ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)
助成発表フォーラム第9回
ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)は、公募により審査決定した第9回助成先の方々(Accept Internationalの田口敏広さん、FoE Japanの柳井真結子さん、ジュマ・ネットの木村真希子さん、ASTAの久保勝さん)を迎えた助成発表フォーラムを2021年1月22日、オンラインで開催しました。
世界で民主主義の形骸化や市民社会が暴力的になる状況が生じている今、社会的公正の視点の重要性が増しているとSJF運営委員長の上村英明は述べました。さまざまな市民活動が個々の活動分野を超えた問題をも受容できる関係性を築くことで、民主主義や健全な市民社会を実現して行けると考えられ、そういった関係性への入り口としての意義もこの助成発表フォーラムにあると述べました。
Accept Internationalの田口さんは、非行少年が受容される社会を目指し、非行少年が再犯に走る背景にある悪循環な社会構造を変えるために開かれた保護司制度の必要性を強調しました。コロナ禍で保護司の支援を受けられずに孤立する非行少年にオンライン面談の機会を設ける制度作りなどを進めています。
FoE Japanの柳井さんは、新型コロナのパンデミックにより人びとのライフスタイルや価値観が変わるなか、環境社会を破壊するリニア中央新幹線開発に対する住民の声が封じ込められている実態を問題視し、開発の影響を可視化し、これからの持続可能な社会を社会全体で議論していく活動について話しました。
ジュマ・ネットの木村さんは、反外国人運動による外国人のずさんな検挙や劣悪な拘留所の実態が明るみになり、市民権をはく奪された人びとに拘留への不安が広がるとともに、実際に拘留された被害者も多くいるインドのアッサム州の状況を示しました。コロナ禍で教育から疎外された子どもたちの学習支援、市民権を証明する裁判を支援、被害者の提言活動を支援しています。
ASTAの久保さんは、LGBTQへの理解や受容する制度について地域間格差があることを示し、地域に根差したアドボカシー活動のリーダーを見出し、地域をつないで横展開していくことの重要性を強調しました。身近なところに理解者がいると人生が変わる、全ての違いに対して、誰かのために力になりたいと思う人――ALLY(アライ)――を増やしたいとの思いを語りました。
一人ひとりが自分事として社会に参加して、いろんなことに目をつぶらずに一つひとつ丁寧に付き合っていくことが大切です。SJFの活動の軸は、見逃されがちだが大切な問題についてのアドボカシー活動をしている人たちを支援していくことが一つであり、もう一つの軸が「対話」です。「対話」は「暴力」の対極にある言葉だと締めくくられました。
詳細は以下をご覧ください。
――開会挨拶――
上村英明・SJF審査委員長)
新しい年、コロナ禍ですが、いいニュースも聞くようになりました。米国の大統領就任式が終わり、米国がパリ協定に復帰すれば地球環境問題がまた前に進むと思います。また、本日は核兵器禁止条約が発効する日で、やっと核兵器自体が国際法に違反する存在であることが明確になった記念すべき日です。
こうしたものを見て感じることは、やはり市民社会の役割の重要さです。国家やそれに関するようなところでなかなか物事が進んでいかない時に、市民社会がこうした重要な社会問題にさまざまな局面から、さまざまな方法で関わって行くことの重要性が改めて認識されているのではないかと思います。
実は、ずっとSJFを応援してくださった方が昨年お亡くなりになりました。審査会にも何回も参加されたのですが、その時の言葉で未だに忘れられないのが、「ソーシャル・ジャスティス基金の審査って、本当によくやっていますね」です。「もっと、シャンシャンで終わるのかと思ったら、いろんな議論を審査委員がやって決定していることに感銘しました」と言われて、僕もうれしくなりました。
本日、助成が決定した4団体の方に来ていただいているのですが、みなさんが我々の基金によって厳選された事業であることを自覚していただいて、みなさんの活動がさらに広がっていき、日本社会さらには世界につながる形で、民主主義の土台が広がっていくことに貢献してくれれば委員長として大変うれしく思います。期待していますので、本日は思う存分発表していただければと思います。
――第9回助成事業 発表とミニパネル対話――
◆NPO法人Accept International 田口敏広さん(国内事業局長)
『取り残された非行少年へのケア拡大 -社会全体での包括的支援の実現と保護司制度の改革-』
私たちはこれまでソマリアやケニア、インドネシアなど海外でテロリストやギャングを受け入れる活動をしてきました。これまでテロやギャングには空爆や銃撃で倒すというアプローチしかなかったのですが、それを僕たちは、彼らを受け入れることでテロリストでない道を歩んでいただこうという活動をしています。じっさい今、代表ともう一人の職員がソマリアに行っており、ソマリアは毎日テロが起きるのですが、テロを受けないように必死に活動しています。
なぜこのような活動をしてきた僕たちが非行少年のケア拡大に取り組むのか。僕たちはちょうど活動が10年目に差し掛かるのですが、ずっと「海外もいいかもしれないですが、日本でもたくさん問題があるじゃないですか、日本でも何かできないですか」というお声をいただいておりまして、僕たちとしても何か力を活かしてできることはないかと模索してきました。そのなかで今回挑戦してみようと思った領域が、国内の非行少年の更生保護分野になります。
開かれた保護司制度へ 非行少年が再犯に走る悪循環構造を変革するために
本事業の目的としまして、非行少年が再犯を繰り返さざるを得ない不公正な社会構造があり、それを変革していくために、保護司制度をより社会に開かれた制度に変えていきたいと考えております。
非行少年をどういう状況が取り巻いているのか。これまで私たちの活動のなかで保護司さんや少年院での講演活動などに関わってきて実感しているのが、非行少年は「犯罪をする」ということが前面に出て、私たちはそれに捕らわれがちですが、背景として彼らが抱えている課題があり、貧困やドメスティック・バイオレンス、ネグレクトや障害、病気など非常にさまざまな生きづらさを抱えているのです。そのなかで犯罪をしてしまい、学校や会社で受け入れられなくなってしまうとともに、自分自身でも「また犯罪をしてしまうのではないか」、「犯罪者だから、こんな自分ではダメだ」とレッテルを貼ってしまって、最終的には、本人が抱えている課題を解決できないまま深刻化してしまい、再犯に走ってしまうという悪循環があるのではないかと感じています。
そもそもなぜ被害者ではなく加害者を支援するのか。こちら(画像下)、法務省が出している統計データですが、これまでの犯罪者数を見た時に、左側のグラフが全犯罪者数における初犯者と再犯者の割合で、右のグラフとの比較により、日本における全部の事件数のなかでたった3割の再犯者によって6割以上の犯罪が行われている実態がわかります。ここから分かることは、犯罪者に再犯をさせないということが、結果的に、未来の被害者や事件数を減らしていくことにつながっていくと思います。
保護司とは何か。ご存じの方がいらっしゃったら大変恐縮ですが、イメージで言うと地域のボランティアの方です。町内会長さんや民生委員の方が似た部類になるかと思います。各地域で犯罪をしてしまった方たちの受け入れを担っています。月に2回、その方たちと面談をして、生活状況や自分の犯罪についてどう考えているか等について懇談をしたり、少年院や刑務所から出た後の受け入れ先について、実家に住むのか、住んで本当に大丈夫なのか、一人だったらどこに住むのか等の面倒を見たり、全般的なサポートをする橋渡しの役割をしてくれている方たちです。
この保護司は非行少年の社会復帰に非行に重要な役割を果たしているのですが、現在のコロナ禍で、面談がストップしています。また、保護司は非常に高齢化しておりまして、グラフ(画像下)を見ますと、青色と水色が60歳以上の方であり、8割以上が60代以上の方となっています。定年が75歳と決まっているので、今後10年間で半分以上が辞めてしまうことが数字として示されています。
また全体の保護司の数もすごいスピードで減っております。このままでは保護司制度自体の維持が難しいという状況に日本はなっています。
コロナ禍で保護司の支援を受けられず孤立する元犯罪者にオンライン面談の機会を
では、この保護司制度の課題を解決して、犯罪をした方が再犯をしないように、社会復帰していけるように活動をしていきたいと思い、3つのことを行おうと考えています。
一つ目が、保護司制度で人が減っていることや高齢化していること、コロナ禍で活動がストップしている問題に関して、若い人たちを集めていきます。僕たちの団体もメンバーの8割は20代で、これまで関わってきた団体さんとのコネクションも使って、若手の保護司の方を集めていきます。また、面談がストップして保護司さんの支援を受けられず孤立しているというところを、オンライン化することによって解決していこうと思っています。
二つ目に、この活動を一過性で終わらせず、制度も変えていかなければならないと考えています。なぜ保護司が減っているのか、なぜ若い人が入って来ないのか。オンライン化することによって面談の形が変わっていきますが、面談の形は法務省の管轄で法律によって決められている分野ですので、そこに対して政策提言を行っていきたいと思っています。
三つ目に、その政策提言書をもとに、さまざまな専門家や団体さん等、SJFのアドボカシーカフェを含めて市民社会を巻き込んでいきたいと思っています。
予想される課題は、面談の位置づけについてです。法律で決まっているものですので、国としては前例のない取り組みに対して抵抗感があると想定しています。ただ、法務省にも2021年度で保護司制度のICT化を進めていこうという動きがありまして、事務的な手続き面などで進めていこうと予算が組まれていますので、私たちもそこに乗っかって行く形で提案を進めていきたいと思っています。
非行少年が受け入れられる社会をつくる活動
展望としては、最終的には、非行少年を受け入れる社会への機運をつくりたいと思っています。どうしてもニュース等で見ると、非常に凶悪な犯罪が取り上げられがちですが、日本全体で見ると、凶悪犯罪件数や少年犯罪件数はとても減少しています。ただ、少年が過激化して危なくなっているといった報道の仕方によって、一度犯罪をした人への風当たりが強くなっており、二度とやり直すことができない、どの地域に行っても居場所がない状況になっていると思っています。そこに対して、草の根で、地域で保護司ないしは市民社会を通じて、一度罪を犯したとしてもやり直しができる社会をつくっていく中心になれるように活動をしていきたいと思っています。
社会の変化とともに多様化する非行少年のケア
ジュマ・ネット 木村真希子さん) Acceptさんはアフリカのイメージが強くて、今回は国内事業を行われるということで大変興味深く聴きました。
3点ほど質問をさせてください。
まずは、保護司制度の課題についてです。コロナ禍で面談が行えないとか、保護司が減少しているという現状の課題を説明していましたが、そもそも内容として今までの保護司制度の活動に課題がなかったのか、そこをAcceptさんはどう評価しているのでしょうか。
2点目は、ボランティアで保護司をされているということで、ボランティアでやらなければならないということ自体への課題があるかと思います。これだけ重要なことをボランティアで任せることについて長所と短所両方あると思いますが、どう考えていますか。これから政策提言をなさることにも関連すると思います。
3点目は、日本社会の変化がいろいろあると思いますが、保護司制度がつくられたのはずいぶん昔だと思います。私が関わっている分野ですと、「日本社会の多文化化」があると思います。平たく言うと、外国人労働者が増えて、外国につながる子どもたちが増えて、やはり貧困や非行少年化を考えた時に、そういった子どもたちの存在は結構大きな問題になっているのではないかと感じています。そういった子どもたちのケアをこれまでの保護司制度はどれくらいカバーされているのか、そういったことがアジェンダに上っているのでしょうか。
田口さん) ご質問ありがとうございます。
1点目について、立派な保護司さんがたくさんおられる中で僕が述べる立場にはないことを前提にした上でお答えします。保護司制度のなかで保護司さんが非行少年にどういう関りをするかというと、地域の優しいおじちゃん・おばちゃんのようであり、何か専門性やプロフェッショナリティをもって関わるというより、本当にありのままの一市民として話をして、緊張をほぐすためにとりとめのない話を聴くこともありますし、犯した罪や家庭環境などセンシティブな内容にまで踏み込んで聴くこともあり、属人性がすごく高いです。人によって温かく面談する人もいれば、業務として済ます方もいて、多種多様な対象者がいるなかで、理解やアプローチは属人化しており、ここは良いところでもあり悪いところでもあると感じています。
保護司さんの上で保護観察官という法務省の役人が管轄しているのですが、保護観察官が担当する保護司が数百人となった時、全ての保護司さんが良い面談をできているかは把握しきれないところがあるので、質の担保は課題としてこれまでもあったのではないかと思います。
2点目について。保護司制度は日本発祥で歴史が古く、そもそもの始まりは、犯罪をした人が社会復帰できずに自殺をしたことに問題意識を持った方による取り組みです。市民社会から生まれた自主的な制度でして、それを国が制度として吸収して行っているものです。また、じっさい保護司さんの現場の意識としても、ボランティアとしてやっているからこそ意味があると仰っています。対象者の人生にも踏み込んでいくので、お金をもらってやることではないという意識を持っておられます。また、とくに専門性をもって職業として行っていることではないので、お金をもらってしまうと逆にやりがいが失われてしまうのではないかという声もあります。
ただ今後、人数を増やし若い層を取り込んでいくとなった時に、有償化も選択肢としてあるのかなと思っています。
3点目は非常に切り口の素晴らしいご質問だと思います。実際、現在と昔の非行少年のイメージは非常に違っています。昔のいわゆる非行少年ですと、ヤンキーや暴走族で喧嘩しているイメージかと思いますが、むしろ今の非行少年は、反社会型というより非社会型で、社会になかなか溶け込まず、コミュニケーションを嫌がり、どこかに反発するというよりも、自分の世界に閉じこもって犯罪に走ってしまうケースが増えているという話が現場の方からもありました。だから、現役の保護司の方も、昔は「しっかりしろよ」のような形で指導すれば更生したところが、今は何か強い言葉をかけてしまうと心を閉ざされてしまって関わり方がわからなくなってしまうそうです。
また、LGBTQの背景を抱えていて、それを周りに話すことができずに孤独になってしまっている子どもや、障害を抱えていて、でも周囲に障害を認知されていず、あるいは障害者手帳をもらえる程IQが低くない境界知能で犯罪に走ってしまうとか、非行少年もある意味、多様化しているのです。
そこに対して保護司さんがどういった対応をしていくかについては、僕たちとしても何かお手伝いをしていけたらと非常に思う分野です。
参加者)ボランティアからこその経験や専門性が必要ではないですか。どのように身に着けるのですか。
田口さん)保護司さんになる上で、特別な試験や資格は不要ですが、各地域の保護司さんなどから推薦が必要です。地域で信頼されていることが条件なのです。専門性や経験は、むしろ保護司さんになってから、保護観察官からの研修などで身に着けていきます。ただ具体的な専門性や経験が期待されているというより、むしろ、地域で自分が話す相手がいるとか、自分のことを分かってくれているという役割の方を期待されているのかなと思います。
参加者)保護司にこれはしてはいけないといった事項はありますか。
田口さん) 保護司さんが非常に重要視しているのはプライバシーです。昔は、保護司さんは、自分が保護司をしていることを周囲に明かしてはいけませんでした。なぜなら、犯罪をした人を自宅に呼んでお話をしたりするので、保護司さんの自宅に通っている人は犯罪者なのかと周囲から疑われてしまうリスクがあり、その人の人生にどういうことがあったかは非常にセンシティブな情報ですので、保護司さんはプライバシーに気をつけて公開しないようにしています。また、保護司さんは保護観察期間が終わった方の情報は全て削除し、保護観察官に返しています。
参加者)ひきこもりの方を無理やり外に連れ出すことは人権侵害ではないか。保護司さんはそれに該当しないのか。
田口さん) 保護司さんが犯罪をした人や非行少年を受け入れる時は、法務省の保護観察所から委託を受けて保護観察をしていくので、基本的には法に基づいて執行されており、個人的な判断で何かすることはないと思っています。法務省が管轄であり、保護司さんと上手くいかないということがあれば、保護観察官が人選を変えるとか、ベテランの保護司をつけるとか対応して、人権侵害が起きないように配慮していると思います。
参加者) 保護司制度は海外にあるのでしょうか。とくに、北欧諸国やニュージーランド等ではいかがでしょうか。ある場合、日本の制度とどのように異なりますか。
田口さん) 日本の保護司制度は日本が発祥になります。海外にも保護司制度に似た制度はありますが担当職員がやり市民が関わらないことが多いです。日本社会は特にボランティアで市民の方がやってくれていて、かつ全国に保護司さんがいるという点が他国に例を見ない取り組みになっています。
法務省も、この保護司制度がすごい取り組みだということで、フィリピンやケニアなどに輸出しようとしていまして、各地域でボランティアさんを探してやってみませんかと保護司制度の外交のようなことをやっています。
◆NPO法人 FoE Japan 柳井真結子さん(開発と環境チーム)
『国内最大規模のリニア開発 ~国民的議論による見直しを~』
私たちFoE JapanはFriends of the Earth Internationalという、草の根で環境問題や人権問題に取り組む国際環境NGOの一員として国内外で活動しています。私たちは、公正・公平な社会の実現、自然との共生や将来世代にも恩恵を享受できる仕組みづくり、市民が意思決定に参加できる社会の実現、社会の仕組み自体を変えることを目指しています。
そういった視点において、現在進められているリニア中央新幹線は、公正さに欠け、自然を壊し、市民・住民の参画もなく、深刻な社会問題を生み出していることから私たちは問題視しています。リニア事業の工事が始まって影響が出始めた3年前程から沿線各地の影響を住民のみなさんからお話を聴いて回り、影響を調査する活動を始めました。
リニア中央新幹線に関しては、昨今、トンネルが静岡を流れる大井川の源流に影響を与えると静岡県の川勝知事が懸念を表明していることから、ニュースでもかなり取り上げられ、知っている方もいらっしゃると思います。品川―名古屋―大阪という大都市圏を約1時間で結ぶという超高速鉄道です。日本の大動脈輸送の二重化と、巨大都市圏の構築によって日本の経済活動を活性化していくということで、研究自体は今から60年位前から始まっていて、日本の技術や経済発展の象徴のように「夢の超特急」とも呼ばれてきました。
ただ、この開発計画が目指す社会はどういったものであるのか、事業によるリスクが将来世代に何をどれほど残してしまうのかは、市民に十分に伝わっていませんし、十分に議論もされていないところが問題だと感じています。
東日本大震災で日本中が大混乱に陥っていた最中、2011年5月に整備計画が決定されました。本来、未曽有の大震災や原発事故の影響を十分に検証した上で、災害大国の交通機関として、そしてエネルギー政策としてリニアが適当であったのか検討し直すべきだったと思います。ちなみに、リニアは原発一基分位のエネルギーを使うものと言われています。
その後、環境アセスメントを経たのですが、アセスメントは短い調査期間かつ内容も不十分で、沿線住民への説明も不十分であったと批判をされつつ、2014年に事業が認可されています。
この事業はJR東海による民間事業で9.6兆円の建設費は全額自己資金で賄うということで認可されたはずだったのに、安倍政権によって3兆円の財政投融資を投入することが決められました。
国民的議論は本当に不十分で、事業ありきで進められてきた事業だと思われます。
環境社会を破壊する開発下 封じ込められる住民の声
リニアをめぐる問題点は多々あります。南アルプスをはじめとする自然生態系や水脈の破壊、エネルギーの大量消費、電磁波、交通機関としての安全性の問題、住民の権利侵害、災害の助長などが計画段階から指摘されています。
工事が2014年から始まって以降、沿線各地で環境社会影響や事故が次々に発生しています。水枯れ、地滑り、トンネル崩落事故、水の湧き出し、陥没事故、ヒ素やフッ素といった有害物質を含む発生土、大量の発生土の置き場も決まっていません。また、工事車両やダイナマイトの発破による近隣住民への影響も大きいです。
私たちが最も問題だと思っているのが、コミュニティーの分断です。影響への不安や、被害を訴える住民の声が「国家的事業だから黙っておけ」と封じ込められています。不安を抱えている住民のみなさんが沿線各地で孤立してしまっている状況にあります。
「すでに工事が始まっているので、今さら問題提起しても仕方ないのではないか」という声も私たちに寄せられることがあります。一方で、工事が始まってみたら予想をはるかに上回る影響が出てしまっていることも明らかになっています。また、気候変動により全国各地で自然災害が起きていて、工事現場でも自然災害が起きています。
リニア開発による影響の可視化 これからの持続可能な社会を問う
新型コロナウィルスの感染拡大が起きてしまい、私たちのライフスタイルや価値観、ニーズが変化しています。
リニアが掲げていたような大都市集中型の社会ではなく、貴重な自然を壊すことのない持続可能な社会が必要なのではないかと考える人が増えているのではないかと思われます。
私たちは今こそ、リニア新幹線の必要性について社会全体で見直しをしていくことが重要だと提案しています。
影響現場の調査や住民からの聞き取りを行って、影響をもっと多くの市民に知ってもらえるように可視化していこうと思っています。また、問題をご理解いただいた市民や若い学生さんにこういった問題への意見を主張してもらうような参加型アクションも考えております。また、様々な立場のステークホルダー、反対・賛成に関わらず市民のみなさん、将来世代を担う若者のみなさんに、今後求められていく社会においてリニアが本当に必要なのか、メリットとリスクは何なのか議論できる機会をワークショップの形で提案して行ければと思っています。
「リニア漫画裁判」が訴える教育読本 悪い面を隠し、若者のまちづくりを考える機会を奪う
ASTA 久保勝さん) リニア新幹線の主要駅の一つが名古屋ですが、私たちASTAは名古屋を中心に活動しております。柳井さんの発表を聴かせていただくまで、正直なところ、自分が無自覚で知識が無かったことにより無批判な傍観者だった気がします。名古屋は地価が上がるような形で、名古屋がこれまで魅力がないと言われてきたことを改善する起爆剤になるという認識でいる方が多いのではないかと思っています。
お聞きしたい1点目は、とくに名古屋等の大都市圏、ただ恩恵を受ける人たちの反応や認識はどのような様子でしょうか。
二つ目に、若者世代という話が出た点について、私たちは学校現場にも深くかかわる活動をしており、教育現場のリニアの捉え方はどのようなものでしょうか。例えばリニアができることありきの社会科の授業になっているのでしょうか。
柳井さん) 名古屋からご参加いただけるということで、逆に私の方からご意見を聞きたいと思っていました。
「無批判な傍観者」と仰っていらっしゃいましたが、日本中のほとんどの方がそうなのではないかと思います。便利になればいいね、新しい技術で速く移動できればいいね、それぐらいですよね。
デメリットはほとんど共有されていない、周知されていないと思います。沿線の方々からも、「実際に工事が始まってみないと、何が起きるか知らなかった、危機感を感じられなかった」という声が多く聞かれます。ただ恩恵を受ける方ももちろんいらっしゃいますし、ものすごく期待されている市民の方も一部いらっしゃいますが、そういった方々もリスクを知ってしまった場合に、かなり驚かれて、そこまでして乗る必要は無いかなという方もかなりいらっしゃるかと思っています。
現場で起きていることや、政治的な背景の話、お金の話など、リニアは問題が満載で、恩恵を受ける側の方を含め多くの市民が、どこかの部分で必ず引っかかる、知れば知るほどおかしいかなと思うところが多いでしょう。
もう一つ、若者世代について。山梨で「リニアまんが訴訟」が行われています。山梨県はリニアの実験線が早くからできて、県全体で推進してきたのですが、水涸れ等の影響が早い段階から出ています。にもかかわらず、教育機関、小中学校等で、「リニアは未来を担っていく山梨のためによいものだ」という教育読本のようなものを配っています。リスクや実際に起きてしまった影響等は隠し、いいところだけを書いているものを公的な教育機関で配っていることに対して、住民が裁判を行っているものです。原告は住民の方で、被告は山梨県になります。
私もリニア沿線にやや近い県内に住んでいますが、市町村がリニアを受け入れるまちづくりをしていて、リニアを受け入れる前提で市民啓発をしています。そういう中で、若い人たちがリニアはいいものだと育てられていくことのリスクも感じています。若い人たちがこれからのまちづくりにおいて、これが必要なのか・不要なのかを考える機会を失い、ただ与えられているものを前提として考えなければいけないこと自体、そこで生きていかなければいけないこと自体、これからの社会を変えていく若者たちがそういうところに参画できないことも大きなリスクだと感じています。
久保さん) ありがとうございます。自分もリスクを知ることで、オンラインでつながれる今、これまでの中央集権的な考え方ではなくて、もっと他にやるべきことがあるのではないかという視点が生まれました。
参加者) リモートワークが普及していて一極集中が変わっていくのではないですか。
柳井さん) その通りだと思いますが、政府はリニア中央新幹線を核にした大都市圏をつくっていくこと自体を再検討するというところまでは未だ至っていないようです。ただ、このところメディアでもリニアに対する報道の仕方が大きく変わってきており、世論の方から変わっていくのではないかという期待が見え始めています。
参加者) 新幹線による騒音や環境への影響は、今はないのでしょうか。
柳井さん) 新幹線もそうだと思いますが、山梨のリニア実験線で実際にリニアが走っているところに機会があれば行っていただければと思います。かなり大きな音がします。住民たちは騒音被害も訴えていらっしゃいます。
参加者) 自分は静岡県民ですが、県内ではやはりリニアに批判的な意見が多い印象です。6月に知事選があり、この選挙がどうなるか、県民的に注目しています。
柳井さん) 静岡は県知事もそうですし、オール静岡という形での運動や、「62万人署名活動」も始まっております。県全体でリニア問題に取り組んでいて、地方紙もリニアの問題をかなり深堀して書いていますので、県外の方も静岡の報道に注目していただきたいと思いますし、逆に県内の方は、県外の沿線で何が起きているのかに注目していただき、県外の沿線の方とつながっていただきたいと思います。
上村英明さん)
日本の公共交通機関をどうするのかという議論も、別の側面から力を入れてほしいと思っています。北海道に行く機会が多いのですが、北海道新幹線を通したために混乱している。本来なら地域の人のための急行等をどう増やしていくかの方が重要で、飛行機で行けるところに整備新幹線を通して、地元のことを十分に考えていない。
日本の公共交通機関を政府にお任せではなく、地域の人たちも含めて考えていく、一つの事例、きっかけになるといいなと思い、関わらせていただきます。
柳井さん) 品川から大阪までということで、かなり広範囲にわたる公共交通機関ということで、人の移動ということだけでなく、社会的にも経済的にも大きな影響が出るでしょう。これからの社会をどうやってつくっていくのかという視点でも注目していただきたいと思います。公共交通機関の将来の在り方としてみなさんと議論して行けたらと思っています。
◆ジュマ・ネット 木村真希子さん(運営委員)
『インド、アッサム州における国籍を奪われた人々の生活と法的支援事業』
ジュマ・ネットはバングラデシュの先住民族の人たちを支援してきた団体です。紛争の被害に遭った人たち等を15年以上支援してきました。インドのアッサム州はバングラデシュと近く、民族性にも共通点があり、昨年から支援事業を始めました。
「190万人が無国籍になるのではないか」という報道がインドのアッサム州に関して2019年8月にありました。この背景として、13年から全国市民登録簿(NRC)の更新作業がありました。それが完成したのが19年8月なのですが、アッサム州の市民権を申請した3290万人のうち、190万人がNRCに載らず市民権を証明できなかったというところから端を発しています。市民権が無いということは無国籍になってしまうのかという懸念が広まっています。
アッサム州は、インド北東部の飛び地のような場所にあります。印パ独立運動により、英領インド帝国が1947年に解体し、現在バングラデシュとして独立している東パキスタンを含むパキスタンとインドが分離独立したため、アッサム州はインドの飛び地のようになっています。
アッサムと聞くと紅茶を連想すると思いますが、じっさい茶園が多く、移民の人たちがたくさん植民地時代からアッサムに入ってきています。最も多いのが、隣のベンガル州からきたムスリムの開拓農民たちです。独立した時には州人口の25%位がムスリムだったと言われており、土地のヒンドゥー教徒による反移民感情が当時からありました。
反外国人運動による外国人のずさんな検挙や劣悪な拘留所 市民権のない人びとに広がる拘留への不安
独立後の問題で一番大きかったのは、1970年代後半からバングラデシュからたくさん人が入ってきていることに対して反外国人運動が起きた際の、外国人の検挙・追い出し・拘留でした。先ほどの全国市民登録簿(NRC)の更新はこのころから要求されていまして、実際に行われたのが2013年からでした。
外国人の検挙や拘留では、ずさんな調査で外国人だという嫌疑をかけられてきました。嫌疑をかけられた相手は貧しい人が多く、書類の不備があり、裁判所で市民であることを証明できません。こうして外国人だと宣告されてしまうという人が、過去30年間で約8万人います。拘留所へ送られてしまった人はそれより少ないですが、拘留所内は劣悪な環境ですし、無期限に拘束されていたので非常に社会的な影響が大きかった。
最近になって無期限拘束の問題がようやく明るみになり、3年以上拘留された人たちが仮釈放されるようになりました。それによって拘留所の環境の劣悪さや検挙のずさんさが明らかになっています。NRCから排除された190万人の人々は、自分たちも外国人と宣告されれば拘留されるのではないかという不安が広がっています。
NRCから排除された人びとの事例を挙げて説明いたします。市民だと証明できなかった人たちは貧しい人たちが多く、書類不備で証明できなかった。事例の男性は、ムスリムで、奥さんと娘さんが登録されず、自分と他の子どもたちは登録されました。この男性は、NRC自体は良いことだと思っているそうです。なぜなら、出稼ぎに行っているのですが、ムスリムだということで「おまえ、バングラデシュ人だろう」と差別される際にNRCがあればインドの市民であることを証明できるからだそうです。ただ、妻と娘が排除されたことは理不尽だと思っていて、彼女たちが突然拘留されるのではないかと思うと出稼ぎにも行けず、今は生業が無い状態です。
こういう形で不安が広がっていて、今までの更新作業のプロセスでも何十人の自殺者が出ていると報道されていますし、大きな社会問題になっています。
コロナ禍で教育から疎外された子どもの学習支援 市民権を証明する裁判を支援 被害者の提言活動支援
ジュマ・ネットの支援は、第一に、今まで拘留されてしまった人や、自殺者が出た家族の人たちを中心に、とくに女性など弱者層をターゲットにして生活支援をしています。例えば、カタというこの地域の伝統的な刺繍をするトレーニングをしたり、その裁縫用の材料を配布したりしています。さらに、灌漑ポンプなど農業支援もしています。
子どもたちの教育も支援しています。こういった不安が広がって、子どもたちへも様々な影響がありますので、その点を配慮できるよう教員にトレーニングを行っています。また、コロナ禍で学校に行けなくなり、オンライン授業へもアクセスできず、教育から疎外されている子どもたちへの学習支援も行っています。
2点目として、やはり重要になるのが法的支援です。これから外国人審判所という疑似裁判所のようなところで書類を提出して市民権を証明しなければいけないのですが、多くの人が弁護士費用などを払えないのです。そうすると証明できなくなってしまうので、こういった活動をしている弁護士さんの2つのグループを支援しており、昨年は30件ほど州高裁で争えました。また21年も支援したいと思っています。全体の190万という数字からすると少ない数ですが、例えば重要な、コロナ禍なので拘留所にたくさんの人がいると大変なので2年間で釈放できるような裁判もこの弁護士グループは勝ち取っていますので、なるべく多くの人たちに影響のある裁判を支援したいと考えています。
3点目として、提言活動が重要になってきます。一つは、被害者の人たち、拘留されていた人たちをネットワーク化して、その人たちが声を上げられるような活動をしたいと思っています。これは集会を開催して話し合いをと思っていたのですが、コロナ禍で困難になっています。
また、情報メディア活動として、インタビュー記事や映像を作成して、SNS等で発信することをムスリムの若い当事者の人たちが中心となって行っています。
最後にコロナ禍の影響と今後の活動の展望について触れます。NRCから排除された人たちは、インド政府が実施しているコロナ禍対応の生活支援を受け取れず、生活支援は以前にも増して重要性を持つと考えています。
現地との連絡が取りにくい状況ですが、昨年度はオンラインで現地とミーティングを行いました。21年度は渡航が可能になれば早期に現地訪問を再開したいと思っています。
FoE Japan 柳井真結子さん) 普段ニュースでも取り上げられない方たちを支援されていて、本当に大切な活動をされていると思います。ありがとうございます。いくつか質問させてください。
190万人のうち実際に外国人で、移民という形で滞在されている方たちが何割位いるのでしょうか。
その方たちへの行政や民間からの支援にはどのようなものがあるのでしょうか。
事例で出していただいたご家族で、奥さんと娘さんは認められなかったということですが、判断基準は明確に示されているのでしょうか。
弁護士さんたちとともに支援活動をなさっている点について、政策自体への異議申し立て、撤回を求めていく予定はあるのでしょうか。
日本の入国管理でも収容者が不当な扱いを受けているということを聞いたことがありますが、どのように見ていらっしゃいますか。
木村さん) 190万人のうち本当に外国人はどれ位いるのかは誰も答えられないというのが、この問題の難しいところだと思います。例えば、反移民をやっている学生団体や市民団体の人たちは400万人ぐらい外国人がいるはずだと言うのです。一方で、植民地時代に来た人たちはいますが独立前に来た人たちは市民権を持っているはずですし、1971年までの移民の人たちも受け入れるという取り決めがありますので、72年以降に来た人たちの中に外国人がいることになりますが、どれ位いるかというのは推定方法もなかなか無い状態です。おそらく人口増加率等から試算することはできるかと思いますが、何十万から百万の間を変動する状況かと思います。アッサムで反外国人運動や、その後も何度も移民が襲撃される事件も起きているので、私自身はそんなに多くないのではないか、何十万人というレベルではなく、もっと少ないかなと思っています。
2点目の外国人への支援はほとんど存在していない状況で、確かにそこは穴だと思います。参考にお話ししますと、今拘留されている人は何千人かと思いますが、ある拘留所の中で本当にバングラデシュの住所を届けている人は数人で、他はアッサム州に住所があり、家族の誰かと連絡が取れる状況だという報告書も出ています。
3点目の判断基準は示されています。投票カード等のいくつかの書類を示せばよいのですが、親とのつながりを示す書類を認めるかどうかは担当官によって裁量の余地があり、細かく見ると問題があるようです。
4点目の政策自体の撤回については、NRC(全国市民登録簿)を基に判断するという中で、その更新作業の妥当性や、それをどう扱っていくかということになるかと思います。アッサム州の中では、事例の男性もNRCには賛成だと仰っていて、反対する人はあまりいない。それがどう実施されるかという問題です。NRCをやめましょうと州内で声を上げるのは今難しい状態です。ただ、それをどのように実施するのかが問題です。間違いで拘留や追放される人がいないよう現地の弁護士さんたちが取り組んでいるので、そこを私たちはサポートしています。
5点目の日本の入管の収容者の問題について。じつは私もつい最近、知り合いの牧師さんが収容者の面会をずっと行っていると聞いて話を伺ったところでした。入管収容者の方たちの問題は、法の隙間からこぼれ落ちていた問題なのかなと思います。その方たちは在留資格が無いということなので、在留資格が無くても非人道的に扱ってよいわけではないですが、収容されるとしてもどれ位されるべきなのかといった議論がアッサムでもされてきませんでしたし、日本も似たような状況なのかなと思います。
市民権をはく奪された人びとが現地の市民社会で共存できる地道な支援を
参加者)国外からの支援はどうあるべきでしょうか。
木村さん)アッサムの問題は、ロヒンギャの問題とも似ているところがあります。それまで実質的に市民権が認められていた人たちが市民権をある日はく奪されるという問題だと思います。その人たちが暴力的に追い出されるとロヒンギャ問題になるのですが、アッサムは今のところ追い出しがないので注目されていないのです。ロヒンギャ問題を見ていて、取り組んでいる人たちでミャンマー内の実情を知っている人たちほど、あまり民族問題だと言わないでほしいとか、センセーショナルに騒ぎ立てないでほしいとか言われるのが腑に落ちないところもありました。しかし自分が支援を始めてみて、支援相手の人たちがアッサムのいろんな市民社会グループとどのように付き合ってくかを見ていると、センセーショナルな取り上げ方はあまりよくないと感じています。支援相手の人たちが危機にさらされますし、他のグループの共感も無いと州内の問題が解決していかないので、そこが難しいところだと思っています。
◆NPO法人ASTA 久保勝さん(共同代表理事)
『地方におけるダイバーシティ実現に向けた能動的市民の育成』
私たちASTAは、LGBTQをきっかけにさまざまな違いや多様性について考える機会をつくっています。
事業は三つの活動――LGBT出張授業・LGBT講演会・LGBT成人式――をベースに行っています。
とくに柱となるのがLGBT出張授業です。学校現場を中心に、行政、保護者の方、そして企業の方も含めて、LGBTの当事者、当事者の親、友人など周囲の人を巻き込んで、実際にうかがって出張授業を行っています。グループワークを行いながら近いところで当事者や当事者の親が話しています。
LGBT講演会は、出張授業を公に開催しているものです。
LGBT成人式は、例えばトランスジェンダーの方で自分の着たい服装が切れなかったり、周囲の目を恐れて行けなかったりする方が一定数いらっしゃるので、その方たちをはじめすべての人が「成りたい人になる」という意味合いの成人式の名古屋会場を運営しているものです。
LGBTとは、LGBTQとも最近言いますが、ご存じの方も多いかと思いますが、確認させていただきます。L(レズビアン)・G(ゲイ)・B(バイセクシュアル)・T(トランスジェンダー)とそれ以外のさまざまのセクシュアリティを含めた総称としてLGBTという言葉を使っています。
その人口は、2015年の電通の調査ですと、13人に1人(7.6%)。これが全国的に一番知られている数字かと思います。教育現場で言えば、40人学級で1人・2人・3人いるはずの存在。世界的にも5%から8%で推移していると言われていて、大事なのは人数の大小ではなくて、いるはずの存在であることです。
家族は、カミングアウトが一番しづらい相手だと言われています。実際に家族が言った言葉の中には、ネガティブな言葉の方が多く、みなさん実際に自分がその言葉を言われたらどうなのかと思うと心に刺さるものがあると思います。その家族の心境の背景には、突然すぎて何を言ったか覚えていない、心の準備ができていなかった、知らなかったといったものがあります。
すべての違いに対して、誰かのために力になりたいと思う人――ALLY(アライ)――を増やしたい
なぜLGBTが周囲にいないように見えてしまうのか。その背景は、カミングアウトできない状況にあることによって、知らない人たちの言動でさらに傷つき、自分のセクシュアリティを前提とした人間関係を築きづらいという負の循環が日本では今強く起こっているかと思います。
そこで大事だと思っているのが「ALLY(アライ)」という考え方です。一般的には、LGBTQの味方・支援者になりたいと思う、主に非当事者の人という捉え方がされやすいのですが、そうすると結局分断が生まれてしまう。だから、LGBTQをきっかけに、すべての「ちがい」に対して、一人のひとが誰かのために力になりたいと思う人を私たちの活動から増やしていきたいと思っています。
LGBTQに配慮した制度の地域間格差 地域に根差したアドボカシー活動の担い手を
本事業の目的としては、以上のことを名古屋中心に他の地方でも活動しているなかで、地域ごとに実態が異なることがつかめてきていますので、各地方において自分たちのような活動を行える能動的市民とともに、地域や国に対して制度や政策の提言ができる地域団体を創設することです。
例えば、全国における同性パートナーシップ制度の状況についての調査によると、制度のない県が多い地域があります。その一つである北陸に今回は注力します。
地域間の格差がすごく存在しています。LGBTQに対する偏見や差別などが根強く残る北陸の方たちの話を聴くと、「当事者であることを言うこともできないから名古屋に出てきたよ」という方もいる。その地域に根差したアドボカシー活動を展開していくことが必要だと考えております。
そこで、一緒に成長して、市民運動のリーダーとなれる方々と連携していきたいと思っています。
具体的な内容としては大きく2つあり、一つが「地域連携型LGBTQ出張授業」事業です。グループワークをオンラインで行うノウハウも少しずつ手に入れつつありますので、オンラインで現地とつなぎながら、現地の当事者とその親・友人の方たちと実施します。
二つ目が、「地域団体活動支援」事業です。各地域の市民団体が自立して活動できるように、そのフォローアップ、そして勉強会を共同で開催して一緒に学んでいくことをとくに北陸地域に焦点を当てて行っていきます。
予想される課題と展望について最後にお話しします。
課題としては、画面越しの対話はコロナ禍のなか北陸という遠方になるのでとても大事になるのですが、その対話をいかに実現していくのかです。というのは、オンラインのスキルはもちろんですが、自宅から参加しづらいという人が、特にLGBTQに関するテーマでは多くいらっしゃいます。家族にカミングアウトしていない方は親に聞かれたらどうしようという問題もありますので、自宅から参加しづらい。そこをどうクリアするのかということを、オンラインは参加しやすいと言われる一方で考えていきたいと思っています。
そこからの展望は、画面越しの希望があると思っています。北陸のように当事者の方が可視化されづらい地域において、私たちの名古屋からの話を聞き対話交流することによって、「こういう人たちもいるんだ」という一つの安心感から、その方たちのオフラインの日常を変えていくきっかけになればと思っています。
Accept International 田口敏広さん) 本当に大事なテーマで、僕の周囲にもLGBTの友人がいて、家庭との問題や、打ち明けることを悩んでいる等についてたくさん話してきたので、非常に素晴らしい活動だと思いました。僕も地元は愛知県なので、友達にこんな活動があると薦めたいと思いました。
今年はコロナでLGBTQの成人式は名古屋でどうされたのですか。
久保さん) 成人式の今年度についてはいろいろ検討したのですが、オンラインにするか、ただ式の性質的にはそこで一堂に会して安心感がうまれるとか。でもオープンなイベントにしてしまうと、参加の安心感が難しいだろうと。そこで、名古屋のレインボープライドと共同してできないかなと思案しているところです。
田口さん) 場の安心感は大事ですね。
久保さん) つながりやすいということが、逆にその人にとっての居場所を無くしてしまうこともあるので、冷静な視点を持って進めたいと思います。
地域にリーダーを見出し、地域をつなぐ
田口さん) 親や周囲との関係性ですごく悩むという点は伝わってきたのですが、北陸でアドボカシー活動をしていくにあたって、生活上の悩みは想像しやすいのですが、制度的にLGBTQの方がどういう意味で人権を保障されるべきかという観点で、アドボカシー活動の目標はどういうところでしょうか。
久保さん) 例えば先ほどの同性パートナーシップはわかりやすいものですが、差別禁止法も一つ軸としてあるのかなと思っています。そんなことを言うと、何も言えない世の中になるではないかいう声すぐ聞こえてきそうな気がしますが、実際、法律でセクハラに関して触れられる文脈がこれまでにあったように、何かが法律で規定されると、それを前提とした人びとの認識が生じてくると思いますので。そういうものを今は草の根で、各自治体が取り組んでいて、それは翻せば国が動いていない現状からなので、自治体の取り組みをとりまとめて最終的には国に提言をしていくところが北陸からも出てきていただけるようにやっていけたらなと思っています。そのためには、例えば福井県のある自治体さんだけがやるとその自治体さんだけが孤立してしまうので、それを、愛知県の方で先駆けて取り組んでいる自治体さんとオンラインでつないでノウハウを学び合いながらみんなでブラッシュアップして行けたらなと思います。
田口さん) 各地域に展開していくという活動が本当にすごいなと思いました。以前の例だと、性暴力に関するアドボカシー活動で法改正まで行った、Springさんとか、ちゃぶ台返し女子アクションさん等いろんな団体が共同してやった事例も、各地域にリーダーをつくってやっていったというのを目にしまして、横展開をして草の根で進めていくアプローチに感銘を受けました。
身近なところに理解者がいると人生が変わる カミングアウトした我が子を受け入れた親の道程
「対話」に関して、私たちは加害者とされる方と対話を通じて社会復帰につなげていくというアプローチをしていて、対話の重要性を感じています。今回のASTAさんのテーマにおいて、当事者の方や親御さんが初めてのワークショップ等ではなかなか理解が得られない時もあると思います。知らないから分からないという状態から、知ったとしても理解するかどうかは別の話になりますので、そういう時に対話をASTAさんはどう工夫してなさっているのか興味深く、聞きたいです。
久保さん) 出張授業の前後で必ずアンケートを実施させていただいているのですけれども、例えば教職員の方で言えば、友人や自分の教え子たちの中にいたら抵抗感は少ないという方は初めての機会でも多いのですが、では家族の中にいたらどうかというと、それは話が別になってくるのです。出張授業において、人数としては前後のアンケート結果の違いで効果をある程度見られるのですが、それでもなんとなく受け入れられないなというところをいかにクリアしていくかは難しいと認識しています。
その上で、対話をしていく中で意識していることは、身近なところにその人の理解者がいるかどうかで、その人の人生が違ってくるということを、生の声で聴いていただきたいと私たちは活動しています。活動している当事者の親というのは、子どもからカミングアウトされた時すんなり受け入れられた方のイメージがあるかと思いますが、その逆の方もいらっしゃいます。10年以上、親子が疎遠になって、それを乗り越えた方もいる。一般的には、後者の方のように疎遠になる方が多いのかと思います。そういう方から、どういうふうな葛藤や迷いを通して、その先に何があったのかという話を聴くと、決して感動を誘っているわけではないのですが、涙を流される保護者の方もいらっしゃいます。「これって他人の話ではなく、自分の子どもがそう言い始めた時、あるいは自分の子どもが学校で当事者の子が周囲にいた時に、寄り添って味方になれる存在になるのか拒絶していじめる存在になるのかは、家庭での役割である」との保護者からの声をいただくこともあり、そのように感じて帰っていただけるというのが私たちの出張授業のゴールでもあります。
参加者) 十数年前にアメリカのLGBT支援団体を訪問したことがあります。そこの活動の一つは、当事者の親に向けたカウンセリングでした。特に、ピアカウンセリングが主だったと思います。子どもから告白されてパニックになり、親も自分を責めたりする中で、他の同じような親と知り合い、体験を語り合うことで、子どものことを理解していけるようになるということでした。
久保さん) 親、身近な立場の重要性は認識しています。カミングアウトしづらいテーマでカミングアウトする時、本当に最後、死を選ぶ直前でカミングアウトする当事者の方もいらっしゃる。そのカミングアウトを受けた時、その重大さを受け止めた親御さんの中には、日本にあった事例で、子どもからカミングアウトを受けたその夜にお母さんが亡くなられた方もいらっしゃいます。
だから、親同士のネットワークはすごく大事だと思っています。ASTAにも相談が多く入ってくるのですが、例えば、「うちの子が中1になって夏休みくらいにはもう制服を着たくないと学校に行きたがらなくなりました。どうしましょう」ということで、実際にその経験をした当事者の親御さんとつないだこともあります。
ASTAとしては教育委員会さんにかけあって、まずは周りの大人、保護者が変わっていくような研修を行っていくことが大事だと思っています。そのネットワークづくりのためにもASTAがハブ的な役割を担えたらと思います。
参加者) 子どもが不登校になった親の反応と似ています。フリースクールができて不登校も居場所ができてきましたが。日本社会にもっと多様性を認める雰囲気と制度が必要なのでしょうね。LGBTと障害者や不登校などマイノリティの連携した活動はありますか。
久保さん) 他のマイノリティが抱える問題と共通する部分は大きいと思っています。ダブルマイノリティと言われる方――マイノリティの中でもさらにマイノリティ性を抱えていて生きづらいという方――と連携して、ASTAでは聾の方――聴覚に障害がある方――と連携して聾とLGBTのダブルマイノリティについて考える企画も行っています。
やはり、根底のところでつながってくる。先ほど、ALLYと申し上げましたが、田口さんが事例を挙げられた性暴力に関して言えば、ASTAと性暴力に取り組む団体が連携した時に、「これって、私にもALLYがいてくれたら、あの時もっと楽だったな」というところでつながる。そのマイノリティ性を共通認識としてやっていきたいと思っています。
――対話交流会――
上村英明さん・SJF運営委員長)
今日は4団体の方に来ていただきまして、参加者のみなさんは、SJFは多分野のテーマに助成していてどういう基金なのかと思われるかと思いますが、私たちは、それぞれの団体が取り組んでいるテーマは実はつながっていると思っています。
一つの市民社会のなかで、いろんな分野に必要な活動があって、個々の団体が取り組めばよいというだけの話ではなくて、社会全体でどういうふうにつながりを生かしていけるのか、というところまでいかないと、SJFの目的が達成できないのではないかなと思い、こういう交流集会を設けさせていただいています。
社会的公正―民主主義の形骸化・市民社会の暴力的化を防ぐ要諦― 他の問題を受容できる関係性で実現
市民社会自体、僕ら市民だと思っていて、ふつうに生きていいじゃないか思うのですが、僕らも変わらなくちゃいけない時に、変えようとちゃんと思えるかはすごく重要だと思います。なぜなら、変えるということはすごく怖いこと。今までなんかよくわからなかったけど、そのままやっていればいい、と思うようなことがあっても、例えば先ほどのFoE Japanの柳井さんの話で言えば、自然を犠牲にしてまでも、またコロナの時代に「便利な」大都市集中って必要なのと言えば、僕ら自身が変わらなくちゃいけない。LGBTもそうだと思います。自分のことでなければ、そのままでいいとか、保護司も正に、まあ頑張ってねと言われる、せいぜいそのくらいという状況の中で、僕らがそれで終わってしまえば、市民自体が不公正を着た暴力になり得ると思います。
トランプの支持者はそうですよね。白人優位がいいとか、地球環境に対応する必要はないとか、移民や難民は来ない方がいいに決まっているとか市民自身が言って、民主主義を壊すかもしれない。
そういうなかで本当に僕らの社会は、危機的な状況にあって、それを覆していく仕事ができるのは、まさにこの基金の名前ですが、「社会的公正」、「Social Justice」というところを我々がどういうふうに意識するかということです。
でも、一人ひとりはいろんな問題をできるわけはないです。せいぜい自分の目の前のことをがんばってできる程度なので、どうつながれるのかという議論をしっかりしておくべきだと思います。他の人が取り組むテーマに共感できるのは、自分が取り組む問題でいろいろ物事を変えてきたからだと思います。だから、知らなかったけど、何か問題があったら、それも重要だよねと、受容できるような関係性を僕ら一人ひとりがもう少し持てれば、社会全体がいろんな意味で良くなっていくと思います。
それがなければ、僕ら市民だよとか、市民社会は大事だよとか、民主主義あるもんねとか言っても、それが形骸化していく。あるいは、全く逆の暴力的な市民社会になっていくということも決して絵空事ではないと思っています。
せっかく4団体の方が集まって来られたので、参加者のみなさんも含めて、意見交換できたら、新しいつながりの入り口ができるかなと思います。
土屋真美子さん・SJF運営委員) 確かに今日の4団体の話からは、どうつながっていって、どう変えていくのかについてのヒントはあったかと思います。
最後に久保さんが言っていた「ALLY」という存在はとても重要だと思います。おそらくテーマごとにみんなALLYになっていく。いろんなALLYになれるといいなと思いました。
そういう点でも、今日は知らなかったことも結構出てきましたし、共通するテーマとしては、みなさん「見える化」を考えているのだと思いました。その点で、最初の田口さんの話は、保護司は知っているようで知らない点も多く、民生委員をやっていた大河内秀人さん(SJF企画委員・審査委員)にお話を伺いたいと思います。
大河内秀人さん) 私は民生委員のなかでも主任児童委員という子どもを対象とした委員を10年間していました。民生委員も保護司もそれぞれ大人も子どもも対象としていまして、民生委員は福祉の分野で、保護司は司法の分野かと思います。
保護司については、私の本職は寺の住職であり、仲間の多くが保護司をしています。この保護司の世界は市民社会というよりは、古い村社会を基盤とした人たちが多く、日本ではそういう村社会をベースにした制度が過去から積みあがってきています。
今は「多様性」と言われていて、さまざまな社会問題が複雑化してきて、行政もコントロールできないことが増えてきた中で、市民の力が本当に大事だなとみんなが思い始めた。ボランティアも、阪神大震災の後に増えてきて、NPOという制度もできて、市民の役割がある程度見えてきた。そういう意味では、今は端境期にある中で、民生委員もそうですが、保護司制度にAccept Internationalさんが若い力をどんどん注ぎ込んでいこうということは、必要とされることでしょうし、面白い展開になっていくだろうなと思います。
自己肯定感を一緒に高めていくアプローチで
参加者) 僕は70歳を超えており、友達に保護司をしている者がおります。イメージとして「保護司」というのは、かつて犯罪をした人に対する指導や善導で、上から目線の立場にある、これから法の道から外れないようにしていくというのが個人的にはある。
でもそうではなくて、Accept Internationalからソマリアのテロリストの話が出てきたように、そういう人たちの自己肯定感を一緒に高めていくアプローチがとても必要だと思います。日本で「おい、こら」の指導のイメージがある「保護司」というネーミングを変えたらどうか。北欧やニュージーランドでは、保護司的な立場の人は薬物依存の人に対しても、自己肯定感をとても大事にしていく人間関係があると思います。「保護」やないんやろな、一緒に歩むんやろな、そういう気がします。
参加者) 再犯を防ぐことが犯罪を少なくするというところが目から鱗だったのですが、比較的いま再犯をする人たちは高齢者が多いということはないか。若年者の保護司さんを増やすというお話でしたが、再犯者の年齢構成はどうでしょうか。
まさに保護司さんもALLYになったらよいのではないかと思いながらお話を伺いました。
田口敏広さん・Accept International) 自己肯定感に関しては、少年院や刑務所内での処遇の中で矯正心理士という心理専門の方が受刑者のバックグラウンドを聞いたり認知療法をしたりするアプローチが行われている部分はあります。
最近行われている取り組みとして、官民共同の刑務所が全国に3か所あり、そこではロボットがご飯を運んできて、囚人の管理は民間警備会社がするのですが、その中で、セラピーサークルである「TCユニット」というアプローチが行われています。これは、囚人同士が対話を通じて、お互いのバックグラウンドや自分が犯した罪について、ロールプレイイングで被害者やその家族の役割を演じてもらう中で、その人自身が傷を癒していくというアプローチです。実際これは効果を上げていて、TCユニットを受けたメンバーは再犯率が半分程度になっている。これは映画『プリズン・サークル』でも放映されていますので見ていただけたらと思います。
自己肯定感は再犯率においてもポイントだと思います。
再犯者が高齢化しているのではないかという点については、そもそも日本全体の人口が高齢化しているので、犯罪者が高齢化するのも自然な話です。保護司さんの世代も同様に高齢化していて、ほとんどが60歳以上となっています。
ただ、少年犯罪の凶悪犯罪件数等は減ってはいるのです。法務省の方や少年鑑別所の方から話を聴くと、現場の感覚としては、犯罪者数は減ったかもしれないけど、難しい人が残ったと感じているそうです。いろんな生きづらさを抱えて、司法それだけでは扱いきれない人が多くなっている、残っているという状況があります。そこに対して、法務省からも保護司側がそういう多様性に対応できるようになって行かないといけないという話を伺いますし、保護司さんからも若い人と話していても言語が通じないレベルで何を言っているかわからないという話がありまして、保護司側が今の犯罪者の変化に対応していく必要があると現場の声を伺っていて思います。
参加者) いわゆる専門家の役割が気になっています。とくにLGBTの場合、教師や医師でも理解はどの程度なのか。今の専門家の養成課程の中で扱われていることはあるのでしょうか。他の分野でも、専門家こそ両極化することがよく見られます。それぞれの活動テーマでどうなっているのでしょうか。
久保勝さん・ASTA) 特に教育分野に関して言えば、私自身が国立の教員養成大学の出身で、その学生の時、5年程前に中学時代の同級生にカミングアウトを受けて初めてLGBTという言葉を知ってこの活動を始めたのですが、その時に、自分の小中高の学生生活や教員養成課程の授業を振り返ってみた時にLGBTのL文字も出てこなかったというのが自分の活動の原点です。教育実習に行ってみても、自分は社会科の免許だったのですが、指導教官の先生から「織田信長をホモと言っておけば生徒は喜ぶぞ」と言われたこともありました。そういったところで、現場レベルでもそうですし、教員養成や教員になった後の各研修でも必須のテーマとして扱われていませんし、ASTAの活動で教育現場からの要請が多いということは、裏返せばまだまだ理解が進んでいない現状があるのかなと思います。
医療分野についても、医療関係者に向けて出張授業に行かせていただくことがあるのですが、集中治療室には家族関係が認められないと入れなかったりする。そういった「家族だから」ということがまだベースにあるので、そこへの知識や理解だけでなく、制度改革が必要だと思います。
柳井真結子さん・FoE Japan) 専門家はキーになります。いわゆる御用学者と呼ばれる方たちが委員会等に選ばれてしまって、中立な立場の専門家や会議自体で議論されるべきテーマにあまり関係のない専門家で委員が揃えられるといったことが行われてきています。
一方で、意識の高い専門家の方々はリニア問題に対して長く声を上げていらっしゃって、市民活動としてはそういった専門家の方々の科学的知見と連携しつつ運動を進めています。
木村真希子さん ジュマ・ネット) インド北東部は私以外に取り組んでいる人がほとんどいない。紛争地で外国人が基本的に入れないので。この分野だと、他の似たような事例であるロヒンギャや市民権・入管収容の問題に取り組む人たちとの連携が重要だと思っています。
先ほどのLGBTへの理解についての話で、私は津田塾大学で教員もしていて、我が大学で2年ほど前にLGBTの方を受け入れるかが問題になった時、実際に受け入れるとなると更衣室はどうするのか等ちょっと本筋ではないようなところで引っかかっている人がとても多かったのです。そういう時こそ、その問題の専門家の方のお話を伺えばよかったと思いますが、少なくとも全学的にとか学生に対してそういう機会は無かったのが残念です。
田口敏広さん・Accept International) 法務省や更生保護領域はわかりづらい領域で、かつ加害者は共感を得にくい側です。被害者性を僕たちも話しましたが、例えば先日のニュースで、鹿児島で15歳の少年が女性を刺殺したという事件がありましたが、僕個人としても非常に悲しい報道ですし、その少年をどう処遇していくかは難しい問題です。ただ報道によると、少年は小さいころから障害を持っていて周囲とのコミュニケーションが上手くとれなかった。ではそこを前面に出していくのか、彼は許されるべきなのかとなると、すごくディープなテーマで、罪と罰みたいな話になって、皆さんの意識の中に考えることへの抵抗が生まれやすいテーマなので、専門家しか話さない話題になってしまう。繊細なテーマなので、どう「見える化」していくかについては、僕たちも慎重にかつみなさんに分かっていただけるように議論を進めていければと思っています。
参加者) 私は小中高の3人の娘を抱えながら市民活動をしています。できる人だけがやる市民活動ではなくて、暮らしの延長線上にこういう活動を組み込めないのかなと考えています。まちづくりにも関わっていると、人生を投げうって関わっている素晴らしい人がいる一方で、あの人でないとできないんじゃないとなると広がりに限りがある。子育てをしているお母さんたちでも、カフェに行くぐらいの気持ちで、ちょっと週末30分だけあそこの活動を覗いてみようかなと参加できるよう、敷居が低いといいと思っています。
身近なALLYにいかに一人でも多く巻き込んでいけるかというところに焦点を当てていきたい時に、意識高い系の人だけがやっていると思われないような、もっと面白いとか、これをやっていると喜びを感じられるような活動だと良いと思います。
市民社会の一員として、子どもたちのためにどう責任を果たしていくか、そこをみんなで考えたいなと思ったので、今日のご登壇のみなさんにヒントを頂けたらと思います。
柳井さん) 私たちFoE Japanはネガティブキャンペーンと言われるものをやっている中で、もっとポジティブに社会に働きかけられないかと日々悩んでいます。最近若い人たちと一緒にキャンペーンをやることがありまして、巻き込みづらいという話をよく聞きます。なので、例えばリニア開発の問題提起をする時には、問題を周知しながらも、「こういう社会にしていきたいね」という夢のある話が大事で、そのために必要なものと不要なものをどうしていくかという議論につなげていきたいと思います。明るい話で市民を巻き込みたいと思っています。
木村さん) 私も娘が幼い間活動をストップしていたのですが、皮肉なことにコロナでほとんどの活動がオンラインになって活動に戻ることができました。じゃあ、子どもと一緒にオンラインでその活動をできるかと言えば、できないですし、確かに私のやっていることを街角でできたらいいなと思う一方、どうやったらよいか――。
目指したいのは差別解消や人権保障なので、まず出てくるのは「問題があるから是正しましょう」なのですが、その部分を子どもにそのまま伝えられるかというと、今は子どもに話していません。目指したいのは確かに、「みんながどんなところに生まれて、どんな素質を持っていても差別されない」ということなので、そこをどういうふうに上手く見せるのかというところだと思います。
田口さん) 僕たちが海外のテロに対する活動ですごく重要視していることは「一人の目の前の人の人生にフォーカスを当てる」ということです。今回、他の団体さんもそうですが、最終的にはそこにいる一人の方の人生や生活が変わることが目標だと思います。僕たちはテロ団体を相手にしていて、何人のテロリストを辞めさせても、結局テロリストが増えたとかテロが終わらないとか、活動のなかで悔しく思うこともあるのですが、僕たちの活動によって、犯罪をしなくなった、テロを辞めた、人を殺さなくなったということが、一人の方に実際に起きていることに、やりがいと周囲の方への理解を得られるので、「一人の方」というところを忘れずにフォーカスを当て続けて、周囲の方をドライブして行けるようにしていきたいと感じております。
久保さん) 日常の中にいかに溶け込ませられるか。メディアによる捉えられ方がすごく大事だと思います。何か小さなことを大きくとらえて、大事なことを全然とらえてくれないというメディアの報道の仕方が、少しずつ変わってくれれば。たとえば映画やドラマ、漫画の中で日常的にとらえられる話題が増えていけば、僕も平日は会社員として働いていますけれども、日常の隣のデスクの人に「この話って、どう思う」みたいに日常的な話をできるような社会の雰囲気に自分も最初の一歩を踏み出していきたいなと思っています。
――閉会挨拶――
大河内秀人さん・SJF審査委員) ここ数年、世界で民主主義や正義が汚されてきた中で、頑張らなければいけないなと年々強く思っております。我々、Social Justiceとか、民主主義とか市民社会がキーワードになるのですが、何をしていかなければいけないのかというと、一人ひとりが自分事として社会に参加して、いろんなことに目をつぶらずに一つひとつ丁寧に付き合っていくこと。SJFの活動の軸は、見逃されがちだが大切な問題についてのアドボカシー活動をしている人たちを支援していくことも一つですし、もう一つの軸が「対話」です。「対話」は「暴力」の対極にある言葉だと思っています。
次回のアドボカシーカフェ(ご案内下記)でみなさんと対話できましたら幸いです。今日のお話の中でも、現場で活動している人たちから伝えられる実態と、問題解決にどう関わって行くかのヒントがたくさん出てきたと思います。このアドボカシーカフェでも、いろんな分野の人が参加してくださることによって、お互い見えてくることがあると思います。
今回新しく4団体に1年間の助成をさせていただくことになりましたが、昨年度位から助成申請や助成報告における評価軸として、「当事性」が入ってきております。自分事としてみなさん捉えていくことも非常に大事だと思います。私が経験した民生委員にしても、近所のおせっかいなおばさんやおじさんではありますが、ある意味そういったところが基礎なのかなと思うこともあります。
大変有意義で楽しい時間を過ごさせていただきました。みなさんでソーシャル・ジャスティス基金を支えていただきたいと思います。ありがとうございました。
◆次回アドボカシーカフェのご案内
『生きる―重い罪を犯した人の社会復帰と刑罰のあり方―』
【登壇】古畑恒雄さん(弁護士・更生保護法人「更新会」理事長)
マヒル・リラックスさん(トランスジェンダー コラムニスト)
塩田祐子さん(監獄人権センター職員)
【日時】2021年3月2日(火) 13:30~16:00
【会場】オンライン開催
【詳細】こちらから