ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第11回助成
一般社団法人NewScene
SJF助成事業第2次中間報告(23年12月)
◆助成事業名:『2023年統一地方選20代・30代女性立候補者等への質的調査の実施および若年女性等の立候補環境を改善するアドボカシー活動』
日本で、20代・30代の若年女性が政治家に立候補し、選挙活動をする際に直面する困難に関して、FIFTYS PROJECTが2023年春統一地方選で支援する、ジェンダー平等に貢献することを主軸に集まった20代、30代の女性立候補者等*への質的調査を実施する。その後インタビュー・アンケート内容を学術的手法に則り分析、日本において、20代、30代の若年女性が直面する政治家への立候補および選挙活動の困難について明らかにする。
その調査結果をもとに、改善すべき問題とその解決策を明確化、国、地方自治体、メディア**それぞれに対してアドボカシー活動(政策提言)を展開し、20代・30代の若年女性が政治家に立候補し、選挙活動しやすい環境整備を実現する。
*対象:トランスジェンダー女性を含む女性、ノンバイナリー、Xジェンダー等
**調査結果によっては、アドボカシー活動の対象が変化する可能性がある
◆助成金額 : 300万円
◆助成事業期間 : 2023年1月~2024年7月
◆実施した事業と内容:
【選挙関連事業】
2023年4月の統一地方選挙でジェンダー平等の実現を目指す20代・30代の女性(トランス女性を含む)、Xジェンダー、ノンバイナリーの方の立候補を呼びかけ、当選に向けて以下のような支援を行なった。
・候補者支援
- 立候補を考える方との個別面談
- 候補者コミュニティの運営(定期的なオンラインミーティング、候補者のグループLINEなど、候補者を孤立させないネットワークづくり)
- 選挙準備CAMP(2022年11月)、候補者お披露目イベント(2023年1月)、統一地方選振り返りイベント(2023年5月)開催
- 選挙準備に向けた連続講座(全6回、オンライン)、政策勉強会の実施
- 個別相談会の実施
- ボランティアによる各候補者紹介記事の公開
・選挙ボランティアと候補者を繋ぐ活動
- 投票以上のアクションがしたい人向けにイベント開催(参加者30名)
- FIFTYS PROJECT COMMUNITY(ボランティアコミュニティ)の運営
- ボランティアポータルサイトの開設
・広報
- 「私たちの人生に『政治家』になる選択肢を」 パンフレット制作・配布(2175部配布)
- 「FIFTYS PAPER」の制作・配布(7060部配布)
- 「ハラスメントのない選挙運動を!」ポスターの作成、配布
・結果として、統一地方選挙ではFIFTYS PROJECTとして29名の候補者を支援し、24名の女性議員が誕生した。
- 都道府県議会議員選挙 2人挑戦 当選0人
- 政令指定都市議会議員議会選挙 2人挑戦 当選1人
- 一般市区町村議会議員選挙 25人挑戦 当選23人
現在、2024年4月から2025年夏頃までに行われる自治体議員選挙に立候補を予定する第2期生の募集、支援を開始している。今回ははじめて、区長立候補者も含めた支援が展開されている。
【候補者、ボランティアの発掘】
・ジェンダー平等を基礎から学ぶFIFTYS PROJECTゼミ開講
2023年10月から2024年3月まで全6回各2時間の勉強会を月に1度実施。
すでに300名を超える参加があり、イベント内で交流会も実施することで、選挙ボランティアや立候補に関心がある人の輪を広げている。
【調査関連事業】
・「統一地方選挙に出馬した女性候補者が体験した制度課題および社会課題についての調査」8月28日発表
社会調査支援機構チキラボに依頼した調査報告書が完成した。
統一地方選後の5月13日に、支援対象者向けの振り返りの会を開催した。この会には21名が参加し、ワークショップ形式で立候補前~選挙終了までの「ポジティブ・ネガティブな体験や内面」と「助けられたサポート・サポートの不足や不満」について共有した他、アンケート調査も実施した。
アンケート調査の結果、回答者の全員が立候補の動機として「国政や地方政治に、女性の声を反映させるため」と回答した。
しかし、立候補を決める段階から選挙期間の間に経験したこととして、回答者の71.4%が「性別に基づく侮蔑的な態度や発言」を選択、また、47.7%が「年齢、婚姻状況、出産や育児などプライベートな事柄についての批判や中傷」を選択しており、女性の声を政治に反映させたいと考える候補者に対して、性別を理由としたハラスメントが存在することが、改めて浮き彫りになった。
調査結果はこちらから
・記者会見
8月30日、上記調査結果について、当団体代表の能條桃子と調査をになった荻上チキ氏で記者会見を実施した。
その内容は、朝日新聞、東京新聞、毎日新聞はじめ大手主要メディアでも取り上げられた。
・朝日新聞 出馬女性7割「有権者からハラスメント 」
・毎日新聞「かわいい女の子」発言も 選挙中ハラスメント、女性候補らに調査
・東京新聞 「デートしたい時に電話していい?」女性候補者が選挙で受けた侮蔑や中傷の数々 支援団体が報告
・ポリタスTV 2023年統一地方選に立候補した女性たちによる声の調査結果発表 中継
◆今後の事業予定 :
2023年11月〜12月 アドボカシー内容の検討・案の作成
2024年1月〜7月 国会会期中(総務省に関することのロビイング・提案)
2024年1月 各地方議会での展開方法の作戦会議(全国会議実施)
*オンライン
2024年2月〜7月 地方議会でのロビイング活動/各議員の政策推進支援
◆助成事業の目的と照らし合わせ 効果・課題と展望:
【Ⅰ】次の5つの評価軸それぞれについて、当事業において当てはまる具体的事例を挙げた。あるいは、当てはまる事が現時点では無い場合、その点を今後の課題として具体的にどのように考えるかを記載。
とくに、助成申請書の3-5で5つの評価軸について記載した「課題と考えることとそれへの対策」に関連させて、どのように変化したのかも記載。
(1)当事者主体の徹底した確保
若年女性の立候補の壁を明らかにするための調査対象を、FIFTYS PROJECTで支援してきた方々にすることで、トランスジェンダー女性を含む女性、ノンバイナリー、Xジェンダー等の10-30代の当事者が対象となることはもちろん、一定期間共に過ごした間柄でこそワークショップによる質的調査はより深い部分まで選挙の経験を言葉にしてもらえたように思う。
また、本プロジェクトは、性的マイノリティを含む10代、20代の女性で運営されており、その点からも当事者主体の確保は徹底されている。
加えて、FIFTYS PROJECTゼミを開始したことで、出馬可能な20.30代だけでなく、政治の場に声の届きにくい10代のユースとも繋がれるようになり、当事者性は一層強化されていると思う。
(2)法制度・社会変革への機動力
アドボカシーは調査結果を元に今後の展開となるが、先述の通り調査結果も複数の大手メディアに取り上げられ、注目された。
また、FIFTYS PROJECTで応援した議員たちは着実にジェンダー平等に向けた質問や政策を打ち出しており、今後のアドボカシーにも期待が高まっている。
(3)社会における認知度の向上力
同上になるが、調査結果に限らず、FIFTYS PROJECTはすでにNHKを含む大手メディアにも複数回取り上げられている。
また、ゼミ生が300名を超えていることを見ても、テレビや新聞を見ている世代だけでなく、若者を含めた幅広い年代に情報が届いていることがわかる。
加えて、資金集めのために行った2回目のクラウドファンディングでも、775人から支援をいただき、1回目の640人の時からその数は増えている。そういった点から見ても、認知度は向上していると考えられる。
(4)ステークホルダーとの関係構築力(相反する立場をとる利害関係者との関係性を良好に築いたり保持したりする力)
全国にFIFTYS PROJECTで支援した議員が24名誕生し、現在、場合によっては区長が誕生する可能性もある。これまで以上に様々なステークホルダーと関係を築き、声を上げられることを実感している。ステークホルダー・アナリシスを丁寧に行い、新たにできた繋がりも活用しながら丁寧な議論を重ねていきたいと思う。
(5)持続力
2回目のクラウドファンディングが900万円以上を集め終わったところで、来年度の運営が可能となった。また、それに加えて持続的な運営のためにマンスリーサポーター制度を導入し、現在200名を超える支援者から毎月約35万円の支援をいただける形が整っている。また、YUIみらいによる1500万円の支援を受けられることも決まり、今後2年の活動基盤は整った。引き続き継続的な活動のための地盤を整えていきたい。
【Ⅱ】Ⅰの評価軸はいずれも、強化するには連携力が潜在的に重要であり、その一助として次の項目を考える。
(1)当事業が取り組む社会的課題の根底にある社会的要因/背景(根本課題)は何だと考えるか。
今回の調査を通じ、20代、30代のジェンダー平等を推進したい女性や性的マイノリティが出馬をするには、そもそも出馬を後押しするような動機づけや、ロードマップ的な情報的サポート、孤立を感じずに済むような情緒的サポート、活動を十分に行うための道具的サポートなど、あらゆる方面からの支えが必要であり、かつ不足していることがわかった。
ただその上で、選挙活動や政治活動全般における有害な風土の改善についての取り組みもなければ、やはり実際に7割がハラスメントを経験している中では、現状の大幅な変化は難しいのではないかと思う。
(2)その根本課題の解決にどのように貢献できそうだと考えるか。
今回の調査でまずは困難や有用なサポートを可視化できたのは非常に有意義であったと思う。また、調査の中ではネガティブな反応だけでなく、選挙活動を通じて経験した周囲からの好意的な反応についての声も多く寄せられた。
そのようなポジティブな成功体験をロールモデルとして提示していくこともこれまでにない貢献の仕方になるのではないかと思う。
(3)この助成をきっかけに実際に連携が進んだことはあるか、あるいは今後具体的な計画はあるか。
これまでも内閣府男女共同参画局が委託して行われた調査「女性の政治参画への障壁などに関する調査研究報告書」があり、今回の調査でも参考にした。しかし、20代、30代に限定すると違いも多く、こうして可視化することの意味を感じるところであった。そういう意味で今回の女性を通して「社会調査支援機構チキラボ」と協力し、科学的根拠に基づくデータを示すことができたのは非常に大きく、今後も政策的変化を促すためにもこの関係性を続けていきたいと思う。
また、このデータを使ってFIFTYSで応援する議員が実際に動けるところまで今後サポートしていきたいと思う。 ■