ソーシャル・ジャスティス基金 第11回助成先(2022年助成公募)審査結果
◆公募テーマ:「日本におけるジェンダー平等の実現を目指す取り組み」
※見逃されがちだが大切な問題について、インターセクショナルな視点で、未来を担う世代が中心になって取り組むアドボカシー活動を積極的に支援。
◆助成決定額:総額2481万5千円(1事業最大300万円)。
◆助成決定先:9事業(下記)。
※助成公募を22年9月に行い(公募の概要はこちらから※ご参考)、有効応募総数47件より書類審査を通過した申請者への面接審査を経て決定。
◆助成期間: 2023年1月から1年間以上2年間以下。
◆特定非営利活動法人デートDV防止全国ネットワーク
『デートDV防止から始めるジェンダー平等な社会づくり』(助成期間:1年6カ月間、助成額300万円)
【事業概要】
デートDVは10代のカップル3組に1組で起きている問題であり、未婚の成人カップルや同性カップルでも起きている。身体的暴力だけでなく行動の制限・精神的・性的・経済的暴力も含み、深刻な人権侵害が生じている。放置すれば、DV家庭や、面前DVなどの児童虐待を再生産する可能性が高い。デートDV予防教育は学校現場で主に提供されているが、本事業では学校以外にも啓発講座や予防教育プログラムを広げる。デートDVは誰もが被害者にも加害者にもなり得る、身近な問題であることに気づけるような対話の場や、自分のジェンダー・バイアスにも気づき、ジェンダー平等な関係づくりへの意識を高めるプログラムを提供する。また、DV防止法に防止教育の義務化を入れることを呼びかけると共に、子ども基本法や女性自立支援法など多角的に法改正を呼びかける。
【選考骨子】
・DVは10代から頻発している問題だが、配偶者間の暴力という一般的認識のためにDVの問題に未婚者が位置づけられていない。実際は、非常に深刻で身近な問題だが、精神的な暴力なども含まれ見えにくい問題であり、取り組みは重要だ。
・DV予防教育だけでなくジェンダーの問題として取り組み、活動を全国に広げている。
・若者への働きかけを若者自身がアイディアを出して行う活動が充実している。また、理事が多岐にわたっており、つながりの効果も期待できる。
◆一般社団法人ソウレッジ
『おひさまLINE』(助成期間:1年3カ月間、助成額:161.5万円)
【事業概要】
日本では児童虐待死が最も多いのは0歳0か月0日であり、若年妊娠はこの生後0日死に至る割合が高い。本事業では、LINEを用いて、医師や助産師のチェックを経た性知識とともに福祉情報のおたよりを若年女性に届け、緊急避妊が必要な現状から抜け出すためのサポートを行い、必要に応じて診察や緊急避妊薬の処方等につなげる。にんしんするからだを持った人だけが人生の選択肢を制限されることがない社会を目指し、このLINEで実施するアンケートや交流イベント等を通して、背景にある問題の実態を調査し可視化する。さらに、若年妊娠の背景にある包括的性教育の遅れを解消するため、また、にんしんする可能性のある人が主体的に使える避妊具の普及を目指し、政策提言を進める。セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツとジェンダーを意識したこのLINEのおたよりの受信者が、自分を大切にすること、自分で人生を選べることができるイメージを持てることを願っている。
【選考骨子】
・若年妊娠について緊急の支援先を具体的に拡充することは喫緊の課題だ。
・プランの確実性が高く、他団体との連携を含め準備されている。
・アプローチに独創性がある。
・自分たちが突破口を開いて他の活動が入ってくることを歓迎し、自分たちがロールモデルをつくり更に新たな課題を見据えており、挑戦する姿勢がある。
◆一般社団法人NewScene
『2023年統一地方選20代・30代女性立候補者等への質的・量的調査の実施および若年女性等の立候補環境を改善するアドボカシー活動』(助成期間:1年7カ月間、助成額:300万円)
【事業概要】
脆弱な立場に置かれた人たちの困難や課題感も政策に反映される真の民主主義を目指し、主に若年女性の選挙立候補における困難を減らし、多様な属性をもつ人が参政権をより行使しやすい環境を整備する。2023年春の地方選挙に立候補した20代・30代の女性(トランスジェンダー女性、Xジェンダー、ノンバイナリー等を含む)への質的・量的調査により選挙活動で直面する困難と解決策を明確化し、調査結果に応じて「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」や地方自治体独自の運用ルールについて改善を求めるロビイング活動を行う。また、調査結果は公表して世論を喚起し、女性が立候補しやすく政治家を続けやすい環境づくりへの有権者の理解や参加を広げる。
【選考骨子】
・日本は女性の政治参加度が非常に低く、改善することは重要だ。かつ、若い女性たちによる若い女性の立候補者・潜在層への調査という当事者主体の活動は意義がある。
・政治参加をわかりやすく伝えている。
・統一地方選を見据えた具体的な調査やアドボカシー活動が計画されており、改善に向かって前進できる可能性が高い。さらに選挙だけで終わらず、ジェンダー平等の実現という目標を堅持している。
◆にじいろCANVAS
『にじいろみやぎ相談会・セーフスペースにじいろみやぎ開催、セクシュアリティと就労調査』(助成期間:2年間、助成額:260万円)
【事業概要】
就職して社会に出ようとする人が、ジェンダー・セクシュアリティに関する社会規範の抑圧を受けることなく、これからの働き方を考えることができるよう、学生時代の就職活動で困難を抱えがちな性的マイノリティの実態と、キャリア・就労支援機関におけるジェンダー・セクシュアリティについての扱われ方を調査する。この調査結果と、相談活動や居場所づくり活動を通して明らかになった問題点を支援機関や職場と共有する。また、東北地域において精神保健・障害者支援・貧困対策・生活支援などの専門機関や自助グループとも連携したネットワークを構築し、孤立しがちな性的マイノリティにも継続的な相談支援が行き届く体制を目指す。
【選考骨子】
・ジェンダー平等に関する経済的観点から、労働問題とくに就労問題に切り込んでいく活動は重要だ。
・調査や相談だけにとどまらず、そこで見出される問題を支援する多機関連携ネットワークを構築しようとする活動は非常に意義がある。
・東北地域に根差しており、地域特有の難しさがあるなかでの活動に期待し、応援する。
◆一般社団法人パリテ・アカデミー
『ジェンダーギャップ解消の担い手となる女性政治リーダー養成事業』(助成期間:1年5カ月間、助成額:300万円)
【事業概要】
意思決定の場にあまりに女性が少ない現状があるが、今の議会には女性だけでなく、若い人・障害者・外国にルーツのある人・性的マイノリティの人などが圧倒的に少なく、そういった声が政治に公平に反映される、だれもが生きやすい社会を目指している。とくにジェンダー課題の解決には女性が自信をもって政治参画できることが必要であり、学習・対話集会、ロールモデルとなる女性議員等との交流会を通じてエンパワーを図る。これらはライフステージによって異なる課題や地域課題にそった解決策を世代・地域を超えて対話できる機会にもする。女性の役割に関するジェンダー・バイアスが、政治家になろうとする女性の可能性を阻み、立候補する女性が攻撃の的となる土壌となっており、ジェンダー課題への認知や理解の輪を広げ、解決に向かう具体的イメージを共有する社会対話も重視する。
【選考骨子】
・政治分野でもジェンダー平等にリーダーを育てるというテーマは重要だ。
・政治家育成の前提として、市民社会を活性化し、ジェンダー課題の解決に取り組む人材を幅広く育てるという目標・プロセス設定が明確。声を上げる最初の一歩にある人から政治リーダーになる人まで、多様なステップに応じてエンパワーする豊富な知見や経験を持っている。
◆明日少女隊
『明日少女隊 個展』(助成期間:2年間、助成額:300万円)
【事業概要】
女性や性的少数者に対する侮蔑の言葉が氾濫しセクシャルハラスメントは常態化している日本はジェンダー差別が深刻だが、不平等なシステムのなかで成長した人自身は差別被害者であることを自覚できる機会が乏しく、フェミニズムに対する拒否的な態度を示す女性もいる。若者に対して同世代の目線でジェンダー差別やレイシズムを考える場をアートやデザインの手法を取り入れて提供し、問題解決を目指すアクションを行う展示会を東京で開催する。SNSでも常に発信し、会場に来られない人にも臨場感のある情報を伝え、フェミニズムに関心を持つ層を増やす。ソーシャリー・エンゲージド・アートによるアプローチでジェンダー平等な世の中を目指している。
【選考骨子】
・Socially engaged artの可能性を重視する。アートを通して、フェミニズムやジェンダー平等について理解してアクションにつなげることを促す活動は、アドボカシーの一手法として評価できる。
・日本で初めての企画であり、コロナ禍で開催できなかったことを実現し、その成功を全国展開の契機とすることを応援する。
◆一般社団法人ふぇみ・ゼミ&カフェ
『ふぇみ・ゼミU30:フェミニズム視点を醸成する若年向けゼミナール及びワークショップ』(助成期間:2年間、助成額:300万円)
【事業概要】
ジェンダーと多様性をめぐる幅広いテーマで講座やワークショップを行い、社会に根深く残っているジェンダー構造(歴史・制度・法律・慣習など)を多角的に理解し、その構造を変容させていくための方法論を身につけた次世代リーダーを養成する。このワークショップでは、第三者に理解されるようなプレゼンテーション、社会運動のさまざまな方法論、参加者同士のネットワークやコミュニケーションの活性化等に注力する。また、意見交換の場では、互いの違いを尊重するだけでなく、立場や属性の違いによって生じる権力差を意識し、とくにマジョリティ性を帯びた視点や立場からの発言に偏らないようにすることを重視する。身近に起きているジェンダー不平等の問題を自分自身の努力不足の問題であると考えてしまうことのない社会を願っている。
【選考骨子】
・インターセクショナリティを真正面から取り上げている特長がある。
・勉強会だけでなくフィールドワークやサマープログラムを行い、実践性がある。障害のある方も参加しやすい手法をとっていることも重視する。
・これまでの実績があるが、課題を直視してプログラムの改善に努めている。プログラムの内容および運営体制において次世代をエンパワーする具体策を進めており、活動のあり方としても好事例となる。
◆DPI女性障害者ネットワーク
『障害のある女性の複合差別の実態を記録し、届けるプロジェクト』(助成期間:2年間、助成額:270万円)
【事業概要】
障害のある女性は女性であることに加え、障害があるための社会的障壁に阻まれ、複合差別を受けているが可視化されにくく、施策や制度の谷間にこぼれ落ちている。障害女性の実態を浮き彫りにした複合差別実態調査報告書を2012年に発行して以来10年にわたる取り組みを、性暴力・優生保護法裁判・リプロダクティブヘルス/ライツ・意志に反した異性介助・災害・コロナ禍の課題・国際権利条約への働きかけなどのテーマでまとめた報告書を作成し、複合差別の解消に向けて提言する。この報告書をもとに連続講座を開催し、社会啓発や支援者育成、当事者のエンパワメントに貢献する。近い将来には、障害者関連法に障害女性の複合差別解消が盛り込まれ、福祉・医療・保健サービスおよび性暴力・DV被害者支援に障害女性がアクセスしやすい環境整備がはかられることを目指している。
【選考骨子】
・女性障害者の複合差別というテーマは重要だが、公的なデータや支援網は乏しいままであり、当事者よるアドボカシー活動の基盤となる報告書を作成する意義は大きい。
・女性障害者の唯一の当事者団体であり、さまざまな社会的障壁があるなかで、重要な活動に長年取り組んでおられて信頼されている。
・本報告書の若い世代への波及効果を期待する。
◆NPO法人レインボーコミュニティcoLLabo
『性的マイノリティ女性の地域と世代を超えたオンライン上のコミュニティ構築と実態調査』(助成期間:2年間、助成額:290万円)
【事業概要】
性的マイノリティ女性は性的マイノリティであることに加え、女性であることによる生きにくさを抱えているが、多くは不可視化されている。性的マイノリティ女性が多様なロールモデルとなる他者と出会えるコミュニティが必要であり、その基盤となるWebサイトを制作し、声をあげて小さな変化を起こした性的マイノリティ女性の個人・カップル・かぞくの歩みとリアルを可視化して発信するとともに、性的アイデンティティの探索や自己の受容、キャリアプランを支えるツールを提示する。このサイトには参加型コミュニティ機能を持たせ、それを通じて実態調査やニーズ調査を行って課題を明確化し、課題解決のための事例を可視化し共有する。性的マイノリティ女性がつながり、自己を受容し、未来を切り開いていく力をつけられることに貢献する。
【選考骨子】
・性的マイノリティのなかでも女性は差別が複雑で深刻になりカミングアウトがしにくい社会であり、そういった女性をエンパワーすることは重要だ。
・アドボカシー活動につなげるためにも、当事者たちのコミュニティ形成は重要であり、そのツールとして位置づけられるウェブサイトの立ち上げは有効だ。声をあげにくい人にとって、オンラインにはオフサイトにはない新たな可能性がある。
・問題構造が洞察されており、目標・プロセスの設定が熟慮されている。
◆ご案内:『ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)助成発表フォーラム第11回』
~2023年1月20日13時から開催します。詳細や参加申込はこちらから。ぜひご参加ください~