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ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第11回助成

DPI女性障害者ネットワーク
SJF助成事業第3次中間報告(24年6月

 

助成事業名:『障害のある女性の複合差別の実態を記録し、届けるプロジェクト  

 障害のある女性(以降、障害女性と表記)は女性であることに加え、障害があるために様々な不利益を掛け算的に被っている。このような複合差別は可視化されにくく、施策や制度の谷間にこぼれ落ち、解決が困難となる。
 当団体は障害女性の複合差別解消を目指した当事者のゆるやかなネットワーク組織であり、自らの課題を可視化しようと、87名にアンケート・聞き取りによる実態調査を行い、2012年、『障害のある女性の生活の困難―人生の中で出会う複合的な生きにくさとは―複合差別実態調査報告書』を発行した。
 報告書は当事者や福祉・メディア関係者、議員等、多くの人々に届き、その後の活発な活動へとつなげていくことができた。
 本事業は、前回報告書発行後10年の活動を集約し、明らかとなった課題を掘り下げ、複合差別解消への提言等を新たな報告書としてまとめ、刊行後は連続講座を開催することにより、社会啓発や支援者育成、当事者のエンパワメントに貢献する事業とする。

 

助成金額 : 270万円

助成事業期間 : 2023年1月~2024年12月 

実施した事業と内容:   

■報告書発行関係

『障害のある女性の困難 ~複合差別実態調査とその後10年の活動から』を刊行(500部印刷・23年11月に500部増刷)。

500部のうち、贈呈、販売で当初印刷分はほぼ無くなり、新たに500部増刷を行った。

本事業の成果目標にあげている法制度への障害女性の複合差別問題の明記に向け、内閣府障害者政策委員会委員に贈呈。

・全国各地の男女共同参画センター(77か所)および都道府県・政令指定都市の男女共同参画主管課(67自治体)へ送付。

日本点字図書館での報告書の録音化と点字化(24年2月完成・音声デイジー版)。

https://mina.ndl.go.jp/books/R100000038-I4439005

 

■連続学習会開催(23年12月以降について)

・2024年3月23日(土)京都にて、「私たちが性暴力被害者への支援にもとめていることって」開催(主催:DPI女性障害者ネットワーク、共催:障害者権利条約の批准と完全実施をめざす京都実行委員会女性部会・ウィメンズカウンセリング京都・日本自立生活センター・京都頸髄損傷者連絡会)(参加者 現地32名・オンライン50名)

ASTA

・2024年5月25日(土)札幌にて、「私たちが声をあげるとき『DPI女性障害者ネットワーク*新実態調査報告書』完成学習会in さっぽろ」開催(主催:DPI女性障害者ネットワーク・NPOリカバリー)(参加者 現地20名、オンライン80名)

ASTA

 

今後の事業予定 : 

=今後の連続学習会開催予定=

・愛知
9月1日(日)
生殖技術にひそむ優生思想をテーマとする。
会場:労働会館(名古屋市熱田区)
地元の障害女性を中心にした実行委員会で準備を進めている。
手話・文字通訳は愛知県聴覚障害者協会に、オンライン配信は名古屋の自立生活センターAJUに協力を依頼している。

・東京
日程は11月16日(土)に決定。
第一回実行委員会を6月10日に開催。
東京在住のメンバーを中心に実行委を結成し、会場や内容の検討を行う。
月一回ミーティングを持ち、準備を進めていく。

 

助成事業の目的と照らし合わせ 効果・課題と展望   

【Ⅰ】次の5つの評価軸それぞれについて、当事業において当てはまる具体的事例を挙げた。あるいは、当てはまる事が現時点では無い場合、その点を今後の課題として具体的にどのように考えるかを記載。

 とくに、助成申請書の3-5で5つの評価軸について記載した「課題と考えることとそれへの対策」に関連させて、どのように変化したのかも記載。

(1)当事者主体の徹底した確保 

 当団体は、肢体不自由、視覚、聴覚、精神障害等、種別を超えて集まった、障害女性が中心となったネットワークであり、常に活動は当事者主体として実施されている。
 2023年報告書作成の過程で、子育て中の若い女性や難病女性など、今までつながりが薄かった障害女性が書き手に加わった。
 また、講座開催に際し、企画や実施、当日の発言者として、各地域在住の障害女性が新たに参画し、つながりを深めている。
 熊本では20代の障害女性が司会進行を行い、京都では20代の大学院生の障害女性が発言者の一人となった。
 京都講座では現地で性暴力被害者支援にピアサポーターとして活動している障害女性二名が登壇し、障害女性自身が相談現場にコミットすることにより、相談事業の変革を提言し、反響を呼んだ。

(2)法制度・社会変革への機動力

 各地で講座を開催することで、障害女性の複合差別の課題について知る人を増やしている。また、各地の講座開催に際して、男女共同参画センターや、女性支援の現場で課題に取り組んできた人にも登壇してもらうことで、障害女性の複合差別の問題について知り、支援の現場で、障害女性の複合差別にも視点をおいた活動ができる人を増やしている。
 熊本講座では、現地で男女共同参画の活動をしている女性に発言いただいたが、翌日講師となった研修で、早速障害女性の課題についても話に加えたという。
 さらに、熊本女性防災リーダー育成プロジェクトで、現地、障害女性が講師として登用された。また、益城町の女性リーダー育成事業で、11月に障害女性が講師をすることになった。
 京都では長年女性相談にかかわっている講師が、障害女性自身が相談活動を行うピアサポーターの存在を評価し、相談体制に組み込んでいく必要性を強調した。

(3)社会における認知度の向上力 

 報告書の有料頒布分200部はすでに完売し、500部増刷した。今後の普及が期待できる。
 報告書は国立国会図書館や複数の大学のジェンダー・ダイバーシティー研究室へも寄贈された。障害や人権関係の団体からのみならず、研究者や地方議員からの購入希望も多い。
 視覚障害その他の理由で活字本が使用できない人々のためのテキストデータ版は活字本に少し遅れて作成され、購入希望者へ送付している。

 各講座はメディア関係者や地方議員も参加している。
 京都講座の内容は2紙が報道した。
 札幌講座に参加した地方紙記者は「複合差別を初めて知った。今後注目していきたい」と語っていた。
 ハイブリッドでの開催はオンライン視聴者が回を追うごとに増加した。
 5月の札幌講座ではオンライン希望者多数のため、期限前に受付を締め切った。

(4)ステークホルダーとの関係構築力(相反する立場をとる利害関係者との関係性を良好に築いたり保持したりする力)

 報告書は内閣府障害者政策委員会委員や一部の地方議員へも寄贈されている。また、熊本講座では地元県議会議員の参加もあった。

 今後、内閣府障害者政策委員会委員や議員を通じて、いまだ、障害女性についての明確な文言が示されていない国の法律や、行政施策に、障害女性の課題が反映されるよう、継続的に働きかけを行っていく。

(5)持続力 

 複合差別の課題はすでに社会的な注目を一定程度受けており、メディアや研究者に理解者を増やしている。2023年報告書を機に講師や取材依頼も増えた。

 本事業の推進により、さらに理解者が増加し、障害女性自身への周知や、障害女性の課題への理解や共感も広がり、各地での継続的な取り組みが期待できる。

 

【Ⅱ】Ⅰの評価軸はいずれも、強化するには連携力が潜在的に重要であり、その一助として次の項目を考える。

(1)当事業が取り組む社会的課題の根底にある社会的要因/背景(根本課題)は何だと考えるか。

 社会に存在する障害者差別と性による差別だと考える。

 家父長制的家族観や、画一的な人間観のもと、個人の生き方を強制し、優生思想のため障害=劣性とみなし、障害者や女性の人権を軽視し、多数派の基準に合わない存在を排除し、基準外の者を恩恵的に救済しようとする社会の仕組みと意識である。

(2)その根本課題の解決にどのように貢献できそうだと考えるか。 

 個々の多様性を尊重し、人権を重視するという、共通の価値観を持って活動している団体や個人は少なくない。

 私たちの活動は障害者差別の解消、性による差別解消を目指す活動を同時に行っている。そして、当団体は各分野の団体との広いネットワークを持っている。連携した取り組みによって、根本的な課題解消に近づいていけるものと確信している。

 さらに団体としての取り組みだけではなく、障害女性個々人の発言や行動により、人々を啓発し、その行動に影響を与え、二つの差別解消に貢献できるのではないだろうか。

(3)他団体と連携したプロジェクトのアイディア、あるいは具体的な構想、あるいは希望などはあるか。

 5月25日の札幌講座では、現地のNPO法人リカバリーのご協力を得て開催できる運びとなった。リカバリーはさまざまな被害体験を背景に、病気や障害に苦しむ女性への支援を中心に活動している団体である。
 この連携によって、北海道の新たな分野での障害女性の課題への周知が進むことだろう。  ■

 

 

 

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