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ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第13回助成中間報告

NPO法人リカバリー(2025年6月)

助成事業名・事業目的

「薬物依存女性を取り巻くスティグマの解消ならびに日本の薬物政策の見直しに向けたアドボカシー事業

 NPO法人リカバリー(以下、当法人)は、これまでの活動から得た課題感に基づき、下記の二つの目的を達成するためのアドボカシー活動に取り組む。

  1. 薬物依存女性を取り巻くスティグマの解消

「薬物依存×女性」というカテゴリはこれまで社会から見過ごされてきた存在である。まして、薬物事犯受刑者全体の1割足らずの女性たち(R5警視庁)の7割がDV被害経験を持ち、半数に自殺願望が存在する(R3犯罪白書)ことはほぼ知られていない。被害経験を持つ者として、本来ケアされるべき彼女たちを一方的に「犯罪者」と責める風潮は未だ根強い。これまでの活動や法務省との事業(後述)でこれを実感した当法人は、本事業を通じて強固に根付いたスティグマを溶かすことを目指す。

  1. 日本の薬物政策の見直し

 社会に残るスティグマとともに見直しが必要なのが、日本の薬物政策である。世界的には依存症は処罰ではなく治療や援助の対象とされている。厳しく処罰して薬物問題が解決した事例はない。国内における覚醒剤事犯の再犯者率は約68%(R5犯罪白書)であり、厳罰主義が効果をあげているとは言い難い。米国や豪州など、厳罰化からハームリダクション(刑罰ではなく薬物使用による傷付きを減らしていく手法)に舵を切る国は多い。また、違法薬物のみならず市販薬に依存する若年層が増加する傾向もあり、薬物依存を治療と援助の対象とする世界のスタンダードを日本でも実現することを目指す。

 

助成金額 : 100万円 

助成事業期間 : 2025年1月~26年12月

報告時点までに実施した事業の内容: 

1.2025年2月8日に成城大学にて「塀のなかと外はつながるのか?-女子刑務所モデル事業を振り返る」と題したシンポジウムを当法人の主催にて実施した。

以下当日のプログラムと登壇者。
第一部 女子依存症回復支援プログラムが問いかけたもの

大嶋栄子(NPO法人リカバリー代表)モデレーター

後藤弘子(千葉大学理事/副学長)

上岡陽江(ハームリダクション東京共同代表/NPO法人ダルク女性ハウス)

プログラム修了生(オンライン参加)

第二部 塀のなかと外をつなげる:課題と展望

熊谷晋一郎(東京大学先端科学技術研究センター教授)モデレーター

信田さよ子(原宿カウンセリングセンター顧問/日本公認心理師協会会長)

坂上香(ドキュメンタリー映画監督/NPO法人out of frame代表)

古藤吾郎(ハームリダクション東京共同代表、オンライン参加)

大嶋栄子(NPO法人リカバリー代表)

Kaida SJF

 当日は現地参加124名、オンライン参加341名の参加者を得た。

 また、後日アーカイブ配信をした動画(3週間限定)の視聴回数は、1,014回であった。

 当法人からは代表の大嶋の登壇に加え、2名のスタッフが運営に関わった。

Kaida SJF

 実施後のアンケートでは、

・ジェンダー問題や現在の刑事司法のありかたなど、背景にある様々な社会的な課題について考えるきっかけができた。

・女子依存症回復支援の仕組みや支援の具体的な内容を知ることができた。ハームリダクションの発想やトラウマの取り扱いなどもいちどきに学べたことが良かった。

・オンラインで参加したプログラム修了生の当事者の声が聴けたことがとても価値があった

 等の声が寄せられた。アンケートの回答者の内、7%は法務省関係(矯正局や保護局など)であり、本プログラムの目的に掲げる「3.法務省や国を対象としたアドボカシー」にもつながる結果となった。

 また、個別にも東京での新規事業に対する協力の申し出や、個別の支援相談などが寄せられた。

 

2.2025年5月30日~6月1日の3日間、英国エセックス大学人権センターフェローの藤田早苗さんをお迎えして、「世界から見た日本のヒューマンライツ」というテーマで講演会を実施した。

 当法人からは代表の大嶋が進行を行い、当団体のスタッフもスタッフ研修の形を取り、3日間で114名が参加した。

Kaida SJF

 本講演会の実施にあたっては弁護士、市会議員などのネットワークと連携し実行委員会を結成して実施した。また、講演会の後に藤田さんへのフィードバックと対話の機会も設定した。事業計画に記載した市民との対話、協力者とのネットワーク形成の意味でも札幌におけるつながりを深める嚆矢となったと考える。

 日本社会における人権意識の低さを問う藤田さんに対して、性加害の被害当事者であるがそれを被害経験として理解をしていなかったという参加者の声もあり、個人の問題が社会的な構造によってもたらされていることへの気づきが共有された。

 

今後の事業予定 : 

 アドボカシーカフェを2025年7月26日に開催予定。当法人のプログラム修了生である当事者の女性「ともさん」と「ゆかりさん」との対話を通じて、被虐体験のある女性たちの依存の課題とケアの視点について参加者とともに考える機会としたい。

 

 今後もこの分野のアドボカシーにとって重要な研究者、支援者、当事者などの講演者と共にイベントを企画することで、

  • イベントを通じた社会啓発活動
  • マスメディアへの露出
  • 法務省や国を対象としたアドボカシー

 を深めて行きたい。定期的なイベント開催ではなく、年に数回程度、キーとなる講演者の予定を優先して企画するものとする。

 

助成事業の目的と照らし合わせた効果・課題と展望:   

【Ⅰ】次の5つの評価軸それぞれについて、当事業において当てはまる具体的事例。あるいは、当てはまる事が現時点では無い場合、その点を今後の課題として具体的にどのように考えるか。

(1)当事者主体の徹底した確保

 2月のシンポジウムにおいてはオンラインで顔出しをしない形で当事者の声を直接届けることとした。藤田さんの講演に際しては、参加する当事者スタッフの課題意識を事前に底上げするために、ジャニーズ問題など身近に感じられる性加害事件を通じて身の回りからの人権意識の向上を意識した準備を実施した。

(2)法制度・社会変革への機動力

 アドボカシーを主とする団体との連携はまだ開始されていない。上述の通り、シンポジウムの参加者の内7%は法務省関係(矯正局や保護局など)であり、関係する行政機関への「種まき」はできたのではないか。また、法制度や社会変革に関して発言力のある女性犯罪研究会、日本刑法学会などで法人の取り組みを発表し、女性の薬物依存が犯罪ではなく、社会における適切なケアを受ける必要があることを知らせた。

(3)社会における認知度の向上力

 イベントを通じた対参加者、東京報道新聞での記事化を通じた対読者への発信について一定の成果があったと考えるが、今後はWebでの発信力向上について内部で団体HPでのコンテンツ強化等につき検討中。

(4)ステークホルダーとの関係構築力(相反する立場をとる利害関係者との関係性を良好に築いたり保持したりする力)

 当団体対法務省を中心とする行政機関というだけでなく、草の根の支援者・市民のネットワークの形成を通じて中長期的な成果につなげていきたいと考えている。東京で開始している間借りカフェの運営を通じて、多くの支援者との接点ができており、東京でのネットワークが強固になってきている。

(5)持続力

 過去には寄付者に賛助会員費を都度年次でお願いしていたが、活動の継続性を担保するため、本年5月からマンスリーサポーター制度を導入した。本格的に広報する前から10名以上の寄付者が登録してくれている。団体としての活動の持続可能性を高めていくために、新規寄付者の獲得、既存寄付者との丁寧なコミュニケーションを目指した施策を実施していきたい。

 

【Ⅱ】Ⅰの評価軸はいずれも、強化するには連携力が潜在的に重要であり、その一助として次の項目を考える。

(1)当事業が取り組む社会的課題の根底にある社会的要因/背景(根本課題)は何だと考えるか。

 日本の薬物政策の問題点は、「ダメ・ゼッタイ」の一点張りであるということである。複層的な困難を抱え、他に安心して依存できる先がなく、自分のために薬物を使用してしまった人々に対して、今の社会は極めて冷たく、無関心ですらある。その背景には、「薬物は一度使ったら終わりである」という大きな“常識”がある。

(2)その根本課題の解決にどのように貢献できそうだと考えるか。

 この”常識”を解きほぐしていくには、やはり社会対話しかない。自分がこれまで関わったことがなかった薬物依存者のくぐり抜けてきた「嵐」を知ったとき、市民社会の中に今の薬物政策への疑問が少しでも芽生えるのだとすれば、それはそこに制度改革の機運があることを意味する。そのような土壌を作ることができるよう社会対話を進めていく。

(3)そのような貢献にむけて、どのような活動との協力/連携が有効だと考えるか。

 依存症だけでなく様々な社会的困難を抱える女性たちの支援を行っている他の団体とのコンソーシアム形成が重要だと感じており、妊娠葛藤相談を行っている団体や、風俗で働く女性の支援を行っている団体などとのアライアンス強化を協議している。■

 

 

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