ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第11回助成
NPO法人レインボーコミュニティcoLLabo
SJF助成事業第2次中間報告(23年12月)
◆助成事業名:『性的マイノリティ女性の地域と世代を超えたオンライン上のコミュニティ構築と実態調査』
レズビアンやバイセクシュアル女性などのセクシュアルマイノリティ女性(以下「性的マイノリティ女性」と記す)は、性的マイノリティであることに加え、女性であることでの生きにくさを抱えている。そこには、見えにくさ(カミングアウトや発信の問題から、当事者にとっても不可視化されている現実)、声が届かないために自ずと対応する公的制度や民間サービスが不足し、コミュニティの不在といった課題があると考えている。そのため、本事業では2点を目的とする。
1)性的マイノリティ女性が、世代、名乗り(アイデンティティ)、住む地域や個人のネットワーク、生活形態を超えつながり、自己を肯定し、多様なロールモデルを知って未来を切り開いていく力をつけられるようなしくみを作ること
2)社会制度は待っていて与えられるものではない。人生の困難を軽くできるよう、自ら社会に変化を求めていく動きを学び、拡げていくこと
◆助成金額 : 290万円
◆助成事業期間 : 2023年1月~2024年12月
◆実施した事業と内容:
2023年6月30日 みらいふWebサイトβ版開始(写真はイメージ)
7-11月 みらいふWeb制作(インタビュー、画像)
7-8月 せくたんページ制作(インタビュー、記事化、ページ調整)
8月18日 せくたんぺージβ開始
10-12月 せくたんページチーム再構成(変更点:インタビュー対象の拡大)、オンラインプログラムの実施(ニーズ調査、参加型コミュニティの模索)
10月 みらいふWeb参加者2次募集開始
9-11月 認知向上のためのブランディング会議、ページ構成変更(調整中)
◆今後の事業予定 :
通年で、みらいふサイト、せくたんページの記事・コンテンツ制作、およびみらいふ連動の①コメント参加、②プログラム参加の拡充を図る
~12月 登録時アンケート等の中間報告、みらいふサイトのデザイン・機能・運用方法の決定(変更点:時期前倒し)、2クール目計画確定(変更点:認知・参加拡大の評価は(本)サイトオープン後に延期)
2024年1~3月 みらいふサイトβ(クローズドからオープン化へ)移行準備(CEO対策、GA4導入)、コメント参加・量的調査計画の検討
4月 みらいふ(本)サイト公開(せくたんページ連携)、事業の認知拡大のための活動(第2弾)―TRP2024へのブース出展予定、新調査開始(量的)、コメント参加開始、SJFアドボカシーカフェ開催
7月 コメント参加の評価、参加型コミュニティ方法の決定、認知・参加拡大の評価とそれを受けた計画調整
11月 助成事業としての評価・総括
◆助成事業の目的と照らし合わせ 効果・課題と展望:
【Ⅰ】次の5つの評価軸それぞれについて、当事業において当てはまる具体的事例を挙げた。あるいは、当てはまる事が現時点では無い場合、その点を今後の課題として具体的にどのように考えるかを記載。
とくに、助成申請書の3-5で5つの評価軸について記載した「課題と考えることとそれへの対策」に関連させて、どのように変化したのかも記載。
(1)当事者主体の徹底した確保
性的アイデンティティの名乗りなどで細分化し分断することなく連帯することを課題に挙げた。そのため、セクシュアルアイデンティティの列挙ではなく、「社会的に女性として生きるひと・カップル・かぞく」として包括的につながるよう呼びかけていることは、概ね好評価を得ている。
一方で、殊に「せくたん」ページでは、セクシュアリティ探索プロセスを明らかにしていくため、近年増えている(または可視化された)ノンバイナリー/エイセクシュアル当事者を作り手に迎え入れ、個別性をふまえることも重視している。
初年は、こちらからのリーチの問題で参加地域に偏りがあり、ひとりで生きているリアルの発信が遅れているが、テキストも、作り手も、当事者性をもつ人との協働体制ができつつあるので、これを活かしていきたい。
(2)法制度・社会変革への機動力
当事者の中にも、自分事意識で行動するひと、他人事感のひとまで濃淡があることを課題として挙げていた。初年においては、みらいふサイトへの協力者は、すでに具体的アクションに立ち上がっているひと、国を相手にした訴訟の当事者も含まれている。
しかし、初めから法制度や社会変革を求めて動いたわけではなく、あるニーズを解決する行動を重ねていった。その経験を発信することで、それなら自分にもできるかもと受けとめ、小さな一歩を起こすきっかけを届けるしくみ(コミュニティ)を作るのが本事業のゴールであるが、サイトを訪れ記事を読んでもらわなければ始まらない。当初の想定よりも、ストーリー発信者への親近感、知りたいことや困りごとに徹底的に寄り添うコンテンツ構成や機能を強化して対策するところである。
(3)社会における認知度の向上力
6、7月には、大学の市民活動やNPO論の講義にて、「みらいふ」「せくたん」の切口から本事業を紹介した。「こころの科学」(日本評論社,12月発行予定)にはエッセーを寄稿した。この後一般市民向けの雑誌への寄稿も予定している。みらいふサイト公開を2段構えとしたため、メディアに取材してもらうような発信はしなかったが、みらいふサイト・せくたんページに参加する当事者を増やし、発信や実態を当事者を含む社会に知ってもらうことは本事業の成功のカギであるので、適切な時期に行いたい。
(4)ステークホルダーとの関係構築力(相反する立場をとる利害関係者との関係性を良好に築いたり保持したりする力)
これまで、重要なステークホルダーとして、女性が中心の性的マイノリティ当事者団体、参加する当事者、専門性や技術をもつ協力者ととらえ、共通の利害関係をもつと理解してきた。プロセスへの参加や協働を大切にした進行は継続していく方針だが、濃淡をつけた関りが肝要であると思う(賛同団体は4カ所に増える見込み)。
(5)持続力
これまでの活動手法と異なり、インターネット上のサイトで有効な発信を続け、コミュニティ機能をもたせ、認知向上、共感を集めるためには、専門性を補完することが課題ととらえてきた。サイトでの発信や認知を拡大するため協力者を再編してリスタートを切ることはできたので、持続的に行えるテンプレートを複数作りサイトの拡充を続ける。事業としては、今後継続できるための財政基盤と拡大方法を詰めていくことが課題である。ネット上でコミュニティを作って成功している団体事例を情報収集しているところだが、カミングアウトや当事者性と自己効力感の相違があり、モデルとなる事例を見いだせていない。
【Ⅱ】Ⅰの評価軸はいずれも、強化するには連携力が潜在的に重要であり、その一助として次の項目を考える。
(1)当事業が取り組む社会的課題の根底にある社会的要因/背景(根本課題)は何だと考えるか。
存在を前提とする制度がなく差別や偏見の残る社会で、性的マイノリティ女性がカミングアウトや声をあげることには壁がある。社会に気づきと配慮を求めるには相当の努力が必要で、困難をも表明しにくいという悪循環がある。また、性的指向は恋愛ごととして矮小・個人化されやすく、諦めやすく社会的課題との認識をもちにくい。打開するには、カミングアウトや権利の主張の学習とピアの支えが有効と考えるが、当事者の環境によってはそれを提供するコミュニティは身近にない。アイデンティティや世代、リテラシー等による分断・差異もある。
(2)その根本課題の解決にどのように貢献できそうだと考えるか。
各地で生きる多様なセクシュアリティのひとのリアリティを発信し、自分事感や親近感を生む。セクシュアリティ探索期や恋愛といった断片ではなく、その後どんな人生を送れるのか、どのように困難に挑めるのかといった視点や話に触れることで、学習機会を提供する。オンライン上のコミュニティ機能により、環境による差異を超えると考えている。また、コミュニティで行う調査は、「性的マイノリティ女性」の課題を明確にし、回答し(声を発し)、他の当事者の実態を知る(共感する)経験により、社会へのアクションのきっかけを提供することにも寄与できると考えている。
(3)この助成をきっかけに実際に連携が進んだことはあるか、あるいは今後具体的な計画はあるか。
「性的マイノリティ女性」の人生や生活に関わる調査・研究を広げるために、性的マイノリティ女性についての研究者(社会学、看護学、心理学)との接点はあるが、意見交換に止まっている。 ■