┏ 目 次 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
★1.【委員長のひとりごと】 (上村英明)
再び武器輸出3原則、そしてその強化へ:「軍産(学)」共同体を作らせてはならない
★2.【SJFニュース】(抄録)
- 『加害者と被害者――家族支援について考える』:開催(5/23)報告
片山 徒有さん×阿部 恭子さん(SJFアドボカシーカフェ第43回)
★3.【ソーシャル・ジャスティス雑感】オバマ米大統領の広島訪問に想う(樋口蓉子)
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★1.【委員長のひとりごと】 (上村英明)
再び武器輸出3原則、そしてその強化へ:「軍産(学)」共同体を作らせてはならない
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本コラムでも紹介したが、日本がオーストラリアへの潜水艦売り込み競争に敗北した。2016年4月26日、マルコム・ターンブル首相は、オーストラリア海軍の次期潜水艦の購入先(共同開発・建造)にフランスを選んだことを発表した。
原子力潜水艦を購入できないというオーストラリアの政策上の制限から、購入先候補は、フランス、ドイツと2014年4月に武器輸出三原則を廃止したばかりの日本の3か国に絞られ、日本政府やメディアによれば、日本はその最有力候補だった。リチウムイオン電池を装備したその航続性と静謐性に関する性能、オーストラリア海軍が設定した標準仕様(4000トン級)に対する実績、価格、日米を軸とした中での軍事上の「準同盟関係」、安倍晋三首相とトニー・アボット前首相との信頼関係などを背景に、海上自衛隊の最新型潜水艦である「そうりゅう型」が具体的な候補となった。その中で、海上自衛隊は、共同訓練を名目に、4月15日、「そうりゅう型」3番艦の「はくりゅう」と護衛艦2隻をシドニーに派遣し、売り込みを強く後押しした。しかしの敗北であった。
失敗の原因については、いろいろな分析が行われている。日本からの購入では雇用が確保できない。リチウムイオン電池は、最新だが、現在航空機で規制が行われているように火災の危険性がある。オーストラリアは将来原潜の導入に切り替える計画で、フランスはその技術をもつ。中国を重要な貿易相手国とするオーストラリアにとって、日本からの購入は不用意な刺激を与える、などである。
さまざまな分析が飛び交っているが、本コラムで注目したい点は、日本の武器売り込み技術が「未熟」であったというものだ。国際的な常識でいえば、武器貿易、とくに売り込みは熾烈を極め、そこには情報機関を巻き込んだ謀略、贈賄、政治工作などが付き物だ。契約を受注したフランスのDCNSはフランス海軍建艦局と政府を主要株主とする、民間企業を装った国営企業で、武器の売り込みに長年の経験をもち、今回もオーストラリア海軍の有力な退役将校を顧問にするなどの政治工作に成功したともいわれている。
こうした未熟さを改善するため、日本政府(防衛装備庁)と軍事企業は、パリで毎年6月に開催される兵器・防衛装備品の国際展示会「ユーロサトリ(Eurosatory)」に、武器輸出3原則に代わる防衛装備移転3原則が制定された2014年から参加を始めた。今年2016年も6月13日から17日にパリのノール・ヴィルパント展示場で「ユーロサトリ2016」が開催される。海外に日本の武器を売り込むと同時に少しずつだが売り込みの技術を磨くためだ。
改めて確認するが、1990年の湾岸危機、1991年の湾岸戦争を経て、国際社会は武器貿易に厳しくなった。350両の戦車と10万人の革命防衛隊でクウェートに侵攻したサダム・フセインのイラクは、英仏両国を凌ぐ5000両の戦車や軍用機を装備していたが、そのほとんどは国連安全保障理事会の理事国、それぞれの国の国営軍事企業から購入したものだ。1992年にはその入口として、武器貿易の透明性を確保するため、国連通常兵器登録制度が設けられた。その後、武器貿易の規制は、2003年の「コントローズ・アームズ」キャンペーンを経て、2013年の国連武器貿易条約(ATT)に結実するが、その流れは、途中で、武器の不正・違法取引規制、紛争地域への輸出禁止にシフトした感がある。
しかし、武器貿易規制の本来の目的は、1961年米国のアイゼンハワー大統領が退任演説で警告した、「軍産複合体」の形成を阻止することだろう。その意味で、日本の武器輸出3原則はこれに貢献してきた歴史がある。
武器の売り込みが、共同開発などの形を取る場合、企業が収益性を確保するためには、武器開発、装備開発、戦略研究などの軍事研究の拡大が不可欠でもある。こうした軍学共同の動きを加速するため、2014年4月に防衛省はその専門部署である「技術管理班」を新設している。
つまりこれは「軍産学共同体」形成への道と言ってもよいだろう。景気回復へのいかなる努力が必要であろうとも、殺人を前提とした「死の商人」の利益に依存すべきではない。参議院議員選挙を控えた今日、新たな政権交代の目標のひとつに、武器輸出3原則の復活・強化を掲げさせたい。武器産業が「未熟」であればこそ、実効性のある重要な政策転換になるに違いない。
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★2.【SJFニュース】(抄録)
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- 開催報告:『加害者と被害者――家族支援について考える』 (16年5月23日)
【ゲスト】片山 徒有さん(あひる一会代表/被害者と司法を考える会代表)
阿部 恭子さん(WorldOpenHeart理事長)
――「更生がすべての人の願いではないでしょうか。もう一度犯罪が起こらないためのサポートが必要です」と阿部さん。
「被害に遭って自分は決して今まで幸せではなかったかもしれない。でも今、生きていることはすごく大事だし、これからも生きていろんな人と関わることによって、もっともっといろんな人と幸せになっていきたい」と片山さん。
謝罪、償いは、被害者と加害者の幸せにつながるのか――。許し、に達するまでには――。さまざまな問いかけがなされました。生きる、という普遍的なテーマにつながるお話に、深く考えさせられ、新たに気づかされる場となりました。
詳細は、http://socialjustice.jp/p/report20160523/
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★3.【ソーシャル・ジャスティス雑感】オバマ米大統領の広島訪問に想う(樋口蓉子)
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5月27日、オバマ米大統領が現職米大統領として、初めて「広島」を訪れた。翌日の新聞に、涙ぐむ被爆者をそっと抱擁する写真が大きく掲載されたのが象徴するように、日本社会は一斉に歓迎したようだ。
訪問を巡って一番取り沙汰されたのは、オバマ氏が原爆投下国として「謝罪」をするか否かであった。結果は「謝罪」はなく、「核兵器のない世界を追求する勇気を持たなければならない」という、いわゆる未来指向のメッセージに終わった。このことに関する世論調査では、9割以上の人が訪問を評価し、核なき世界実現への第一歩、慰霊自体が謝罪、と受け止めている。しかし一方では、具体性に欠ける、きれい事で終わらせてはいけない、何も変わらない、とする意見もあった。
私は、5月11日の朝日新聞の社説に共感していた。「米大統領の被爆地訪問は、日本の戦争責任を巡る論議を再燃させる可能性がある。(中略)オバマ氏を広島に迎えることは、日本の政治指導者も、過去の戦争責任をどう受け止めるべきか、改めて考える機会としなければならない」。しかし、安倍政権は言わずもがな、その後マスコミもそのような論調は張らなかった。
5月28日の朝日新聞「オピニオン&フォーラム」では、山本昭宏氏(神戸市外語大学准教授)は、「(オバマ氏訪問は)誰にとっての、どんな意義なのか。それを真剣に考えないまま、歓迎一色で迎えたように感じられ、違和感も覚えました」と語っている。山本氏は、日本社会が70年代以降、核の傘のもとにあり続けながら『安全・繁栄・平和』を享受してきた矛盾を指摘し、「単にアメリカを責めるためではなく、我々が核とどう向き合ってきたのかを問い直すべきであった」と。
今日の、憲法改悪、日本を戦争のできる国に変えようとしている安倍政権を阻止しようとするなら、私たちはオバマ氏の広島訪問を、私たちの戦争責任や核との向き合い方を問い直す機会としての意義を捉えて迎えるべきであったと思う。
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今月号の執筆者プロフィール
- 上村 英明 [SJF運営委員長; NGO市民外交センターの代表として、先住民族の人権問題に取り組み、この関連で国連改革や生物多様性などの環境保全、核問題など平和への取り組みを実践するとともに、グローバルな市民の連帯に携わってきました。SJFでは、平和、人権、エネルギー、教育など多くの分野で新たに現れている21世紀の課題を解決するため、市民による民主主義実現のための政策や制度づくりを支援している。恵泉女学園大学教授]
- 樋口 蓉子 [SJF運営副委員長; 草の根市民基金・ぐらん運営委員長、認定NPO法人まちぽっと副理事長。 生活クラブ生協の理事を経て、1991年~2003年まで杉並区議会議員を務める。その後、民設の中間支援組織「NPO法人コミュニティファンド・まち未来」理事長を経て、移動サービスや高齢者の生きがい支援を行う「NPO法人おでかけサービス杉並」理事長など、様々な現場で市民をつなぐ活動を行っている。]