ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第13回助成中間1次報告
きりしまにほんごきょうしつ(2025年6月)
◆助成事業名・事業目的:
「外国籍住民への日本語教育等支援を通したエンパワーメント・地域の受け入れ体制の基盤作り事業」
霧島市に転入する外国籍住民が新たな生活の滑り出しをスムーズにすること。外国籍住民の能力が正しく発揮され、周囲に理解されるために必要な日本語力を習得すること。日本語教室を通して地域住民とのつながりを生むこと。多文化共生社会の必要性を訴え、啓発するイベントを実施することで、外国籍住民への偏見や差別を見直す機会を提供する。
◆助成金額 : 100万円
◆助成事業期間 : 2025年1月~26年12月
◆報告時点までに実施した事業の内容:
- 生活オリエンテーションの実施
市役所との出前講座担当者等の調整、会場確保のための後援申請が難航し、即時開催が難しいことがわかった。そのため、小学校入学を控えた家族向けの説明会を生活オリエンテーションの1つとして計画して、先んじて実施した。(2024年2月24日)各小学校で配布された様式などを持参してもらい、一緒に記入したり、予防接種や学校の仕組みの多言語版翻訳を準備したり、実際の就学準備品を掲示することで理解しやすいよう工夫した。
当初の予定では市役所職員と連携した生活オリエンテーションを開催することを計画していたが、後援申請が難航し、会場が確保できない、出前講座の依頼が出せない、各所で調整ができないという負のループに陥り開催が大幅に遅れている。そこで、現在では当団体スタッフが説明・プレゼン資料等を作成し、相違がないかの確認を市役所職員等にしてもらい、スタッフがやさしい日本語で実施することとした。
また、本格的な実施が先延ばしになっているため、別で行っている日本語教室で災害やごみの分別に関するオリエンテーションの模擬授業を行い、情報の過不足や時間配分について検討を行っている。
- 小中学校や公民館を活用した日本語教室の開催
助成が決定してから、電話や書面の送付、訪問などを通して外国籍児童への日本語教育支援について説明してきたが、公教育の枠組みでの開催のハードルの高さにぶつかるばかりだった。
それと同時に日本語教室の後援申請がうまくいかず、会場の確保が難航した。とにかく着手できることは何かと検討し、外国籍児童の保護者や家族への日本語教室を先行して開始した。(4月11日から毎週金曜日)現在は、アメリカ、オーストラリア、ネパール、中国出身の参加者がいる。滞在年数はバラバラだが、日本語習得への意欲も高く、授業への積極的な関わりを感じている。また、「一人で受けることが不安」と日本人家族と共に受ける受講生もおり、日本人家族から生活上の困難な場面や苦労を聞く機会にもなっており、情報を得る非常に助かっている。また、日本人家族や他の同じような境遇の受講生ともふれあうことで、安心感を得ているように感じている。
日本語教師だけでなく、一般のボランティアの参加もあり、日本語を支援したいと考えている人が関われる場を提供できる良い場所になっていると感じている。
6月10日に霧島市天降川小学校で在籍するアフガニスタン児童への日本語教育支援に関して、担任教諭と打ち合わせを行った。6月30日から週1回日本語教室を開催することになった。(児童のレベルに応じて変化の可能性あり)
また、隼人姫城地区公民館で未就学児も含めた日本語教室を7月12日から月2回程度を目安に実施する予定である。
小学校や幼稚園での日本語教室の開催にはかなり難色を示されていて、校内で実施にこぎつけるのが非常に難しいことがわかったが、天降川小学校のように積極的に関わってくれる存在をきっかけに、その障壁を取り払えるように、今後、日本語教室の様子を発信する、他の都道府県の取り組みなどをまとめた資料などを作成して配布するなどのアプローチが必要であると考える。
担任教諭や教頭、校長らのヒアリングからも、「加配される特別支援員だけでは対応が不可能であり、霧島市でも外国籍児童への日本語教育支援が必要である、教育委員会にも動いてもらいたい、体制化を図ってほしい」という意見が聞かれ、現場の声をどのようにして教育委員会へ届けていくかを検討しなければならないと感じている。
- 多文化共生をテーマにした地域への発信イベント
未実施、「今後の事業予定」欄に詳細を記載しましたので、重複を避けようと思います。
◆今後の事業予定:
- 生活オリエンテーションと就学前オリエンテーション
現在、霧島市保健センターとの交渉と連携が進んでおり、必要に応じて出産・周産期オリエンテーションや就園オリエンテーションの実施の必要性を判断して、臨機応変に対応したいと考えている。
- 小中学校や幼稚園、公民館を活用した日本語教室の開催
児童対象:天降川小学校(週1回)、隼人姫城地区公民館(月2回)、国分公民館(月1回)
保護者・家族対象:国分公民館(週1回)
を定期的に実施していく予定である。
ただ、頻度が上がると日本語教師とボランティア謝金への予算の関係上難しくなるので、予算をうまく按分しながら、霧島市が予算化するような働きかけをする必要がある。
- 多文化共生をテーマにした情報発信イベント
現在、単独での開催か、別団体のイベントとコラボして行うかなどを検討している。別団体とのコラボで「あそび・まなび体験」を子どもに提供する予定があるため、そのイベントで実施するか、使用できる機材や規模や集客を現在検討している。
また8月に当団体の別のイベントもあり(多言語絵本の読み聞かせと多言語の絵本の霧島市への寄贈式)その会場での前半・後半を活用して実施することも検討している。会場費が予算を超える可能性があり、霧島市の後援の可否で実施が決まる予定である。(後援がつくと会場費が半額になるため)
◆助成事業の目的と照らし合わせた効果・課題と展望:
【Ⅰ】次の5つの評価軸それぞれについて、当事業において当てはまる具体的事例。あるいは、当てはまる事が現時点では無い場合、その点を今後の課題として具体的にどのように考えるか。
(1)当事者主体の徹底した確保
昨年度9名で構成されていた当団体スタッフが介護や高齢を理由に脱退したが、活動や講座で関わりのあったボランティア7名が加入した。活動内容や意義の丁寧な説明や活動参加への敷居を下げることで20代から70代までの幅広いスタッフと共に活動している。
また、別の活動で日本語サポーター養成講座を実施し、そこから日本語教室のボランティアへ参加しているボランティアもおり、地域の課題をわかりやすく伝えることの必要性を感じている。
(2)法制度・社会変革への機動力
男女共同参画審議委員会での意見提案や市民活動報告などで提案はしているものの、大きな変化は得られていない。
霧島市議との勉強会を通して、多文化共生に関する一般質問につなぐことができたが、変革への道のりは遠く感じた。
今後は、市議や市長との対談の機会が得られないか考えたい。
(3)社会における認知度の向上力
小学校や幼稚園への訪問やチラシの配布を通して、直接話し合ったり、問題をヒアリングしたりすることができている。しかし、日本語支援の実施には当団体が公的機関ではないという大きな壁があり、現場での意見以上に教育委員会や霧島市など上層部との交渉や許可が必要になることがわかった。今後、教育委員会との話し合い等を進めていきたい。
(4)ステークホルダーとの関係構築力(相反する立場をとる利害関係者との関係性を良好に築いたり保持したりする力)
霧島市国際交流協会や鹿児島県国際交流協会との連携は引き続き取れている。当団体の活動へのヘイトも現時点では寄せられていない。しかし、当団体の活動を「国際交流(ウクライナの戦争や一時的な滞在・観光)」のようなものと認識して、対岸の火事のような言葉をかける人達と接することがあったので、「生活者として過ごす外国人」の存在や彼らが霧島市で貢献していることを広く伝える手段を考えることが大切だと感じた。
(5)持続力
本事業の最大の難所はこの持続力である。日本語教師やボランティアへの謝金の支払いや会場費が支出のほとんどを占める。これらを受講料等を徴収して、公的支援なしに行うことはほぼ不可能であり、本助成を受けている間にいかに実績を作り、その必要性を提示できるかが重要であると考えている。
【Ⅱ】Ⅰの評価軸はいずれも、強化するには連携力が潜在的に重要であり、その一助として次の項目について考察。
(1)当事業が取り組む社会的課題の根底にある社会的要因/背景(根本課題)は何だと考えるか。
施策を策定・実行する立場として、マイノリティへの支援や施策の後回し、予算がない、人員がない、前例がないことからの新規案のボトムアップの難しさを感じた。活動を通して、霧島市の職員や保健師等現場で働く職員らと話し合う機会も増え、内部での声を感じ取ることができた。
市民としては、まだまだ問題認識の低さ、外国人を身近に考えることもない現状があると感じている。
本助成の対象ではないが、日本人向けの講座(日本語サポーター養成講座)を開催しているが、国際交流協会による広報のため、国際交流に興味がある積極的にアプローチしている人しか参加できていない。公民館講座などで広く住民に対して実施したいと社会教育課にも交渉したが、「講座の開催や講師の選定は住民の声を反映して社会教育課が判断するので、加味できない」と言われたり、日本語サポーター養成講座のチラシを各小学校に掲示をしてほしいと学校教育課に交渉しに行った後日、委託元である国際交流協会に対して「正式な手続き(市役所の課内での稟議等)をした上での依頼ならわかるが、委託先の講師が持ってくるのはいかがなものか」という不満を言ったうえで「ひとつの講座だけそのような対応をすることはできない」と突っぱねられた経験がある。本来ならば、市の予算でやるものは、広く市民に周知され、多くの人が参加できるよう課の枠を超えて協力し合うことが必要だと思うが、「垣根を超えてくるな!」という圧力が非常に強い。
また、今回、市役所や関連施設の職員の方々と外国籍住民の問題について話し合うことができた中でも、職員らから「新しくこんなことをしたらどうですか、こんな問題に対応するこんな案はどうですかと上げても上げても却下するばかりで、向上する心をとことん折ってくる。そんなことをされるうちに誰も新規案を出さないようになる」という本音を漏らす場面もあった。
私もたびたび交渉するごとに「予算がない、人員がない、前例がない」の3つをぐるぐると展開され、難色を示されることが多かった。
体質的にボトムアップが非常に難しい傾向があるが、逆にトップダウンには従うので、やはり市の方針や施策として定められなければならないと痛感している。多文化共生推進プランを策定する準備に入るそうなので、その委員会に入り込み外国籍住民の抱える多岐の問題を提示できるよう、現場の声を集約していきたいと考えている。
(2)その根本課題の解決にどのように貢献できそうだと考えるか。
丁寧に活動の説明や提案を続けていくうちに、本事業とは別ではあるが外国人支援に関わる職員のための講座の実施が決まったり、ボランティアが集まってきている。地域からの視点と大きな変革のための視点の2つを同時に進めていく必要性を感じている。(1)にも記載したが、市の方針決定に関われるよう、団体の活動と外国籍住民の現状や気持ちを集約する、私自身の知識と技術を向上させ、県内に留まらず先見事例の地域とのネットワーク作りなど、学びを続けることだと考えている。また、それを還元できる場を設け、それをアドボカシーカフェに活かしたい。
(3)そのような貢献にむけて、どのような活動との協力/連携が有効だと考えるか。
現在、生活オリエンテーションとは別に、食の面から多様なニーズを持つ外国籍住民のための情報提供に向けて商店等へアプローチを進めている。また第一工科大学の留学生(ヒンドゥー教)の協力を得て、ネパール語に訳したり、どんな情報提供が必要か検討している。
霧島市に4月に開校した日本語学校とも連携して、同国出身の日本語教室受講生による「日本での就労のためのアドバイス、日本語学習や日本のマナーについての注意点」とプレゼンする機会を得た。このように、同国や似た文化背景を持つ先輩としての外国籍住民がつながり、安全で安心した生活を送れるように基礎を築く重要性を感じている。
日本語教室の開催から、その参加者が生活オリエンテーションの通訳として活躍できる場を作るという広がりもできており、この循環は非常に有用だと感じている。■