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ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第12回助成中間3次報告

ふぁみいろネットワーク(2025年6月)

助成事業名・事業目的

精子提供・卵子提供・代理懐胎で家族形成を行う当事者の経験から生殖技術の社会的公正を考える

 精子提供・卵子提供・代理懐胎は、これを用いて親になる者と、生まれる子やドナー・代理母の権利の対立が常に問題となってきた。助成事業は、不妊症や高齢、他疾患の闘病、LGBTQ、非婚など、多様な事情を抱えてこの技術に頼る当事者の手記の編纂プロジェクトを主軸とする。この手記集を当事者や一般市民対象のワークショップでの対話の土台とすることで、生殖技術をめぐる社会的公正の実現を目指したい。

 

助成金額 : 100万円 

助成事業期間 : 2024年1月~25年12月

報告時点までに実施した事業の内容(主に前回の報告時24年7月以降について) 

(A) 当事者手記:2024年秋から、当団体のLINEオープンチャット(当時の参加者442名)内で手記原稿の募集を開始。現在までに、合計18名(無精子症男性2名、無精子症パートナー女性3名、FTM男性1名、FTMパートナー女性1名、女性カップル1名、選択的シングル女性3名、卵子提供を受けた女性3名、卵子提供と代理懐胎を依頼した女性2名、卵子ドナー2名)の原稿が寄せられた。
約4万字の超大作や、著者に対する読者の批判が懸念される作品もあり、編集方針が悩ましい際にはSJFに適宜相談している。著者や読者、その他のデリケートな立場にある人々を傷つけることのない、社会的公正に配慮した手記集にしたい。現時点で、8作品を先行収録したPDFがほぼ完成し、執筆者の最終確認を待つのみとなっている。2025年7月13日に、この先行公開版をもとにワークショップを実施予定。残りの手記も、10月末までの完成を目指し編集作業を進行中。

(B) 教材

 教材①「精子提供を受けた事実を子に告知した親に対する当団体調査」を公開済み(https://famiiro-network.org/aid-family-survey-2023/)。
教材②「研究からわかる 第三者が関わる生殖医療/研究から見える 子育てのヒント ハンドブック」をスマホ版と印刷版の二つの形態で公開済み(https://famiiro-network.org/news-20250415/)。

(C) 当事者向けワークショップ:2025年2月2日に教材②の暫定版を題材とするワークショップを実施した。参加者からは、「これまで情報がなかったことで不安が多かった。」「代理母になる人のストーリーや動機を知ることで、依頼者側の気持ちが楽になる。」「遺伝的な繋がりの有無と親子関係の良好さの間に相関関係がないと、エビデンスを知れてよかった。治療自体が悪だという考えに対する答えにもなる。」などの意見が寄せられた。また、教材②への要望として、「今回紹介された論文のDOI(書誌情報のデジタルオブジェクト識別子)を明記して簡単にアクセスできるようにしてほしい」等の改善案が出され、Webでの一般公開前に対応した。
当事者のリテラシーは様々であり、中には専門文献を渉猟する勉強熱心な人々も一定数存在する。誰にでも読みやすい教材を入り口にして、学習用の参考文献リストを充実させる重要性が改めて明らかになった。

(D) 一般向けワークショップ:2024年に①大学生400名、②多国籍の留学生12名に対する出張授業を実施した。

 

ネットワーキング、対話、アドボカシー

「特定生殖補助医療法案」に関して、記者会見を合計3回実施(於:日本外国特派員協会、参議院議員会館、厚生労働省)したほか、新聞・テレビ等の主要メディアの取材に対応した。また、衆参両議員会館を計16回訪問し、与野党議員への陳情や「作戦会議」を実施した。この間、他団体との連携が急速に強化され、最終的に「特定生殖補助医療法案の修正を求める会」の発足に繋がった(後述)。「求める会」として実施した緊急オンラインイベントは約580名が視聴するなど、社会の関心の高まりも実感できた。同会のオンライン署名は9,923人の賛同を得て、同法案の廃案の報道を受けて「署名活動成功」の宣言が出された。
 一連の活動やその報道を通して社会的認知が向上した結果、消費者被害の救済と予防を目的とする季刊誌『消費者法ニュース』から原稿執筆の依頼があった。原稿は同誌の2025年4月号に「特定生殖補助医療法案の問題点」の題で掲載された(https://clnn.org/cln/36058)。

 

今後の予定:

 2025年10月末までに手記全体の編集作業を終えて完全版の刊行を目指す。執筆者に原稿料を支払い、予算に余裕があれば紙版を印刷して執筆者やワークショップ参加者に配布予定。電子版は電子書籍としての頒布を検討中。

(C) 当事者向けワークショップ:2025年7月13日に、手記の先行公開版(8作品を収録)を当事者同士で読むワークショップを実施予定。10月に完全版が完成したら、11月以降に再度、同様のワークショップを実施予定。多様でリアルな当事者の語りに触れて思うことなどを互いに共有し、当事者のアドボカシーとエンパワメントを目指す。

(D)一般向けワークショップ:すでに開催した大学生対象のワークショップが有意義で学生の反応も良かったため、手記刊行後に再度実施予定。

 

助成事業の目的と照らし合わせた効果・課題と展望:   

【Ⅰ】次の5つの評価軸それぞれについて、当事業において当てはまる具体的事例。あるいは、当てはまる事が現時点では無い場合、その点を今後の課題として具体的にどのように考えるか。

(1)当事者主体の徹底した確保

 助成事業に関する意思決定や外部との交渉は、当事者メンバーが主体となり、研究者メンバーとの協働のもとで遂行した。

 助成事業の成果物(教材②)は一般公開前に当事者対象のワークショップで供覧し、フィードバックを受けて、最終公開物に反映させた。

(2)法制度・社会変革への機動力

 2025年の通常国会で参議院に提出された「特定生殖補助医療法案」については、生まれる子どもの出自を知る権利が認められていないこと、治療を受けられる対象者が婚姻夫婦に限定されていること、違反者個人に国外犯規定を含む刑事罰が科されることなど、様々な問題点をはらんでいた。
 これに対し、当事者団体として記者会見を3回実施したほか、国会議員や地方議会議員への度重なる陳情を行い、その際に助成事業の教材②を議員に提出して活用した。一連のアドボカシー活動は一定の効果を発揮し、今国会では廃案に導くことに成功した。
 ただし、第三者が関わる生殖補助医療に関する法律が不在の状況は望ましくないとの意見は、当事者内部からも出ている。この医療で親になる者、ドナー、代理母、生まれる子どもなど、関係するすべての人々の尊厳が守られる法制度の構築に向けて、引き続き国政や専門家や社会全般に当事者の声を届けたい。

(3)社会における認知度の向上力

 上述の法案対応の一環で実施した3回の記者会見は、地上波やネット記事で報道され、賛否さまざまな反響があった。他団体との協働で実施した緊急オンライン集会は、視聴上限数を上回る視聴があり、注目が高かった。法案対応を契機として、これまで接点のなかった界隈でも注目されるようになり、季刊誌『消費者法ニュース』から寄稿依頼があった。引き続き、社会における認知度の向上に努めたい。

(4)ステークホルダーとの関係構築力(相反する立場をとる利害関係者との関係性を良好に築いたり保持したりする力)

 法案対応の過程で、異なる立場のステークホルダーと協働して「特定生殖補助医療法案の修正を求める会」を結成した。この会には、精子提供で生まれた子ども側の当事者、同性婚訴訟当事者、選択的夫婦別姓を求める事実婚当事者などの多様な人々が参画し、法制度のあり方に関して活発な議論を行いつつ、社会への提言活動を展開した。

(5)持続力

 オンラインコミュニティ参加者数は2024年6月13日の364名→12月5日の442名→2025年6月19日の561名と増加中であり、日々活発な投稿で賑わっている。助成事業や法案対応と並行して、ピアサポートのイベント(ふぁみいろ会、親子会)も定期開催しており、活動の持続力は高い。

 

【Ⅱ】Ⅰの評価軸はいずれも、強化するには連携力が潜在的に重要であり、その一助として次の項目を考える。

(1)当事業が取り組む社会的課題の根底にある社会的要因/背景(根本課題)は何だと考えるか。

専門家や政策決定者の偏見とパターナリズムが根強い。法案の起草過程でも、当事者の訴えは形だけのヒアリングを経てことごとく無視し、当事者に対する罰則規定の整備や、未成年の子およびその養育者に対するドナー情報のアクセス制限の徹底など、権利を制限する方向にのみ意欲的である。

・社会一般の人々の情報不足と、メディア等が提供する情報の偏り、エンターテイメントの題材としてのセンセーショナルな消費も大きな問題。

(2)その根本課題の解決にどのように貢献できそうだと考えるか。

・当事者の手記の刊行や一般向けワークショップ、教材の作成と頒布を通して、情報提供と対話機会の創出を行う。

・専門家(医療職・心理職・福祉職、多領域の学術研究者、政策決定者、法律家など)とのネットワーキングによる当事者アドボカシー活動。

(3)そのような貢献にむけて、どのような活動との協力/連携が有効だと考えるか。

・この技術で生まれる子の権利の擁護活動(子側の立場に立つDonor Link Japanや子どもの権利団体等との連携)。

・国内外のLGBTQ当事者団体やその研究者との連携。

・当事者の権利やDE&Iに関心を寄せる法律家との連携。

・医療機関等で当事者への(多分に抑圧的な)「教育」を担う専門職に対し、当事者の思いや、子どもとの日常生活で培われた当事者の知恵を届け、当事者の尊厳を守るうえでの信頼関係と協力関係を構築。  ■

 

 

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