ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第4回助成事業 最終報告
NPO法人 OurPlanet-TV 活動報告(2017年9月)
◆団体概要:
2001年に設立した非営利の独立系インターネットメディア。マスメディアでは扱われにくいテーマを中心に番組を制作、配信している。3.11以降は主に、福島原発事故の被害に関する取材を重ね、科学ジャーナリスト大賞などを受賞している。
◆助成事業名:『Support and Survey on Young Generations/SOYプロジェクト~保健室および地域の健診データ記録・蓄積化~』
国内で実施されている市民および自治体独自の健康診断について調査し、より有効な実施指針を示すとともに、検診結果の集約・蓄積につなげていく。また、子どもについては、学校保健での記録が重要であることから、学校養護教諭に向けたアセスメント方法や健康記録の体系を示していく。
◆事業計画 :
本プロジェクトは、以下の2つの内容を同時に推進する。
(1)独自健診の調査およびベストプラクティスの提示
現在、市民および自治体などが独自に実施している健康診断等の取り組みについて調査し、より有効な実施指針を示すとともに、検診結果の集約・蓄積につなげていく。
(2)学校保健活動をサポートする手引き等の提示
主に、汚染状況重点調査地域の養護教師らと意見交換を重ねて、ネットワーク化を支援するとともに、子どもたちの健康状態を把握するアセスメント方法や健康記録に関する先行事例を集め、学校保健で活用できる手引きを示していく。
◆助成金額 : 100万円
◆助成事業期間 : 2016年1月~2017年7月
◆実施した事業と内容:
【調査事業】
第1回調査(福島) 2016年1月8日~9日
(1)浪江町健康保健課 保健課長以下3名ヒヤリング(健診等について)
(2)福島県内の養護教師 計5人と意見交換
フィールド取材(千葉) 2016年2月~3月
(1)甲状腺検査千葉の会
(2)関東子ども健康調査支援基金
第2回調査(宮城) 2016年3月15日~16日
(1)宮城県色麻中学校 保健室訪問
(2)宮城県真山中学校 保健室訪問
第3回調査(北茨城・いわき)2016年7月26日〜27日
(1)北茨城市役所 5名ヒヤリング(甲状腺検査について)
(2)いわき放射能測定所「たらちね」ヒヤリング(事業について)日本医師会総合研究所(健診データベースについて)
ヒヤリング(東京)2017年1月24日
日本医師会総合研究所(健診データベースについて)
【学校保健実践に関する調査&ネットワーク化支援事業】
宮城県
(1)養護教諭との交流 2016年6月11日
(2)宮城県養護教諭の研修会を視察・意見交換 2016年12月13日
茨城県
(1)茨城県水戸市にて養護教諭(高校)と勉強会 2016年7月26日
(2)茨城県北茨城市の養護教諭(小中)と意見交換 2016年7月27日
【調査のまとめとアウトプット】
成果物の作成
1.一般市民・養護教諭向けブックレット作成(2017年1月~3月)
2. サイト【SOYプロジェクト】の構築(2017年5月〜6月)
成果物の普及
1.報告会(参加者100人)&対話集会(30人)(7月24日)
2.動画の公開(随時)
※共催したSJFアドボカシーカフェ:
『3.11後の子どもと健康―学校と保健室は何ができるか―』の報告はこちらから。
◆事業計画の達成度:
(1)独自健診の調査およびベストプラクティスの提示と(2)学校保健活動をサポートする手引き等の提示という大きな柱のうち、(1)はかなりの成果があり、ブックレットに記録したほか、報告会を兼ねたシンポジウムでも披露でき、計画は一定程度達成できたと思う。とくに、これまで記録化されてこなかった福島以外での様々な取り組みについて、活字による記録がなされたことに、大きな反響があった。
(2)に関しては、「将来に役に立つ健康記録を残そうと、何か良い記載方法や書式のマニュアル」がないか模索してきたが、養護教諭と議論を重ねる中で、私たちが重視すべき視点は、「子どもを一人ひとり丁寧に見ること」であるとの結論に至り、マニュアルを提示することは見合わせた。一方、チェルノブイリの健診指針などを書籍・サイトに掲載するなどして、考え方を示すにとどめた。養護教諭のネットワーク化はまだスタートに立った段階だが、今後の道筋をつけることができ、大きな成果があったと思う。
◆助成事業の成果・助成の効果:
本プロジェクトはその内容の一部を岩波ブックレット「3.11後の子どもと健康」にまとめているが、出版記念シンポジウムへの関心は高く、東北から関西まで計100人の方が来場。また本書は発売直後から売れ行きが好調で、講演先などでも50冊~100册とすぐに売り切れる状態となっている。関東地域で50册単位も注文があるほか、学校での購入、読書会の開催など、様々な形での活用が広がっており、被曝影響を気にしていても人には相談できない市民、教師などから、問い合わせも相次いでいる。
※本プロジェクトとは直接、関わりはないが、本プロジェクトメンバー3人が深く関与する形で、2016年7月「3.11甲状腺がん子ども基金」が設立し、がんの子どもたちを直接、支える仕組みが別途スタートした。
◆助成事業の成果をふまえた今後の展望:
書籍の刊行と同時に開設したサイトを通して、関心を持つ市民・教師とコンタクトをとったり、オンラインで議論できるようなフォーラム環境を構築している。
今後、養護教諭が互いに情報共有を行い、学び合える環境ができるよう、大谷尚子さんを柱に、更に努力を続けていきたい。
また、保護者、スポーツクラブや塾の先生、地域の人、医療関係者、子どもと接するす多様な立場の人たちともつながり、原発事故に伴う被曝と健康影響について、声をあげ、対応できる環境につながるよう取り組んでいく。
なおブックレットは、環境省や政治家、自治体などにも提供している。これら関係者とも、対話が進むようにしたい。