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ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第13回助成中間2次報告

原子力資料情報室(2025年12月)

助成事業名・事業目的

「核ごみ調査に揺れる地域の声をすくい上げ、政策変更を促すアドボカシー活動

 原発を運転することによって生まれる高レベル放射性廃棄物、いわゆる核のごみの処分政策に対して、政策変更を求めるアドボカシー活動です。具体的には、核のごみの第一段階の調査である文献調査の実施がきっかけで発生した地域の分断に苦しむ北海道寿都町、文献調査の応募をめぐり地域対立が発生した長崎県対馬市、文献調査の本格的な進行により地域の分断の懸念がある佐賀県玄海町を中心に、処分場調査拡大の動きの中で、周辺化された地域の声をすくい上げ、それに対する共感を社会に広げ、政策変更を要求する社会運動を作ることを目的としています。

 

助成金額 : 100万円 

助成事業期間 : 2025年1月~26年12月

報告時点までに実施した事業の内容(主に前回の報告=25年6月以降=について):  

北海道の文献調査への対応

 3月1日に寿都を訪問し、寿都町民が主催する「くっちゃべる会」で寿都の女子高校生と対話をしました。6月25日のSJF主催のアドボカシーカフェでは、寿都町民を招き、当室に今年4月に新しく入った20代の若手スタッフの川﨑彩子さんも参加する形で対話イベントを実施しました。8月24-25日には川﨑さんも同行し寿都で現地調査を行い、住民と交流をしました。今後、若者向けの対話イベントを寿都で企画する可能性についても検討しました。

Kaida SJF Kaida SJF
8月に現地調査した北海道寿都町で実施されていたNUMOの地域イベントの様子

 

佐賀県玄海町の文献調査への対応

 8月9日にはこの会が主催し、玄海町で開催された「第1回 みんなで考えよう地層処分!」に参加し、発表を行いました。玄海町議会議員や玄海住民も参加してくれ、文献調査に対する率直な考えを共有できました。

 毎年12月2日に玄海町で開催される「反プルサーマルの日」行動に参加し、プルサーマル発電や地層処分の問題点を記したチラシを戸別にポスティングしながら、チラシを受け取ってくれた住民とは対話もしました。文献調査が住民の説明なしに一方的に開始されたことへの不満を述べる住民もおり、現地の雰囲気を一定程度把握できました。

Kaida SJF
佐賀県玄海町で8月9日に開催された「第一回 みんなで考えよう地層処分!」の風景

 

対馬に関する調査

 8月6日‐7日に対馬を訪問し、対馬市平和労働センター主催による厳原と上対馬での講演に私が登壇しました。文献調査受け入れ反対を勝ち取った住民運動に関する説明を行いました。また地元議員や住民団体とも面談をし、高レベル放射性廃棄物の受け入れを拒否するいわゆる核抜き条例の制定を目指した動きについても意見交換を行いました。

 11月6日-12日にも対馬を訪問し、住民13人に文献調査反対運動に関するインタビューを実施しました。核抜き条例の制定については、住民組織の間で署名運動の準備や議員との折衝が順調に進んでいない現状についても把握しました。

Kaida SJF
11月に現地調査した長崎県対馬市上対馬地区で掲げられていた文献調査反対の立て看板。本研究者はこの古里魚組の青壮年部にインタビューを実施した。

 

ロビーイングなど国会議員への折衝

 1月24日に逢坂誠二議員(立憲民主党)と、2月6日には大築くれは議員(立憲民主党)と議員事務所で面談。6月11日には「高レベル放射性廃棄物等の最終処分に関する議員連盟」総会に出席。それ以降は、文献調査に関する行政プロセスが停滞していることもあり、国会議員の関心は薄く、特に具体的な動きを作れませんでした。

 

今後の事業予定:

 2026年2月までには対馬市での住民インタビューをまとめ、報告書を作成する予定です。その報告を兼ねて、対馬住民を招いたウェビナーを企画しています。寿都か札幌では、NUMOが最近推進している若者へのアウトリーチ活動に対抗する形で、当室の川﨑さんの協力を得ながら、若者向けの対話イベントを企画できればと考えています。

 一方、文献調査を批判的に検証し、専門家と現地住民が参加する形でのシンポジウムを寿都町か佐賀市、あるいは東京で企画したいと思います。今年9月に公表された、一橋大学の山下英俊教授や龍谷大学の大島堅一教授による寿都でのアンケートをもとに、文献調査によって地元住民の行政への不信や不満が高まっている現状を報告しながら、現在の調査プロセスの代案を示したいと思います。

 寿都・対馬・佐賀の住民との内部オンライン・ミーティングを、今年8月から開始したかったですが、7月の参議院議員選挙、各地元地域での選挙(9月に玄海町長選、10月に佐賀市議会選と寿都町長選)などが重なり、実施できませんでした。来年3月をめどに開始したいです。ミーティングを通じて、意見交換を重ね、政策提言集としてまとめることができたら、記者会見を通じての告知や院内集会、国会議員へのレクチャーなどを企画したいです。

 

助成事業の目的と照らし合わせた効果・課題と展望:   

【Ⅰ】次の5つの評価軸それぞれについて、当事業において当てはまる具体的事例。あるいは、当てはまる事が現時点では無い場合、その点を今後の課題として具体的にどのように考えるか。

(1)当事者主体の徹底した確保

 寿都、対馬、玄海町の住民と定期的に情報共有や意見交換をしてきた一方、文献調査に関する行政プロセスが停滞したことで、住民主体の対応がさほど強化できなかった面は否めません(弱体化したわけではないですが)。寿都では文献調査報告書に関する市民の意見への見解をNUMOが先延ばしにしたまま動きが止まっています。対馬市では核抜き条例を作る運動が、住民間の意思統一がなかなかできないまま順調には進んでいません。玄海町では、対話を行う場が数ヶ月に1回しか開催されず、住民の間で公に問題対応のために組織的に対応する動きはまだできていません。

 来年以降、北海道や玄海町での文献調査に進展があると予想されるので、住民をエンパワーできる形でしっかりと問題に対応していきたいです。

(2)法制度・社会変革への機動力

 核のごみの処分政策を規定する「最終処分法」は、原発の継続利用のために処分場を探すという目的になっており、選定プロセスに住民参加や熟議の機会が保障されていないなど問題が多いです。この変革のためには、経産業やNUMOだけではなく、国会議員への働きかけも重要と考えました。

 その観点から、北海道選出の立憲民主党の国会議員2人と面談し、超党派の「高レベル放射性廃棄物等の最終処分に関する議員連盟」総会にも出席するなど国会議員へのアプローチをある程度してきましたが、行政プロセスが停滞していることもあり、関心が低いのが現状です。

 それを何とか打開すべく、寿都へのアンケート調査をした学者グループとの協力の下、超党派議員連盟「原発ゼロ・再エネ100の会」によるオンライン政府交渉を企画中です。また経産省職員やNUMOを呼んだ形でのシンポジウムの開催も検討しています。

(3)社会における認知度の向上力

 原発政策の中で核のごみの問題は、比較的関心が薄いです。要因としては、調査実施地域の問題に矮小化されてしまう傾向があるからだと考えます。したがって時宜相応に、継続的な情報発信が必要だと考えます。

 しかし文献調査に関する行政プロセスが停滞したこともあり、こちらの情報発信もやや活発性に欠けました。8月には長崎で核のごみに関する講演を行ったものの、それ以外での大々的な講演活動はありませんでした。

 一方、NUMOが文献調査報告書を完成させたこともあり、メディアでの広報活動や若者への対話活動を増やしています。それがどれほど功を奏しているか不明ですが、それに対抗する動きは作らないといけないと思っています。その一環として東京の下北沢で「ワタシのミライ」主催で開催された「地球のため わたしのため」というイベントに登壇し、核のごみ問題を含めた原発問題に関して対話イベントを行いました。このイベントは若者層の参加が多く、実際に文献調査の現地の現状を知ることができたという感想ももらえました。当室の新しく入った若い世代の川﨑さんと引き続き協力しながら、若者世代へのアウトリーチ活動にも意識的に力を入れていきたいと思います。

(4)ステークホルダーとの関係構築力(相反する立場をとる利害関係者との関係性を良好に築いたり保持したりする力)

 相反する立場をとるグループは大きく2つに分けられます。第一に、政策や調査を推進する経産省とNUMOです。第二に、調査実施地域における調査賛成住民が挙げられます。

 経産省とNUMOに対しては、私も委員を務める特定放射性廃棄物小委員会で意見交換や政策提言ができる関係性が存在します。しかし今年の4月以降、いままで開催されず、小委員会を通じて私が現地調査してきた住民の不満や批判を伝える機会はありませんでした。

 一方、5月の神恵内村への訪問、8月の寿都町への訪問、12月の玄海町への訪問の際に、NUMOの現地交流センターを訪問し、NUMO職員と面談しました。地層処分や最終処分政策に関する立場は違うものの、現地住民に一番近い存在のNUMO職員とある程度信頼関係を構築する必要性があると思い、率直な意見交換をしました。

 調査実施地域における調査賛成住民へのアプローチとしては、8月9日に玄海町の公民館で開催した現地住民との対話イベントを企画しました。文献調査への賛否を問わず参加を呼びかけたが、調査に反対する住民が数名来てくれたので、意見交換ができました。12月2日の玄海町訪問の際には、戸別訪問をし、3人の住民と直接話ができました。文献調査に対する住民の立場は賛成/中立/反対とそれぞれでした。原子力行政について意見を言うこと自体が難しい原発立地地域の雰囲気の中で、地道にコミュニケーションをしながら、住民へのエンパワーにつながる方法を模索中です。

(5)持続力

 文献調査が進む地域は、小さく貧しい自治体が多いです。そのため住民自身が反対運動やアドボカシー活動を継続的に行うリソース、つまり資金や人的資源が乏しいです。また当該地域の住民が、影響力を与えられるような政策へのアクセスも制限的です。

 この課題の克服のため、寿都、対馬、玄海町及びその近隣住民と定期的・継続的に連絡を取り、文献調査の過程で疑問や不満があれば、それを共有しています。そのような現地住民の疑問や不満を、私が委員を務める特定放射性廃棄物小委員会の場で、意見書を通じて問題提起する準備はできていますが、今年4月以降、小委員会が開催されていないため、より効果的な政策へのアクセスの開拓を模索しています。

 特に玄海町では、調査反対の住民が組織化されていないため、反対運動を支援したい周辺自治体住民も現地の情報を未だ得づらい状況です。8月、12月と玄海町で現地調査をし、調査反対の町議の1人とはある程度信頼関係は築けましたが、継続的な取り組みが必要です。

 

【Ⅱ】Ⅰの評価軸はいずれも、強化するには連携力が潜在的に重要であり、その一助として次の項目について考察。

(1)当事業が取り組む社会的課題の根底にある社会的要因/背景(根本課題)は何だと考えるか

 核のゴミ問題は調査が進む地域の問題として矮小化される傾向にあります。小さなコミュニティで進行しているので人々の関心は低く、コミュニティ分断など深刻な弊害が起きているにもかかわらず、政策の失敗や社会的な問題としてそれが認識されづらい構造になっていると思います。

(2)その根本課題の解決にどのように貢献できそうだと考えるか

 いかに地域住民をエンパワーメントしながら、粘り強く地域の現状を広く社会に共有することができるかが基本的な課題です。現地調査に基づく情報発信や地元住民を招いた講演活動、政府の審議会への地元住民との共同対応などの事業を通して、その課題に貢献できると考えます。

 経産省やNUMOなど政策担当者に対しても、一応「対話活動」の必要性は認めているので、それをより実質的に実施させるために、公正で透明性のある住民参加型の意思決定を対案として提示して行きたいと思います。具体的には、政府やNUMOが実施する「対話の場」や公的なシンポジウムに調査反対の地元住民や専門家の参加を継続的に要求し、実現させることが求められます。

 そうすることで政策担当者による一方的な公正さに欠く調査選定プロセスを改善させ、地元及び周辺住民をエンパワーしながら、核のゴミ問題に関してよりまっとうで活発な社会的な議論を促すことができると考えます。

(3)そのような貢献にむけて、どのような活動との協力/連携が有効だと考えるか。

 一橋大学の山下英俊教授や龍谷大学の大島堅一教授が寿都町でアンケート調査を実施しました。寿都町民が文献調査の過程で政府やNUMOに不満や不信を抱き、地域コミュニティに対するネガティブな影響を与えたと認識していることを示す重要な調査結果が得られました。これをより広範囲に普及させ、政策担当者にも見解を求め、政策変更を要求するような政府交渉やイベントを企画したいと思っています。具体的には超党派議員連盟「原発ゼロ・再エネ100の会」が定例で開催しているオンライン政府交渉に政府やNUMOの関係者を呼ぶことが考えられます。またシンポジウムを開催し、山下教授の基調講演、寿都町や対馬市など地元住民の発言のほか、政府やNUMOの出席を要請するプログラムも別途、考えられます。

 

※来年は北海道でも玄海町でも調査プロセスに動きがあることが予想されるので、地元の活動もより活発になると思います。   ■

 

 

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