ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第13回助成中間3次報告
きりしまにほんごきょうしつ(2026年6月)
◆助成事業名・事業目的:
「外国籍住民への日本語教育等支援を通したエンパワーメント・地域の受け入れ体制の基盤作り事業」
霧島市に転入する外国籍住民が新たな生活の滑り出しをスムーズにすること。外国籍住民の能力が正しく発揮され、周囲に理解されるために必要な日本語力を習得すること。日本語教室を通して地域住民とのつながりを生むこと。多文化共生社会の必要性を訴え、啓発するイベントを実施することで、外国籍住民への偏見や差別を見直す機会を提供する。
◆助成金額 : 100万円
◆助成事業期間 : 2025年1月~26年12月
◆報告時点までに実施した事業の内容(主に前回の報告=25年12月=以降について):
① 生活オリエンテーションの実施
霧島市で予算化や協力体制を整えることは、現時点では難航している。一般質問においても、生活オリエンテーションの必要性は理解されているものの、「実施体制を整えられない」という回答があった。例えば、ごみ出しに関するわかりやすい表示を検討した際、自治会との連携が不可欠であることが判明した。霧島市内には一部だけでも約600の自治会が存在し(全体ではその数倍となる)、それぞれで「ごみ出し場所」「管理方法(当番制・鍵付き・網掛けなど)」「ごみ出し時間」「収集日」などが異なる。これらを把握するには膨大な情報収集が必要であり、アンケートを実施する場合でも資料代がかさむほか、自治会長がデジタルツール(Googleフォーム等)を使えるとは限らないなど、収集方法の検討も課題となった。担当課からも「業務として担う見通しが立たない」という声があった。
防災については、留学生とともに防災センターの講習を受講したが、外国人向け講座は存在せず、通常の講習は日本語の理解度が高くないと内容を把握することが難しいことがわかった。地震・津波・台風など日本特有の災害への事前知識や避難訓練の経験がないため、「避難所とは何か」「どこへ行くのか」「どうやって避難するのか」といった基本的な概念が共有されていない。指導員も外国人向け講座の経験がなく、やさしい日本語の概念も十分に浸透していないため、大学生レベルには理解できても、地域日本語教室に通う入門レベルの外国籍住民には高度であることが明らかになった。
また、110番や119番の電話のかけ方にも不安があり、緊急時にどう行動すべきか分からないという声があった。技能実習生の中には回線契約がなく電話自体が使えないケースもあり、その場合は周囲の日本人に助けを求める表現を学ぶ必要がある。地域に暮らす外国籍住民の背景や課題を把握し、それに応じた生活オリエンテーションを組み立てる必要性が高まっている。
出水市では、地域日本語教室と生活オリエンテーションを組み合わせた先行的な取り組みが行われており、その実践を学ぶことで、霧島市でも出前講座を担う担当部署との連携や、担当者向けの実践的な講座内容・わかりやすい表現の提供が必要であることが明確になった。
生活オリエンテーションの実施に向けて、複数の課との連携が生まれたことは大きな進展である。
② 訪問型日本語教育支援(霧島市内3校)
昨年度に引き続き、日本語教師有資格者による訪問型の日本語教育支援を継続している。年度初めには、新担任教諭や支援員との研修・相談を行い、支援の必要性を共有することができた。
児童・保護者・担任教諭・管理職を含めた面談も実施し、今後の方針や学校での対応について合意形成ができたことは、学校側にとって安心感につながり、保護者にとっても家庭でどのように協力すべきかを理解する機会となった。こうした先進的な事例を霧島市内で実績として残せたことは、今後外国籍児童を受け入れる際に大きく役立つと考えられる。
日本語や教科の学習に苦手意識があった児童も、レベルに合った継続的な支援により、生き生きと授業に参加するようになった。取り出し授業だからこそ可能な対応であり、従来は対応できる教職員がいないために入り込み支援しかできず、児童がクラスで孤立するケースも多かった。また、学校側も「何を支援すべきか」が分からず戸惑う場面が多かった。
さらに、日本語力の不足だけでなく、文化的・宗教的背景から生じる対応の必要性が現場の負担となっていることも明らかになった。例えば、小学校の水泳授業では、参加の可否、水着、着替え場所、指導方法など多くの検討事項がある。宿泊学習や修学旅行でも、礼拝や食事対応など、これまで学校が想定していなかった課題が生じる。こうした点を提案する存在がいないため、現場では問題が起きてから対応する「後手の対応」になりがちである。
霧島市内の複数の義務教育機関から、日本語教育支援に関する相談や派遣の要請が寄せられている。しかし、日本語教師を派遣できる予算の都合上、これ以上支援を拡大することができず、必要とされている支援に十分応えられない状況が続いている。
また、学校現場から職員研修として招聘されたこともあり、外国籍児童への対応が喫緊の課題として認識されていることが明確になった。どのようにフォローアップすべきか、学校側にも体制整備がなく、支援の仕組みそのものを構築することが優先事項であると強く感じている。
③ 地域日本語教室(公民館開催・大人向け)
毎週金曜日に国分公民館で継続して開催している。口コミや霧島市国際交流協会からの紹介もあり、少しずつ地域に定着し、参加者が増えてきた。受講生の中には、アルバイトに挑戦する人も現れ、学習が生活の変化につながっている。
参加者の国籍は、中国、ネパール、ミャンマー、フィリピン、アメリカ、オーストラリアなど多岐にわたる。また、就労や留学の在留資格ではないため、学校や企業といった「所属先」を持たず、日本語を学んだり、困りごとを相談できる環境がないことが共通している。社会的所属のない人々は、既存の支援制度から抜け落ちてしまうことが、この教室を通して明らかになった。
一方で、日本に来たばかりで生活情報が全く分からない人、あるいは同国の配偶者や家族とのみ話すために日本語がほとんどできない人も参加している。日本語がある程度話せる人から、入門レベルの人まで、非常に幅広いレベルの受講生が混在していることが特徴である。
こうした多様な背景を持つ人々にとって、地域日本語教室は学習の場であると同時に、生活相談や情報共有ができる唯一の安心できる居場所となっている。孤立しやすい立場にある外国籍住民が、地域とつながり、生活の基盤を整えるための重要な役割を果たしている。
また、この教室は、日本語教師として実務経験がない人や、ボランティアとして関わりたい人が見学し学ぶ場にもなっている。隣の姶良市でも地域日本語教室を開講することになり、その担当者が見学に訪れている。霧島市の取り組みが地域の先進的事例として認識され、周辺自治体への広がりにもつながっている。
④多文化共生をテーマにした情報発信イベント
現在、このイベントを開催するための準備をすすめているところである。2026年9~10月に開催予定である。
◆今後の事業予定:
① 生活オリエンテーションの実施
地域日本語教室を実施する日本語教師による「ごみの分別」「交通ルール(自転車の新ルール)」「災害対応」を実施できるように準備をすることで、「生活オリエンテーション」ができる人材を外国籍住民に身近な存在でまず確保する。
次に、担当課の担当者向けの研修を提案して、実施する。本事項は当初の予定にないため、変更点として記載する。
② 訪問型日本語教育支援
12月末まで霧島市内3校に継続して支援を行う予定である。
③ 地域日本語教室
12月まで毎週金曜日10:00~11:30国分公民館にて実施予定である。
④ 多文化共生をテーマにした情報発信イベント
2026年9~10月に実施予定。第一工科大学留学生、日本語学校留学生と連携して実施する予定である。
◆助成事業の目的と照らし合わせた効果・課題と展望:
【Ⅰ】次の5つの評価軸それぞれについて、当事業において当てはまる具体的事例。あるいは、当てはまる事が現時点では無い場合、その点を今後の課題として具体的にどのように考えるか。
(1)当事者主体の徹底した確保
生活オリエンテーションでは、留学生とともに防災センターの講習を受講し、外国籍住民がどこで理解につまずくのかを当事者の視点から把握することができた。生活ガイドブックの改善点についても、外国籍住民自身が「わかりにくい点」「説明が不足している点」を具体的に指摘し、行政へのフィードバックにつながっている。
学校での日本語教育支援では、児童・保護者・担任教諭・管理職を含めた面談を実施し、当事者のニーズを踏まえて支援内容を調整した。児童が生き生きと授業に参加するようになったことは、主体性の向上を示す具体的な変化である。
地域日本語教室では、社会的所属のない外国籍住民が安心して学び、困りごとを共有できる場となっている。日本語がある程度話せる人から、来日直後で生活情報が全く分からない人まで、幅広いレベルの参加者が主体的に学習に取り組んでいる。
(2)法制度・社会変革への機動力
生活オリエンテーションについては、市議会で一般質問が行われ、必要性が公式に議論される段階に進んだ。ごみ出し、防災、緊急通報など、制度の隙間が外国籍住民の生活に影響していることを行政に共有し、担当課との連携が始まったことは大きな進展である。
学校での日本語教育支援では、新担任教諭や支援員への研修を実施し、学校側の理解が進んだ。これまで入り込み支援しかできなかった学校が、取り出し授業を制度的に受け入れ始めたことは、教育現場の仕組みそのものに変化をもたらしている。
地域日本語教室は、隣市の姶良市が新たに教室を開講する際の参考事例となり、自治体間の横の連携が生まれている。霧島市の取り組みが地域の先進事例として認識され、社会的変革の基盤となりつつある。
(3)社会における認知度の向上力
防災センターの講習では、指導員が「外国人向け講座の必要性」を初めて認識し、関係機関の理解が広がった。学校での支援は複数校から相談や派遣要請が寄せられるほど認知が進み、職員研修として招聘されるなど、教育現場での認知度が高まっている。
地域日本語教室は口コミや国際交流協会からの紹介で参加者が増え、地域に定着しつつある。姶良市の担当者が見学に訪れるなど、周辺自治体にも活動が広がっている。
(4)ステークホルダーとの関係構築力(相反する立場をとる利害関係者との関係性を良好に築いたり保持したりする力)
生活オリエンテーションでは、担当課との連携が始まり、出前講座を担う部署との協働の必要性が共有された。自治会との連携が不可欠であることも明らかになり、関係者の理解を得ながら進める体制づくりが求められている。
学校支援では、担任教諭・管理職・支援員との連携が強化され、文化的・宗教的背景に関する相談が増えるなど、協働関係の質が向上した。複数校から支援要請が寄せられていることは、信頼関係が構築されている証左である。
地域日本語教室では、国際交流協会や周辺自治体との連携が生まれ、日本語教師志望者やボランティアの育成にも寄与している。
(5)持続力
生活オリエンテーションは、出水市の先行事例を学び、霧島市でも導入可能なモデルを検討する段階に進んだ。複数課との連携が始まったことは、制度化に向けた基盤となる。
学校支援は、霧島市内で複数校の実績が蓄積され、今後の受け入れ時に活用できる体制整備の必要性が明確になった。職員研修の実施は、持続的な支援体制の構築に向けた第一歩である。
地域日本語教室は、参加者の増加と周辺自治体への広がりにより、地域に根付いた継続可能な取り組みとなっている。日本語教師志望者やボランティアの育成にもつながり、活動の裾野が広がっている。
【Ⅱ】Ⅰの評価軸はいずれも、強化するには連携力が潜在的に重要であり、その一助として次の項目について考察。
(1)当事業が取り組む社会的課題の根底にある社会的要因/背景(根本課題)は何だと考えるか。
当事業が取り組む社会的課題の根底には、以下のような構造的な要因がある。
- 外国籍住民への生活情報が制度的に届かない構造
ごみ出し、防災、緊急通報など、生活に直結する情報が自治会・行政・地域で分断されており、外国籍住民に届く仕組みが存在しない。
- 外国籍住民の「社会的所属の欠如」
就労・留学以外の在留資格の人々は、学校や企業といった所属先がなく、支援制度から抜け落ちてしまう。相談先がないため、孤立が深刻化している。
- 教育現場の制度的遅れと誤認
文化・宗教的背景への対応や日本語教育支援の必要性が制度化されておらず、現場は「問題が起きてから対応する」後手の構造になっている。
- 行政内部の「見えない課題は存在しない」という空気
生活オリエンテーションの必要性は理解されているものの、実施体制が整わないため、課題が放置されやすい。
これらは、外国籍住民の生活・教育・安全に直結する根本課題であり、連携によってしか解決できない構造的問題である。
(2)その根本課題の解決にどのように貢献できそうだと考えるか。
当事業は、以下の点で根本課題の解決に寄与している。
- 生活オリエンテーションの基盤づくり
留学生と防災講習を受けたことで、外国籍住民がどこで理解につまずくかを可視化し、行政に具体的な改善点を提示できた。複数課との連携が始まり、制度化への第一歩となっている。
- 学校での日本語教育支援の制度化に向けた実績形成
児童・保護者・教職員を含めた面談や研修を通じて、学校側の理解が進み、取り出し授業の導入など制度的変化が生まれている。複数校から支援要請が寄せられるほど、必要性が認識されている。
- 社会的所属のない外国籍住民の「居場所」づくり
地域日本語教室は、支援制度から抜け落ちる人々にとって唯一の安心できる場となり、生活相談・情報共有・地域とのつながりを生む役割を果たしている。
- 地域の先進事例として周辺自治体へ波及
姶良市が地域日本語教室を開講する際に霧島市の取り組みを参考にするなど、横の連携が生まれ、地域全体の支援力向上に寄与している。
これらの取り組みは、制度の隙間に落ちる人々を支え、行政・教育・地域の仕組みそのものを改善する方向へつながっている。
(3)そのような貢献にむけて、どのような活動との協力/連携が有効だと考えるか。
今後、連携によって強化できる具体的な構想は以下のとおりである。
- 自治会との連携による「生活情報の標準化プロジェクト」
ごみ出し・防災・地域ルールなど、自治会ごとに異なる情報を整理し、外国籍住民向けに標準化した案内を作成する。自治会長会議や市民課との協働が必要。
- 教育委員会との共同による「外国籍児童支援体制の構築」
取り出し授業のモデル化、文化・宗教的配慮のガイドライン作成、教職員研修の定期化など、制度として学校に根付く仕組みを共同で整備する。
- 国際交流協会・社会福祉協議会との連携による「社会的所属のない外国籍住民支援」
地域日本語教室を拠点に、生活相談・同行支援・情報提供を行う仕組みを構築する。
- 周辺自治体との連携による「広域日本語教育ネットワーク」
姶良市・鹿児島市などと連携し、地域日本語教室のノウハウ共有、教材開発、研修の共同開催を行う。
- 大学・企業との連携による「生活オリエンテーションの共同開発」
防災センター、大学、企業の外国籍従業員支援担当と協働し、やさしい日本語による生活オリエンテーション教材を共同で作成する。
これらの連携は、霧島市単独では解決できない構造的課題を、地域全体で解決するための基盤となる。 ■


