ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第12回助成中間報告
特定非営利活動法人School Voice Project(2024年12月)
◆助成事業名・事業目的:
「インクルーシブ教育/学校DE&I推進のためのアドボカシー活動
〜マイノリティ当事者/支援者団体と教職員団体の対話・連帯を力に〜」
- 最終目的
すべての子どもが、日々安心してしあわせに学校に通い、必要なケアや支援を受けて楽しく学ぶことができる学校教育の実現。多様な子どもたちが、それぞれに自分らしく、混ざり合って学び育つことができる学校環境をつくること。
- 本事業の目的
①アドボカシー活動の社会的インパクトを中長期的に高める基盤として、インクルーシブ教育を共に推進していく当事者/支援者団体と教職員団体のネットワークを構築する。
②当事者/支援団体と学校現場の対話を通し、インクルーシブ教育/学校におけるDE&Iを推進するための施策を共同提言としてまとめ、具体化・整理・見える化する。
③広く社会に向けた発信と、文科省・教育委員会・議員等に向けたロビー活動を行い、政策形成・政策変更につなげること。
◆助成金額 : 100万円
◆助成事業期間 : 2年間(2024年1月~25年12月)
◆実施した事業の内容(主に前回の報告時以降=24年7月~):
①インクルーシブ教育・学校におけるDE&Iを共に推進していく当事者/支援者団体と教職員団体のプラットフォームが生まれる。
プラットフォームミーティングに参加してくれている団体の担当者間では少しずつ関係構築が進んでいる。「社会モデル発想」「子どもの参加」がインクルーシブな学校づくりの肝になるという点について共通了解が得られている。一方で、ロビイングを通して社会的インパクトを発揮する戦略については方向性の不一致もある(大雑把にまとめれば法律づくりなど大本になる理念・土台を固めたい派と、自治体向けに個別具体策を提案するなど小さくとも実をとっていくべき派)。A or Bではっきり結論を出すのではなく、両路線をともに走らせながら、ゆるやかなネットワークを広げていくのが良さそうだと考えている。
②インクルーシブ教育/学校におけるDE&Iを推進するための施策が共同提言としてまとまり、具体化・整理・見える化される。
①で記載した通り、提言書がまとまるというよりは、「法律案(余り書き込みすぎるとロビイングしづらくなるとの知見を得たため、シンプルなもの)」と「個別具体策(国・文科省向け、自治体・教育委員会向け)」を作成している。また、なぜその法律が必要なのか、なぜそれらの施策の優先度が高いのか、ということが分かりやすく伝わるような資料の作成も必要だという話になり、作成に取り掛かっている(現状の課題、提言の前提となる考え方、排除の現状、当事者の声などを整理して一眼で解るように記載したもの)。遅くとも3月には一旦まとまる予定である。
③課題別の政策(ex,日本語指導・母語/母文化保障体制の充実、障害を理由にした地域の公立学校への入学拒否の禁止、不要な男女分けをなくす通知、異性愛を前提とした教科書記載の撤廃等)が具現化される。それに向けた機運が高まる。
④基盤的な環境整備としての総合的/包括的な政策(ex,少人数学級の推進、スクールソーシャルワーカーの増員等)について、具体的なロードマップが敷かれるなど前進し、それに向けた機運が高まる。
③④については、まだ社会発信やロビイングを開始できていない。これからである。ロビイングについては、アポイントが取れそうな政治家、首長、教育長、教育委員会などのリストアップを開始している。社会発信としてはまずは年明け開始のクラウドファンディングにて話題を作りたいが、検討の結果、政策提言ではなく学校現場向けのプログラムを前に出すかたちにしたため、政策パッケージ(法律案+個別具体策)については別途話題作りの方策を考える必要がある。②の内容が固まった段階での記者会見や、プレスリリースをしてロビイングの様子を報道してもらうなどを検討中。
<以下、実施したこと>
- 内部MTG(マネジメントチーム、コアチーム、エンタク内)
・マネジメントチームのミーティングは概ね隔週で実施し、プラットフォームミーティングに向けた準備や行程管理などを行っている。
・コアチームミーティング(マネジメントチーム+担当理事)は適宜実施し、マネジメントチームで出た方向性の確認と修正を実施。
・SVPのオンラインコミュニティ「エンタク」内では、教職員の声を反映させるための「インクルーシブ教育しゃべり場」を実施(7月、11月に2回開催)
- プラットフォームミーティングの実施
第2回:6/22(土)10時-12時 ※対面 【不登校】
第3回:7/20(土)10時-12時【教員養成・研修】
第4回:8/17(土)10時-12時【学習/授業】
第5回:9/21(土)10時-12時【ルール・規範(学校文化)】
第6回:10/19(土)10時-16時 ※対面1DAY
第7回:11/16(土)10時-12時 新法&個別具体策の内容検討、今後の戦略
- 個別ヒアリング等
・金光敏さん
・崔さん(DPI日本会議)
・遠藤まめたさん(にじーず)
・前北海さん(多様な学びプロジェクト)
・斎藤洋一(ReBit)
・中川綾さん(長野県教育委員)
・寺脇研さん(元文科官僚)
- ガイドブック作成(進行中){Cf.書籍の出版}
学校教職員及び教育行政関係者に活用してもらうことを想定し、学校現場における排除の現状(マイノリティ当事者の声)、学校現場においてインクルーシブ教育を進めるための基盤となる考え方(社会モデル、子ども参加等)、具体的な事例などをまとめ始めている。
- その他
学校向けプログラムの実施予定(助成対象事業外): 100日間を1期としてオンラインコミュニティを基盤に連帯しながら各メンバーが自分の職場で「学校のインクルーシブ化」に取り組むプログラムを企画中。このプログラムと、本事業(政策提言活動)が両輪となるイメージ。クラウドファンディングはこちらを前に出しつつ、政策提言(本事業)の費用も集めるという立てつけになる。
◆今後の事業予定 :
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- 定例・継続:
毎月:プラットフォームミーティングを実施(オンライン・2時間)
適宜:オンラインコミュニティでの「インクルーシブ教育しゃべり場」 内部:School Voice Project 内コアチームmtg、マネジメントチームmtg
- 2024年 =「提言内容づくり」+「関係構築」がテーマ
12月:ガイドブック作成を進める(〜3月まで)
法律&提言整理+ロビイング用資料作成(〜3月まで)
- 2025年=「社会発信」+「影響力の発揮」+「つながりの継続」がテーマ
1月:クラウドファンディングスタート(〜4月頭まで)
アドバイザーや外部の方の助言・フィードバック(〜3月まで)
3月:法律&提言+ロビイング用資料完成 / ガイドブック完成
※賛同人・賛同団体の募集(〜以後随時)
4月/5月:記者会見もしくはPRイベントなど社会発信
4月〜6月:ロビイング注力期間(〜以後ロビイングは継続)
7月or8月:イベントor議員向け勉強会
10月:ガイドブック公開&フォーラムイベント(公開)
11月〜12月:協働団体との今後に向けた調整、活動報告など
※その他、協働団体と一緒にイベントを適宜実施したい
(目的:社会発信+相互の学び合い・関係構築・コミットメント醸成)★変更点・補足
書籍づくりに関しては一般流通にこだわらず、まずは内部で学校教職員向けのガイドブックを作成し、3月に指導する現場向けのプロジェクト「100チャレ」で活用。ゆくゆく出版することも視野に入れて徐々にブラッシュアップしていきたいと考えています。
◆助成事業の目的と照らし合わせた効果・課題と展望:
【Ⅰ】次の5つの評価軸それぞれについて、当事業において当てはまる具体的事例。あるいは、当てはまる事が現時点では無い場合、その点を今後の課題として具体的にどのように考えるか。
(1)当事者主体の徹底した確保
協働先団体へのヒアリングやプラットフォームミーティングを通してマイノリティ当事者(児童生徒・元児童生徒)の置かれている状況について解像度を高める、というところについては一定達成できてきたと考えている。ただしやはり協働先団体の話は例えその人がマイノリティ当事者でもあったとして主として“支援者”の目線で語られることが多い。そのため、やはり現在学齢期にある当事者児童生徒に直接アクセスする必要はある。まだ未着手であるが、ネットワークを生かして個別ヒアリングをしたい。アンケートについては既存データ(協働先団体の実施しているデータなど)を活用+クラファンに合わせて簡易なアンケートを実施する方向。
(2)法制度・社会変革への機動力
法律づくりと優先度の高い個別具体策の推進という方向性が見えてきたので、背景にある課題意識や前提としている考え方なども含めてロビイング用の資料がある程度出来次第、議員や教育委員会、首長等に話をしに行くことになっている。ネットワークを生かしてアポイントをとることはできそうだと考えている。協働団体からミーティングに参加してくださっている方の中にはすでにロビイング経験が豊富な方が複数おられ、戦略立案においては積極的に助言・貢献をいただいている。
(3)社会における認知度の向上力
これまでは提言の内容が固まって来なかったのでなかなか発信できずにいたものの、大まかな軸はできてきており、3月までには一旦完成するので、そこからは社会発信・課題周知がしやすくなる予定である。年明けからクラウドファンディングを実施するタイミングに合わせて、教職員アンケート(ex,インクルーシブな学校づくりを進めたいですか?困っていることを教えてください)と児童生徒・保護者向けアンケート(ex,学校生活の中にあるバリアを教えてください。もっとどうなったらいいですか?)を実施する予定。また、クラファンと合わせて協働団体とともにイベントを打つことを通して、課題を世の中に発信していく。
(4)ステークホルダーとの関係構築力(相反する立場をとる利害関係者との関係性を良好に築いたり保持したりする力)
プラットフォームミーティングの協働先団体との関係構築は順調に進んでいると感じている。提言案ができたら、さらに賛同団体や個人を募っていきたい。議員や行政など交渉先とのやりとりは本格的に動き出すのは4月以降ではあるが、現時点で既に“生煮え状態”で持ちかけても大丈夫な関係性の相手に関しては提言の内容をお見せして意見をもらい始めている。
(5)持続力
課題である弊団体の財政基盤の脆弱さについてはクラファンで認知拡大と資金調達を図りつつ、団体の活動に共感してくれた人たちを有料オンラインコミュニティ参加へ促していきたい。
【Ⅱ】Ⅰの評価軸はいずれも、強化するには連携力が潜在的に重要であり、その一助として次の項目を考える。
(1)当事業が取り組む社会的課題の根底にある社会的要因/背景(根本課題)は何だと考えるか。
学校教育のリソース不足⇆教職員・教育行政および市民全般のマインドセット(子どもの権利の理解と社会モデル発想の不足)
(2)その根本課題の解決にどのように貢献できそうだと考えるか。
当事者視点(マイノリティ当事者+学校現場の教職員当事者視点)に根ざした社会発信とロビイング。排除しない学校づくりのための指針・具体的方策のガイドブック化。
(3)そのような貢献にむけて、どのような活動との協力/連携が有効だと考えるか。
・プラットフォームミーティングを機能させ、協働団体間の関係構築をし、本プロジェクトへのコミットメントを醸成していくこと。
・コンセプトに賛同してくれる団体や個人を募りネットワークを拡大していくこと。
・世論喚起を図りそれを追い風としつつ、文科省をはじめとした教育行政機関に働きかける。
・国会議員等との勉強会の実施(2025年に向けて実現を模索)
・教職員が自分の職場でDE&Iをやっていける後押しになるプロジェクト。 ■