ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)メールマガジン第44号
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★1.【委員長のひとりごと】「普通の国の大学〕から「植民地帝国の大学」へ
(上村英明)
★2.【SJFニュース】
●『民主主義をつくるお金』出版プロジェクト・クラウドファンディング残り2日
●『教育の機会保障と多文化共生社会
――貧困の連鎖を断ちグローバル人材養成につながる改革とは』参加募集7/6
鈴木寛さん×樋口直人さん (SJFアドボカシーカフェ第38回)
★3.【ソーシャル・ジャスティス雑感】 唐突ですが、お葬式の話です(大河内秀人)
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★1.【委員長のひとりごと】「普通の国の大学〕から「植民地帝国の大学」へ
(上村英明)
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大学という高度教育機関が右傾化の波にさらされていることは何度か紹介した。今回紹介する2つの事例は、僕が奉職するリベラルアーツ(一般基礎教養)を主体とし、歴史の浅い女子大にはやや距離はあるが、同じ大学人として見過ごすことができない。6月13日には、東京大学駒場キャンパスで、軍学共同反対シンポジウム(「急進展する軍学共同にどう対抗するか」)が開催された。その背景は、2013年12月に閣議決定された「平成26年度防衛計画大綱」で、防衛省と大学の連携協力が明文化され、それに先立つ同年4月には、この軍学共同研究を本格化させる部署「技術管理班」が防衛省に新設されたことがある。もちろん、危機感はここに始まったわけではなく、2010年ころから、軍学共同研究は、「平和貢献」「安全保障」「先端技術」の名の下に加速してきたのだという。
もうひとつの事例は、国立大学における入学式などにおける国旗掲揚と国歌斉唱の義務化である。2015年4月9日の安倍晋三首相の参議院予算委員会での答弁を機に、文部科学省がこうした義務化への「要請」をするのではないかということへの懸念が広がった。早速、4月28日には「国旗国歌に関する国立大学への要請に反対する声明」が「学問の自由を考える会」から発表され、2つの運動とも、署名者の拡大を積極的に行っている。
さて、6月5日~8日は台湾・台北市への出張であったが、空いた時間に一度行ってみたかった「国立台湾大学」のキャンパスにぶらりと足を向けた。戦前の「台北帝国大学」である。一時期は他の帝国大学と同じように地域名から「台湾帝国大学」と名付ける案もあったそうだが、「台湾帝国」が誤解を招いてはならないと「台北帝国大学」に落ち着いた。戦前の帝国大学は、当初1886年に東京に置かれた「帝国大学」が唯一の帝国大学であったが、1897年に「京都帝国大学」、1907年に「東北帝国大学」、1911年に「九州帝国大学」が次々と設置された。その後、「北海道」を国内と考えない僕の発想によれば、「帝国大学」は植民地(外地)に拡大する。1918年の「北海道帝国大学」、1924年の「京城帝国大学」、そして1928年の「台北帝国大学」の設立である。
国立台湾大学の入口には、道路の中央にかなり幅広の門柱が立っているが、現在そこには、中華民国の国旗である「青天白日旗」が翻っていた。記録によれば、かつてそこは日章旗が翻っていた場所である。そして、もうひとつの植民地大学の痕跡とでもいえるものを確認することができた。「椰林大道(Royal Palm Blvd)」と呼ばれる道路である。正門入口から右に曲がると、約500メートルの壮大な椰子並木が現在の総合図書館まで続き、圧倒される。その10年前に設立された北海道大学にも約300メートルに及ぶポプラ並木があることを思い出した。植民地への「配慮」と帝国の威信を両立させた景観ともいえる。
因みに、単純にいえば、これら植民地「帝国大学」の特徴は、理工系学部の優位であり、そこでは「帝国」に奉仕する軍学共同研究が行われていた。「北海道帝国大学」は、理・工・医・農の4学部で、戦前には文科系学部は置かれていない。「京城帝国大学」や「台北帝国大学」にはそれぞれ「法文」「文政」学部が置かれたが、その主流は理・工・医・農であった。とくに、「台北帝国大学」では、医学部では熱帯医学、工学部では南方における資源探査などの研究に特徴があり、現地軍であった台湾軍との連絡も強かったようだ。今回紹介した現在の主要大学への圧力の本質は、その点、植民地「帝国大学」への一定の回帰と捉えられるかもしれない。
因みに、僕の仕事先である恵泉女学園大学は、学園としては「台北帝国大学」設置の翌年1929年に設置された。そして、現在の理事会決議では、入学式・卒業式を含め、一切の行事で国旗を掲揚せず、国歌を斉唱しない。植民地支配そして戦争の歴史を経て、戦後日本社会あるいは民主主義に対する、一定の見識であると思う。
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★2.【SJFニュース】
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●『民主主義をつくるお金』出版プロジェクト=クラウドファンディング残り2日=
https://readyfor.jp/projects/socialjustice ★期限 6月19日(23時)★
いまだ紛争はなくならず、テロは拡大しています。グローバル競争は激化し自己責任が求められ、不安定感と格差が広がっています。そんな中でも、希望の持てる社会を実現したいと具体的に取り組み始めている人がいます。一方で、いまの社会を変えたいと思いながらも具体的にどうしたら良いのか分からず戸惑っている人もいます。社会のために何か貢献できないかと模索している人もいます。社会性を失い、孤立する人が増えている今、ひとりひとりの想いや考えが生かされる社会はどのようにつくっていけばよいのでしょうか。多様な立場の人々と共に「よりよい社会」を実現するには、何が共有されていけばよいのでしょうか。
市民自らが政策提案に参加できる仕組みづくりを支援したい。
「社会的公正」の視点から、社会の一般的な考えや今の政策・制度では見逃されがちだが、大切な社会的課題について。
ソーシャル・ジャスティス基金による、資金の助成と社会対話の場づくりを両輪とする支援の実践から見えてきたことを、広く共有し深化させていくために出版します。
ぜひ、クラウドファンディングサイト・READYFORから応援ください。
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クラウドファンディングというのは、最近になってだいぶ一般的になってきた資金調達の仕組みで、インターネットを通じてたくさんの人々に比較的少額の資金提供を呼びかけ、目標額に100%まで到達した場合のみ、そのプロジェクトの実行が決定するというものです。
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★プロジェクト詳細 https://readyfor.jp/projects/socialjustice
●『教育の機会保障と多文化共生社会
――貧困の連鎖を断ちグローバル人材養成につながる改革とは』★参加者募集★
(SJFアドボカシーカフェ第38回)
【登壇】
鈴木寛さん(文部科学省補佐官/東大・慶大教授[クロス・アポイントメント])
樋口直人さん(移住労働者と連帯する全国ネットワーク・貧困PJ/徳島大学准教授)
【日時】 7月6日(月)18:30-21:00(受付開始18:00)
【会場】 文京シビックセンター 4階 シルバーホール
生まれや環境により教育の機会を奪われたまま就職困難となった親世代の経済的不安定さは、子ども世代への貧困の連鎖を生んでいます。このなかで、国籍による高校や大学への進学格差を積極的に是正し、貧困の連鎖を断ち切ろうと「大学・高校進学における外国人特別枠の設置・拡充」にむけた政策提言に「移住労働者と連帯する全国ネットワーク」(移住連)が取り組んでいます。外国にルーツをもつ子どもたちを大学教育の場に受け入れることは、将来のグローバル人材、グローバルな見識をもちながら日本の地域社会で能力を発揮する人材の発掘にもつながると入試改革を要請しています。
すべての子どもの学習権を保障できるよう、多様な教育機会の法的保障にむけた動きとともに、国籍による進学格差や、外国人学校が学校教育制度から外され公的助成を十分に得られていない現状をどのように改善していけばよいのでしょうか。すべての子どもたちが潜在能力を十分に発揮できるような機会を保障するには、どのような施策を行っていけばよいのでしょうか。ゲストのお話をもとに、みなさんと一緒に考え対話できればと思います。
★詳細・申込 http://socialjustice.jp/p/20150706
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★3.【ソーシャル・ジャスティス雑感】 唐突ですが、お葬式の話です (大河内秀人)
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ちょっと場違いと思われるかもしれませんが、葬儀の話をします。
いま、8割の方は病院で亡くなります。ほとんどの方はそこから葬儀屋さんとの関係が始まります。まず、病院側から、遺体を運び出すよう促され、搬送用の寝台車を手配することになります。そこで業者の心当たりがないと、病院から葬儀業者を紹介されます。
今、多くの人はそこで初めて具体的に葬儀について考え始め、一方で病院側から「早く」というプレッシャーも伴って、そこが業者にとって最大のビジネスチャンスになります。なので、業者から病院に多額の裏金が流れます。当然その経費は利用者の払う代金から回収されます。
同時に搬送先の検討となります。かつては自宅が一般的でしたが、昨今は住宅事情もあり、また近隣に目立ちたくないということで、直接葬儀場あるいは業者の保管場所に運ばれるケースが多くなっています。そして葬儀の日程や段取り、葬儀の内容を決めていくのにあたっては、準備も知識もない遺族は、その業者が提供するオプションから選択する以外ありません。
病院側の葬儀業者を利用しない例で目立つのは「互助会」です。葬儀はお金がかかるという不安、あるいは子どもに負担、迷惑をかけたくないという思いで加入しています。「互助会」というと非営利的な響きもあり、親切なサポーターと感じて加入するお年寄りも多くいます。しかし実態は葬儀業者であり、前払いという形での「囲い込み」です。積み立てていたから安心と思っていても、実際は多額の追加料金が必要になるケースがほとんどです。払った分だけでいいからと言ったら、本当におざなりな対応をされたケースも見ています。また互助会業者が集めた資金を別の事業に流用して手元になく、大きな問題になるということも取り沙汰されています。互助会に入っていなくても、業者はいつでも葬儀を受注します。結果的に多額のお金を払い込んでいる加入者にとって、「その時」に選択肢がなくなるだけでメリットはありません。
葬送は全ての人に何らかの形で必要であるにもかかわらず、意識から遠ざけられ、日常の問題意識も薄く、知識も乏しいという現実が、非常に不健全なシステムをつくり出しています。割高な料金は、バックマージンや裏金という形でダーティな動きをします。いかに考える時間を与えず、その仕組みに絡め取るかというのが、今の葬儀を取り巻く現状なのです。
以上のような状況は、決して昔からあったわけではありません。ここ数十年の話です。かつては親戚や地域コミュニティが担い、つまり一人一人が参加して行われていたことです。私が住職になった頃は、自宅で町会が中心となって行われる葬儀が主流でしたし、20年も前に定年退職したお父さんの葬式では、かつて勤めていた会社の総務部が受付をしているなんてことも普通でした。
そういう繋がりが分断され、何でもかんでもマネーに置き換え「利潤」が「Justice」となっている社会を考える一助にと思い、唐突ですが葬儀についての現状報告でした。
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今月号の執筆者プロフィール
- 上村 英明 [市民外交センター代表/SJF運営委員長; NGO市民外交センターの代表として、先住民族の人権問題に取り組み、この関連で国連改革や生物多様性などの環境保全、核問題など平和への取り組みを実践するとともに、グローバルな市民の連帯に携わってきました。SJFでは、平和、人権、エネルギー、教育など多くの分野で新たに現れている21世紀の課題を解決するため、市民による民主主義実現のための政策や制度づくりを支援している。恵泉女学園大学教授。]
- 大河内秀人 [浄土宗見樹院及び同宗寿光院住職。インドシナ難民大量流出をきっかけに国際協力・NGO活動にかかわる。一方で地域づくりの大切さを実感し、寺院を基盤に環境、人権、平和等の活動を続けている。江戸川子どもおんぶず代表、NPO法人パレスチナ子どものキャンペーン理事、原子力行政を問い直す宗教者の会世話人、ほか。]
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認定NPO法人まちぽっと ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)