ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第11回助成
一般社団法人ふぇみ・ゼミ&カフェ
SJF助成事業第2次中間報告(23年12月)
◆助成事業名:『U30: ジェンダー/フェミニズム視点を醸成する若年層向けワークショップ』
本事業の目的は、次世代のフェミニズム視点を持ったアクティビスト、研究者、公務労働者、企業労働者などを育成することにある。この目的を達成するため、本事業では、18歳から30歳までの若年層を対象に、インターセクショナリティの視点を重視した連続講座(ふぇみ・ゼミU30講座)について、年間を通して実施するとともに、サマーワークショップ(2023年度は関東大震災から100年の年であるため、朝鮮人虐殺の歴史を学ぶためのフィールドワーク及びそのための事前学習に変更)の開催等を通して、参加者間のネットワークづくりを行う。
◆助成金額 : 300万円
◆助成事業期間 : 2023年1月~2024年12月
◆実施した事業と内容:
2023年度のふぇみ・ゼミU30講座には、各回約30名のゼミ生が会場とオンライン上に集まった。講座は当初の計画通り、事業を実施し、現在12月の回まで終了、残り1回となっている。各講座の感想は、ふぇみ・ゼミの学生・院生スタッフ(アルバイト雇用)やゼミ生等が分担して執筆し、ふぇみ・ゼミ&カフェの公式サイトに掲載した。
また、参加者間のネットワークづくりを図るため、講座終了後には毎回ゼミ生間の交流の場を設けた。講座および交流会の準備と開催は、学生・院生スタッフが中心となって行った。これを通して、会場の設営や参加者への対応、ハイブリッド開催時の配信作業の他、音声日本語だけでは情報にアクセスしにくい参加者(聴覚障害の参加者や日本語を第一言語としない参加者)に対するリアルタイム字幕の提供などの経験を蓄積した。
2023年度は、サマーワークショップの代わりに「事務所オープンデイ」を計14回開催し、ふぇみ・ゼミ生を対象に研究や活動内容の個別相談を行った。
その他、9月6日(水)には、ふぇみ・ゼミの学生・院生スタッフが中心となり、トークセッションを開催した。トークセッションでは、ふぇみ・ゼミのスタッフであり、現在パリ・シテ大学社会科学・ジェンダー論で学んでいる石田凌太さんが「国家の暴力と抵抗する市民〜社会運動を通してみる2023年フランス上半期〜」というテーマで話題提供し、参加者とディスカッションを行った。
加えて、関東大震災朝鮮人虐殺100年フィールドワークと関連するイベントとして、9月17日(日)に、国際シンポジウム「レイシズムを記憶する意義 ―関東大震災虐殺ミュージアムを設立するために―」(主催:1923関東朝鮮人大虐殺を記憶する行動)を共催した。
―2023年度 ふぇみ・ゼミU30講座―
●第1回: 5/17 井谷聡子さん:「近代スポーツから考えるジェンダー、セクシュアリティ、人種、自然」
●第2回: 6/14 斉藤正美さん:「失われたジェンダー平等政策ーバックラッシュ30年を問う」
●第3回: 7/19 げいまきまきさん:「仕事であるということ、望まない消費に抗うこと~セックスワーカーとして~」
●第4回: 9/13 宮下萌さん:「ネット上の差別を考えるー法制度の観点からー」
*フィールドワーク(選択参加):9/16(土)9:30~16:00 梁大隆さん
「未来を切り開くためにー関東大震災朝鮮人虐殺100年フィールドワーク」
●第5回:10/4 川端舞さん:「インクルーシブ教育の権利―障害児として普通学級に通った私を肯定してくれたもの」
●第6回: 11/8 澁谷智子さん:「家族をめぐる変化とヤングケアラー」
●第7回: 12/20予定 古賀徳子さん:「沖縄における日本軍慰安所と米軍の性暴力」
●第8回: 1/24予定 河庚希さん:「在日朝鮮人フェミニズム―内なる壁を突き破る」
◆今後の事業予定 :
ふぇみ・ゼミU30講座の他、ウィンターワークショップ(2月後半〜3月上旬)の開催を予定している。また、ワークショップ開催にあたり、アクティビズムの方法論をテーマに学習会を実施する予定である。
◆助成事業の目的と照らし合わせ 効果・課題と展望:
【Ⅰ】次の5つの評価軸それぞれについて、当事業において当てはまる具体的事例を挙げた。あるいは、当てはまる事が現時点では無い場合、その点を今後の課題として具体的にどのように考えるかを記載。
とくに、助成申請書の3-5で5つの評価軸について記載した「課題と考えることとそれへの対策」に関連させて、どのように変化したのかも記載。
(1)当事者主体の徹底した確保
ジェンダーと多様性をめぐるさまざまなテーマを通して、既存社会に根差している差別構造を多角的に理解し、そうした構造を変容させていくための方法論を身につけた次世代リーダーを養成することを目的に、(a)希望する参加者のメーリングリストの作成、(b)若い世代を主体とした交流会の開催を行った。
(2)法制度・社会変革への機動力
国際シンポジウムの共催やフィールドワークの実施等を通して、1923関東朝鮮人大虐殺を記憶する行動等、他団体との連携を深めた。また、11月19日(日)には、タイのトランスジェンダー活動家をトークセッションのスピーカーとしてお招きするなど、社会正義の実現を目指す、国内外の人や団体との連携・協力を広げた。
(3)社会における認知度の向上力
公式サイトやSNSを介しての発信に加え、今年からポッドキャストの配信を開始した。
(4)ステークホルダーとの関係構築力(相反する立場をとる利害関係者との関係性を良好に築いたり保持したりする力)
現在、日本でもトランスジェンダーとセックスワーカーへの差別、排除を切り口とした、女性運動の保守への取り込みが起きている。従来性暴力に反対してきた女性運動のステークホルダーが「トランスジェンダーの権利と女性の権利が対立する」という誤った前提から、こうした差別に加担してしまうことも多い。
2023年度においては、東京トランスマーチを開催するトランスジェンダー・ジャパン関係者による性暴力、故岡正治氏による性暴力等に対して、被害者を支持し、加害者が所属していた団体に組織としての対応を求める声明を出した。こうした性暴力については、保守的な立場をとって来た個人、女性団体の関心も高い。トランスジェンダー、セックスワーカーの権利擁護に積極的な立場をとっている幣団体が、社会運動の中の性暴力にも明確な反対を示すことで、性暴力にもトランスジェンダー/セックスワーカー差別にも、ともに人権とジェンダー平等の視点で反対する基本姿勢を伝えることができた。これら声明に関する反応として、従来幣団体を批判してきた人たちがSNS上で拡散するなど、プラスの反応が見られる。こうしたきっかけから、全てのマイノリティの人権を擁護する活動に触れてもらうことを目指していきたい。
(5)持続力
新たに3名の学生・院生アルバイトを雇用する他、公式サイトやSNSでの発信を強化するためのスタッフを確保した。また、新たなスタッフへの研修は先輩スタッフが行い、月1回スタッフ・ミーティングを実施し たりすることで、スタッフ間のコミュニケーションの活性化および関係性の構築を図った。
【Ⅱ】Ⅰの評価軸はいずれも、強化するには連携力が潜在的に重要であり、その一助として次の項目を考える。
(1)当事業が取り組む社会的課題の根底にある社会的要因/背景(根本課題)は何だと考えるか。
ジェンダーやセクシュアリティに関する規範はもとより、それらと深く関係しているにもかかわらず、メインストリームのフェミニズムにおいて十分に反省されてこなかった植民地主義、自民族中心主義、優生思想が問題だと考える。
(2)その根本課題の解決にどのように貢献できそうだと考えるか。
レイシズム、トランス差別、障害者差別の問題を、フェミニズムの問題として把握する視点をもった人材を育成し、輩出することで貢献できると考える。
(3)この助成をきっかけに実際に連携が進んだことはあるか、あるいは今後具体的な計画はあるか。
フィールドワークを他団体の講師に依頼する等をきっかけとして、「レイシズムを記憶する意義 ―関東大震災虐殺ミュージアムを設立するために―」(主催:1923関東朝鮮人大虐殺を記憶する行動)を共催するなど、連携が進んだ。 ■