ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第12回助成 報告
ふくおか摂食障害ともの会(2026年1月) *準最終報告
◆助成事業名・事業目的:
「摂食障害の当事者の実態把握と支援のあり方の検討、当事者のエンパワーメントを促すコミュニティの構築」
摂食障害の当事者が病気に脅かされず、必要な支援や情報を得ながら病気の回復に向かえるよう、当事者の実態やニーズを定量的・定性的に明らかにした上で、医療・福祉などの関係機関と課題を共有し、支援のあり方について検討・改善できる場をつくる。その際、有益な支援や情報提供方法のあり方を検討する手がかりを得ることを目的として、摂食障害経験者の回復体験を把握・分析し、回復における重要な要因を探る。
また、当事者の孤立を防ぎ、エンパワーメントを促す場として、当事者・経験者によるWEBコミュニティを構築し、経験者の回復体験から得られた回復のヒントの共有や、多様なロールモデルとの出会い・交流ができる場をつくる。このコミュニティは、当事者のニーズを継続的に把握することも目的とする。
さらに、摂食障害に対する社会的な認知拡大に向けて、本事業のプロセスや調査結果を広く発信することも目的とする。
◆助成金額 : 100万円
◆助成事業期間 : 2024年1月~26年4月 *当初申請期間から4か月間延長
◆実施した事業の内容:
- 当事者の実態やニーズを定量把握するWEBアンケート調査
全国の当事者を対象として、現在の症状や病歴、困りごと、治療状況、相談相手の有無、心境等を把握するためのWEBアンケート調査を実施し、155名から回答を得た。調査結果をレポートとして取りまとめ、当会のWEBサイトで公開した。
- 回復のヒントを探るヒアリング調査
摂食症の当事者・経験者12名分を対象として、回復のプロセス等を把握するためのヒアリング調査を実施した。
- 支援のあり方を検討する意見交換
医療・福祉等の関係主体と、当事者支援のあり方について意見交換を行った。そのうちの1回は、福岡県の摂食症治療の第一人者である九州大学病院の高倉医師・八幡厚生病院の米良医師を交えたシンポジウムのパネルディスカッションとして実施し、記録冊子をとりまとめ、当会のWEBサイトで公開した。
◆事業の達成度 :
- 当事者の実態やニーズを定量把握するWEBアンケート調査
計画を十分に達成したと考える。理由は以下。
・対象者数は100程度を想定していたが、過去のオンライントーク参加者への直接の依頼やSNSでの周知を行った結果、想定を上回る回答数(155件)が得られた。
・当事者の視点から、当事者の実態を明らかにすることができ、過去に例がない調査結果として反響が得られた。また、シンポジウムをはじめとする発表機会においても、関係者と問題意識を共有する資料として役立てることができた。
- 回復のヒントを探るヒアリング調査
計画を十分に達成したと考える。理由は以下。
・対象者数は12名で、当初想定していた対象数(20名)には至らなかったものの、事前の想像以上に、それぞれの体験が複雑で奥深く、示唆に富んだ内容であり、お一人ずつの体験に丁寧に真摯に向き合う中で、回復において重要な要因や、発症の背景にある社会的要因はもちろん、摂食症からの回復とは?などの問いに向き合い、深く考察することができた。
・また、体験談の編さんにあたっては、当事者の視点で何度も校正を重ね、渦中にいる方にもそっと寄り添えるような内容とすることができた。
- 支援のあり方を検討する意見交換
計画を十分に達成したと考える。理由は以下。
・当初は、机上での意見交換を想定していたが、実際は福岡県摂食障害支援拠点病院の協力のもとに、シンポジウム開催に至るなど、想定以上の成果を得られた。
◆助成事業の成果
■公正な社会づくりの観点からみた成果
これまで、摂食症を社会課題と捉え、当事者が声をあげる活動自体、ほとんど例がなかった中で、当事者の声や実態を浮き彫りにし、社会に発信できたことが、大きな成果であると考える。
■助成申請書における「成果イメージ」との対応
◇当事者の実態調査は、当事者団体が行った全国でも珍しい調査として注目を集めるとともに、その結果が政策提言を行う上での根拠資料として役立っている。
⇒ 当時者の実態調査の結果は、シンポジウム参加者や関係者から感想や問い合わせが寄せられ、メディア関係者にも注目いただいた。また、当時、長野県で摂食障害支援拠点病院の設置を要望する運動をされていた「長野県摂食症自助グループ『パステル・ポコ』」様から、長野県知事懇談会において本調査結果を提示したいとの依頼があった。実際に、県知事懇談会において、当事者の実態を説明する資料として役立てていただいた。その後、2025年8月1日に長野県で摂食障害支援拠点病院が指定された。(末尾に新聞記事添付)
◇関係機関とのネットワークができ、摂食障害の当事者をめぐる課題についての共有認識を持つことができ、それぞれが課題解決に向けた取組みを実践している。また、福岡県における病院・行政・当事者団体の協働の事例が、好事例として全国に展開されている。
⇒ 九州大学病院の高倉医師及び、早田厚生病院の米良医師とは、一連の意見交換を通してつながりができ、課題についての共有認識を持つことができた。シンポジウム記録冊子の公開等を通して、協働の事例の発信はできたが、好事例としての全国展開は、今後の継続的な協働の取組みと情報発信を通して、目指していきたいところである。
◆助成事業の目的と照らし合わせた効果・課題と展望:
【Ⅰ】次の5つの評価軸それぞれについて、当事業において当てはまる具体的事例。あるいは、当てはまる事が現時点では無い場合、その点を今後の課題として具体的にどのように考えるか。
(1)当事者主体の徹底した確保
中間3次報告以降も、当事者主体を徹底している。特に、体験談の編さんにあたっては、当事者ではないライターさんが執筆された文章に対して、当事者の目線から、多くの試行錯誤と校正を重ねている。渦中にいる方が読んだときに、どう受け止められるかに細心の注意を払い、傷ついたり落ち込んだりしないように、動揺や混乱・症状の悪化を招かないように、あるいは過食嘔吐などの手段の助長につながらないようになど、工夫している。また、語って下さった体験者の方にも批判の矛先が向き、傷つくことがないようにという視点でも、注意を払っている。
今後は、この体験談を公開することで、当事者同士の共感がうまれ、当事者が声をあげてもよいという機運がさらに高まることを目指す。
(2)法制度・社会変革への機動力
一連の活動を通して、取材機会が増加したことで、福岡県の摂食症の分野において、当会が当事者団体として一定の立ち位置を得つつある。今後も、会としての活動実績と地道な情報発信を積み重ね、信頼の基盤を作る中で、発言力を高めていくことが、法制度・社会変革への機動力につながっていくと考える。
また、「助成事業の成果」で記載した通り、当会の調査結果が、他団体の政策提言活動に活用いただけたことも、法制度・社会変革に対して間接的に貢献できたと考える。
(3)社会における認知度の向上力
中間三次報告以降も、新聞の取材を受け、メディアを通した情報発信が、当会の活動や摂食症に関する認知度向上につながっている。
西日本新聞(九州ではトップシェアを占める新聞)では、「食べる力取り戻す 摂食障害の今」をテーマにした3回の連載が企画され、その1つとして、代表・江上の体験談やともの会の活動について、取り上げていただいた。(記事は末尾に添付)
連載の中では、九州大学病院の高倉医師及び八幡厚生病院の米良医師の取材も行われ、当事者・治療者それぞれの立場からの現状を伝える内容となっている。
当会がホームページで紹介しているシンポジウムの記録冊子を見ての記者さんの対応であり、これまでの活動の成果が、メディアの取材動線に影響を与えていることがうかがえる。
また、新聞掲載の波及効果として、水巻町(福岡県内の自治体)から当会への講演依頼があった。子育て中の親を対象とした「家庭教育学級講座」の一環で、子育てする上で注意すべき点などを当事者の立場からお話しする予定。こうした機会も捉えて、摂食症への理解促進・認知度の向上に寄与していきたい。
*WEB記事「食べる力取り戻す―摂食障害の今
- 上:日課だった深夜の嘔吐 悩み抱え込まず「打ち明ける場あれば」
https://www.nishinippon.co.jp/item/1428450/
- 中:体重35キロの女子中学生、極度に痩せた体「気持ち悪い」 それでも…摂食障害の10代支える現場
https://www.nishinippon.co.jp/item/1432404/
- 下:“特効薬”はない摂食障害 心の問題にも目を向け…模索続ける医療現場
https://www.nishinippon.co.jp/item/1438186/
(4)ステークホルダーとの関係構築力(相反する立場をとる利害関係者との関係性を良好に築いたり保持したりする力)
行政の関係主体(福岡県精神保健福祉センター、福岡市精神保健福祉センター、北九州市精神保健福祉センター)とは、定期的にご挨拶に伺ったり、主催イベントの案内などの情報提供を行ったりする中で関係を維持している。
また、福岡県を代表する治療者である九州大学病院の高倉医師・八幡厚生病院の米良医師とは、メールなどで連絡を取り合える関係性を維持している。
現時点で、「相反する立場をとる利害関係者」は心当たりがなく、私たちの問題意識に共感して下さる仲間を増やすことが、最重要課題と考えている。今後、摂食症をめぐる課題解決を進める上では、行政・医療以外に、教育・福祉などの分野の関係主体とも連携できることが望ましく、引き続き、私たちが取り組む社会課題の重要性や意義をアピールしていくことで、問題意識を共有できる主体を増やし、良好な関係構築を図っていきたい。
(5)持続力
助成事業の活動を通して、私たちの活動趣旨に賛同し、参加・協力・支援してくださる方が増えていることが、持続するための何よりのモチベーションになっていると感じる。
長期的には、組織基盤を強化し、会としての信頼性を高めるためのNPO法人化なども、視野に入れていきたい。
【Ⅱ】Ⅰの評価軸はいずれも、強化するには連携力が潜在的に重要であり、その一助として次の項目を考える。
(1)当事業が取り組む社会的課題の根底にある社会的要因/背景(根本課題)は何だと考えるか。
根本にあるのは、社会における多様性・包摂性の低さにあると考える。「こうあるべき」が強く求められ、多様なあり方が包摂されない社会では、「このままの自分では認められない」という感覚を抱きやすい。その結果が、自己肯定感の低下を招き、他者比較・同調・自己修正を強いられることに、生きづらさが生まれる。摂食症においては特に、容姿(体型・体重)や成果(成績)が、自己の評価基準と結びついたときに、発症のリスクが高まりやすいと考えられる。
(2)その根本課題の解決にどのように貢献できそうだと考えるか。
これまで実施してきたアンケートやヒアリング調査の結果もふまえ、白書等を通して問題の本質を明らかにし、関係者間で共有し、まずは共通認識を持つこと。摂食症を「個人の問題」に矮小化せず、社会課題として広く発信し、改善の必要性等を訴える世論形成に結びつけていくこと。
(3)そのような貢献にむけて、どのような活動との協力/連携が有効だと考えるか。
希望:思春期の子どもやその親、学校関係者(特に養護教諭やスクールカウンセラーなど)を対象として活動されている団体さんがあれば、啓発活動などにおいて連携してみたい。
理由:摂食症は早期発見・対応が重要であるものの、現在、当会で実施しているオンライントークの参加者の年代は、30代以降が多く、若年層の方へのアプローチができていない。発症を未然に予防する、あるいは症状の長期化を防ぐ観点からは、若年層へのアプローチが重要と考えるため。また、思春期のメンタルヘルスをめぐる問題は、摂食症以外にも様々なものが考えられることから、情報を受け取る側のニーズを考えると、摂食症にとどまらず、様々な観点からの情報提供がある方が、関心を持ちやすく、またメリットも感じやすいのではと考えるため。 ■

