ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第5回助成最終報告
公益社団法人 子ども情報研究センター 活動報告(2019年1月)
◆団体概要:
子どもを社会の一員とし、人権を尊重しともによりよい社会を求めていくパートナーととらえ、子どもとともに生きる社会を求めて活動している。
子どもの権利条約の理念のもとに、子どもへの差別をなくし、ひとりひとりの人権が尊重される社会を目指して、保育、子どもアドボカシーを基調とし、保育、相談、講座、研究・出版などの事業を展開している。
◆助成事業名・事業概要:
「障害児施設市民訪問アドボカシー事業
~障害のある子どもたちの尊厳を守るために~」
施設で暮らす子どもの人権が大切にされるように、子どもの声を聴き、代弁や権利擁護を行う市民アドボケイトによる施設訪問アドボカシーを試行的に行う。市民アドボケイトを育成し、アドボカシーのモデルをつくることによって、広く市民に障害児の人権いついて啓発し、政策提言にもつなげていく。
◆事業計画
2017年1月~3月 市民アドボカシー派遣対象施設職員との協議
市民アドボケイト派遣体制の検討
4月~8月 市民アドボケイト訪問開始
(子ども・職員と知り合い、施設の生活を知る機会をつくる)
子どもワークショップ・職員ワークショップ各2回開催
9月~ 権利擁護・代弁活動開始
毎月専門家を含めてのスーパービジョンのための事例検討会開催
2018年8月 子どもワークショップ・職員ワークショップの開催
アドボケイト試行派遣終了
9月 活動成果をもとに、多くの市民・関係者と対話するための
市民子どもアドボカシーフォーラム開催
12月 報告書「障害がある子どもの声を聴き、権利を守る」作成
◆助成金額 : 100万円
◆助成事業期間 : 2017年1月~2018年12月
◆実施した事業と内容:
2017年1月から、訪問対象の施設をそれまでに行ったアンケートをもとにしぼり、施設側との協議に入る。4月より、前年度に養成された市民アドボケイトを交えて、さらに学びを深めながら、市民アドボケイト派遣体制を検討する。
2017年1月~ 毎月、施設市民訪問アドボカシーの検討会実施
4月、5月 施設との連絡調整 訪問方法の検討
6月~8月 事前訪問(毎週)
7月 施設職員ワークショップ
子どもワークショップの開催(施設の外で)
(写真=子どもの権利ワークショップの様子「施設のくらしをはなそう」)
8月 訪問アドボカシーの実施に向けて、施設職員説明会開催
9月~ 訪問アドボカシー開始
毎週、訪問…必要に応じて、スーパービジョンの実施
毎月、検討会の実施 定例のスーパービジョン
子ども委員会 イベント
2018年3月 活動中間報告会
4月~ 訪問アドボカシー活動
個別に話を聴く
システム検討会でアドボカシー
毎月の検討会
定例と必要時のスーパービジョン
研修(障害児に対する性暴力 エピソード記述)
8月 活動報告会
「子どもたちが想いを表明できる社会に」
9月~ 報告書作成 並行して、訪問活動は続く・
「障害がある子どもの声を聴き、権利を守る」
◆事業計画の達成度:
ほぼ、計画通りに進んだが、訪問にいたるまでの施設職員との協議や体制づくりには、予想以上に時間がかかった。ひとつの要因として、施設職員のいそがしさがあげられる。会議、ワークショップ等にたっぷりした時間がとれない。
職員のいそがしさ、施設全体の余裕のない時間の流れが、ともすれば無意識の子どもの権利侵害につながるかもしれない場面にもでくわし、「権利のモニタリング」ということも訪問する上での重要な役割であることを知る。
障害をもつ子どもたちとのコミュニケーションは、困難であるというよりも、もっと斬新なものであった。魅力的である。また、子どもたちが権利に気づいていないところでは、権利侵害について自ら語ることもないことも知った。日々の訪問の楽しさの中、アドボケイトの役割をどう果たしてくのか、ジレンマがあった。
スーパービジョン、子ども委員会、システム検討会、権利のワークショップを重ねながら、2年目では、個別の声を聴く体制を整えていくことができた。また、子どもにもアドボケイトが認識され、子どもの声を聴いて、それを子どもと考え伝えることもできてきた。さまざまな地域で活動に興味を持ってくださる方々に出会い、障害児の権利の啓発、今後このような活動の必要性を広く発信し、共有することができた。
◆助成事業の成果・助成の効果:
初めて施設訪問をしたときに衝撃は今も忘れない。何もないプレイルームで十分なあそぶ権利も補償されていない、生活の場なのに、一人ひとりがほっとできる空間もなかった。20人くらいが集まるプレイルームに職員は1人~2人で、余裕がないように感じられた。そしてそのしわよせが子どもにいっているのではないかと懸念された。
アドボケイトが訪問を重ねると、子どもたちは、あそびたい気持ちを思いきり出してくれた。そんな意見表明を受けとめながら、個々困っていること、したいことなどに耳を傾けた。ことばのない子どもは、その表情や行動から聴かせてもらうこともあった。権利モニタリング機能をもちながら、子どもの声を聴くことを重ねると、職員の表情がかわってきたような実感がもてることがあった。
アドボケイトの役割も少しずつ、子どもたちに浸透してきていることも感じられた。アドボケイトの存在意義が認識されてきたのか、子どもたちから個別に話を聴いたり、外出して話を聴いたりすることに施設側は協力的になり。子どもたちは、職員のいないところでの表現をアドボケイトに見せてくれた。
子どもたちにとって、市民アドボケイトが自分たちの目線で施設の中をみてくれて、そこから権利を伝えてくれるという出来事は、今までになかったことと思われた。権利に気づき、表現していくということが子どもによってそれぞれであるが、着実に前に進んだ。成果といえるだろう。施設側が、アドボケイトを理解し、必要なものであるという実感を持たれたことも成果である。
児童福祉法改正(2016年)により、法の基本理念として子どもの権利条約が位置付けられ、「全て国民は…その(児童の)意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮され、心身ともに健やかに育成されるよう努めなければならない」(第2条)と規定された。これを受けて策定された「新しい社会的養育ビジョン」(2017年)では「平成31年度にモデル事業、それに基づきできるだけ早期にアドボケイト事業を実現する」となっている。自民党「児童の養護と未来を考える議員連盟」が「訪問アドボカシーなどの予算措置及び権利擁護の仕組みの構築」を求める決議を2018年8月に行った。
このような状況の中で、本事業の成果として、報告書『障害を持つ子どもの声を聴き権利を守る』を作成することができた。その中で、障害児施設訪問アドボカシーの制度化に向けて、①施設訪問アドボカシー制度化に向けての政策の動き、②施設訪問アドボカシー提供体制:利用契約を中心に、③施設訪問アドボカシーの倫理・原則と実践方法、④権利のモニタリングと非指示的アドボカシー、⑤ピアアドボカシーと障害者運動との連携の重要性、⑥アドボケイト養成とスーパービジョンの6つの観点から、施設訪問アドボカシーのシステム及び実践のモデルをつくることができた。
◆助成事業の成果をふまえた今後の展望:
施設は、子どもの声を聴いて子どもともによりよい環境をつくろうとしない限り、施設が施設であり続けることへの懸念はつきまとう。特に障害をもつ子どもたちの声は、なかなかきこえてこないかもしれない。なかなかであるということは、この助成を通しての活動でよくわかった。声をあげる前に子どもたちが、権利を知り、今の状況から気づくことが必要である。そうなると、おのずと、アドボケイトのかかわりがみえてくる。子どもが集まるすべてのところにアドボケイトは必要なのかもしれない。もっとも声が届いていないかと思われる障害児施設の子どもたち。この子どもたちからうけとめた意見表明を今回、冊子にした。至るところに伝えに行きたい。各地でアドボケイト養成の講座を開く準備があるときいた。そんなところともつながり、大きな力となって、障害をもつ子どもにとってもっともよい育ちを社会で考えていってほしい。
また本事業の成果として、施設訪問アドボカシーのシステム及び実践のモデルをつくることができた。このモデルにより、国、大阪府にロビー活動・政策提言を行っていきたい。さらに現在全国で子どもアドボカシーを進めようとする団体によりネットワークを作る動きがある。その活動の中で、本事業の成果を伝え、発展を目指したい。