ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)連携プロジェクト助成報告
特定非営利活動法人 しあわせなみだ(2022年7月)
◆連携団体:
認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウ
特定非営利活動法人全国女性シェルターネット
性暴力禁止法をつくろうネットワーク
◆助成プロジェクト名: 刑法Updateプロジェクト
◆共通テーマ
【通底する社会課題】
被害実態に即した刑法性犯罪見直し
【根底にある社会的要因/根本課題】
(1)社会の不公正を正す
性犯罪をはじめとする暴力は、不平等な人間関係における性的支配を目的に、起きています。「セクシズム」と呼ばれる性差別や、「エイブリズム」と呼ばれる能力中心主義の思想が広がりつつある中で、暴力を正当化する「社会の不公正」を是正する行動が求められています。
(2)あらゆるいのちが尊ばれる社会をめざす
性犯罪は、心身を深く傷つける行為であり、被害後長期に渡り、社会的・経済的困難が継続することが、明らかになっています。性犯罪を撲滅する風土が醸成されることで、市民一人ひとりの性的人権が擁護され、性別や人種、国籍、障がいの有無などに関わらず、あらゆるいのちが尊ばれる社会を実現していくことが、期待されます。
◆プロジェクト目的:
(1)社会的に弱い立場にある人を視野に入れた刑法性犯罪の見直し
社会的に弱い立場にある人は、暴力を経験するリスクが高まる可能性が、指摘されています。障がい児者や児童生徒といった、従属する地位に置かれがちな人々が発信する場を創造することで、誰一人取り残さない法制度の実現に、貢献します。
(2)市民社会の形成に寄与する
法制度の見直しは、議員や官僚だけが関わるものだと、思われがちです。しかし実際には、世論の賛同があって、はじめて実現します。議員や官僚と市民が、ともに考える場を提供することで、一人ひとりの政治への参加を促し、市民の手による社会の形成を後押しします。
◆助成金額 : 50万円
◆助成事業期間 : 2022年1月~22年6月
◆実施事業の内容:
■2021年1~3月
議員事務所との打ち合わせ
登壇者との打ち合わせ
ウェブサイト制作
■2021年5月
チラシ配布
第1回イベント開催
【Vol.1】職業的地位に乗じた性犯罪
▼登壇者:伊藤和子さん(認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウ)
石田郁子さん
中野宏美(特定非営利活動法人しあわせなみだ)
▼スタッフ:司会/受付/議員対応/撮影
■2021年6月
第2回ならびに第3回イベント開催
【Vol.2】関係性につけ込む性犯罪
▼登壇者:北仲千里さん(NPO法人全国女性シェルターネット)
内田絵梨さん(特定非営利活動法人ぱっぷす)
中野宏美(特定非営利活動法人しあわせなみだ)
▼スタッフ:司会/受付/議員対応/撮影
【Vol.3】同意を求めない性犯罪
▼登壇者:周藤由美子さん(性暴力禁止法をつくろうネットワーク)
島岡まなさん(大阪大学副学長)
中野宏美(特定非営利活動法人しあわせなみだ)
▼スタッフ:司会/受付/議員対応/撮影
◆事業計画の達成度:
【Vol.1】来場者56名(うち国会議員11名)
【Vol.2】来場者44名(うち国会議員2名)
【Vol.3】来場者66名(うち国会議員1名)
▼市民、国会議員、省庁(法務省、厚生労働省、文部科学省、内閣府、警察庁)が、ともに刑法性犯罪の現状と課題を共有する場を提供することができました
▼イベントがオンラインメディアに掲載されました
・2022/6/7付弁護士ドットコム
「夫の性的要求を断ると暴言」「AVまがいの性関係」夫婦間の性的DV、刑事事件化に壁
https://www.bengo4.com/c_1009/n_14562/
▼イベントに参加した国会議員が法務省への働きかけを行いました
●2022/5/19参議院法務委員会
東徹参議院議員(日本維新の会)「障害のある人の性被害を防止するための法改正」
https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.php
*「法務委員会」「2022年5月19日」「法務委員会」「東徹(日本維新の会)」を選択(障がい児者への性暴力は1:15:56から1:26:00まで)
●2022/6/10
本村伸子衆議院議員(日本共産党)「障がいを有する子・人への性暴力の根絶に関する質問主意書」
◆連携効果:
・「公正な社会の実現」という視点から、それぞれの団体が、専門領域を超えて学びあうことで、多様な価値観を認め合い、協力関係を育む機会となりました。
・それぞれ団体の活動に共通する「被害実態に即した刑法性犯罪見直し」というテーマを浮き彫りにすることで、広範な人びとの共感をよぶ可能性を高める効果が生まれました。
・連携により、普段と異なる分野の人と知り合うことができ、横のつながりを構築できました。また、分野は違っても、共通となる課題もあり、視点を拡げることができました。
・刑法性犯罪処罰規定の見直しを検討する法制審議会に対し、市民が求める「公正な社会」の在り方を踏まえた議論を促すことができました。
・刑法性犯罪改正の実現に向け、市民団体によるプロジェクトが立ち上がっています。連携事業を通じて、「Social Justice」という新たな価値観を共有することで、団体間の連携を深めることができました。
◆成果と課題:
(1)当事者主体の徹底した確保
当事者を含め、各分野で高い専門性を持ち、活動してきた団体が発言する機会を提供することで、周縁化され、封印されてきた声をすくい上げ、社会の仕組みや法制度づくりに生かすことができました。
(2)法制度・社会変革への機動力
2021年5月まで開催されていた「性犯罪に関する刑事法検討会」を踏まえ、9月に法務大臣が法制審議会の開催を諮問しました。その後約1年間に渡り、刑法性犯罪見直しの議論が行われるタイミングで、本事業を実施することで、変革への機動力を、一層高めることができました。
(3)社会における認知度の向上力
議員や官僚の関心が高まる、法制審議会の開催時期に合わせて実施することで、認知度を高め、社会への発信を向上させることができました。
(4)ステークホルダーとの関係構築力(相反する立場をとる利害関係者との関係性を良好に築いたり保持したりする力)
「性暴力のない世界」というビジョンは、多くの人と共有できるものであり、一見相反すると思われる関係者の大半は、ビジョンに向かう方法やプロセスが異なっているだけです。獲得すべき成果に集中することで、良好な関係を築き、保持することができました。
(5)持続力
NPO法人しあわせなみだは、2011年にNPO法人化し、10年に渡り、事業を継続してきました。2018年からは、刑法性犯罪見直しを後押しするプロジェクトに携わり、2019年の改正実現後は、抜け落ちた論点の再検討に向け、活動を続けています。
◆今後の展望:
・連携を通じて各団体の交流が深まり、共同でのイベント開催や要望書提出、事業実施等に発展する可能性があります。
・2021年10月から法制審議会―刑事法(性犯罪関係)部会」が開催されています。検討されている以下の項目に、イベントでの提案内容が反映され、より公正な刑法の実現に発展する可能性があります。
【第一】
▼暴行及び脅迫の要件並びに心神喪失及び抗拒不能の要件を改正すること
▼いわゆる性交同意年齢の引き上げ
▼相手方の脆弱性や地位・関係性を利用して行われる性交等及びわいせつな行為に係る要件の新設
▼わいせつな挿入行為の取扱いの見直し
▼配偶者間における強制性交等罪の明確化
▼グルーミグング行為に係る罪の創設
【第二:】
▼公訴時効の見直し
▼聴取結果の録音・録画記録媒体の証拠採用
【第三:】
▼性的姿態の撮影及び画像等の提供行為に係る罪の新設
▼性的姿態の画像等の没収・消去できる仕組みの導入
~刑法性犯罪をUpdate!~