ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第13回助成中間3次報告
原子力資料情報室(2026年6月)
◆助成事業名・事業目的:
「核ごみ調査に揺れる地域の声をすくい上げ、政策変更を促すアドボカシー活動」
原発を運転することによって生まれる高レベル放射性廃棄物、いわゆる核のごみの処分政策に対して、政策変更を求めるアドボカシー活動です。具体的には、核のごみの第一段階の調査である文献調査の実施がきっかけで発生した地域の分断に苦しむ北海道寿都町、文献調査の応募をめぐり地域対立が発生した長崎県対馬市、文献調査の本格的な進行により地域の分断の懸念がある佐賀県玄海町を中心に、処分場調査拡大の動きの中で、周辺化された地域の声をすくい上げ、それに対する共感を社会に広げ、政策変更を要求する社会運動を作ることを目的としています。
また2026年5月から南鳥島で文献調査が始まった東京都小笠原村住民への情報発信や連帯のプロジェクトも新たに企画していきます。
◆助成金額 : 100万円
◆助成事業期間 : 2025年1月~26年12月
◆報告時点までに実施した事業の内容(主に前回の報告=25年12月以降=について):
〇北海道の文献調査への対応
26年4月11日に札幌市でシンポジウム「北海道の核ごみ文献調査から5年 見えてきた最終処分政策の課題」を開催しました。原子力資料情報室、「環境と公害」編集委員会、泊原発を再稼働させない・核ゴミを持ち込ませない北海道連絡会が主催しました。パネル・ディスカッションでは、5年間の北海道の文献調査を振り返りながら、問題点や政策の改善点を北海道の市民団体と議論しました。後日公開した録画映像は視聴回数が2000回以上を記録しました。また翌日の12日には寿都でも、類似の内容の学習会「みんなで知ろう・考えよう 核ごみ文献調査のこれまでとこれから」を開催しました。同月28日、29日にはフィンランド在住の韓国人研究者による寿都フィールドワークをサポートしながら、フィンランドの最終処分政策や日本との比較について意見交換をしました。

写真上=2026年4月11日に札幌市で開催されたシンポジウム「北海道の核ごみ文献調査から5年 見えてきた最終処分政策の課題」のパネルディスカッションの風景

写真上=2026年4月12日に北海道・寿都町で開催された学習会「みんなで知ろう・考えよう 核ごみ文献調査のこれまでとこれから」の風景
〇佐賀県玄海町の文献調査への対応
去年3月に結成された「核ゴミお断り!10万年先の子どもも守る九州の会」のメーリングリストに入り、NUMOが玄海町で実施する「対話を行う場」への対応を定期的に協議してきました。5月24日に開催された「玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会」の年次報告会にオンラインで参加し、今後の玄海町の文献調査への対応について意見交換をしました。
〇南鳥島に関する調査
3月3日に経済産業省が突如、南鳥島で文献調査を行うために、東京都・小笠原村に申し入れを行いました。それ以降、小笠原住民とコンタクトする努力をしていきました。4月24日には小笠原村の宮城ジャイアン村議会議員の主催で、村民向けにオンライン講演会を開催し、終了後はクローズドで村民十数人と意見交換をしました。翌25日には「原発事故を忘れるな! 4・25チェルノブイリデー東京集会」で南鳥島の問題について講演を行いました。5月1日には原子力資料情報室が主催で、専修大学の岡村りら教授を講師に招き、ウェビナー「ドイツやスイスの事例から考える『南鳥島で地層処分』の問題点」を開催しました。6月23日には、さようなら原発オンライン学習会「南鳥島」と核ごみ問題 高レベル放射性廃棄物処分の行方」の講師を務めました。
◆今後の事業予定:
・南鳥島での文献調査について
7月8日~13日に小笠原村を訪問します。講演や住民との意見交換、今後の対応などについて村議と協議する予定です。10月か12月に2週間ほど再訪問する計画を立てています。村民と信頼関係を築きながら、住民による自発的な対話の場の企画や参画をサポートできればと考えています。寿都や対馬、玄海の住民と小笠原村民をオンラインでつないだ意見交換会を企画したいです。また今年中に南鳥島での地層処分に関するパンフレットを作成することを検討しています。
・北海道の文献調査について
7月25~26日に開催される「ほろのべ核のゴミを考える全国交流会」、11月23日に開催される「11.23幌延デー北海道集会」への参加を検討しており、北海道の市民団体と今後の文献調査への対応について協議する予定です。
・玄海町での文献調査について
8月9日に玄海町を訪問して、玄海町議や周辺自治体の市民団体の協力を得ながら講演会を開催する予定です。12月3日の「反プルサーマルの日行動」に参加して、玄海町民とのコンタクトを図る予定です。それに合わせて佐賀市や唐津市での講演会の企画も検討したいです。
・国会へのロビイングについて
2月の衆院選の結果により、原発問題や核ごみ問題について関心のあった議員が軒並み落選したことにより状況は厳しいです。今後の対応について模索していきます。
◆助成事業の目的と照らし合わせた効果・課題と展望:
【Ⅰ】次の5つの評価軸それぞれについて、当事業において当てはまる具体的事例。あるいは、当てはまる事が現時点では無い場合、その点を今後の課題として具体的にどのように考えるか。
(1)当事者主体の徹底した確保
寿都町では文献調査報告書に関する市民の意見への見解をNUMOが先延ばしにしたまま動きが止まっていることもあり、町民および道民の間で関心が低下しています。そのような状況を打開するため、4月11日に札幌市でシンポジウム「北海道の核ごみ文献調査から5年 見えてきた最終処分政策の課題」を開催し、パネルディスカッションに寿都町民および北海道の市民団体を招きました。翌12日には寿都町で類似の内容の学習会を開催しました。そこで寿都町民が住民投票に関する勉強会を企画したいと相談し、5月29日には町民自ら京都大学の法学者を招いたオンライン勉強会を開催しました。今後実施が予想される住民投票への対応を住民自ら準備するきっかけを作ることができたと思います。
一方、3月に突然国からの文献調査申し入れにより、核ごみ文献調査の当事者となった小笠原住民に対しても、住民主導でこの問題にアプローチするサポートを試みてきました。この問題に対して最も積極的に動いている小笠原の宮城ジャイアン村議と3月末からオンラインで連絡を取り、4月26日には、宮城村議が主催するオンライン勉強会の講師を務めました。そこに参加した村民十数名に対し、これから小笠原村で始まる対話の場の概要を説明しながら、住民主導で対話の場を設計できるひな形がNUMOの資料に示されていることを伝えました。6月25日に開催された小笠原村議会では宮城議員が住民主導の対話の場を行うことについて質問をし、渋谷村長から前向きな答弁を引き出すことができました。
(2)法制度・社会変革への機動力
核のごみの処分政策を規定する「最終処分法」は、原発の継続利用のために処分場を探すという目的になっており、選定プロセスに住民参加や熟議の機会が保障されていないなど問題が多いです。この変革のためには、経産業やNUMOだけではなく、国会議員への働きかけも重要と考えてきました。
この間、北海道選出の立憲民主党の国会議員2人と面談をし、超党派の「高レベル放射性廃棄物等の最終処分に関する議員連盟」総会にも出席するなどしてきました。しかし2月の衆院選の結果により、面談した立憲民主党の国会議員2人を含め原発問題や核ごみ問題について関心のあった議員が軒並み落選しました。北海道の文献調査の行政手続きも滞る中、ロビイングなど国会議員へのアプローチが難しくなっています。この状況を打破する方法を探していきたいと思います。
(3)社会における認知度の向上力
北海道の文献調査の行政手続きが進まず、問題意識や関心が低下する中、調査から5年の節目を迎えるタイミングに合わせ、札幌市でシンポジウム「北海道の核ごみ文献調査から5年 見えてきた最終処分政策の課題」を開催しました。現場のリアル参加は200人、オンラインは200人で、盛況でした。毎日新聞や北海道新聞を始め複数のメディアにも報道されました。社会的認知度の向上に貢献できたと思います。
3月に突然浮上した南鳥島での文献調査の動きについても、いち早く声明を2つ出し、即応性を持って対応しました。海外メディア含め声明の内容が紹介されました。5月1日には原子力資料情報室が主催で、専修大学の岡村りら教授を講師に招き、ウェビナー「ドイツやスイスの事例から考える『南鳥島で地層処分』の問題点」を開催しました。これらの取り組みを通じ、この問題に関する関心を高めるのに一定程度成功したと思います。
また4月にはアースデイで、5月には憲法集会で原子力資料情報室がブースを出しましたが、南鳥島の件について尋ねてくる参加者が多かったのが印象的でした。関心はけっこう高いのだと実感しました。今後、小笠原村では対話の場が開催される予定です。私が小笠原村民とオンラインで話した感触では、自然を愛し、保護の意識が高く、海洋生態系についても独自の感覚を持ったような信念の強い人たちです。そういう村民が主体となって対話の場を企画し、外部からそれを支援することができれば、文献調査のみならず原子力政策全体を根本的に問うたり、地層処分が小笠原の生態系に与える影響を検証するなど様々なテーマで議論が広まる可能性があると考えています。
一方、玄海町では対話の場が5回開催されているものの、この問題に対応する住民組織はなく、町内の関心は低いままです。しかし今後NUMOが文献調査の原案を作成すれば、地域社会やメディアの関心は高まる可能性があります。その際には、社会的認知向上のため、文献調査に賛成・反対双方のシンポジウムを企画できればと考えています。
(4)ステークホルダーとの関係構築力(相反する立場をとる利害関係者との関係性を良好に築いたり保持したりする力)
相反する立場をとるグループは大きく2つに分けられます。第一に、政策や調査を推進する経産省とNUMOです。第二に、調査実施地域における調査賛成住民が挙げられます。
経産省とNUMOに対しては、私も委員を務める特定放射性廃棄物小委員会で意見交換や政策提言ができる関係性が存在します。しかし去年の4月以降、いままで開催されず、小委員会を通じて私が現地調査してきた住民の不満や批判を伝える機会はありませんでした。
一方、調査実施地域における調査賛成住民に関しては、文献調査が開始された小笠原村にも賛成住民はいるので、そういう人とも対話をしたいと考えています。具体的には、7月8日から13日まで小笠原村を訪問するので、反対住民のみならず賛成住民の声も聞き、対話のできる関係性を構築したいと思います。
(5)持続力
核ごみ問題は社会的認知度が低く、その問題に対応する運動も支援やサポートがあまり多く集まらないので、運動の持続が課題です。各地の運動も孤立しがちなので、情報や問題意識、経験などを共有し、お互いにエンパワーメントできるネットワーク作りが重要だと考えています。
そのために4月24日に小笠原村民向けに開催されたオンライン講演会では、私が一部コーディネートし、講演の終了後の意見交換会に寿都町民にも参加してもらい、寿都町民と小笠原村民が話し合う場が設けられました。寿都町で起こった出来事やその体験談を共有しました。このような文献調査実施地域の住民同士(文献調査応募の動きをはね返した対馬も含めて)が意見交換や体験を共有できる場をまずはオンラインで実現していきたいです。
【Ⅱ】Ⅰの評価軸はいずれも、強化するには連携力が潜在的に重要であり、その一助として次の項目について考察。
(1)当事業が取り組む社会的課題の根底にある社会的要因/背景(根本課題)は何だと考えるか。
核のゴミ問題は調査が進む地域の問題として矮小化される傾向にあります。小さなコミュニティで進行しているので人々の関心は低く、コミュニティ分断など深刻な弊害が起きているにもかかわらず、政策の失敗や社会的な問題としてそれが認識されづらい構造になっていると思います。
南鳥島での文献調査も同様の構造を持っていると思います。すでにこの問題について仲が良かった人たちの間でも、話題にしづらい雰囲気があると打ち明けた小笠原村民もいました。南鳥島自体には一般住民は暮らしていないとはいえ、小さなコミュニティに負担を押し付けるという不条理な出来事は小笠原村でも繰り返されています。
(2)その根本課題の解決にどのように貢献できそうだと考えるか。
いかに地域住民をエンパワーメントしながら、粘り強く地域の現状を広く社会に共有することができるかが基本的な課題です。現地調査に基づく情報発信や地元住民を招いた講演活動、政府の審議会への地元住民との共同対応などの事業を通して、その課題に貢献できると考えます。
実際に4月には札幌市で大きなシンポジウムを開催し、成功裏に終了しました。文献調査が開始された南鳥島についても、問題を指摘した声明をいち早く発表し、オンライン講演会も実施し、クローズドで村民との意見交換をしました。今後は小笠原村の行政区でもある東京都に働きかけを行い、経産省やNUMOを巻き込んだ形で討論会を開催し、電力消費地である都内でこの問題に関する議論を活性化したいと思っています。
(3)そのような貢献にむけて、どのような活動との協力/連携が有効だと考えるか。
南鳥島での文献調査の問題が起きたことで小笠原村内にある団体と連携することが必要であると考えています。4月26日の小笠原村民向けのオンライン講演会で「小笠原自然文化研究所」の研究員と知り合うことができたので、原子力資料情報室のウェビナーに招待するなど検討したいです。7月8日~13日には小笠原村を訪問する予定なので、各種団体と直接交流をし、プロジェクトの具体化を目指したいと思います。
その他、若年世代へのアプローチも必要だと考えており、また具体化はしていないものの、Fridays for Futureや日本若者協議会などの若者団体と核ごみ問題に関して接点を持つことを希望しています。 ■

