2013年3月5日
2012年度 アドボカシーカフェ報告
「国連特別報告者」報告を政策に反映させるために ~ふくしま・市民社会・国連をつなぐ~
2013年2月26日、国連の人権理事会・特別報告者による、福島第一原発事故後の人々の健康に関する権利の実施状況に対する包括的評価に基づき、私たち日本の市民が、国連による日本政府への勧告プロセスにどのように関与できるのか、勧告を生かすために何ができるのか、についてゲストや様々な分野からの参加者と共に活発な意見交換が行われ、今後の福島の市民活動を変える可能性の見えた展開となりました。
――― 主な内容 ―――
【1 】上村英明からの提言「国連人権理事会最終報告書と政府勧告への取り組み」
SJF運営委員長、恵泉女学園大学教授、市民外交センター代表。 国内の人権問題を先導、国連での活動多数。
【2 】伊藤和子さんからの提言「国連人権理事会特別報告者調査結果について」
NPOヒューマンライツ・ナウ事務局長、弁護士。 今回の国連人権理事会の公平な調査報告をサポート。
【3 】参加者とゲストのダイアログやディスカッション
【進行】大河内秀人(SJF運営委員、江戸川子どもおんぶず代表)
以上を映像アーカイブとともに報告いたします。
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【1 】「国連人権理事会最終報告書と政府勧告への取り組み」上村英明から
~国際連合は、第二次世界大戦の人権侵害に対する反省が発端~
マジョリティーの論理でマイノリティーが侵害されないよう、国際的にチェックするシステム。国家の上にある組織ではなく、主権国家が加盟している連合体。
~国連人権理事会とは~
2006年、9.11米国テロに対する国連の無策がきっかけの組織改革で、総会の補助機関として設立される。{日本は、2013年1月から人権理事会の理事国を務める。}
~特別報告者とは~
人権に関する国際的テーマについて人権理事会が任命した専門家で、国連のいずれの組織からも独立しており中立な立場から調査し報告・勧告する。
【2 】「国連人権理事会 特別報告者 調査結果 について」 伊藤和子さんから
ヒューマンライツ・ナウ(以下HRN)は、人権問題の視点から原発事故被災者の問題にも取り組む稀少なNPO法人であり、国連特別協議資格のあるNGOでもある。
~「住民が安全で健康的に暮らす権利」を原発事故は現在進行形で侵害~
対処するステップは、 1.徹底検証、2.被害補償と人権侵害からの保護を実施、3.再発防止の仕組みを作る。しかし、未だ目処が立っていない。
~特別報告者の勧告に沿った抜本的政策転換をHRNは日本政府に要請~
2012年11月、特別報告者アナンド・グローバー氏は、訪日し、福島第一原発事故後の人々の健康に関する権利の実施状況について末端まで踏み込んだ事実調査を実施し、11月26日、 勧告を含む中間的所見を公表した。HRNは日本政府に対しこの勧告の実施を次のように要請する。
・避難区域の放射線レベルの指定基準を年間1mSv以上へ厳格化する。
・低線量放射線による癌リスクについて予防原則に立ち健康被害の防止に尽力する。
・放射線による健康への影響の調査を包括的に行うと共に、甲状腺検査結果を当事者の人権に即して正当に公表する。
・放射線量の測定結果について、すべての有効な独立データを取り入れ公にする。
・除染除去の目指す放射線レベルを1mSvとすると共に、その達成までの相当時間を配慮し避難する権利の保障を十分にする。
・原発作業員のすべてに対し健康診断と必要な治療を速やかに実施する。
・「子ども被災者支援法」をチェルノブイリ事故後の施策を下回らないよう早期実施する。
・原発事故に関する政策決定に子どもなど災害弱者の意見を反映する体制を構築する。
~本調査は、国連機関が放射能汚染に対する人権問題に関して動いた画期的なもの~
2012年9月のマーシャル諸島についての調査に続くもの。この類の調査が、国際スタンダードになるのではないかと期待している。
~最も深刻な問題は、放射性物質に対する避難や補償の基準~
チェルノブイリ基準と比較して日本の基準は非人道的である。強制避難基準は、放射線管理者や妊婦の安全に関する国内法に違反している。また、自主避難に対する経済補償は不十分であり、食糧や健康の安全保障も不足。
~健康診断が粗末~
検査した子どもの40%以上の子どもに、しこりやのう胞が見つかったり、甲状腺がんと診断される子どもも出てきたりしているが、福島県は事故との関連性を認めていない。また、精密検査の実施は不十分で、データも公表されていない。
~訴訟裁判との連携を考えていきたい~
今回の国連勧告は、裁判官の判断に効果を期待できる。
~ 一市民も関われる ~
・2013年3月末、特別報告が国連人権理事会に提出される予定。それまでは情報提供できる。HRNも情報を英訳して提供を継続する。ボランティア募集中。ホームページ等で既存の情報を確認していただき、新たな情報や英訳済みの情報 を提供いただくこと特に歓迎。
・2013年6月、国連人権理事会にて最終報告される予定で、日本の市民の意見や情報を発信して、この報告のインパクトを大きくしたい。(人権理事会のパネルディスカッションに伊藤さんは発言登録した。)
・日本政府に対する勧告については、国内NGOネットワークを活かしたり、院内集会に参加したりすること等からも関われる。
~人権理事会の特別報告者と連携できた経緯~
人権理事会は健康のテーマに取り組んでいる。調査依頼のメールを送ると国連が動いてくれる可能性あり。HRNは、国連のアドバイスを受け候補者を3人に絞り、調査に来てくれるよう、担当官に1年ほど連絡をメールなどで送り続けたり、調査結果や提言を英訳して国連に送り続けたりした。
【3 】参加者とゲストのダイアログやディスカッション
~ 「食の安全も深刻」(人権理事会へのNGO声明にて)等の記述は、農家の取り組みを踏まえ書き方に配慮を。~
⇒(伊藤さん)風評被害の懸念を踏まえつつも、国際基準での食の安全は守っていきたい。現状はサンプリング体制が不十分で、全ての食品に十分なレベルを求める考えは不変。
~原子力規制委員会が特別報告を待たずに健康に関する基準を決めようとしていることを国連に伝えてほしい。~
⇒(伊藤さん)福島に国連での活動が十分に伝わっていないのは残念。原発事故後の健康管理の問題に対する国連での活動を周知し関心を広めてほしい。福島にも十分に伝わっていないのは残念。手近なところでは、ツイッターやフェイスブックの“いいね”等活用して情報の転送をしてほしい。
⇒(参加者)ネットで情報を広める際、福島の一部を切り取って流して欲しくない。
~特別報告者の勧告に法的拘束力はあるか。~
⇒(伊藤さん)法的拘束力はない。しかし、日本政府は、すべての調査を受けられるとの宣言を出している。また、報告者の見解は、日本が批准している社会権規約等国際人権基準に基礎を置くもので、この社会権には健康の権利も含まれ、日本の誠実な対応がなされるか注視している
~子どもの命を守ることが大前提。~
⇒(参加者)一方で、農家が耕す権利も大切なことを分かってほしい。福島で耕し続け、かつゼロ・ベクレルの農作物を届けたいと頑張っている。
⇒(伊藤さん)問題が分断されている現状から1つの正義を提示して行けるか、は市民社会の責務。福島第一原発事故後の様々な問題ごとに分断されている人達に対し、総体としてお付き合いできるか試されている。賠償や補償のあり方に対する弁護士の関わり方はまだ分断状況(ADRや訴訟など)。今回の国連勧告は、訴訟裁判に効果を期待できる。
~まとめとして~
⇒(大河内)健康に生きる権利の国際基準の中で原発問題に取り組むことの大切さが示された。
⇒(上村) ① 原発被災者の人権問題を、健康管理だけでなく総括的にとらえ問題を整理していく必要がある。 ② この報告書に対し日本政府は反論する権利があるが、その論理をしっかり追うことで、国連プロセスと対比した日本プロセスの違いが明らかになる。 ③ 企業における人権重視へむけて、人権問題のリスクマネージメント不足がどのような結果をもたらすかを東電のありかたから学ぶ ④ 今回の問題を社会システムの問題としてとらえることで、包括的な問題の糸口を探ろう。
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映像アーカイブ