業で培った知見と実績を踏まえ、昨年より国内事業局を設立しました。「誰一人取り残さない、たとえ加害者とされる人であっても」とのミッションの下、支援や共感が集まりにくい在日外国人や加害者側の非行少年への活動を行っております。
◆助成事業名・事業目的:
「取り残された非行少年へのケア拡大-社会全体での包括的支援の実現と保護司制度の改革-」
目的は、一度犯罪行為に及んだ少年が、再犯を繰り返せざるを得ないという不公正な社会構造の変革のため、保護司制度を広く社会に開かれた制度へ変えることです。
◆助成金額 : 100万円
◆助成事業期間 : 2021年1月~22年6月
◆実施事業の内容:
(1)
・保護司会やNPO・自助団体等と連携しての新たな更生保護の担い手の創出
・ 対話を目的とした一般向け自主イベントの開催
・活動の積極的な広報
・2021/04/17(土) アドボカシーカフェ登壇
内容…「非行少年と保護司~やり直しを支援できる社会へ~」
参加者数…63名
・2021/04/18(日) 第1回更生保護ゼミ開催
内容…日本の犯罪とその防止を巡る状況と制度
参加者数…8名
・2021/04/24(土) 第2回更生保護ゼミ開催
内容…更生の意味とアプローチについて
参加者数…8名
・2021/6/6(日) 第3回更生保護ゼミ開催
内容…依存症と犯罪について
参加者数…15名
・2021/9/30(木)若手保護司とのオンライン座談会
内容…若い世代が保護司になる意義や悩みについて
参加者数…4名
・2021/10/22(金)Social Vision Summit登壇
内容…少年院にいる少年へのキャリア支援について
参加者数…15名
・2021/10/24(日) 第4回更生保護ゼミ開催
内容…再犯防止と保護司の役割
参加者数…13名
・2021/10/30(土) 江東区保護司会との対面座談会
内容…江東区保護司会会長・分区長との顔合わせ
参加者数…9名
・2021/11/27(土) シンポジウム開催
内容…若者による無差別刺傷事件について
視聴回数…167回
(2) 関係者のコミュニティ化と調査活動
・日本在住の25〜49歳の若者を対象に、更生保護分野及び保護司制度の認知についてFastaskを利用したWebアンケートを実施。
・現役の保護司20人に対して、実際に保護司として活動するうえで感じる現行の保護司制度、活動についての価値や課題についてヒアリングを実施。
・保護司活動のオンライン化についても法務省保護局、現役保護司と意見交換を実施。
(3) 政府関係者への政策提言
・上記⑵の調査やヒアリング等をもとに、現状の保護司制度や保護司の活動に対しての政策提言書(写真下は表紙)を作成。
・更生保護分野に関わる法務省保護局職員や国会議員、BBS会会長、弁護士等と意見交換を実施。
◆助成事業の成果・達成度:
・保護司会やNPO・自助団体等と連携しての新たな更生保護の担い手の創出
・対話を目的とした一般向け自主イベントの開催
・活動の積極的な広報
・オンラインイベントの参加者は累計300名を超え、これまで更生保護分野、保護司活動に関心がなかった方たちに向けて啓発をすることができた。更生保護ゼミや現役の保護司との座談会に参加し、実際に1名新たに保護司として就任することができた。また他に4名、保護司就任の希望があり保護司会の協働のもと、両者の信頼関係の構築に努めた。
・政策提言書の作成や現役保護司との意見交換で見えてきた現状の課題の一つに、インターネット上で検索をしても「保護司になる方法が分からない」「具体的な活動内容がわからない」という意見が多くあった。更生保護ゼミや座談会などのイベントを開催することにより、参加者からは「実際に保護司として働く人の声を聞き、具体的な活動のイメージができた」「保護司の就任意欲が高まった」などの声が上がり、参加者の理解を促進することができた。
・ 関係者のコミュニティ化と調査活動
・調査活動として、更生保護分野に関わりのない一般人を対象に調査を実施するだけではなく、現役保護司からのヒアリングを行うことで、更生保護領域の中から見た課題と外から見た課題、双方を比較し研究することができた。
・保護司は、それぞれの地域ごとに組織された保護司会に所属して活動を行うため、実際の活動内容や方法についてはそれぞれの保護司会に委ねられていることが多い。ヒアリングを実施するなかで、これまで繋がりのなかった保護司同士の横の繋がりを作ることができ、それぞれの保護司会における課題を新たに認識することができた。
・一般人を対象としたアンケート調査では、保護司制度に対する認知度の低さ、世間の関心の低さ、公開している情報の不足が目立った。法務省が担い手増加のために取り組む施策と、現状の認知状況のギャップについて認識することができ、政策提言書のなかでは課題解決に対しての提言を記載している。
・ 政府関係者への政策提言
・法務省保護局との打ち合わせでは、社会における保護司制度の認知の課題について共通認識を持つことができた。また、それぞれの機関やアクターが感じている課題について整理することができ、議論をしていくための土台をつくることができた。
・BBS会の新宿区の会長とは、若手保護司の担い手増加に向けての協働について同意を得ることができた。
◆助成事業の目的と照らし合わせた効果・課題と展望:
【Ⅰ】次の5つの評価軸それぞれについて、当事業において当てはまる具体的事例。あるいは、当てはまる事が現時点では無い場合、その点を今後の課題として具体的にどのように考えるか(自力での解決が難しい場合、他とのどのように連携できることを望むか)。
(1)当事者主体の徹底した確保
・本事業では、現役保護司や更生保護分野の関係者と協働しながら、当分野への新たな市民参加を目指し事業を実施してきた。更生保護ゼミや座談会などを通し、これまで当分野に興味がなく接点が無い地域市民の意識変化を生み出すことができ、さらに実際の保護司就任へと参加者の意欲を引き出すことができた。
・地域ごとの保護司会を超えた保護司同士の横の繋がりをつくることで、保護司自身が制度や活動の課題を認識し、当事者としての自覚を促すことができた。
(2)法制度・社会変革への機動力
・保護司制度に関わるアクターが、法務省職員、保護観察所職員、市民ボランティアから成る保護司と担い手が多岐に渡っており、かつ実際の保護司活動は各々の地域ごとの保護司会の裁量にある程度左右されてしまうため、関わる立場によって認識している課題に違いが見えた。このことこそが、制度の改正に向かうなかで大きな障壁となっている。政策提言書を通して、それぞれの立場から見た課題を整理することができたため、今後も継続して関係各所とよりよい制度のあり方について議論していく。
(3)社会における認知度の向上力
・社会における更生保護領域の認知度の低さは、当分野の発展に大きな障壁になっていると感じている。行政としてではないNPOとしての立場の柔軟性や、制度のなかでは対応することが難しい潜在的なニーズへの知見などを生かし、今後も周りを巻き込みながら積極的な広報活動を行なっていく。
(4)ステークホルダーとの関係構築力(相反する立場をとる利害関係者との関係性を良好に築いたり保持したりする力)
・法務省保護局、保護観察所、保護司会、BBS会、保護司、連携団体等とのコミュニケーションのなかで、特に大きな利益相反などは生まれていない。
・ヒアリング等を実施した保護司からは、座談会などでの他地域の保護司との情報共有により、保護司自身が現状や課題について認識することができた、第3者として当団体が参入してくれることで新しい価値観を共有することができた、との評価をいただいた。
(5)持続力
・助成期間終了後も、自主財源で事業を継続していく。本事業を通し、関係機関からヒアリングをする中で、保護観察終了後の支援の不足や更生保護分野における新規アクターの参入の必要性を認識した。本事業で認識した課題に対し、新たな事業創出に向けて準備をしている。
【Ⅱ】Ⅰの評価軸はいずれも、強化するには連携力が潜在的に重要であり、その一助として次の項目を考える。
(1)当事業が取り組む社会的課題の根底にある社会的要因/背景(根本課題)は何だと考えるか。
社会的要因として、罪を犯した人が抱える脆弱性と出所後やり直しをする際に彼らのニーズに対応できる支援の不足、支援が受けづらい社会構造があると考える。彼らの多くは、もともと障がいや貧困、被虐待経験などがあるにも関わらず、家庭や社会から適切な支援を受けられずに犯罪と繋がりやすい背景を抱えている。犯罪をしてからも社会からの批判や偏見を受けさらに孤立し、必要な支援に辿り着けずに再び犯罪に走ってしまうという悪循環が存在している。
(2)その根本課題の解決にどのように貢献できそうだと考えるか。
地域社会において新たな更生保護の担い手を創出することで、罪を犯した人をケアする存在を増やす。政策提言の実施により、根本的な課題解決に繋ぐ。また広報活動を通じて、保護司制度および更生保護分野をさらに社会に開かれたものとして認知拡大を目指す。
(3)そのような貢献にむけて、どのような活動との協力/連携が有効だと考えるか。
協働において鍵になるのは、法務省と保護司会だと考えている。保護司の担い手不足は両者ともに課題として認識してはいるものの、実際に対象者の支援にあたる保護司が感じている課題との間にギャップがある場合も多い。課題を的確に捉え解決のための行動指針を決定していくためには、それぞれのアクターの特徴を生かしながら対話を重ね、連携をしていくことが必要不可欠であり、その過程において行政とは違う当法人のようなアクターが非常に重要な役割を果たすと考える。
◆関連するSJFアドボカシーカフェ:『非行少年と保護司~やり直しを支援できる社会へ~』の報告はこちらから