ソーシャル・ジャスティス基金
助成発表フォーラム第14回 報告
ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)は、公募により審査決定した第14回助成先の方々(NPO法人トイミッケ代表理事 佐々木大志郎さん、NPO法人 監獄人権センター職員 塩田祐子さん、一般社団法人 反貧困ネットワーク大学生チューター 加藤美和さん、果てとチーク主宰 升味加耀さん)をプレゼンターに迎えた助成発表フォーラムを2026年1月24日に開催しました。
各プレゼンターから助成事業について発表をいただいた後、クロストーク、全体対話へと展開されました。
自分自身が生きていくことで毎日が必死な人、誰からも必要とされずに孤立していると感じている人が増えていますが、「助けを求めてもいいんだ」・「助けてもいいんだ」と思える助け合いのネットワーク構築が重要な課題だといった提言が相次ぎました。
「差別していないからいいでしょ」と、お互いの違いを認知せず、背後にある痛みや困窮にも目を向けず、同一視するだけでは、お互いの存在は「透明化」・「不可視化」され、バラバラになった個々の隙をデマが跋扈しているとの指摘がありました。そして、不可視化されている人自身が、自分より弱い立場の人たちを見つけて攻撃しているとも。
今必要なのは、「力の論理」ではなく、「ケアの論理」・「包摂の論理」だと強調されました。相互支援の網を、弱りつつある“公共”機能と、負担が増しつつある市民活動の関係を対等に組み直し、再構築していくという課題が提示されました。
また、自分が抱えている困難や痛みを不可視化されないよう、自分の経験を俯瞰し第三者的な視点で整理してアウトプットする重要性が高まっており、さまざまな表現方法による挑戦も提示されました。その痛みや困難を、エンタメとして消費されないよう、社会を変えるために共有していくのだと。
公正な社会を希求する市民のネットワークで、差別や排他的な流れに抗い、寛容と助け合いで市民社会をつくっていく意志が共有されました。
詳細は以下をご覧ください。 ※総合司会、土屋真美子(SJF運営委員)

目次
- 1 ――開会挨拶(上村英明・SJF運営委員長)――
- 2 ――第14回助成事業の発表とクロストーク――
- 2.1 NPO法人トイミッケ代表理事 佐々木大志郎さん『可視化されづらい不安定居住&不安定就労層への、市民と連携したアウトリーチ支援および実体調査事業』
- 2.2 NPO法人監獄人権センター職員 塩田祐子さん『監獄をアップデートする。人権意識の向上と有用な支援の提供』
- 2.3 一般社団法人反貧困ネットワーク大学生チューター 加藤美和さん『在留資格がない高校生・学生の声を本にして社会に届ける活動在留資格がない高校生・学生の声を本にして社会に届ける活動』
- 2.4 果てとチーク主宰 升味加耀さん『公共劇場での演劇作品上演を通して、社会的マイノリティが直面する抑圧や構造的暴力を可視化し、レクチャー及びラウンドテーブルイベントから対話の機会を生み出す事業』
- 3 ――全体対話――
- 4 ――閉会挨拶(佐々木貴子さん・SJF運営委員)――
――開会挨拶(上村英明・SJF運営委員長)――
皆さん、こんにちは。2026年、本年もよろしくお願いいたします。
SJF は 2011年の発足以来、今回で第14回目の助成を実現することができました。皆さんのご支援の賜物だと思っています。今回の応募も50を超え、53団体からあり、審査員一同、非常に悩みながら4団体を決めさせていただきました。SJFの助成公募の基本テーマである「見逃されがちだが、大切な問題」に取り組むアドボカシー活動に加え、今回の特別テーマとして「ネット/SNS にかかる社会的公正、人権問題」に取り組むアドボカシー活動を掲げさせていただきました。
今年は、国際的にも国内的にも「やったもん勝ち」みたいな「力の論理」が優先的に進んでいる社会だと思います。こういう時こそ市民レベルで、公正な社会をつくるというルールに基づいて私たちが社会構築を進めていくことの重要さが問われていると思います。ぜひそうした視点で、今回の助成が日本の社会的公正、あるいは民主的な社会の在り方に貢献することを祈って、簡単なご挨拶とさせていただきます。
――第14回助成事業の発表とクロストーク――
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NPO法人トイミッケ代表理事 佐々木大志郎さん『可視化されづらい不安定居住&不安定就労層への、市民と連携したアウトリーチ支援および実体調査事業』
私たちトイミッケはホームレス、住まいを失っている方の支援を10年位している団体です。IT 等々を使ってアウトリーチを強めたNPOです。
今の住まいを失っている方たちの状況は、例えば、「トー横広場」の横の駐輪場は、フードデリバリーで働いている方の基地になっています。近くにネットカフェがたくさんあり、そこに泊まる方がたくさんいらっしゃいます。こうやって、フードデリバリーなどのスキマバイトで日銭を稼いでネットカフェで一泊するという形でぐるぐる回っているのが、現代のホームレスの状態です。このように路上で寝ているわけではないので、非常に見えづらい。
「不安定居住・不安定就労層」は東京だけで約4千人いると言われていますが、その調査は 2017年が最後です。これは、今回のプロジェクトの肝になりますが、この 2017年以降、コロナを経て爆増していると思われていますが、全く調査が行われていません。
日々が繰り返し回っているのだったら別にいいじゃないか、という話がありますが、なかなかそうはいかない。例えば、すぐにアカウントが停止されるとか、そもそも仕事が取り合いになっているので決まらないとか、いろんなパターンで今日泊まるお金を得られずホームレスになってしまう方が突然現れるわけです。
アプリケーションやスマートフォンの影響で、突然住まいがなくなる、今日の安定した生活ができなくなる、あるいは様々な働き方をする中で飛ばされていくいろんな場所――有明の倉庫街や、どこそこの海沿いとか――で困窮して、緊急的な対応が必要になるというのが、すごく早くなってきたのが現在のホームレスの状況です。
これを私たちは、「せかいビバーク」というプログラムで助けています。これを僕は、「超緊急用子ども食堂」と説明することが多く、緊急パッケージ(「お助けパック」)と受付用支援Webアプリを開発しました。その緊急パッケージを都内のいろんな所に設置していただいております(「受け取りスポット」)。 市民の方、例えば薬局さんや飲み屋さんや書店さん等に設置していただき、その場所をWebアプリで公開し、今日困った方がそのアプリで調べてパッケージを取りに行って、それを使って一泊するという仕組みです。そういった緊急支援からワンストップ支援につないでいます。5割ぐらいが生活保護、5割ぐらいが延泊支援となっています。そこから長期の継続支援対応を行っています。
2024年では1,329件、実数338人がこの支援でつながりました。だいたい20代か30代で五割ぐらいを占めています 現在、こうした市民と連携したワンストップ支援として、「受け取りスポット」は67か所で行っています。これによって見えづらいホームレスを可視化しています。
今回のSJFからの助成で、今までつながった方とこれからつながる方へのアンケート調査を実施します。不安定居住・不安定就労層の調査はいろんなところで要望されていますが、公的にはなかなか行われない状況の中で、私たちは既に「せかいビバーク」プロジェクトのスタートから500人以上の方につながっていますので、改めてアンケートを取って、「なぜこんな状況になったのか」、「何が必要だったのか」、「現在どうなっているのか」等を調査し、統計的に明らかにし、提言にまとめていきたいと思っております。謝礼付きでアンケート調査を行って、専門家に入っていただき、冊子等に集めて、ゆくゆくは行政との申し入れや記者会見も予定しています。こういったプロジェクトに引き続きご注目の程よろしくお願いいたします。
果てとチーク 升味加耀さん) すごく素晴らしい活動だなと思っております。
まず、この可視化されない、貧困に喘ぐ人々というのは、「ネットカフェ難民」が話題になった時もいたし、「ワーキングプア」という形で話題になったこともあったと思うけれども、一過性の言葉のブームで終わってしまったところがあると思っています。
私は自分が演劇で活動していて、飲食のアルバイトとかで生計を立てていた子たちがコロナ禍で金銭的に困窮したところも見てきたので、これは本当に大きな問題だと思っています。実際に今行われている活動も、ワンストップ支援としてすごく効果的だと思うし、今の若者もアクセスしやすい仕組みになっているというのも素晴らしいなと思いながら拝聴しておりました。
これは、長い時間をかけていく支援だと思うけれども、実際に支援をしていて一番難しいと感じるケースや、逆に達成感を感じるケースがあれば、ぜひお伺いしたいと思います。
佐々木さん) 実はコロナの時に相談に来た、緊急的に住まいを失ったという方の中には、芝居をやっていたという方は結構いらっしゃいました。
升味さん) そうですよね。
「助けてもいいんだ」、「助けを求めてもいいんだ」と思える社会に
佐々木さん) 実は私も高校時代は劇部でした。コロナの時、「アルバイトしながら劇場でやっていたけど、困った」という方を、吉祥寺の小劇場まで迎えに行ったこともありました。でも今も状況はあまり変わっていないと思っているところです。
今の状況で支援していて難しいところのお話をすると、20代・30代は仕事が結構あって、ある意味、仕事を見つけてしまえるので、生活保護などの公的な支援につなぐことが非常に難しい状態であることです。日本の制度は、本当に何もない状態か、本当に職業訓練か、もう上か下かみたいな状況で真ん中がないのです。だから、働きながらアルバイトで10万円ぐらい稼いでいて、他のこともやっていて、ただその収入が少なくなったりしたのを少しだけ助けてくれるという制度がないのが難しいところです。私たちは、そこを民間の助成金で埋めている状況なので、すごくつらいです。
一方で、やりがい的な話をすると、3年ぐらいかかって安定するところに来ましたというご相談も受けるので、そういう相談を受けられることが活動の目的ではないですけれども、非常にうれしいところですね。
升味さん) 何か一つ生活基盤が崩れると、すぐに困窮状態に陥ってしまう人は、自分の周りにもたくさんいると感じています。でも、そういう人に対する支援は「今困ってないから大丈夫でしょ」ということになったり、自分自身も「誰かに支援をもらったりするほど困ってはいない」という意識だったりしてトイミッケさんの事業のことも知らなかったりアクセスする気が本人になかったりします。
実際、今の社会構造では、「ケアを求めたり、サポートを求めたりしてもいいんだよ」という空気があまりない。「自己責任でしょ」みたいな空気で、「そういう生活をしていたのは自分でしょ」 みたいなことを本人も内面化してしまっている気がしていて、そこがすごく難しいと感じています。
最近の「ケアを求めてはいけない」というような空気は、何か感じられますか?
佐々木さん) 例えば、同じチームで動いたときに、明らかに生活が苦しいやつがいた時に「お前、苦しいよね」とは言えないというのはありますね。
升味さん) そうですよね。
佐々木さん) だから、周りの人が「この人、困ってる」ということに気づいて、私たちと一緒に助けてもらえるのが一番理想ではあるのですが、なかなか難しいというのが現実です。
じゃあ、困っている人が誰かにつながった後に、例えば、いきなり役所に密かに自分で支援を申請に行けと言われても難しい。だけど、今お話しした「せかいビバーク」の緊急支援パックの受け取りスポットの中には、面白い書店さんとかがたくさんあるので、そこに行って、緊急宿泊ができる支援パックをもらって一泊してから僕らに連絡をしてくるというパターンもよくあります。書店だとけっこう行きやすいですよね。
といったところで、困っている人にちゃんと気づけるように皆がなっていくことが今すごく大事になっているとは思っています。でも結局、困っている人を首に縄をつけて引っ張っていくわけにいかないので、やはり、社会の空気を、「助けてもいいんだ」、「助けを求めてもいいんだ」というふうにしていく必要はあると思っています。
升味さん) 先ほどのいろんな書店も、居酒屋も、薬局もそうですが、包括的なケアのネットワークになってくると、私個人としてもすごく安全で安心を感じられます。いろんな人が助けてくれるというネットワークが構築されていた方がいいし、それが公的なものになっていくと更にいいと思っています。民間の活動も大事でありつつ、子ども食堂の問題もそうですけど、公的なケアとしてサポートしていく体制がないと難しいというのも同様に感じました。
佐々木さん) 子ども食堂は流行りすぎていて、僕らみたいな民間の市民の力でやれることはやりますが、子ども食堂に丸投げされても困ります。
升味さん) そうですよね。
佐々木さん) 子ども食堂に対応が非常に重度に大変な方がいらっしゃって、なかなか難しいという話が直近の記事になっていたので、そこをいかにして公的セクターに押し返していくのか、ここからは市民がやりますけど、というところを明確化していくことは必要だと思っています。
それで、不安定居住・不安定就労層の問題について今回きちんと可視化させて、報告をして、「2017年の調査で少し助けられたけど、今もまだまだいらっしゃいますよ」という話をできればというところで、今回のプロジェクトで1年半頑張ります。
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NPO法人監獄人権センター職員 塩田祐子さん『監獄をアップデートする。人権意識の向上と有用な支援の提供』
監獄人権センターは1995年に設立され、刑務所の中の人権に関する活動をしております。弁護士や研究者などの専門家と、元受刑者や支援者が関わっております。主には、受刑者の方から寄せられるお悩み相談に手紙でお返事をする活動をしています。その他、セミナーや政策提言をしております。2022年4月から、東京都府中市にあるFMラジオ局「東京府中FM」で、元受刑者の方が毎回出演するラジオ番組「刑務所ラジオ」の放送を始めました。このラジオの立ち上げにあたってもSJFから助成をいただいております。ありがとうございました。
昨年2025年の 6月1日に「拘禁刑」という新しい刑罰が始まりました。「懲らしめから立ち直りへ」というスローガンを法務省が作りました。懲らしめる処遇から、立ち直りを支援する処遇へ変わろうということです。
お年寄りの受刑者が部屋に集まってリハビリをやっている様子――嚥下(えんげ)と言いますが、喉で食べ物を飲み込む力を鍛えるために高齢受刑者が合唱している風景――など、「刑務所が優しくなった」という報道がたくさんありました。このように高齢者や障害者に向けて変わったこともありますが、変わらないこともあります。{ここで、刑務官が刑務作業を担当している様子の短時間の映像が2つ紹介された}
「より良い刑務所処遇とは何だろう?」──を探していくのが1年かけて行うプロジェクトです。先ほどの映像で、「優しい刑務所」の後に刑務官が怒鳴っているシーンがありましたけど、あれは今もやられています。刑務所はあれぐらい厳しいほうが良いのか?受刑者にとってどんな処遇が良いのか?を考えていきます。
まずは、刑務所の利用者に聞いてみる。受刑者の皆さんにアンケートを取ります。「あなたの刑務所は変わりましたか?」、「変わらないことはありますか?」、「 変わってほしいことはありますか?」受刑者の皆さんに質問を送り、回答をまとめます。
そして、刑務所を出所した人と元刑務官へのインタビューも行います。「あなたの刑務所どうでしたか?」、「 変わってほしいことはありますか?」を聞いていきます。
また、刑務所を出所した人に対する支援事業も最近は増えてきました。住居や仕事を斡旋するような支援で、公的なもの、民間でも増えています。ただ、どのような支援があって、本当に役に立っているのか、当事者である元受刑者が必要としているのはどんな支援なのか?データとしてはあまり出ていません。それも調査して、必要とされる支援とは何かを考えてまいります。
そしてこれらを、政策提言にまとめて冊子化します。国会で法務委員の皆さんに資料として使っていただく。また、地方議会では再犯防止推進計画に活かしていただく。そして、研究者やメディアの方にも活用いただく。もちろん一般の方もご覧いただけるようにインターネットで無料公開するものです。
反貧困ネットワーク 加藤美和さん) まず、1本目の映像の軍隊のようなのは私は、絶対無理で一日で離脱してしまうと思いました。

塩田さん) 号令で刑務官が何を叫んでいるのかも、よくわからない掛け声でしたね。
加藤さん) 私は反貧困ネットワークという団体で、受刑して刑務所から出てきた人たちの身元引き受けと生活保護申請に同行することがあるけれども、出所した時は以前にくらべてすごく礼儀正しいのです。刑務所内の雰囲気なのか、刑務官の日常的な些細な言動なのか、何が彼らをそこまで礼儀正しく変えていると塩田さんはお考えですか。
塩田さん) やらないと生きていけないと思ったら、できてしまうのだと思います。精神的な困難があって、例えば刑務所に入る前は仕事に行っても全然続かないとか、仕事に行くことすらできない人が結構いると思いますけど、刑務所に入ると朝早く起きて刑務作業を毎日できてしまう。そういう環境に入ってしまったら、やらないと生きていけないと思ったら、できてしまうのでしょうね。覚せい剤で刑務所に入る人がいます。社会にいる時は覚せい剤を毎日使っていても、刑務所では覚醒剤が無くても生きていけます。
2本目の映像で、受刑者たちを怒鳴っている刑務官が、別室で記者のインタビューに答えているシーンがありましたが、声が全然違いますよね。刑務官も同じで、受刑者の前だと怒鳴ることができてしまうのです。これは先輩がやっているからですね。採用されたばかりの時は、そんなことは分からないと思うけど、中にいると、やはり慣れてできてしまいます。
加藤さん) そういう空気があるということなのですね。
塩田さん) そうですね。
加藤さん) 覚醒剤で捕まって拘置所で拘禁刑を受刑した 23歳の女の子がいて、私は彼女に数年前から関わっています。2回捕まってしまった方ですけれども、彼女に面会に行ったら、これは全ての拘置所や刑務所が同じ処遇であるわけではないと思うけれども、クリスマスにハーゲンダッツが出てお正月には紅白饅頭が出たと。彼女は、薬をやってしまう前に、高齢の親の介護をして精神疾患になり入院して、家を失ってさまよっている状態となり、その後に拘置所に入ってしまったのです。
彼女が言っていたのは、「人間らしい生活ができました」と。「私は、クリスマスもお正月も感じて、本当にちゃんと 1年を過ごしたと実感できました」と面会で言われました。
普通に社会で生きていくと、権利が保障されていない。住む場所もない、食べ物さえ毎日取れない。でも、何か犯罪をして刑務所や拘置所に入ったら人権が守られる、人間らしく生きられたと感じられる。そこが私の中ではすごく矛盾を感じて、葛藤して、単に「良かったね」とは言えず、何て声をかけたらいいのだろうと思いました。それは先ほどの刑務所の映像にあった、刑務官が「受刑者ファーストですよね」と言うところと、どう関係しているのかなと思いました。
誰からも必要とされずに孤立している人のいない社会に
塩田さん) 私たちも「良い処遇とは何だろう?」と常に考えていますし、今回のプロジェクトで一年かけて探していければと思っています。私たちの活動に対して、社会の方からは「犯罪をやった人を支援する活動って必要なの?」と言われることがあります。でも、閉鎖的な空間にいて、上下関係がはっきりしていると、受刑者が言うことを聞かなかったら死ぬまで殴るとか、際限なくどんどん可能になっていきます。だから、「それはダメだよね」という活動でもあるのです。
社会で誰からも必要とされずに独りぼっちでいる人が刑務所に来ることがあります。私の友人も、受刑して今は社会にいますけど、よく言っているのは「クリスマスが怖い」と。クリスマスだけじゃなく、お正月もバレンタインもゴールデンウィークもお盆も怖いのです。みんなが街で楽しそうにしているから街に出たくない。最近はハロウィンまで追加されたので、「嫌な時期が増えた」と言っていました。
「一人ぼっちで周りに誰もいない。それが本当に辛い」と言っている人は社会の中にたくさんいます。いろんな支援の場所、居場所づくりが行われていると思いますが、そういう所に行っても追い出されてしまう人がいます。集団の中にいても孤独感が消えずに、場の安全を脅かすようなことを発言したりする。もう「追い出さなれいのは刑務所だけ」みたいな状態になっている方もいます。
そういう人達をどうやって救うのか。答えは出ていないと思いますが、「受刑者ファースト」の捉え方もポイントだと思っています。学校みたいに厳しさと優しさが両方あるのが良いのか、受刑者にとっても、働く人にとっても、再犯防止や被害者の回復には何が良いのか、探していきたいと思います。
加藤さん) 本来、出所した後にまた刑務所に戻ってくるのではなく、社会に生きる場所がなければいけないのに、「戻ってきた方が」と本人が思ってしまうのが――。私たちが暮らしているこの社会をどうにかしなければいけないと感じます。
そのような中で、先ほどお話をされていた府中FMとの「刑務所ラジオ」で元受刑者の方が出演してお話をしているというのはすごい取り組みだと思いました。そういうところで「あなたの声が大事なんだよ」とか、「自分たちの声を届けていいんだよ」と思える取り組みをされていると拝察し、勉強になりました。
塩田さん) 「刑務所ラジオ」をなぜやろうと思ったかというと、「刑務所を出た人は知り合いにもいないし、見たことがない」と言う人が多いからです。私の周りには刑務所出所者の人がたくさんいるので、「居ますから!」と言いたかった。
私たちの活動は、アドボカシー活動の側面が大きいものです。アドボカシーには、ご本人の代わりに支援者が代弁するという意味もありますが、本人が発言の場にどうしても出てこられない場合があるのです。顔や名前が分かってしまうと困るからですね。
でも、ラジオであれば顔が出ないですし、スタジオで録音するだけで、目の前に誰もいない状態ですから出演しやすいですね。生放送ではないので不用意な発言があったらカットできます。元受刑者の方にも安心してご出演をいただけるだろうと思いました。声は変えずに、ご本人の生の声です。お話される内容も、ご本人が言葉に詰まってしまっても、切らずに流しています。
加藤さん) 私の今回させていただいている活動でも、「当事者の声をいかに伝えるか」というのは課題です。当事者が発言することによって危険な状態になってしまうかもしれないので。社会的な差別や攻撃を受けてしまうかもしれない中で、その人たちの声をどのように届けるかという時に、ラジオは確かに一つ大きな媒体だし、拘置所の中でも聴けたら更にいいなと勝手に思ってしまいました。
塩田さん) 私たちのラジオ番組は、刑務所では流れていなくて、東京都の府中市・国立市・稲城市ではFMで流れています。また、全国どこからでもスマートフォンの無料アプリで聴けます。残念ながら刑務所ではまだ流れていないので、放送していただけるように活動していきたいと思っています。
番組では、ご本人の思い出の曲をかけて、その曲を選んだ理由まで説明いただくようにしています。まだ犯罪をやっていた当時に聴いていた曲をリクエストする方がいて、その時の気持ちになると苦しいけれども、思い出して尚かつそこから頑張っていきたいとおっしゃっていました。
加藤さん) 確かに、その音楽を聴いていた時の記憶が呼び起こされますね。
ラジオに出演することによって、元受刑者の方がどう変化しましたか。
塩田さん) 初回のゲストに出ていただいた方が「すごく楽しかった」と言ってくれて、レギュラーゲストのような立場で引き続き出演してくださるようになりました。
自分が出演した回の録音をラジオ局からもらえるので、それを友達やお世話になっている方とシェアしたりして、楽しんでいただいているようではあります。
加藤さん) 出演するのは勇気がいることだと思うけど、それを「楽しい」と思われているというのは、皆さんが丁寧に信頼関係を構築してきたからなのかなと思いました。
塩田さん) 加藤さんも元受刑者の方に結構会われているということですので、ぜひゲストとしてプロジェクトにお越しください。ありがとうございました。
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一般社団法人反貧困ネットワーク大学生チューター 加藤美和さん『在留資格がない高校生・学生の声を本にして社会に届ける活動在留資格がない高校生・学生の声を本にして社会に届ける活動』
反貧困ネットワークは、日本人か外国人かに関わらず生活困窮にある人たちの支援を行っています。
今回SJFに採択いただいたプロジェクトを紹介させていただきます。
私たちは、「仮放免」と呼ばれる在留資格がない状態で暮らしている外国籍の高校生に学費を支援するプロジェクトを3年程前から始めました。私たちが関わっている高校生は日本で生まれたり、または幼少期に日本に来たりした子どもたちです。難民申請を却下されるなどの理由で在留資格を失って、法務省によって強制送還の対象とされている子どもたちです。
働くことが認められていないので経済的に困窮していますし、住民登録ができないため国民健康保険や生活保護などの公的な支援サービスを受けることができません。仮放免の高校生は授業料無償化からも対象外とされていて、高校の学費を払えない子は中退したり進学を諦めざるを得なかったりするということで、このプロジェクトを始めました。
このプロジェクトは、月に1万円の高校の学費をお渡しするだけではなく、私たちのような大学生チューターが伴走をして、友達にも親にも学校の先生にも言えない・わかってもらえない日常的な悩みや将来のことを聴いています。
高校生たちの話からは、「学費が払えず、卒業ができないと言われた」とか、「保険がなくて病院に行けません」といった経済的な問題だけではなく、定期的に行く必要がある入管で「勉強しても無駄。国に帰らなくてはならないんだから」とか、「日本にいてはいけない存在だ」と職員から心ない発言をされ、「自分はこの社会にいてはいけない存在なんだ」と自分を否定してしまうことがわかりました。そういった高校生たちに定期的に会ったり進学の相談をしたりする中で、「安心して話すことができました」とか、「自分と同じような状況の人がいるってことを初めて知りました」といった声が聴かれています。
今回、SJFに応募したプロジェクトは、さらに次の発展形として、本を作るプロジェクトになります。
昨年の5月に「ゼロプラン」が発表されて、私たちが関わっていた高校生やその家族が入管に行ったその日に収容されて、そのまま送還されてしまうことが相次いで起こるようになりました。
これまで日本社会で暮らして、友達をつくって、学校に行っていた子どもたちが、なぜそんなに突然これまでの生活を奪われないといけないのかということで、入管庁をはじめ、文科省・こども家庭庁などに省庁交渉を行いました。仮放免の小学生から大学生までが「私たちの声を聴いてほしい」ということで、省庁交渉を2回やり、延べ20人の子どもたちが参加して、自分たちの言葉で訴えました。
さらに、元仮放免の大学生が中心となって当事者アンケートを実施したところ、17人の子どもたちからたくさんの言葉が綴られてきました。「私たちはこの国で共に生きる人間です。 私たちの人生無駄にしないでください。 なんで私たちの権利を無視するんですか?」、「目を背けないでください。私たちの声をきいてください」と。
ただ、省庁交渉に参加できる子たちは全員ではなく、なかなか勇気がいるので、安心して話せる場づくりを定期的に行って、仮放免の子どもたちが感情を吐露して語れる場を設け、その言葉を社会に伝えていきたい。社会に存在の無いものとされる子どもたち、あなたの声は必要ないとされる子どもたちの声を社会に届けていきたい。それを本という形で社会に発信していければと、今回のプロジェクトを始めております。
トイミッケ 佐々木大志郎さん) 実は、生活困窮した方の緊急的な宿泊支援、相談支援をずっと反貧困ネットワークと一緒にやっています。その中で、外国人の方も万策が尽きる状況に陥って支援を求めて来るのがここ数年で恒常化しています。こういった方が来た時に公的支援ができることは非常に少なくて、やるとしたら市民団体が丸抱えで全部お金をだすという状況になっていって、それを決心としてずっとやっているのですが、みんな体が持つのかなという状況です。
それでも、仮放免の家族と子どもが困っていくというので、その奨学金のプロジェクトが始まって、ここまで育ったのはすごいなと思っています。
今回は本をつくるというプロジェクトですが、本である理由はあるのですか。この問題を訴えていきたい時に、動画とかいろんなメディアを使う方法があると思うけど、何であえて本なのですか。

加藤さん) 先ほど「刑務所ラジオ」の話を聞いて、ラジオもあったのかと思いました。
でも、これまで省庁交渉や個別にこども家庭庁の職員と話し合いをしたり、社会に対する講演などで訴えたりする当事者の子たちはいたのですけれども、そういうところに勇気をもって参加して話せる子どもたちはなかなかいないのです。私たちこれまで延べ50数人の高校生世代の子たちと関わってきたけれども、そのように話せる子は全員ではない。だから、自分たちの声や顔が見えない形で、自分たちの声を可視化していく手段が本だった、というのが一つの理由です。
もう一つの理由は、このプロジェクトをやるにあたって、ずっとみんなに作文を書いてもらっているのですが、日本語のレベルもみんなそれぞれなのです。幼少期から日本にいる子たちでも、日本語がよくできる子もいれば、そうでない子もいます。自分たちの今の状況をアウトプットしていく時に、ゆっくり自分で文章を作って物事を整理していくプロセスは大事で、大学生チューターも作文添削みたいなことを一緒にやっているので、それを何かしら形にできないかと、本ということになりました
佐々木さん) 確かに、顔とか出すと本当に命が取られるみたいな状況になっているので、それはそうだなと思います。
奨学金を出すプロプロジェクトは他団体もやってらっしゃるところがあるけど、大学生チューターという年齢の近い方が伴走するところが特徴的かなと思っています。大学生として関わる時に、歳が近いことで逆にやりづらいところがあると思うけれども、悩みとか気をつけているところはありますか。
加藤さん) メリット・デメリットの話をしたいと思います。これまで仮放免の家族の支援をずっと反貧困ネットワークでやってきた中で、偉そうな大人たちが家賃とか生活費を渡しに行くと、現金を直接渡すというのはパワーがその場でも発生してしまい、それを見ている子どもたちは支援者にいい顔をしなければいけないとか、支援者の言っている通りにしないといけないと思っていると感じてきました。大学生チューターは、お金を渡すという意味ではパワーが発生してしまうデメリットがある一方で、支援者とは違う友達感覚、斜め上の人たち、お兄さんお姉さんみたいな形で関われるところがメリットです。
それは表裏一体で、大学生チューターとしては、友達として関わる側面と、支援者としてお金を渡すとか進路指導といった側面との二面性を持たないといけない。支援の当事者との向き合い方に二面性があるのはいいものではないと言われていることもあるけれども、その両面を切り替えないといけないということが、チューターとしては難しいところだと思います。
支援・被支援という関係性において距離感に絶妙なバランスが求められ、うまくいかないなと私自身も日々思っているところです。
佐々木さん) 試行錯誤ですよね。 どうしても力関係はありますし、同じ生きていく仲間でもあり、一体化するのは違いますし、難しいところだと思っています。
加藤さん) 支援者としてではなく相談できる近辺の人みたいな感じで捉えてほしいなと自分は思っても、逆に高校生側はこちらを支援者だと見ている方が楽だという場合もあります。必ずしもラフに話せる関係性だけがいいとは限らないし、時に距離感を取っている方がお互いを守れる場合もあります。それは一人ひとり違うし、一対一で関わる場面も多いけれども、何人体制で関わるかという問題とも違うとは思います。
自分自身が毎日生きていくので必死な人が増えている社会 お互いが不可視化されデマが増殖 不可視化されている人自身がさらに弱い立場の人たちを見つけて攻撃 助け合いのネットワーク再構築は
佐々木さん) 最近は、ゼロプランの話でステージが変わってしまったところがあって、バンバン強制送還されるようになっています。
加藤さん) つい先週の金曜日も、ある高校生家族が入管に行った日に、父親だけその場で収容をされて、そのまま送還されると言われていました。家族全員を送還するのも増えていますが、家族を引き裂くような送還が続いている印象があります。
佐々木さん) これは、民間の支援団体 1つでできることは限られるところですけど、作戦的にはどう考えていますか?
加藤さん) 今回の本で社会に可視化していくのは大事な取り組みだとは思っています。「仮放免」ということ自体が一昨年まではほとんど知られていなかったと思います。昨年の参院選を取り巻く排外主義的な言説によって、仮放免は不法滞在者・犯罪者みたいな誤った認識が拡張してしまっていることに危機感を持っています。仮放免の人たちが刑法を犯しているわけではありません。普通にこの社会に生まれたり幼少期から暮らしたりしていて、学校に行って友達をつくっているのです。中には、日本で生まれたわけではないけれども、「故郷は日本しかない。もう自分の帰れる場所はない。ここが自分の国なんだ」と言わざるを得なくなっている状況にある人たちもいます。
そういう子どもたちはこの社会を既に担っている一員なのに、住民票もなく、社会からは存在のないものとして扱われてしまう。ましてや犯罪者として扱われてしまうということに対して、彼らの実態や人生ストーリーをちゃんと知ってもらうところが最初の一歩かなとは思っています。
佐々木さん) 確かにプロの支援者ですら仮放免など在留資格の仕組みを分かっていない人は結構いますから、これを啓発していくのは課題だなと僕も思っています。
モチベーションはどういうところに感じますか。同じ現場にいて、おそらく困窮支援では最も過酷な現場の一つだと思うけれども。
加藤さん) 私自身の成長過程で、自分のアイデンティティによって自分自身が当事者であっても自分は声を上げられなかった中学生・高校生という経験があります。でも、彼らは自分たちが権利を奪われていて攻撃に遭っているにも関わらず、当事者として声を上げるという本当にすごいことをやっていて、私はその姿をとても尊敬しているし、私自身が勇気づけられています。彼らは、「自分たちの権利はここにあるんだ」と。「なんで自分たちの権利を無視するんだ」と。「私たちは人間なんだ」と堂々と言うことができる。その姿は、私にはない強い部分を持っていて、私は鼓舞されて動かされています。
佐々木さん) バーンアウトしないような形で頑張ってください。というか、女性の困窮者も増えていて、支援する時に加藤さんにはお世話になっているので、今後、現場が過酷になっていくところがありますけども、一緒に頑張っていきましょう。
加藤さん) 佐々木さんが支援しているような、毎日漂いながら生活せざるを得ない人たちも本当にたくさんいて、日本人の困窮支援と外国人支援の両方をやっていると、日本人の相談者から「なんで外国人支援するんだ?」 とか昨年の夏以降は言われるようになって、反貧困ネットワークの問い合わせにも「外国人支援をするな」みたいなことが平気で送られてくるのです。でも、それを送っている人たちは、私たちが日々対面している相談者だったりもするわけです。
生きづらいこの社会の中で、自分自身も精一杯頑張っていて、もう毎日生きていくのが必死すぎるのに、あの人たちは税も払わずにいいことしている、みたいなデマに乗ってしまう。そんな社会で、お互いが不可視化されている中で、不可視化されている人自身が、より弱い立場の人たちを攻撃してしまう。
そこにどう抗っていくかが、私たちの問われている現在地かなと認識しています。一緒に頑張っていけたらと思います。 ありがとうございました。
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果てとチーク主宰 升味加耀さん『公共劇場での演劇作品上演を通して、社会的マイノリティが直面する抑圧や構造的暴力を可視化し、レクチャー及びラウンドテーブルイベントから対話の機会を生み出す事業』
今回ご紹介する助成事業のテーマは、演劇作品を上演することで、透明化されているマイノリティが直面している抑圧や暴力を、お客さんが一緒に見て、それをどうしたらいいかっていうことを話し合う対話の機会を生み出したいということです。
我々、果てとチークがどういう団体か、簡単に申し上げると、構造的な抑圧や暴力、マイノリティが普段直面していて、だけど声を上げることができないものを演劇という形で可視化して、お客さんが、社会をそういう状態から変化させていくにはどうしたらいいかを考えていただける場を作りたいと思っています。そういうことを考えて行動する一歩となるような事業をしたいと思って活動を続けております。
ケアやサポートの機会に気づくレイヤーは複層的に多い方がいいと思っており、今回の事業は、社会変革を目指す活動のレイヤーの中でもかなり外側の入口として捉えております。
SNS上で、女性やクィア当事者、特に最近はトランス女性に向けた差別的言説や性的な中傷、バックラッシュなどが日常的に行われています。そのSNS上のこういった言説は、単なるネット上の問題なのかというと、多分違って、現実社会の制度や文化が支えている暴力的な抑圧がもう構造として皆さんの中に行き渡ってしまっているから起きているのではないのかと思っております。自分と同じ人間ではない、自分と同じ存在ではない、だから何を言ってもいいみたいに考えてしまうことは、すごく怖いのではないかと思います。
「力の論理」のお話が冒頭で上村さんからありましたが、我々は「力の論理」ではなく、「ケアの論理」・「包摂の論理」が今必要なのではないかと思っております。
こういった視点を元に、本事業では二つの演劇作品の上演を通して、対話の場を作っていく事業になります。
まず、「あなたの周りにLGBTQ+はいますか?」という問いかけをさせてください。LGBTQ+とは、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー・クィア・ノンバイナリー・アセクシュアル・アロマンティックなどいろいろな方が含まれますが、いらっしゃいますか? もし「いいえ」の方がいらっしゃいましたら、なんで「いいえ」なんだろうということを考えてほしいと思います。比較的多い割合の日本の統計では、10人に1人クィアがいると言われています。ということは、絶対にあなたの友人や知人にもいるのではないかと思います。じゃあ、なぜ「いる」と言えないのかということを考えられたらと思います。
これは、先ほどからのいろいろな方のプレゼンでも出ていることですが、「透明化」されている当事者のお話でもあります。
まず一作目、「きみはともだち」という演劇作品になります。SNSで過熱していて、見るのもつらいのですけれども、私もノンバイナリー、自分を男性・女性のどちらにも当てはめないという考え方の性的マイノリティです。そのノンバイナリーやトランス女性を含め、性的マイノリティに対するSNSの言説がどんどん厳しくなっています。
そういう性的マイノリティとマジョリティが交差すると、特に友だちとして対峙すると、「お互いの生きづらさを理解しながら共生する」ことがとっても難しい時があります。その困難について描いているのが、この「きみはともだち」という作品です。
初演が2025年1月です。クィア当事者団体、LGBTQ+の支援団体と連携した社会的事実を伴う――寄付を協力して呼びかけたり、劇場での公演の配信売上をチャリティとして売上をすべてクィア当事者団体に寄付したり、アフタートークに専門家を呼んで観客の理解を深めたりする――こともしておりました。
再演が今年26年6月、プライド月間の予定です。今回は、どういう対話の場が作れるのかをもう少し具体化して考えていきたいと思っています。今、いろいろな人と協働できないか試行錯誤している最中です。7月には、我々としては初めてになるけれども、関東圏外の都市で公共施設と連携した上演やワークショップなどもあるイベントを企画しています。
まず「観る」ということが大事だと思っています。こういうことがある、こういう人がいるということを観るということから始めるのがよく、演劇は特に生身の人間がそれを行うので、とても強い力があると考えています。
上演の二本目が「くらいところからくるばけものはあかるくてみえない」。長いひらがなのタイトルだけれども、こちらは、SNS上での性加害というものと、SNS上での性加害の根本構造には何があるのかということのお話をしております。「ミソジニー」と「ミサンドリー」っていう考え方があり、定義が若干難しいですが、単なる女性嫌い・男性嫌いではなく、「女性/男性って、こういうとこあるよね」みたいに雑な括りで、「だから見下してもいいよね/嫌ってもしょうがないよね」というように、排他的な考え方だと思っていただければと思います。
それをJホラー(日本のホラー)の形式で描きます。Jホラーもミソジニーの温床ですが、フェミニズム的に見ると興味深い形式です。カルト的過熱の恐怖と共に、初演が2023年で統一教会の問題があった時であり、その時に感じたことや、宗教的な体系において女性がどう扱われていたか――こういうことを考えると憂鬱な気持ちになることもありますけれども――も含めて描いている作品です。今回の再演は公共劇場での上演になるので、初演同様にアフタートークを行うと共に、ラウンドテーブルも開いてもっと多くの方に参加いただきたいと思っています。
観劇は、劇場に来るという行動自体にハードルがあるアクティビティになっているので、多様な方が同じ空間に集える環境を整備したいと考えています。字幕付きの上演や、点字の案内、障害者割引など、とにかくいろんな人がこの場にいられるようにしたい。さらに、この場にいられない人も何等かの形で参加してもらえるような場を作りたいとも思っています。これから具体化していきます。
そして、演劇をきっかけに対話の場を持って、どうしたら社会を変えることができるのかという話をしたいと思っています。演劇はSNSとは真逆の「顔の見える、生身の対話の場」になります。身体性が強いので、かなり大きな影響を観客に与えることがあります。その体験をきっかけに対話が生まれることを我々は強く望んでいますし、強く期待しています。こうした対話でまかれた種が小さなアクションとして次につながることを我々もサポートしていきたいと思っています。
当事者——自分もノンバイナリーの当事者で、性加害を受けた当事者でもありますが――の痛みを、再びエンタメとして消費するのではなく、社会を変えるためにその経験を共有したいと思い、この企画を立ち上げました。劇場という小さな場所から現実社会へ少しずつ変化を生み出したいと思っています。
監獄人権センター 塩田祐子さん) 上演される作品を、ぜひ拝見したいと思いました。日程が決まったら、ぜひ教えてください。

升味さん) ありがとうございます。
当事者の痛みを、エンタメとして消費するのではなく、社会を変えるために共有
塩田さん) 今のお話で、「当事者の痛みを消費するのではなく」というのはすごく共感するところです。私もいつも悩むことですが、支援対象になる当事者の方——私たちだと元受刑者――からお話を聴くことはいろんな団体さんでもされていると思いますが、その人たちの苦労話をただ聴くだけで終わる形にならないように気を付けたいと思いました。
あと、ご参加の皆さんが気になるところだと思うのですが、この「果てとチーク」という団体名の由来をお聞きしていいですか?
升味さん) ちょっと言葉遊びになっているのですが、作品の元々のテーマが「大きなこの社会はどうしてこうなんだという憎しみ」/ヘイトと「ちっちゃい希望」/ホープを描いていくことでした。それで、ヘイトとホープを英語で表記すると「hate」と「hope」で、「はて」と「ほっぺ」と読めて、ほっぺを「チーク」に変えると「果てとチーク」が可愛いということで決まりました。一回アルファベットに変えて、それをまたローマ字読みをして、それをまた日本語に置き換えているユニット名になっています。
塩田さん) なるほど。ありがとうございます。
もう一つ、公共劇場で演じるというのが気になりました。劇場は民間でもたくさんあると思いますが、自治体や国が持っている公共劇場にこだわった理由はあるのでしょうか?
升味さん) 最近までは公共劇場とご縁がなく民間劇場でずっとやってきた団体ですけれども、一昨年に初めて公共劇場で上演した時に、アクセシビリティの点でお客様にとってすごく安心できる環境になったという実感があったからです。それは、障害者向け割引もそうだし、車椅子のお客様が一人で動いて観客席まで行けてトイレに行けることもそうだし、乳幼児を預けられるサポートがあることも含めて、我々が助成金を受けて民間でやるだけでは難しいサポートも公共劇場だと基本的に付いています。
あとは、公共劇場が持っている地域的ネットワークもあり、我々だけではアクセスできない人たちにも届けられる環境が整います。公共劇場と協働することが、より多くの人にアプローチできるタイミングだと思っています。それで、事業のタイトルにも「公共劇場」を入れております。
塩田さん) 民間の劇場は確かに狭いし、身体障害の方が入りにくい構造の場合も多いですよね。
升味さん) そう、エレベーターも無かったりするのです。
塩田さん) 他に気になったのが、「ミソジニー」という言葉自体は、支援活動をやっている人のあいだではある程度知られている言葉ですが、「ミサンドリー」という言葉はほとんど知られていないと思います。これはなぜでしょうか。やはり、女性を支援する活動が多いから「ミソジニー」という言葉はよく使われるけど、男性に対する支援があまり無いからでしょうか?
ジェンダーによって強制される社会的振る舞い アイデンティティと切り分ける
升味さん) 興味深いことですよね。私も「ミソジニー」という言葉を知ったより、「ミサンドリー」という言葉を知ったタイミングの方がずっと遅かったです。これは、なぜなのかと、私もフェミニズムや女性支援、ケアについて調べていた時にも思いました。
「有害な男らしさ」、「Toxic masculinity(トクシック・マスキュリニティ)」という言葉が出てきて、それが日本に伝わって来たのは最近ですよね。男性が持つとされていた暴力性は、男性自体が生来持っていたものではなく、社会構造の中で作られて、振る舞いとして強制されたものだったと。実際の振る舞いと、男性であるというアイデンティティを切り分ける話が、男性に対して行われ始めたのが最近なのかなという感覚が自分にもありました。
それは、女性の方が社会的にマイノリティになりやすいし、支援対象にもなりやすいからというのは絶対にあると思っています。かつ、女性は身体的にそう見られるところで困窮することもあると思いますが、男性はそういうことで困窮するとは可視化されなかったり理解されなかったりした歴史があると思っています。
社会的な構造で抑圧されてるいという点では、性別に関係なく皆そうなので、フラットに考えていけるといいなと思います。
塩田さん) ありがとうございます。
もう一つ気になったのが、劇中のセリフの中で、差別を受けるシーンがあるとすると、差別用語を使うような感じになるのか、セリフをどう組み立てられたのかお聞きしたいです。
升味さん) 映画や演劇でも最近「トリガーアラート」が結構出ています。「差別的な表現が作中で使われます」とか、「同性愛者に対する差別的な表現や、暴力的な表現が行われることがあります」みたいなのがアラートされています。
私自身は、例えば、女性の性加害を描く時にレイプシーンを具体的にそのまま描くことに懐疑的な人間で、差別や搾取される瞬間をあまりにも具体的に描くことに関しては“是”とできていません。ショッキングなものになりうるのと同時に、エンタメとして消費される可能性が高くなると思っているからです。だから、ショッキングなシーンを描くことはあまりしていません。
それよりも、現実的な会話の中で感じるマイクロアグレッションや、言葉自体は差別的でないけどニュアンスや使われるタイミング等によっては差別的・暴力的になることに遭遇することが個人的には多いです。例えば、その場に性的マイノリティや移民背景を持つ人がいるということを全く考えずに誰かが話している状況は、現実社会で結構あります。結婚や子どもの話をする時もそうだし、国籍や見た目の話をする時もそうです。そういう時に感じるリアルな感覚を自分の作品では表現したいと思っているので、直接的な差別表現はあまり出てこないようにしています。
塩田さん) 演劇が終わった後に「対話の時間」があるということですが、今までの対話の中で、どういった発見がありましたでしょうか?
升味さん) 今までは上映会をした時に後から行っていて、皆さんチームに分かれて車座で、作品についてざっくばらんにお話ししてみてください、という感じでした。よかったところと難しかったところがあります。
よかったところは、「見えている世界が違う」ことを全員が共有できたことです。同じ作品を見ても、気づくことや疑問に思うことなど、見えている世界が違うということ。立ち位置が違えば見る世界も違うことがみんなで共有できるのはすごくよかったです。
でも、それで深められるものがあるのはいいと思ったのと同時に、視点や意見が違いすぎると、その場で言えないけど傷つく人が出てくることにも気づきました。例えば、「わかんなかった」という言葉も難しい時があると思っています。もちろん「わかんなかった」は生の感想だし、そこから始まることもあるから全く悪い感想ではないけど、例えば、性加害について扱っているものを見た時に、その性加害を受けた人がその場にいたとして、「全然わかんなかった」と作品に対して誰かが言うと、「えっ」と思ってしまう。感想は人それぞれだし、その場にいる人たちは初めて出会うのだから、そういうことはありうるということは分かりつつも、その場をセーフスペースにすることの限界も感じています。
どこまで前提を共有して、どこまで配慮やケアを主催者側でもできるかというのは、難しいなと思いながらやってきました。
――全体対話――
果てとチーク・升味加耀さん) 塩田さん(監獄人権センター)のお話を聴いて感じたことです。監獄に収監されている方に向けて演劇のワークショップをしている団体もいて、何か我々がお手伝いできることがあるかなと思いました。
私は実際に自分が当事者ではない作品をつくるのは難しいと思っています。今どんな経験をされて、どんなことを希望されて、どんなケアやサポートを受けたらよくなれるのだろうとか考えながら、当事者のお話を伺いたいと思っています。
まだ具体的には思いつかないけれども、もしご一緒にできたらなと考えながらお話を伺っておりました。
監獄人権センター・塩田祐子さん) うれしいです。実は、刑務所は演劇と相性がいいというような事が世界的にも言われていて、日本でも始まっています。少年院でも演劇をやっています。「塀の中のジュリアス・シーザー」というイタリア映画があります。刑務所の中で受刑者がジュリアス・シーザーの劇をやるというストーリーですが、実話が元になっています。演劇という創作活動や表現活動がもたらす効果が、受刑者の立ち直りに良い影響があるということなのだと思います。
「刑務所ラジオ」の初回に出演していただいた方が、「ラジオに出る時、緊張もあるけど、やり終えた時の『やった!』という興奮が楽しい」とおっしゃっていました。その方は漫才の舞台にも立ったことがあって、「出番の直前は緊張で吐きそうになって帰りたいと思うけど、いざ始まったらすごく興奮状態になるし、『やった!』という感じがすごくいいんだ」と。演劇は色々な効果があるのだと思いました。今後、ぜひご一緒できればと思います。ありがとうございます。
升味さん) ありがとうございます。
塩田さん) 私は当事者ではないので、当事者の方にたくさん会うようにしています。ご本人から出てくる言葉はとてもパワーがあるので、それを演劇や、加藤さん(反貧困ネットワーク)がなさっている本などの表現活動でも出していっていただけたらなと思います。
自分の経験や役割を俯瞰し、第三者視点で整理してアウトプットする意義
反貧困ネットワーク・加藤美和さん) 升味さんにお伺いしたいです。何かをアウトプットする中で、自分自身が当事者である人もそうですが、そうでなくても他者共感によって、演じる人や周りの人が痛みを伴う場合もあるのかなと拝察をしました。今の塩田さんのお話にあったように、アウトプットして語る等の表現をすることで気持ちが浄化されていくことはありながらも、他方で、その後に痛みが戻ってきてしまうこともあるのではないかと思っています。それをどのように超えていくのか、具体的に工夫していることなどがあればお伺いしたいです。
升味さん) それはすごく難しいところです。自分も作品の台本を書いている時につらいと思うこともあるし、被害者を演じる俳優さん――それは当事者かどうかにかかわらず――も精神的にストレスを受けるのです。当事者に対して加害をしてしまう役割を担う俳優さんも疲れてしまう瞬間があるので、リスペクトコミュニケーション研修も最初にして、公演期間と公演期間終了後一ヶ月ぐらいまで相談できる窓口を作っています。
あと、この上演がどういうものなのかを俳優さんたちとしっかり話し合うようにしています。この上演の意味や、演技にある言動の意味を第三者視点で整理していくと、演技する役割をみんな自分から剥がせるのではないかと思います。つらさとか苦しみをリアルタイムで自分の中だけでやらなくてよくなる。フラッシュバックしてしまう人が落ち着く時にやる方法と少し似ているかもしれないけど、今あるものを意識することでフラッシュバックしてしまう辛い記憶とは違うということを思い返すような技法と似ているかなと思います。
実際、上演は暴力的な行為ではあるのです。何回も生身でたくさんのお客さんの前で、センシティブな瞬間をやらなければいけないから、その暴力性はやっぱり残ってしまう。でも、「これは今我々が協力してやっていることで、あなただけが背負う必要はない。この上演は誰が欠けてもできないけれども、だからといってあなたが100%背負う必要はない」という姿勢で、ストレスが誰か一人だけに行かないように出来たらと考えています。また、どれだけ自分からその演じているものを離せるか、という、憑依させる方向ではなく、どれだけ離して意識できるかということもやっています。つらいことはつらいので本当に手探りです。
加藤さん) そうですよね。どんなに自分の意思でやったとしても、深く刻まれてしまうものはあるだろうと思っていて、それを第三者に相談したり、俯瞰的にみんなで負担を分かち合ったりしながらやっていくというように、私も気をつけたいと思いました。ありがとうございます。
升味さん) ケアやサポートを行う側の人たちもケアされるべきだと思っています。現実的には難しいことも多いというのもわかりますが、継続的にそれを続けていくには、支援する側がまず安心安全でいてほしいと思うし、そんなに大きなリスクを背負わないでほしいと思っています。
加藤さんたちの本をつくるプロジェクトの話、すごくいいなと思っています。これも、自分のことを俯瞰して整理して、ちゃんと言葉にして、本にするということで、本を作る側・読む側双方の体験がいいものだと思うので。しかも、物として存在することによって、今まで聴かれてこなかった自分たちの声や、自分たちの存在が重さのあるものになって出てくるというのもいいと思いました。
演劇や本、文章で表現をするということはイコール、自分の声や姿を誰かに見てもらうことでもあるので、素晴らしいなと思いながら聴いていました。
加藤さん) 本当にいろんな表現の方法があるなと、今日この時間だけでも学びました。ありがとうございます。
違いを認知せず、背後にある痛みや困窮に目を向けず、「差別しない」と同一視することは、存在を「透明化」するだけで関係改善に進まない
参加者) 皆さんの活動が、いないことにされている人たちにきちんと光を当てていて、日本の社会課題は言い尽くせないほどありますが諦めてはいけないと改めて思いました。そういった課題を見ないで済む人たちがそうしているわけです。若者にアンケートを取った学者が危機意識をもっておられたのですが、「私は差別をしない、みんな同じ人間だから。それでいいんでしょ」という若者たちがこの頃いて、そこから話が進まないのだそうです。
一つ質問があります。私も市民活動をしていますが、メンバーが50代から70代なのです。若い人たちとつながることが課題です。今日は大学生チューターから反貧困ネットワークに入った加藤さんの眩しさを見て、加藤さん自身がチューターに入られたきっかけや、大学生の方々にどんなアプローチをしてチューターのグループを作っているのか教えていただけますか。

加藤さん) 私と同世代で活動している人は多くはありません。ただ、この入管法(出入国管理及び難民認定法)改定の時は、国会前での集まりは学生主体でやっていたのもあって、そこから私も影響を受けています。私自身がチューターを始めたのには、今回のプロジェクトが立ち上がる段階で反貧困ネットワークにボランティアに行っていて、それ以前からも日本で暮らす難民の子どもたちの学習支援をやっていたので、このプロジェクトの当初からチューターとして関わらせていただいたという経緯があります。
他のチューターは、最初から仮放免・入管・難民等について精力的に活動をしていた人も数名いますが、このプロジェクトの中心で活動している大学の先生たちが学生に呼びかけたりして集まった学生たちが、さらに自分のつながりで他の学生たちを引き入れてやっています。ただ、大学生は活動できる期間が短く、就活や卒業で辞めてしまう人がほとんどなので、常に新陳代謝をしながらやっているのが現状です。
そういった中で、どのように若い世代が就職を乗り越えた先もずっと活動を続けられる土壌があるかが私としては大事で、自分自身の生活も精一杯の中で活動を続けていける、生計を立てながら活動ができる場が必要だと思っております。
升味さん) 私たちの活動もそういう面はあります。上演のアフタートークにフェミニズム研究の大学教授に来ていただいた時は、そのゼミ生がたくさんいらっしゃって、客席に若い人がすごく増えた印象がありました。だから、アフタートークのゲストには、新しい若い世代にもコミットできる方をお呼びするというのも大事なことだと思っています。あと、上演する演劇のチラシなどビジュアル面を頑張ってもいます。とにかく入口を大きく持ちたいと思っています。
もう一つの点については、「差別をしないからいいでしょ」といった言葉を私もよく聞きます。自分の作品の中でも書いたことがあるけど、「別に同性愛とか気にしないよ」とか、「別に国籍どこでもよくない」と言われることについて考えることがよくあります。それは結局、「透明化」なのです。そこにどういう苦しみや困窮があるのかなどを一切見ないで「同じ人間だよね」というのでは何も前に進まないと私も思います。しかも、それらは「フラットな見方」で良いことだと思われていて、そこに自己責任論も入ってきて、嫌な流れだと感じております。
相互支援の網 公共機関と市民活動の対等な関係からつくっていく
土屋真美子さん) これからは「苦しい」とか「助けて」と言える社会を作る必要があるというお話がプレゼンターのみなさんのお話からありましたね。緊急対応に協力してくれる書店や居酒屋が増えてきているという話もあって、希望だなと思います。
以前は、地域の助け合いが結構あって、一回踏み外しても、「あそこの息子はしょうがないから、うちで雇ってやるか」とかいう商店のオヤジがいたりしたわけです。そういう相互支援の社会がありましたが、それが今はほとんど無くなって、これから同じようなものを再構築していくのかというところですね。
そういった支援を行政が丸投げしてくるという話も出ました。NPOなどが何とかしようとする動きは様々あるけれども。私も昨日たまたま行政に行ったら、「行政は今、お金がありません。だから市民がやるしかないんです」と平気で言うわけです。
社会がすごく複雑になっている中で、皆さんも多方面とバランスを取るのに悩んでいらっしゃるのではないかと思いますが、お聞かせいただけますか。
トイミッケ・佐々木大志郎さん) 非常に難しい話で、確かに昔は、助け合い社会みたいなところがあったと思うけれど、実はそれはハラスメントと表裏一体なところがあって、声をかけるということは口を出すということなので、どこまで踏み込んで良いのかが難しいところだと思っています。その点、大都市は良くも悪くもそこまでは踏み込まないところが田舎と違っていて、だから田舎から東京に追われてきた人もたくさんいらっしゃるという現実があります。
とはいえ、みんなバラバラになったままで誰も助けないというのも問題で、新しく何等かの公共の網をみんなで組み直すにはどうしたら良いかは、枠組みのデザインがすごく難しいと思っています。私としては、一見すると IT 風のサービスのレイヤーを一枚かませて、実はやっていることは泥臭い助け合いであるという仕組みを大事にしています。でも、あまり外にそういったことをアピールしていなくて、言い方は難しいと思っているところです。
実際問題として、今やっている「せかいビバーク」や緊急支援にも、社協や福祉事務所から流れてくる方もかなりいらっしゃいます。3年間やってきたので福祉関係者は私たちの支援活動を分かっているので。例えば、福祉事務所に緊急の居住困難者が夕方に来ても、お役所なので金庫を開けられずお金を出せないので、「せかいビバーク」に投げられることがあります。我々は対応が柔軟なので可能なことはやりますけど、必ず翌日に連絡を福祉事務所にしています。「お金を使いましたからよろしくお願いしますね」みたいに。そうやって、行政とも敵対関係ではなく、しかも上下関係ではない対等な関係をつくって地道にやっています。
塩田さん) 行政にお金がないのは、刑務所が正にそうですね。刑務所に冷暖房が無いのはお金が無いせいです。以前は冬に凍死する方が本当にいて、今は相当に気をつけていると思いますけど、やはり刑務所は、夏は暑いし冬は寒いです。そこに予算をつけることに対しては、国民の反発を招かないように気を遣っているので非常に慎重です。法務省自体は、大きな権力を持っている省庁のはずなのに予算はつかないのです。
いま全国の刑務所では、災害の時の避難所として地域で活用してもらう活動が始まっています。以前は迷惑施設と言われたりマイナスのイメージが強かったりしたのですが、地域の人と繋がろうとした時に、“防災”がきっかけになっているようです。
私が先ほどお話した中で、高齢の受刑者が集まって合唱している場面がありましたが、刑務所受刑者の高齢化で、足が不自由な方は車椅子で移動するのでスロープをつけたり、リハビリや筋トレの器具を備えたりするところには徐々に予算がつくようになってきたところです。ただ、私たちの活動には国からお金は全く出ていないので、助成金をいただいてありがたい限りです。
土屋さん) みなさん、ありがとうございました。そろそろ終了の時間になっておりますので、最後にプレゼンターのみなさんから一言ずついただいて締めたいと思います。
升味さん) すごく勇気をもらえる会だったなと思いました。こういう活動をしてくださる方がいるということと、こういう活動を支援してくださる方がいるということが、すごく尊いことだなと思いながらお話を聞いていました。皆様の活動にもぜひ関わりたいと思いますし、我々の活動でも何かご協力できることがあればと思いますので、いろんなことで協働できたらと思います。本当にありがとうございました。
加藤さん) 今日、いろんな現場で活動されている皆さんと出会えたことが私にとって大きな糧でした。ここでつながって活動していきたいと思うのは、今の社会で強い排他的な言説や差別に対して私たちだけでは太刀打ちができないと普段から思っているからです。関わっている人たちも当事者も頑張って声を上げるけれども、それが上から押しつぶされてしまうという中で、ここにいる皆さんと手を取り取り合うネットワークで、差別や排他的なものに対抗していくんだと。私たちは連帯と寛容、助け合いで市民社会を力強くつくっていくんだと、皆さんと一緒に確認できて嬉しいなと思っております。ありがとうございました
佐々木さん) 特にコロナ以降は、NPOも含めてみんなの連携がすごく強くなって、電話で連絡し合ったり、いろいろなリソースを融通し合ったりする形になっています。かなり“公共”が弱くなっている中で、私たちも何かできることをやっていかなければというのは事実としてあるので、引き続きいろんな連携をして諸々やっていければと思っていますので、どうか引き続き応援よろしくお願いいたします。
塩田さん) 今日お話しした皆さんとコラボレーションができそうな予感がいたしますので、つながっていければと思います。ありがとうございます。
――閉会挨拶(佐々木貴子さん・SJF運営委員)――
今日は、社会の構造的な課題を、助成先の4団体それぞれが可視化するために、そしてその解決のためにすごく頑張ってくださっていることをとても身近に感じました。何か連携の幅がすごく広がっていく予感がしてワクワクしています。
社会課題を解決する仕組みを制度や政策に落とし込むことは大きな目的として持ちながら、まずは市民の力をまとめて大きな声にしていく、世論にしていくという流れをつくることにも取り組んでおられるのは希望です。

そういったことを今日お話しいただいた 4団体だけでなく、これ以前に助成させていただいた他の団体とも連携できると確信しました。皆さんと一緒に頑張って、この活動を前に進めていきたいと思いました。本当に今日はありがとうございました。■
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