2011年度 アドボカシーカフェ ご報告
原発問題シリーズ第2回
「未来の破綻を回避する羅針盤 “予防原則” とは」
2011年9月6日、ソーシャル・ジャスティスという視点から予防原則と原子力について、ゲストと様々な分野からの参加者と共に活発な意見交換が行われました。「予防原則」とは、「たとえ因果関係が科学的に十分立証されていなくても、取り返しのつかない環境上の被害が想定されるものに対しては、具体的な政策を早めに展開する」(環境と開発に関するリオ宣言、1992年より)という考え方で、今回のテーマに適応すると、「原子力が安全とわかるまでは使用禁止にすべきではないか」となります。社会全体で問題に取り組む仕組みとしての予防原則を身近なところで展開するとどうなるか、3.11の原発問題から日本は何を学んで国際社会に発信するか、という点にまで考えを深める機会となったことが会場の声からうかがえました。
―――― 主な内容 ――――
【1】長谷川浩さんの提言「放射能漏れ事故の原因と対策 -短期的視点と長期的視点から-」
aaaaああ元 愛知県環境調査センター主任研究員、NPO法人「みたけ・500万人の木曽川水トラスト」等。
【2】大沼純一さんの提言「不確実性の霧の中を進む私たちの船に、予防原則の羅針盤を」
ああああ福島県有機農業ネットワーク等。
【3】参加者とゲストのダイアログやディスカッション
【進行】上村英明(SJF運営委員長)
以上、映像アーカイブとともに報告いたします。
―――――――――――――――――
【1 】「放射能漏れ事故の原因と対策 -短期的視点と長期的視点から-」 長谷川浩さん
~ あなた、自分でお米つくれます? ~
~ チェルノブイリに学ぼう ~
・何が起こって、国民としてどう対処し、今日まで生き延びてきたのか。福島の原発事故後のデータは偏っている。チェルノブイリのデータは網羅している。
~ 一日で、こっぱみじん ~
・農林水産業は、長年の積み重ね。半減期が30年、高濃度汚染地帯は300年経たないと還れない。
・日本は、平安時代や江戸時代など平和な時代には、世界にも稀な豊かな自然条件に恵まれ、最高水準の農業生産であった。自然破壊は文明の滅亡につながる。
~ 大地に根を張って生きていこう ~
・東北地方は、首都圏に搾取されてきた(人材、食料、電力など)一方、放射性廃棄物などのゴミは押し付けられてきた。
・真の地方分権を進めることを提言。各地で農林水産業を大切にする“自産自消”(自ら産出し自ら消費する)社会へ。
※ 該当アーカイブは、映像.1の6分位から映像.3の7分位です。
【2 】「不確実性の霧の中を進む私たちの船に、予防原則の羅針盤を」 大沼純一さん
~予防原則は、なぜ必要なのか ~
・原発の破滅的事故が起き、原発の拠り所となっていた近代科学は、不確実性の壁という知の限界に直面し揺らいでいる。
・不確実な不安な海の中を進む指針が、予防原則だ。
・近代科学の延長線でリスク評価する科学手法は、我々を誤った方向へ導く。
・“想定外”とは、経済的・工学的に無理な領域を近代科学が切り捨ててきた領域だ。
~リスク科学による“ぼやけた”リスク推定~
・当たらない地震予測はリスク科学の脆弱性を示している。
・リスク科学は、危ないことが起こる確率を推定しているにすぎない。原発事故に対しても、隕石が地球にぶつかる程度に稀にしか発生し得ないとの推定に基づいた対策しかとってこなかった。
・非常に稀な危険事象が発生する確率を推定するモデルは、国際的にも多種類あり、推定結果は桁が異なるほどの幅がでる。
・実験的に推定するには、人為的に高濃度の発ガン物質のある環境を作って得た発ガン結果から、非常に低濃度の環境下での発ガンリスクを推定するという外挿方法からは“ぼやけた”推定結果しか得られない。
・また、実際に福島のガン死者の全住民に対する比率から発生確率を求めたとしても、発がん原因の放射性物質が福島原発に因るという因果の糸は証明しきれず“ぼやけた”推定結果となる。
~リスク科学の危うさ~
・手法に無理のある推定結果が数値化され、基準値として扱われることは危険だ。
・既成事実に依存して将来のリスク量を推定してきたが、既成事実がない今回の原発事故のような事態が起きた時、事態の解明も対策も不明だった。
・原発というシステムは、まさに不確実性のかたまりであるのに、ゴミや毒のみ後世に押し付けて現世は電気を享受するという歪んだシステムだ。
※ 該当アーカイブは、映像.3の6分位から映像.5の10分位です。
【3 】参加者とゲストのダイアログやディスカッション
~“東北のための東北”をめざしたい~(大沼さんから長谷川さんへ)
・東北と首都圏との関係で共感した。名古屋圏でも、木曽川上流と名古屋都市圏の間で同様の問題が発生している。
・“がんばろう日本、がんばろう東北”は、バブル再来を目指すような薄汚さと感じる。
~予防原則の適用条件を考えよう~
⇒ リスク科学の適用条件として、リスクとベネフィットの天秤関係を保つ点が挙げられる。また、リスク対策が具体的に推定でき、民主的に情報公開されて、国民が納得して進むならば、予防原則を適用しなくてもよいだろう(例>交通事故対策)。(大沼さん)
~予防原則への道のりは?~
⇒ 予防原則の始まりは、1980年代のドイツにおいて酸性雨で枯れた森林への危機感。今回の原発問題は、日本で予防原則が確立するチャンス。なお、「予防原則白書」(サンフランシスコ市・群、2003年3月)は、予防原則の制度化について参考になる。(大沼さん)
~今できる、予防原則に基づく対策は何か~
⇒ 福島では避難や食料に対する基準を、予防原則を意識して作るべきだろう。(大河内)
⇒ リスクが不明だから止めるという論理の場合、不明な部分を調べ続ける必要がある。様々な専門的分野や立場から取り組み、見えない部分を作らないことや情報共有が、予防原則が正常に機能するために大切だ。
~予防原則に身近なところでかかわるには~
⇒ スーパーの全食品に放射線量を表示することができるためには、1万台の放射線測定器があれはよい。そのための約300億円の資金は現在東北に集まっている資金から融通できるはず。自身は名古屋でカンパを募り、測定器の購入を進めている。(大沼さん)
⇒ 政治を自分たちで把握しなければいけないと再認識した。与えられたパーツだけでなく、全体の流れを把握したうえで自分たちができることを探りたい。
⇒ 科学者にお任せしすぎた。私たちは科学の不確実性をあまりに知らなかった。
⇒ 科学は人間の思考の速さで進んでいる。科学以前は、行動経験を生かして道を踏み外さず生きてきた。思考ばかりの頭でっかちでなく、等身大をもって生きることが必要だ。
⇒ 予防原則は、人類の知恵の一つ。(大沼さん)
⇒ 予防原則は、恐怖心から始まっていると思う。危険の基準は個人差があり、それに基づいて個人で動けるような選択肢があるとよい。
⇒ 留意点として、個人の予防原則をそのまま社会としての予防原則に適応したら危険だという点を指摘。(例>農産物の扱い:放射線リスクから子どもには食べさせないという個人的な予防基準をそのまま社会全般にあてはめたら農業が立ち行かない。自身も含めてある年齢以上の大人は食べなければならないと思う。)(大沼さん)
~情報の発信~
⇒ 予防原則が提示されたリオ宣言を、都合の良いように歪めずに和訳して国内に周知するよう環境省に要請したらどうか。また、リオ+20向けて、予防原則を盛り込んだローカル・アジェンダの提出を全自治体に要請するのはどうか。
⇒ 今回の問題はショックが大きすぎて、何を掲げて行政に向けて立ち上がればよいかわからなかった。3.11から半年たった今、足元から身近なところから声を上げ、良いことも、悪いことも発信して行こうという段階にようやくなった。
――――映像アーカイブ――――
映像.1
映像.2
映像.3
映像.4
映像.5
映像.6
映像.7
映像.8
映像.9
映像.10
映像.11
―――――――――――――――――
第2回アドボカシーカフェのチラシはコチラからダウンロードできます。
http://ht.ly/68ELn
ご参考
・アドボカシー:仕組みや意識を変える社会活動。政策提言、啓発、など
http://ht.ly/5y0bb
・ワールドカフェ:開いた対話から新しい可能性が生まれ出る
http://ht.ly/5xZc3
―――――――――――――――――