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ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第12回助成 最終報告

NPO法人CoCoTELI(2026年1月)

助成事業名・事業目的

「精神疾患の親をもつ子どもの“こえ”を可視化するWebメディア

 精神疾患の親をもつ子どものこえ”を社会に届け社会課題としての認知向上を図ること

 子ども全体の15〜23%いると言われている精神疾患の親をもつ子ども支援の領域は狭間とも言えない空白の領域であると言い切れるほど日本において抜け落ちている観点である。

 私たちNPO法人CoCoTELIは精神疾患の親をもつ子ども・若者支援の土壌をつくるためのファーストステップとして、彼ら・彼女らを対象とした住む地域が関係ないオンラインでの居場所づくり・支援を行っている。現在居場所に45人弱(2025年6月現在:約95人)、公式LINEの追加が約115人(2025年6月現在:280人)と多くの当事者のこえ”を聴いているが、そもそも課題としても認識されていない精神疾患の親をもつ子ども・若者の困難や生きづらさ。他の子どもと比べて2.5倍高いと言われている子ども自身の罹患率。など支援の土壌をつくるためには社会課題として認知向上を図る必要がある。しかし、現状は課題として社会に多様なこえ”や課題感を伝える手段が『関係者が発信すること』以外ほとんどない状況である。いつでもどこでも見ることができ、レバレッジが効く Webメディアという媒体を用いて当事者の”こえ”を社会に届け社会課題としての認知向上を図ることを目指す。

 

助成金額 : 83.5万円 

助成事業期間 : 2024年1月~25年12月

実施した事業の内容: 

HP活動内容ページ内に「メディア」ページを開設

HPトップページに「当事者の声を聴く」ボタンの追加

 ◯ストーリー記事10記事の公開

・「家を出たい」と「家族を支えなければ」の間で揺れた気持ち〜うつ病を有する母親の元で育ったみなみさん(25歳、仮名)〜

・感情を取り戻したことで感じたしんどさ〜双極性障害とパニック障害を有する母親の元で育ったみすずさん(仮名、19歳)〜

など

▼詳細はこちら

https://cocoteli.com/story

Kaida SJF

 

◯事実記事(専門家による気になるテーマの解説記事)10記事の公開

・「自分のことは後回し」そんなあなたが“今日からできるセルフケア“(執筆者:伊藤絵美さん/洗足ストレスコーピング・サポートオフィス所長)

・“子どもだから”と我慢しているあなたに知ってほしい”子どもの権利”(執筆者:間宮静香さん/弁護士)

など

▼詳細はこちら

https://cocoteli.com/fact

Kaida SJF

 

Podcast24回分(※)の公開

・#11「親を許さなくても良い」ゲスト:桜井みよさん(株式会社Empathy4u ヤングケアラーピア相談員/理学療法士/精神保健福祉士)

・#17「統合失調症のあるお母さんと過ごした子ども・若者時代」ゲスト:小林鮎奈さん(看護師/公認心理師)

など ※#23/24のみ、25年12月収録/26年1月公開

▼詳細はこちら

https://open.spotify.com/show/56VKkLPMezRtSKZO6UTDJ5?si=22328c1aebf14066

Kaida SJF

 

事業計画の達成度 : 

◯計画に対する進捗

 当初計画していた「HP内にメディアページを追加し、当事者の“こえ“とエビデンスを継続的に発信する」という骨格については、他業務の想定以上の増加によるスケジュール感の変更等はありつつ、概ね計画通りに実施できた。

 具体的には、①HP活動内容ページ内に「メディア」ページを開設し、HPトップに「当事者の声を聴く」導線ボタンを設置することで、情報の集約地点と入口導線の整備②当事者のストーリー記事10本③専門家等による事実記事10本④Podcast24回分を公開し、コンテンツ群として一定の厚みを形成することができた。

 また、記事・Podcastの制作は、単発で終わらせず「継続配信できる形」にすることを重視し、依頼→公開までのプロセスにおいて、取材設計、匿名性の担保、公開前チェック、修正プロセス、編集方針などの運用手順を都度アップデートしながら整備し、オペレーションに落とし込めた点は、今後の運用においても重要なプロセスであったと考えている。

 

◯プロセスの質(安全性・当事者性・再現性)の担保

 今回の事業に関して、当事者の語りを扱うことから「発信の量」だけでなく、「当事者主体の確保」と「二次被害の回避」をプロセス評価の中核に置くことを大切にした。取材〜公開の各段階で、話したくないことは話さなくてよい旨の事前共有や初稿後の当事者チェックと修正、匿名性の担保などを徹底し、当事者参加型の制作を設計した。加えて、ストーリー取材やPodcast出演に対して、謝金に加え希望者に関してはオンラインカウンセリング1回分に対するCoCoTELI側の費用負担の選択肢をセットで実施し、語りの提供が当事者の消耗につながらないよう配慮した。

 このように、コンテンツ制作を「当事者の搾取」にしないための運用を、試行錯誤しながら継続的に改善してきたことは、今後の適切な運営を考えていく上で非常に重要なプロセスであったと考えている。

 

◯プロセスを通した学び

 メディアはストック型コンテンツとして、対当事者に対しては「相談する」と「相談しない」の間に位置する選択肢となり、啓発活動においては社会にリアルなこえを届ける選択肢となった。双方においても、記事やPodcastの選択肢は課題の具体性を伝える際の説明コスト/理解コストを下げるツールとしても機能し始めている。課題を問われた際に、スタッフが口頭説明だけでなく記事やPodcastを案内できるようになったこと、研修等で登壇した際にPodcastを紹介することで継続的な接点を持てる可能性が高くなったことは、事業目的に向けた“手段の整備“という意味でもとても大きな意味を持ったと思う。

 一方で、認知拡大(PVの向上、より広い層への到達)は、現時点では十分とは言えない。

記事:開始(2024年7月)から約10,000PV

Podcast:開始(2025年2月)から約1,700回再生

 が現状である。特にPodcastに関しては、徐々に再生数が増えてきていたり、SNSやメルマガ、スタッフからの直接紹介による流入は一定増えたりしているが、社会における認知度向上への大きな寄与には至っておらず、今後は「読まれる/聴かれる設計」に対してより向き合っていく必要がある。具体的には、タイトル設計、SNS導線の設計、読者層分析、Google Ad Grantsの活用、Podcastで時事性や注目テーマと接続した発信などが考えられる。日々の現場運営と並行してこれらのアクションをとっていきたい。

 また、申請時想定以上に相談対応等の業務が逼迫し、取材や編集などの公開プロセスに加え、広報や分析・検証・改善に割ける工数が不足していることが課題として顕在化した。これに対しては、組織として業務の棚卸しやインターン・ボランティアの採用など組織の再設計を含め、制作・配信の継続性と認知拡大の両立を目指していきたい。

 

助成事業の成果: 

◯公正な社会づくりへの貢献

 精神疾患の親をもつ子ども・若者は、虐待や貧困等の名前のつかない困難を経験していることが多いことや制度の狭間に位置することにより「困難が見えない/名づけられない」まま見えない存在となりやすい。

 本事業を通して、当事者のこえを社会に届け、困難を「存在しないもの」にしないこと、そして困難を個人の努力や家庭内の問題に帰結せず、社会が気づき支えるべき課題として位置づけることに寄与したと考えている。これは、見えにくさゆえに生じてきた支援アクセスの格差を縮小し、より公正に支援機会へアクセスできる環境を整える取り組みであると考えられる。

 また、当事者主体(話したくないことは話さなくてよい、公開前チェック等)を担保して発信を行ったことは、当事者の尊厳を守りながら社会の理解を進める実践として、公正性の観点からも重要な成果であると考える。

 

◯認知の入口が広がり、関係者依存から脱するレバレッジが生まれた

 記事は開始(2024年7月)から約10,000PV、Podcastは開始(2025年2月)から約1,700回再生と、課題は残るが一定数の閲覧・視聴が生じた。

 ストック型であるため、スタッフが直接説明できない場面でも、記事やPodcastを案内することで課題の具体を共有できるようになり、認知向上の入口が人的リソースに依存し過ぎない形へと移行することができた。

 

◯多様なこえを届けることで、1ストーリーでは出せない幅を伝えることができた

 当事者のストーリーが1媒体に蓄積されていくことにより、精神疾患の親をもつ子ども・若者が抱える困難を多様な角度から捉えるための材料の1つとなった。似た経験をしている当事者でも多様な経験や感じ方がある。それらの幅を伝えることができるコンテンツが整ったことはリアルを伝えていく上でとても重要なことであると考えられる。

 

◯現場の「視点」を生み、早期の気づき・関わりの可能性を高める土台になった

「精神疾患の親をもつ子ども・若者」という視点は、児童福祉と精神保健医療福祉の狭間で見落とされやすい視点である。今回、当事者のこえを届ける媒体が整備されたことで、子どもの周囲にいる支援者/大人たちに当該視点を共有しやすくなり、結果として、これまで気づけなかった当事者への早期の気づきや、声かけ・接続の可能性を広げる共通言語をつくる選択肢を生み出すことができた。

 これは「プレイヤー(関わり手)の増加」を直接的に保証するものではない一方、関心を持った人が具体的に触れることができる、行動に変えるためのコンテンツという土台を社会側に用意できたと捉えることができると考える。

 

 

助成事業の目的と照らし合わせた効果・課題と展望:   

【Ⅰ】次の5つの評価軸それぞれについて、当事業において当てはまる具体的事例。あるいは、当てはまる事が現時点では無い場合、その点を今後の課題として具体的にどのように考えるか。

(1)当事者主体の徹底した確保

 匿名性の担保、本人意向の最優先、公開後も削除可能であることの明確化、公開前の本人チェック等のプロセスを必須とし、取材〜公開プロセスにおいて「話したくないことは話さなくてよい」ことの事前共有、初稿執筆後のチェック→修正の徹底など、当事者が語りをコントロールできる仕組みを運用として定着させた。さらに、取材やPodcast出演者に対し、謝金に加えてオンラインカウンセリング1回分の無償提供をセットで行うことで、語りが当事者の消耗につながらないよう配慮を強化した。

 当事者主体を方針ではなく、プロセスとして担保できた点は大きな成果であると考えられる一方で、公開後の当事者の反応への不安などの心理的影響をより丁寧にフォローするため、公開後の任意フォロー面談や、相談導線の明示などアフターケア体制の整備が今後の課題として考えられる。

(2)法制度・社会変革への機動力

 精神疾患の親をもつ子ども・若者の多くが社会から見えない存在となっているなかで、彼ら・彼女らのこえを見える化したことは社会課題化において非常に重要なプロセスであると考えている。また、メディアがストック型であることにより、スタッフが直接説明しなくても課題の具体を伝えられる資源が整備され、支援現場や啓発の文脈で「記事を案内する」活用が生まれた。これは、社会変革に向けた共通言語の広がりという意味で機動力の基盤形成と評価できる。

 制度・社会変革は長期戦であり、本助成期間で制度変化そのものは当然起きないが当事者のこえを届けるコンテンツを構築できた意義は大きい。一方、誤解や対立構造を防ぐ設計は継続課題であり、親の立場や本人の立場と協働したコンテンツ(共同編集・共同発信を含む)を通して、より複層的な語りの環境を整える必要がある。

(3)社会における認知度の向上力

 記事PVやPodcast再生等は一定数あるが、まだまだ圧倒的に足りないのが現場である。現場などその他業務逼迫により、想定していた以上に分析・改善に工数を割けなかったことも要因として顕在化した。社会的認知を広げるには「良いコンテンツを作る」だけでは不足で、読まれる導線(タイトル・サムネ・SNS設計)や流入チャネル(Google Ad Grants、検索流入の設計)、読者理解(読者層分析)、運用体制(広報・分析の担い手確保)が必要である。ボランティア・インターン等との連携により運用体制を強化し、PDCAを回す段階へ移行していきたい。

(4)ステークホルダーとの関係構築力(相反する立場をとる利害関係者との関係性を良好に築いたり保持したりする力)

 発信が親子の対立構造を助長し得るため、精神疾患を有する親の立場の方に執筆していただく記事を企画・公開した( https://cocoteli.com/facts/kosodate )。

 しかし、圧倒的にそういった親の立場の方との協働から生まれたコンテンツが足りないのは大きな課題である。今後は、親当事者・本人当事者・専門職の複数視点を担保した編集方針や対立を生まない言葉選びのガイドラインの作成、共同企画(本人団体とのコラボ等)を通して、利害が相反しうるステークホルダーとも「共通の目的(親子双方の生きやすさ)」のもとで関係構築を進める必要がある。多くが自団体だけでは難しいことであるため、親当事者団体・精神保健領域の当事者団体・専門職団体と連携し、編集・監修・共同発信の形を模索していきたい。

(5)持続力

 月額寄付サポーター数が現在130名を超え、仲間の輪が広がり始めた。しかし、寄付型NPOとしての成長の難しさを感じる場面も多くあり、現状はかなりギリギリの運営である。メディアにおいては、基盤は整ってきたが、コンテンツの継続配信と認知拡大のためには制作・編集・広報の人的体制がボトルネックになり得る。寄付基盤をベースに、制作・広報の役割設計(ボランティア・インターン含む)を進め、継続運用可能な体制へ移行する必要がある。

 

【Ⅱ】Ⅰの評価軸はいずれも、強化するには連携力が潜在的に重要であり、その一助として次の項目を考える。

(1)当事業が取り組む社会的課題の根底にある社会的要因/背景(根本課題)は何だと考えるか。

 精神疾患の親をもつ子ども・若者は、児童福祉と精神保健医療福祉の領域的・制度的狭間に置かれやすく、支援の対象として“見えにくい存在”となりやすい。児童福祉では優先度の高いラベル化された課題(虐待、不登校、ヤングケアラー等)に資源が集中し、精神保健医療福祉では主たるクライエントが親本人であるため家族支援の制度的インセンティブが乏しい。さらに家庭の経済的脆弱性等により民間支援の受益者負担モデルも成立しにくい。また、制度化/予算化されていない領域であるため、お金にならず支援が生まれづらい。この結果、公私双方の支援が薄いまま推移している。

(2)その根本課題の解決にどのように貢献できそうだと考えるか。

 根本課題の入口にある「見えにくさ/語られなさ」に対する1つの選択肢として貢献した。具体的には、当事者のこえを届けるストック型コンテンツを整備したことで、関係者の発信に依存しない形で課題の具体像が共有されうる環境をつくった。これは、医療・福祉・教育等の子どもや親に関わることのある大人たちが当該視点を獲得し、早期の気づきや適切な関わりに接続するための前提条件である。しかし、認知向上が行動変容に転換されるには、コンテンツの質だけでなく、PV等の増加と、現場での活用設計(研修、ガイド、紹介パッケージ、連携先への実装)が必要である。

(3)他団体と連携したプロジェクトのアイディア、あるいは具体的な構想、あるいは希望などはあるか。

専門家執筆者とのイベント開催:事実記事のテーマを深掘る外部向けイベントを共催し、記事→イベント→再拡散の循環をつくる。

Podcastゲストとの対談企画:語りを起点に、支援者・当事者・市民が安全に対話できる場を設計し、理解の深化とネットワーク形成につなげる。

親の立場の方たちの当事者団体とのコラボ発信:精神疾患を有する本人の立場の団体等と「コラボ週間」等を実施し、対立構造の助長を避けつつ複層的な語りをコンテンツ化する。

 現時点はコンテンツの広報が第一優先であるが、今後は“既存コンテンツを使って広げる”フェーズへ移っていきたい。 

 

※CoCoTELIとしては、「精神疾患の親をもつ子ども」と「ヤングケアラー」は「重なることはあるが別である。ヤングケアラーの一部のケースが精神疾患の親をもつ子どもであり、精神疾患の親をもつ子どもの経験する可能性のある困難の1つがヤングケアラーである」と考えています。以下、簡単に理由を記載させていただきます。

①ヤングケアラーという言葉の社会的な認識について

 ヤングケアラーの定義には、精神疾患を有する方のケアに関する項目も記載されており、精神疾患を有する方の家族としての子どものケアについても認識されています。しかし、現状ヤングケアラーの言葉の用いられ方や「ケア」の社会的認知は「家事」や「介護」がメインであり、「情緒的ケア」は時間的に計りづらかったり物理的な作業があるわけでもなかったりするので、ケアとして認識されづらい現状があります(もちろん、家事や介護をしている当事者もおり、その場合ヤングケアラーとして認識されやすくなっています)。

②精神疾患の親をもつ子どもが経験する困難は名前がつくものばかりではない

「精神疾患の親をもつ子ども」という言葉は、「虐待」や「ヤングケアラー」のように具体的な困難を定義している言葉ではありません。実際、親が適切な治療や支援、地域コミュニティとつながっており、家族間で対話ができているなど、何不自由なく暮らしている家庭も多くあります。

 その一方で、グラデーションのある状況の中で「ケア」が発生している場合も少なくないと推測されますが、それだけでなく例えば;

・「虐待」や「ヤングケアラー」には当てはまらないけれど、親のメンタルヘルスの状態によって日々の生活が左右される

・親の体調が悪くならないよう常に親を優先して行動し、自分の気持ちが分からなくなってしまう

といった「名前がつかない困難」も多くあります。これらは「情緒的ケア」と表現できる部分もありますが、社会的に「ケア」として認識されることは難しいのが現状であると考えています。

 

 

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