ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第12回助成中間報告
NPO法人CoCoTELI(2024年12月)
◆助成事業名・事業目的:
「精神疾患の親をもつ子どもの”こえ”を可視化するWebメディア」
精神疾患の親をもつ子どもの”こえ”を社会に届け社会課題としての認知向上を図ること
子ども全体の15〜23%いると言われている精神疾患の親をもつ子ども支援の領域は狭間とも言えない空白の領域であると言い切れるほど日本において抜け落ちている観点である。
私たちNPO法人CoCoTELIは精神疾患の親をもつ子ども・若者支援の土壌をつくるためのファーストステップとして、彼ら・彼女らを対象とした住む地域が関係ないオンラインでの居場所づくり・支援を行っている。現在居場所に45人弱、公式LINEの追加が約115人と多くの当事者の”こえ”を聴いているが、そもそも課題としても認識されていない精神疾患の親をもつ子ども・若者の困難や生きづらさ。他の子どもと比べて2.5倍高いと言われている子ども自身の罹患率。など支援の土壌をつくるためには社会課題として認知向上を図る必要がある。しかし、現状は課題として社会に多様な”こえ”や課題感を伝える手段が『関係者が発信すること』以外ほとんどない状況である。いつでもどこでも見ることができ、レバレッジが効く Webメディアという媒体を用いて当事者の”こえ”を社会に届け社会課題としての認知向上を図ることを目指す。
◆助成金額 : 83.5万円
◆助成事業期間 : 2024年1月~25年6月
◆報告時点までに実施した事業の内容(主に前回の報告時以降=24年7月~):
次のような記事を公開した。
・ストーリー記事3件
「自分の気持ちがわからない」
「大学進学をきっかけに家を離れたことでの変化 〜19歳 はなのさんのお話〜」
「感情を取り戻したことで感じたしんどさ。双極性障害とパニック障害を有する母親の元で育ったみすずさん(仮名、19歳)」
・事実記事3件
「精神疾患って何ですか? by NPO法人ぷるすあるはさん」(3記事)
「あなたは1人なのか? ~精神疾患の親をもつ子どもは1人ではない 〜 by 佛教大学 准教授 田野中恭子先生」(2記事)
「あなたや家族の安心・安定を支える「社会保障」とは?中学生でも使えるの? by 『15歳からの社会保障』著者横山北斗さん」(2記事)
また現在、ストーリー記事3記事を執筆中、事実記事3記事を依頼中、ポッドキャストを準備中という状況である。
課題の認知向上、その先の様々な課題解決促進に向けた動きにおいて重要な指標の1つとなるPV数{Webページの閲覧数}は公開から全記事合わせて700前後で、PV向上に向けたPDCAを回せているとは言い難いため、改善していく必要がある。現状の読者流入経路としてはXからの流入やHP活動内容ページからの流入がメインとなっており、次項に記載するが別手段等も試しながらPDCAを回していきたい。
一個の大きな収穫は、「大学進学をきっかけに家を離れたことでの変化 〜19歳 はなのさんのお話〜」への検索流入ワードに数件「家を離れたい」「家から離れたい」など、子ども・若者が検索したと考えられる悩みダイレクトなワードがあり、記事構成/執筆の工夫次第ではそういった子ども・若者との出会いのきっかけを記事を通して多く生むことができる可能性が考えられたことであり、今後の記事構成/執筆の際に上記収穫を考慮して計画を進めていく。
◆今後の事業予定 :
2024年12月〜2025年6月
<ストーリー記事(5記事前後予定)>
既存の記事の取材対象者が10代〜20代前半のため、子ども・若者世代で悩むことが多いと考えられる悩みの一部に触れることができていると考えているが、その先、結婚や子どもを持つか否か、親の老後についてなど、現時点での将来への不安や、将来的に子ども・若者が悩むであろうテーマについてもロールモデルと出会える可能性を高めるために、20代後半以降の当事者の方への取材を進めていく。
<事実記事(5記事前後予定)>
引き続き計画通り、子ども・若者にとって不安を解消したり、知ることが選択肢となり人生の幅が広がったりし得るテーマの記事を専門家に執筆していただき、公開を進める。(テーマは「子どもの権利」「発達障害」「依存症」など)
<ポッドキャスト(10回前後予定)>
1月中公開に向けて準備を進めている。記事の設計はストーリー記事と事実記事の音声版といった形で、「ストーリー」「事実」と明確にコンテンツを偏らせず、ポッドキャスト内でもどちらの情報とも出会えるような内容を配信する。
<PV{Webページの閲覧数}向上について>
PV数向上に向けた施策に関しては、既存のX等での発信はもちろん、NPOが月100万円まで無料で使えるGoogle広告の活用、メーリングリスト(現在900名弱)へ定期配信しているメルマガでの記事紹介やシェアのお願い、講演会等を行う際の記事の紹介、HPのUI/UXの改善等をそれぞれ行う。
◆助成事業の目的と照らし合わせた効果・課題と展望:
【Ⅰ】次の5つの評価軸それぞれについて、当事業において当てはまる具体的事例。あるいは、当てはまる事が現時点では無い場合、その点を今後の課題として具体的にどのように考えるか。
(1)当事者主体の徹底した確保
インタビュー記事は「顔出しなし・匿名」であることや、インタビュー実施前後のサポートを徹底している。また、広報ポリシー(https://cocoteli.com/policy)を公開した。
今後の課題としては、広報ポリシーの策定→公開までしたのは良いもののそれの浸透をどのようにしていくかが挙げられる。Webメディアや広報に関するmtg時などに広報ポリシーを見える場所に添付しておくなど、接触回数を増やすことで懸念の解消を図る。
(2)法制度・社会変革への機動力
「精神疾患のある親が悪い」と言った誤った認識を生んでしまうリスクに対して、ストーリー記事の導入部に『※精神疾患の親をもつ子ども・若者を取り巻く課題は多くの場合親のせいではなく、社会側にある親子それぞれにとっての様々な障壁によるものです。
大前提、親子関係というのは人それぞれ違い、正解がない、とても難しいもので、メンタルヘルスの疾患の有無に関わらず多くの方が悩むことです。
『精神疾患を有する親=悪』ではなく、仕組みで社会側にある様々な障壁を取り除いていく、選べるメニューや頼り先を増やしていく必要があるということを知っていただけると嬉しいです。』
という文章を必ず記載している。今後ポッドキャストを開始する際に同じようなリスクがあるため、そこでもはじめに注意事項として伝えることで懸念の解消を図る。
(3)社会における認知度の向上力
『実施した事業と内容』部にも記載したように、PV向上に向けた施策を現時点では十分に回しているとは言えない。『今後の事業予定』内<PV向上について>で記載したアクションを着実に行なっていく必要がある。
(4)ステークホルダーとの関係構築力(相反する立場をとる利害関係者との関係性を良好に築いたり保持したりする力)
『(2)法制度・社会変革への機動力』に記載した注意書きの部分を記載している。親の立場の方との対談記事に関しては、「親」といっても様々なタイプの親がいる中で、どんなストーリーを描いていくのかという構成等の難しさがあり頓挫している部分である。対談記事を実際に書く際も記事の初めに注意書きで「あくまでも一部のケースで代表性を持たない」ということを記載していく必要がある。
(5)持続力
月額寄付サポーターの獲得、大口寄付の獲得に尽力した。時間はかかるが安定財源となる月額寄付サポーターは創業期である今、力を入れるかは悩みどころではあるが、4月から70人ほど増えており、安定財源の成長という面では意味があると考えている。また、大口寄付も1件決まり、10ヶ月死なない状態での経営ができている。メディア単体で見ると、現時点での月額寄付サポーターの皆さんのご支援により運営できる状態である。しかし、団体全体としての今後の課題としては団体の成長と自主財源とのバランスが挙げられる。進んでいく中での社会状況等でも変わる部分なので、臨機応変に対応していきたい。
【Ⅱ】Ⅰの評価軸はいずれも、強化するには連携力が潜在的に重要であり、その一助として次の項目を考える。
(1)当事業が取り組む社会的課題の根底にある社会的要因/背景(根本課題)は何だと考えるか。
複雑な問題で簡単に表せるものではないが、あえて課題を2つ設定するのであれば
- 当事者の子どもが見えないこと
- 社会資源がほとんどない
の2点と考える。①に関しては子ども自身が自身の状況を自覚して言語化するハードルの高さや精神疾患に対する偏見等から子ども若者がSOSを出すハードルが高いことが大きいと考える。そのように子どもからの相談を待つには限界がある中で、子どもたちを社会側から発見する仕組みがないため多くの子ども・若者が見えない存在となっている。
②に関しては、現在経済的合理性がない領域であるため取り組みを始め・続けるハードルが高く支援の選択肢が生まれづらいことが理由として考えられる。また、虐待やヤングケアラー・貧困のように誰が見てもよくない状況ではない、一歩手前の名前がないフェーズの課題となるため支援の必要性がわかりづらく、認知が広がらないことも理由として挙げられる。
(2)その根本課題の解決にどのように貢献できそうだと考えるか。
今回助成いただいて実施するWebメディアはまだまだ知られていない課題の認知向上に大きく寄与する可能性がある。現在日本において精神疾患の親をもつ子ども・若者のストーリーや彼ら・彼女らを取り巻く事実に関してまとめられているサイト等はほとんどないなかで、Webメディアを構築し課題の具体をイメージしやすくなるコンテンツが増えることは多くの人が問題意識を持つきっかけになることが期待できる。
また、団体として長期的に想定している病院や学校、行政等の連携により社会側から子どもたちを早期発見するモデル事業づくり→政策提言の流れを進めていく中でメディア構築による課題の認知向上がなされることは、人や社会の巻き込みやすさに大きな影響が生まれることが考えられるため、長期的にも好影響を及ぼすと考える。
(3)そのような貢献にむけて、どのような活動との協力/連携が有効だと考えるか。
多方面(医療・福祉・法律等)の専門家との連携が有効と考える。本領域は児童福祉分野だけでなく、精神保健福祉、その他にも様々な分野を横断する課題であるため、メディアを通して各業界のキーパーソンたちに記事執筆を依頼し公開することで、多様な分野のプレイヤーたちとの接点(入口)を増やすことできる可能性があると考える。
また、親と子の対立構造が生まれてしまうことの弊害は大きいことから親の立場の方たちの団体との連携は重要と考える。先日開催したアドボカシーカフェでの精神障害者当事者会ポルケさんとのコラボは大きな意味を持っていたと考えている。■