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ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第11回助成

明日少女隊(Tomorrow Girls Troop)
SJF助成事業最終報告(24年12月

 

助成事業名:『明日少女隊 個展  

 明日少女隊はこれまで、性犯罪の刑法改正、広辞苑の「フェミニズム」の定義の改訂、アート界のセクハラ、「慰安婦」をめぐる議論など、多岐にわたる日本のフェミニズムの課題について、アートとアクティビズムのプロジェクトを展開してきた。
 これまでの明日少女隊の過去の作品の展示を東京で開催し、日本の女性問題を広 く学べる場を提供する。
 日本と東アジアの若年層の女性や性的少数者に向けて、ジェンダー問題の啓蒙活動を行い、ジェンダー平等な世の中を目指す。具体的には、アート作品の制作と発表、マーチのオーガナイズ、署名運動、市民参加型のワークショップ等、アートやデザインの手法を取り入れて問題解決を目指すアクションを行う。

助成金額 : 300万円

助成事業期間 : 2023年1月~2024年12月 

実施した事業と内容:  

 2023年2月、日暮里の脱衣所~(a) place to be naked~というギャラリースペースでQueer Horizonというグループ展に参加。そこでアーティスト・フィルム「男女二元論を超えて」とトランスの権利に関するパフォーマンスで使用した3種類のプラカードを展示。映像は女性用と男性用の山道がある日本の山でのパフォーマンスを記録したものだ。トランスジェンダー・ノンバイナリー当事者のつくる・フォルスさんと共に、明日少女隊はどちらの道も選ばず、岩やシダ、生い茂る薮の中を歩き、「男坂」と「女坂」の間にある道を切り開く映像だ。この行為は抵抗の意志を表しており、男女二元論を押し付けるこの社会に疑問を持ち、生き残るため、そして未来を形作るために、新しい道を自ら生み出す姿を、パフォーマンスで表現。2023年2月16日には映画上映 + 討論会を実施。上映イベント「トランスについて学ぼう!」というレクチャー動画の上映と参加者との対談を行った。


 2023年7月21日から8月6日まで、東京の北千住にあるギャラリーBUoYにて、個展「We can do it!」を開催し、372名が来場した。個展では、ニュージャージー市立大学教授であり、美術史家の由本みどりさんをキュレーターに招き、個展開催と同時にアートダイバー社から出版した本も販売した。東京芸術大学でのレクチャーを、個展開催の直前にすることで、当初の目的だった、日本のクリエイティブ業界の若年層の女性を多く招くことができた。記録として個展内容を紹介する動画も作成した。
個展の会期と同時期にアートダイバー社からフェミニストアートの歴史を学べる明日少女隊の作品集『We Can Do It!』を出版。ASTA

 キュレーター・ライターの宮原ジェフリーさんが書いてくださった明日少女隊の個展レビューが月刊アートコレクターズで掲載された。今回の個展がきっかけで、アメリカの東海岸にある大学、University of Connecticut、Fashion Institute of Technology2校でのレクチャー、State University of New York SUNY Old Westbury、New Jersey City University2校でのレクチャーと個展が決定。キュレーションを手がけてくださった由本みどりさんが、アメリカ帰国後、知り合いのキュレーターに、東京での展示の様子などを報告してくださったためだ。
 個展に来ていたフランスのジャーナリストから慰安婦問題についてのパフォーマンスについて取材され、フランスの雑誌へ掲載された。

 2024年1月には文化研究者の山本浩貴さんがポリタスTV「アートと学ぶジェンダー#4 ジェンダーとインターセクショナリティ」で明日少女隊の活動の紹介をしていただいた。2月にはLoyola Marymount Univerity にて登壇。3月の世界女性デーにはロサンゼルスのアクティビズム団体AF3IRMが主催するグループ展”Keepers of memory”に出展。6月にはTBSでラジオやテレビでも活躍中のキニマンス塚本ニキさんにお声がけいただき、インターネットメディアとして発信するポリタスTVに出演。明日少女隊の活動の紹介や「レイプカルチャー」をテーマにトークを行った。

 2024年11月には2023年のTGTの個展を企画してくださったキュレーター由本みどりさんの取り計らいで、アメリカ東海岸ツアーを行った。メリーランド大学、ニューヨーク大学、ニューヨーク州立大学、コネチカット大学、ニュージャージー市立大学でレクチャーを行った。また、ニュージャージー市立大学とニューヨーク州立大学では、個展も行った。トランプ元大統領が再選したアメリカ大統領選挙の翌週というタイミングもあり、中絶問題を訴える写真作品を米国議事堂前で撮影し発表したと共に、現地の学生たちと連帯を深め、エンパワメントになるようなレクチャーと展示を試みた。ニュージャージー州フォートリーにある「慰安婦」の銅像の前でも写真と動画の撮影をした。(新作として2025年公開予定)

ASTA(フォートリーにて慰安婦記念碑と共に ©明日少女隊;Facebookより)

 

事業計画の達成度 

 申請当初に計画していた東京都でのフィロソフィー x 参加型アクティビズム x 教育 x アートの4部構成の個展を2023年7月に開催。また、同時期に作品集『We Can Do It!』を出版。その後も活動を続け、申請当初には計画していなかったアメリカ東海岸ツアーも開催することができた。

 

助成事業の成果:

 個展『We can do it!』では明日少女隊が過去9年間で制作してきた作品を展示し、日本の近年のフェミニズムが体系的に学べる空間を作った。372人もの来場者が集まり、ジェンダー問題について安全に話し合える空間「女子力カフェ」では明日少女隊メンバーがジェンダー規範やジェンダー差別に苦しんでいた人々と対話すことでエンパワーし合うことができた。また、「慰安婦」問題についての作品「忘却への抵抗」も展示し、戦時中の性暴力という社会構造や政治について来場者に考えてもらうことができた。マスメディアに多く呼びかけたため、今回の個展は普段はジェンダー問題にあまり積極的ではないアート系の媒体でもとりあげられた。それによって幅広い層にジェンダー問題について学んでもらうことができた。
 これらは「タブー視や無視してきた人たちに対する認識が変容していく」こと、「社会の仕組みや法制度を作る基盤づくり」や「権力や暴力が生じる背景構造が解きほぐされ」ることへの第一歩である。

 作品集『We Can Do It!』は若者を主なターゲットし、フェミニストアートの教科書となるよう、日本や世界のフェミニズムの流れを社会の動きとアート作品両方を通して学ぶことができる年表を作り、写真の多いカラー印刷でわかりやすさを第一優先にした。その結果、幅広い層に手に取ってもらい、フェミニズム・フェミニストアートに触れてもらうことでエンパワーすることができた。
 特に印象的なのが2024年に出展したロサンゼルスでのグループ展にて、声をかけてくださった日本人の方からいただいた作品集の感想だ。日本で育ち、現在アメリカで働く彼女は「明日少女隊は、今まで孤立していた私にやさしく手を差し伸べてくれて、本の中でいっしょに連帯しようよと呼びかけてくれているようだった。きっと私の他にもどこかで連帯したいと思っている人がいると思う。この本はそんな私たちの連帯の輪を繋いで大きくしてくれるという希望を持たせてくれる本だ。」と感想を述べてくださった。
 これは今まで彼女が感じていた社会問題に対する複雑な気持ちが、作品集を読むことで肯定され、よりよい社会づくりへの希望へと変わったという証だ。

 

助成事業の目的と照らし合わせ 効果・課題と展望   

【Ⅰ】次の5つの評価軸それぞれについて、当事業において当てはまる具体的事例を挙げた。あるいは、当てはまる事が現時点では無い場合、その点を今後の課題として具体的にどのように考えるかを記載。

(1)当事者主体の徹底した確保 

 若い女性や性的少数者がまだまだジェンダーの問題について語りにくい土壌があるため、日本の若い女性や性的少数者がジェンダー問題に声を上げることについての意義とリスクを十分理解してくださった方とのみ企画し、マイノリティーの声を潰さないようにした。
 今回個展を開催したギャラリーは、演劇関係の方々がよく利用する会場であったため、アート活動を行う人はもちろん、演劇関係の若いクリエイターの姿も見えた。また、東京芸術大学でのレクチャーの効果もあり、音楽活動を行う学生も多く訪れていた。アートのみならず様々な表現活動を行う若者、女性や、性的マイノリティーの表現者たちがクリエイティブ業界の性差別が深刻である現状に共通の問題意識を持ち、会場を訪れていた。
 会場には常に隊員が在中していたため、鑑賞者の多くは会場で日頃感じる違和感や差別の被害などを語っていたのが印象的だった。それは展覧会の会場がセーファースペースの役割を担えていたためではないかと思う。

(2)法制度・社会変革への機動力

 会場では訪れた鑑賞者に積極的にジェンダーギャップ指数パフォーマンスに参加してもらった。普段受け身な方でも自身でチョークを握り黒板に記入するという行為を通して、より日本の抱えるジェンダーギャップの問題を身近に捉えられる機会となった。
 刑法性犯罪、「慰安婦」問題、トランスジェンダーの問題などを訴える作品を展示することで、多くの鑑賞者にこれらの問題が独立した問題ではなく、通底した問題であることを意識させることで社会改革への機動力を与えた。

(3)社会における認知度の向上力 

 個展開催についてマスメディアに多く呼びかけ、普段はジェンダー問題にあまり積極的ではないアート系の媒体やインターネットメディアのポリタスTVにも取り上げられた。また、フェミニストアートの入門書となるような作品集を出版したことで、今後フェミニズムやフェミニストアートに興味を持った人が明日少女隊の作品や活動に触れる可能性を大幅に広げることができた。

(4)ステークホルダーとの関係構築力(相反する立場をとる利害関係者との関係性を良好に築いたり保持したりする力)

 「慰安婦」問題に関する作品の展示もあり、当初は右翼の攻撃を心配していたが、そのような攻撃はなく無事に展覧会を終了できた。個展終了後は、ジェンダーをはじめとするあらゆる差別・暴力をなくすため活動を行っているちゃぶ台返し女子アクションから2024年3月に同団体が出版した「性のモヤモヤをひっくり返す!: ジェンダー・権利・性的同意26のワーク」の献本をいただいたり、「インターセクショナリティ・ガイドライン(仮)」制作のためのインタビュー依頼があるなど、良好な関係性を築けている。

(5)持続力 

 既存メンバーは引き続き活動を継続している中、個展をきっかけに2人の新しい隊員の入隊があった。それぞれの隊員は積極的に活動に参加してくれており、これまで人手が足りず滞っていた明日少女隊HPの更新やデザインの見直しを行うことができた。活動に関わる隊員には、その人の必要に応じた謝礼を渡し、生活が困窮することなく活動できるよう個別配慮した。チームワークで労働力をカバーし、どの隊員も無理させない活動を目指した。隊員内のセルフケアへの意識を高め、持続可能な活動を心がけた。

 

【Ⅱ】Ⅰの評価軸はいずれも、強化するには連携力が潜在的に重要であり、その一助として次の項目を考える。

(1)当事業が取り組む社会的課題の根底にある社会的要因/背景(根本課題)は何だと考えるか。

 アート業界も含むクリエイティブ業界は、まだまだ決定権を有する立場に女性や性的マイノリティや、あらゆるルーツを持つ人が少ないこと、美術の教育現場においても男性教員が圧倒的に多く、フェミニズムなどのテーマに嫌悪感を示す人も少なくないことから、学生がきちんと社会問題について学校などで学べる機会がほとんどない。その結果SNSなどで情報収集をし、誤った情報を鵜呑みにしてしまうこともしばしば起きている。日本で最も定評のある美術雑誌、『美術手帖』の調査では、同紙の過去 360 冊で 特集したアーティストのうち、女性はたったの7名だったという。2019 年のあいちトリエンナーレでは、芸術監督が出展作家を男女半々にすると提案をした際、 多くの反対の声があったという。 また、60 年代から続くフェミニスト・アートは、美術史を語る上で重要な存在だが、多くの日本の美術大学では教えていない。それどころか、日本では政治的なアートを嫌う風潮が強く、本来であれば、市民が社会問題を知る窓口を担えるはずの社会派アートが排除され続けている。

(2)その根本課題の解決にどのように貢献できそうだと考えるか。 

 日本の人権問題を伝える若いフェミニスト団体の作品が、日本国内で展示される機会は稀であり、明日少女隊の個展は、新聞や本などの情報が届きにくい若者に対し、アートを通して同世代同士の目線で、ジェンダー差別やレイシズムを考える場を提供することができた。また、今回出版した書籍はフェミニズムアートの入門書となるよう、若い世代が読めるような内容にすることを意識した。展覧会には、アートに関心はあるがジェンダーやフェミニズムはよくわからない、という方や、フェミニズムに関心はあるがアートには詳しくない方なども多くきており、様々な方向からクリエイティブ業界の不均衡について知ってもらう、考えるきっかけを与える場となった。SNSやHPなどでの定期的な活動報告は若者がフェミニズムについて知りたいと思った時の、情報原として貢献できる。

(3)他団体と連携したプロジェクトのアイディア、あるいは具体的な構想、あるいは希望などはあるか。

 助成を受けてからの数年は、日米の大学との連携を密に行った。実施事業と内容に、これまで連携してきた大学名をリストしてある。 私たちのターゲット層が、ちょうど大学生の世代と重なることから、大学と連携をすることで、大きなインパクトを残すことができた。今後も大学との連携は続けていくつもりである。■

 

 

 

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