ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第12回助成中間3次報告
ふくおか摂食障害ともの会(2025年6月)
◆助成事業名・事業目的:
「摂食障害の当事者の実態把握と支援のあり方の検討、当事者のエンパワーメントを促すコミュニティの構築」
摂食障害の当事者が病気に脅かされず、必要な支援や情報を得ながら病気の回復に向かえるよう、当事者の実態やニーズを定量的・定性的に明らかにした上で、医療・福祉などの関係機関と課題を共有し、支援のあり方について検討・改善できる場をつくる。その際、有益な支援や情報提供方法のあり方を検討する手がかりを得ることを目的として、摂食障害経験者の回復体験を把握・分析し、回復における重要な要因を探る。
また、当事者の孤立を防ぎ、エンパワーメントを促す場として、当事者・経験者によるWEBコミュニティを構築し、経験者の回復体験から得られた回復のヒントの共有や、多様なロールモデルとの出会い・交流ができる場をつくる。このコミュニティは、当事者のニーズを継続的に把握することも目的とする。
さらに、摂食障害に対する社会的な認知拡大に向けて、本事業のプロセスや調査結果を広く発信することも目的とする。
◆助成金額 : 100万円
◆助成事業期間 : 2024年1月~25年12月
◆報告時点までに実施した事業の内容(主に前回の報告時以降=25年1月~):
①当事者の実態やニーズを定量把握するWEBアンケート調査
調査結果について、調査レポートとして取りまとめ、当会のWEBサイトで公開するとともに、当会Instagram等で周知を行った。【公開ページ】https://www.fukuoka-ed.com/report
また、本調査で明らかになった当事者の状況(当事者は様々な困りごとを抱えているものの、周囲に相談できず孤独に陥っていること)の背景として、「意志が弱い、わがままなど、偏見的な目でみられることへの恐れや不安があるのではないか」との仮説のもと、一般の方を対象として摂食障害に対するイメージ調査を実施するに至った。(※NPO二枚目の名刺との協働プロジェクトの一環として実施。調査結果は上記のリンクで公開。)
調査の結果、摂食障害に対するネガティブなイメージや偏見は少なく、当事者からの開示を受け入れる意向がある人が多いことなど、当事者にとっては背中を押される情報が得られた。
「この調査結果に背中を押されて、知人に摂食障害であることをカミングアウトできた」という、ともの会のメンバーさんもおり、「相手の反応によっては自分が傷ついてしまうかもしれないと思い、摂食障害のことを話すのは勇気がいると思っていたが、この人なら話しても大丈夫と思える人には、打ち明けることでより自分らしくいられて楽になるのだと思った。」と感想を語って下さった。このことから、当事者に対しては、一般の方における摂食障害のイメージや受け入れ意向を共有することが、プラスに働く可能性も示唆された。
ただし、一般の方の調査からは、当事者との接し方には不安がある人も多いことが示され、当事者と関わる際の留意点がわかるような情報発信なども求められていることがわかった。
②回復のヒントを探るヒアリング調査
現在、12名の当事者へのヒアリングが完了し、体験談のとりまとめを進めている。10名についてはご本人の確認がとれていったん完成し、残り2名の確認待ち。12名の年代は、20代3名、40代6名、50代2名、60代1名。30代の対象者がみつかれば追加でヒアリング予定。
当初計画では、対象者数20名、体験談の文字数1,000~2,000字程度を想定していたが、実際にヒアリングをしたところ、当初想定の文字数では、お一人お一人の摂食障害の背景や回復の道のりを語り切れない状況が浮き彫りとなった。ヒアリングの当初目的「摂食障害経験者の回復体験を把握・分析し、回復における重要な要因を探る」に照らし合わせると、20名の数字を追求するよりは、人数を絞り、お一人お一人の体験を丁寧に深堀する方が良いと判断し、対象者数13名を目標とし、文字数4000字程度でとりまとめを進めている。
とりまとめにあたっては、ヒアリングにあたり、事前に記載していただくヒアリングシートの内容も、皆さんそれぞれの状況や心情を丁寧に記載してくださり、貴重な資料となっている。
③支援のあり方を検討する意見交換
昨年10月のシンポジウムの結果を記録冊子としてとりまとめ、当会のWEBサイトで公開した。【公開ページ】https://www.fukuoka-ed.com/report
今後も、医療と当事者団体の連携の可能性について模索すべく、まずはともの会の内部で意見交換を行い、先生方に持ち掛ける連携策のアイデアを練っている。
④当事者のエンパワーメントを促すWEBコミュニティの形成
体験談の検討と並行して、WEBサイトのイメージについて、参考事例を収集するとともに、サイトの具体化検討に着手。当初想定していた「読み手が共感を表すことができる機能、参加者同士がメッセージのやり取りができる機能」については、具体化するにあたり、参加者同士のトラブル回避が課題であり、一定のガイドラインを定めることなど対策を検討中。
⑤摂食障害への理解促進を目指す白書の作成
摂食障害への理解促進について、当事者以外の視点を交えて検討したいとの意識から、「NPO法人二枚目の名刺」様とのコラボレーションのもと、社会人プロボノとの連携による検討を行った。社会人プロボノ6名の方々と、2024年11月~2025年2月までの3か月間で、12回会のミーティングを行い、摂食障害への理解促進について検討してきた。①で紹介した一般の方を対象とした摂食障害に対するイメージ調査の実施のほか、摂食障害について対話を通して理解を深めていただくワークショップ“摂食障害を対話でつなぐワークショップ”を開催した。
一般の方に摂食障害への理解を深めていただく上では、リーフレット等による一方的な情報提供には限界があり、当事者の複雑や社会背景など、より深い部分への理解を促す上では対話が有効であることが確認できた。
◆今後の事業予定 :
①当事者の実態やニーズを定量把握するWEBアンケート調査
調査結果をヒントに、今後、当事者向けの情報発信や、一般の方が摂食障害の方と接しやすくなるような情報提供の方法などを検討していきたいと考えている。
②回復のヒントを探るヒアリング調査
今後、30代の対象者がみつかれば追加でヒアリング予定。とりまとめ中の12件の体験談については、WEBサイトでの公開に向けた最終調整を行う。
ヒアリングシート及び体験談から、回復における重要な要因等を分析し、白書への掲載に向けてレポートとして整理する予定。
③支援のあり方を検討する意見交換
医療と当事者団体の連携について模索していきたいと考えており、具体的な連携アイデアを固めた上で、先生方との意見交換ができればと考えている。
④当事者のエンパワーメントを促すWEBコミュニティの形成
今後、WEBサイトの制作を依頼できる業者さんを探す。平行して、盛り込む機能やサイトイメージの具体化を進める。
⑤摂食障害への理解促進を目指す白書の作成
“摂食障害を対話でつなぐワークショップ”の結果についても、白書で公開できるよう整理を進める。白書全体の構成等については、9月以降に組み立てていく予定。
◆助成事業の目的と照らし合わせた効果・課題と展望:
【Ⅰ】次の5つの評価軸それぞれについて、当事業において当てはまる具体的事例。あるいは、当てはまる事が現時点では無い場合、その点を今後の課題として具体的にどのように考えるか。
(1)当事者主体の徹底した確保
中間2次報告以降も、当事者主体を徹底している。特に、当事者・経験者の方へのヒアリングでは、皆さん真摯に対応してくださり、自分自身の経験を改めて振り返り、言語化することが、その方自身の気づきや心の整理につながっているように感じている。今後、この体験談を公開することで、当事者同士の共感がうまれ、当事者が声をあげてもよいという機運がさらに高まることを期待している。
(2)法制度・社会変革への機動力
当事者へのアンケート調査や、シンポジウムのレポートをホームページで紹介したことで、それをみた方(摂食障害をめぐる社会課題の解決に、ソーシャルビジネスという手段で取り組みたいという方)からの問い合わせを頂いた。レポートは、私たちの問題意識を社会に表明する一つのツールとして有効であると感じており、同じ問題認識をもつ方々と繋がることで、法制度や社会変革への機動力につなげることができると感じている。上記の方とは、摂食障害の当事者向けのオンラインワークショップを共催するなど、具体的な連携も生まれている。
(3)社会における認知度の向上力
中間二次報告以降も、メディアからの問い合わせがあり、メディアを通した情報発信が、摂食障害に関する認知度向上につながっている。
RKB毎日放送では、摂食障害に関するシリーズ番組が企画され、その1つとして、代表・江上の体験談やともの会の活動について、取り上げていただいた。
- RKB毎日放送「ニュースタダイマ!」2025年2月11日18時15分https://youtu.be/Je__ILxah7U?si=aHPiX9E-TIrAnWgW
また、先日は、韓国放送(KBSTV)からの取材の申し込み依頼があった。韓国でも問題になっている摂食障害について、日本の取り組みの事例を紹介したいとのことで、シンポジウムで登壇した3主体(当会、九州大学病院、八幡厚生病院)に取材の依頼を頂いたところである。摂食障害をめぐる状況や当会の活動が、国内のみならず海外でも認知されるチャンスであると捉えている。
また、社会人プロボノとの協働事業も、摂食障害への認知度の向上に一定の成果があったと感じる。これまで摂食障害と無縁であったプロボノの方々との意見交換の中で、摂食障害について深く理解していただくことができた。また、一般の方向けのアンケート調査では、366名の方にご協力をいただくことができ、それ自体が認知度向上に寄与したものと考えられる。
(4)ステークホルダーとの関係構築力(相反する立場をとる利害関係者との関係性を良好に築いたり保持したりする力)
引き続き、私たちが取り組む社会課題の重要性や意義をアピールしていくことで、ステークホルダーとの良好な関係づくりを行っていきたい。
行政の関係主体(福岡県精神保健福祉センター、福岡市精神保健福祉センター、北九州市精神保健福祉センター)とは、定期的にご挨拶に伺ったり、主催イベントの案内などの情報提供を行ったりする中で関係を維持している。
(5)持続力
中間2次報告以降も、当会の活動の持続可能性について、内部で議論を重ねている。活動のモチベーションとなる「やりがい」の確保は大前提だが、その上で、財源の持続可能性の観点から、収益が得られる事業の模索をしている。組織のあり方としてNPO法人化なども視野に入れ始めている。他の自助グループとの意見交換の中で、活動を持続する上での悩みや工夫などの情報交換も行っている。
【Ⅱ】Ⅰの評価軸はいずれも、強化するには連携力が潜在的に重要であり、その一助として次の項目を考える。
(1)当事業が取り組む社会的課題の根底にある社会的要因/背景(根本課題)は何だと考えるか。
ⅰ)子どもの自己肯定感の低さ、ストレスの多い競争社会
ⅱ)痩せ礼賛社会、女性に求められる規範意識
(2)その根本課題の解決にどのように貢献できそうだと考えるか。
ヒアリング調査等を通して問題の本質を明らかにし、関係者間で共有し、まずは共通認識を持つこと。課題について広く情報発信し、改善の必要性等を訴える世論形成に結びつけていくこと。
(3)そのような貢献にむけて、どのような活動との協力/連携が有効だと考えるか。
・医療・福祉等の関係者との連携(根本課題の解明と認識共有等)
・メディア等との連携(情報発信等)
・著名人・インフルエンサーなど、この問題を広く発信する力のある方との連携(情報発信等)
・ⅰ)については教育分野との連携(自己肯定感を育む教育の重要性についての認識共有等)
・ⅱ)についてはファッション業界、ダイエット産業との連携(痩せすぎモデルの規制や、行き過ぎたダイエット情報の規制等の働きかけ等)■