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ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第12回助成中間報告

ふぁみいろネットワーク(2024年12月)

助成事業名・事業目的

精子提供・卵子提供・代理懐胎で家族形成を行う当事者の経験から生殖技術の社会的公正を考える

 精子提供・卵子提供・代理懐胎は、これを用いて親になる者と、生まれる子やドナー・代理母の権利の対立が常に問題となってきた。助成事業は、不妊症や高齢、他疾患の闘病、LGBTQ、非婚など、多様な事情を抱えてこの技術に頼る当事者の手記の編纂プロジェクトを主軸とする。この手記集を当事者や一般市民対象のワークショップでの対話の土台とすることで、生殖技術をめぐる社会的公正の実現を目指したい。

 

助成金額 : 100万円 

助成事業期間 : 2024年1月~25年12月

報告時点までに実施した事業の内容・今後の予定: 

(A) 当事者手記:2024年秋から、当団体のLINEオープンチャット(12月5日時点の参加者442名)内で手記原稿の募集を開始。現時点で集まった初稿の内訳は、無精子症男性1名、無精子症パートナー女性3名、FTM男性1名、女性カップル1名、選択的シングル女性1名、卵子提供を受けた女性2名、代理懐胎を依頼した女性1名。約4万字の超大作もあり、編集方針が悩ましい。原稿は12月末まで受付中で、執筆者の「恨みつらみが混じるが書いてよいのか」「自分の話は共感されないと思うが書いてよいのか」等の相談に対応している。語る資格があるか不安に感じる当事者は代理懐胎に多く、スティグマの強さを反映していると推測。

 初稿締切を2024年12月末として、執筆者の相談に対応。2025年1月〜4月に校正、デザイン。1月から出版社との交渉を再開し、商業出版もしくは自費出版(電子書籍)での10月刊行を目指す。

(B) 教材

教材①「精子提供を受けた事実を子に告知した親に対する当団体調査」をWeb公開済み。

教材②「海外研究紹介」秋に一般公開予定だったが、来年2月の当事者WSで供覧して意見を反映後の公開に変更。2025年3月公開予定。

議員への情報提供などのアドボカシー活動にも利用する予定。

(C) 当事者向けワークショップ:2025年2月2日に第一回を対面実施する予定で、準備中の資料(手記概要、教材②)を供覧、当事者の意見を成果物に反映させる予定。

(D) 一般向けワークショップ:2024年6月〜7月に①大学生400名、②多国籍の留学生12名に対する出張授業を実施(写真①, ②)。


(写真①=24年6月26日 大学生向けワークショップ。ふぁみいろネットワークから、精子提供・卵子提供・代理懐胎の当事者が計3名が出席し、体験談の提供と質疑応答を行った。当日出席できなかったFTM当事者からはVTR資料の提供があった。大人数の教室だったが、ITを利用したアンケート機能や質問ツールを用い、双方向的な対話の取り組みとして実施することができた。)


(写真②=24年7月12日 多文化学生ワークショップ(参加者12名、使用言語:英語)。アジア圏を中心とする留学生グループに対し、ふぁみいろネットワークの卵子提供当事者1名が体験談を話すとともに、参加者が事前課題として調べてきた各自の出身国の制度の比較や、普遍的な倫理課題の検討を行った。当事者としても、儒教やイスラム教、キリスト教など、日本では普段意識しない思想の影響下にある他国の状況について触れる初めての機会となり、自分の経験を相対化する貴重な体験だった。)

大学生対象のワーキングショップが有意義で学生の反応も良かったため、書籍刊行後に再度実施予定。

ネットワーキング、対話、アドボカシー

①日印学術交流シンポで共同代表が発表、現地病院視察(2024.8.19.インド)。

②「特定生殖補助医療法案」に関して、複数の野党議員に陳情を実施または日程調整中。

 

助成事業の目的と照らし合わせた効果・課題と展望:   

【Ⅰ】次の5つの評価軸それぞれについて、当事業において当てはまる具体的事例。あるいは、当てはまる事が現時点では無い場合、その点を今後の課題として具体的にどのように考えるか。

(1)当事者主体の徹底した確保

・助成事業に関する意思決定や外部との交渉は、当事者メンバーが主体となり、研究者メンバーとの協働のもとで遂行した。

・当事者約440名が参加する当団体のコミュニティ(LINEオープンチャット)や、対面での親子会の機会に、手記の執筆希望者を募った。

(2)法制度・社会変革への機動力

・「特定生殖補助医療法案」に関する動きを注視して議員等からの情報収集に努め、専門家の協力も得ながら当事者に情報提供した。

・法案で当事者に動揺が広がったが、当事者が安全に気持ちを表明したり意見交換できる場をオンラインおよび対面で提供した。

・アドボカシー活動の一環で、複数の野党議員への面会を交渉中。当事者の実情や他国の法制度について、教材①、②等をもとに情報提供予定。

(3)社会における認知度の向上力

・大学生向け出張講義と少人数ワークショップを実施した。

・学会発表やSJFアドボカシーカフェ登壇を通して、当事者団体としての知見を発信。学会では海外研究者とのネットワーキングも実施。

・当事者手記の書籍化に関心を示した大手出版社編集長と複数回の会合を持ったが、先方の社内交渉が難航し、実現しなかった。

(4)ステークホルダーとの関係構築力(相反する立場をとる利害関係者との関係性を良好に築いたり保持したりする力)

 協力体制の構築を進めている。

(5)持続力

 助成事業以外の通常の活動として、2024年7月〜11月に対面企画2件、オンライン企画1件を実施した。オンラインコミュニティの参加者数は2024年6月13日の364名→12月5日の442名に増加。当事者へのピアサポートとエンパワメントを持続的に提供中。

 

【Ⅱ】Ⅰの評価軸はいずれも、強化するには連携力が潜在的に重要であり、その一助として次の項目を考える。

(1)当事業が取り組む社会的課題の根底にある社会的要因/背景(根本課題)は何だと考えるか。

・社会一般の人々の情報不足と、メディア等が提供する情報の偏り、エンターテイメントの題材としてのセンセーショナルな消費。

・専門家や政策決定者の偏見とパターナリズムが根強い。法整備においても、当事者の意見を徹底的に排除し、当事者に対する管理の徹底に終始している。

・市民の中で人権意識が高い者ほど、当該技術を選ぶ親について、生まれる子やドナー・代理母を犠牲にする利己主義者と見做す傾向があり、フェミニズム等の他の社会運動との相互理解が進んでいない。

(2)その根本課題の解決にどのように貢献できそうだと考えるか。

・当事者の手記の刊行や一般向けワークショップ、教材の作成と頒布を通して、情報提供と対話機会の創出を行う。

・専門家(医療職・心理職・福祉職、多領域の学術研究者、政策決定者、法律家など)とのネットワーキングによる当事者アドボカシー活動。

(3)そのような貢献にむけて、どのような活動との協力/連携が有効だと考えるか。

・この技術で生まれる子の権利の擁護活動。

・国内外のLGBTQ当事者団体やその研究者との連携。

・当事者の権利やDE&Iに関心を寄せる法律家との連携。

・医療機関等で当事者への(多分に抑圧的な)「教育」を担う専門職に対し、当事者の思いや、子どもとの日常生活で培われた当事者の知恵を届け、当事者の尊厳を守るうえでの信頼関係と協力関係を構築。  

 

 

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