ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第11回助成
一般社団法人ソウレッジ
SJF助成事業第1次中間報告(23年6月)
◆助成事業名:『おひさまLINE』
おひさまプロジェクト」の一環として進めていく事業である。「おひさまプロジェクト」で目指しているのは、「妊娠やそれに伴う不安が理由で将来の可能性が制限されること=羽を折られること」がない社会である。そのような社会のために「教育現場や支援から取り残されている若者に知識や情報を届けること」「その知識を基に行動を起こせるように制度を整える(緊急避妊薬やミレーナの無償提供)こと」の両輪で事業を進めていく。「おひさまLINE」が担うのは主に前者である。その目的を以下に挙げる。受益者は22歳以下の現時点で妊娠を希望していない人である。
- 性教育のアウトリーチを行うことで、若者の主体的な選択肢を増やす。
- 性知識だけでなく福祉情報を共に届けることで、「緊急避妊が必要な現状」から抜け出すためのサポートを行う。
「おひさまLINE」を通して実施するアンケートや交流イベントで、背景にある実態を調査・可視化し、女性主体の避妊具の多様化と必要性などについての政策提言につなげる。
◆助成金額 : 161.5万円
◆助成事業期間 : 2023年1月~2024年3月
◆実施した事業と内容:
- 事業:妊娠不安を抱える若者をサポートする環境を整えるために、連携できる若者支援団体と医療機関を増やす
- 事業:性教育教材の寄付や研修・講演会は継続して行い、問題の認知度向上と事業の周知に努める
- 内容:性教育の研修・講演会
- 以前より行なっていた教職員や保護者向けの研修を引き続き実施
- また、新たに企業向け研修の準備を開始しており、既に数社で試験的に実施済み。これまでリーチできていなかった教育現場以外の大人へも問題の認知向上や事業の周知を行える兆しがある。
- 内容:性教育の研修・講演会
- 事業:避妊具の拡充を目指すために製薬会社やその財団へ連絡、提案書の作成
- 内容:展示会や学会への参加を通じ、複数の製薬会社へ連絡を行い、数社へは直接提案を実施済み。
- 避妊を取り巻く課題の認知の向上や、避妊具の拡充などの相談を実施しており、今後も継続的に連携の形を模索して行く方向性。
◆今後の事業予定 :
2023年1月~2023年12月
- 当初計画:緊急避妊薬・ミレーナの無償提供と並行して、受益者と団体メンバーの交流会を実施し、若者が抱える困難の実態を調査する
- 今後の計画:2023年6月以降に実施予定
- 当初計画:受益者(LINE登録者)だけでなく、InstagramなどのSNSを利用して、緊急避妊薬を必要としない人にも、性知識と福祉情報を届ける
- 今後の計画:InstagramやTikTokなど若年層の見るSNSでの発信を2023年7月以降本格的に運用開始予定。性知識・福祉情報の発信に加え、おひさまプロジェクト連携病院等の発信・認知拡大も行うことも検討中。
- 当初計画:妊娠不安を抱える若者をサポートする環境を整えるために、連携できる若者支援団体と医療機関を増やす
- 今後の計画:6月〜7月で15病院に連携病院を増加予定。また、若者支援団体との連携も進めて行く。
- 当初計画:関東からスタートして関西、次に支援優先度の高い沖縄と北海道に広げていく
- 今後の計画:
- 2023年6月までは関東の病院の連携を進める。
- 2023年7月以降、関西の病院・支援団体との連携を増やす。その後時期を見ながら、沖縄と北海道へ広げる。
- その後、全国の医療機関へ声かけを行い連携先を広げる
- 今後の計画:
- 当初計画:性教育教材の寄付や研修・講演会は継続して行い、問題の認知度向上と事業の周知に努める
- 今後の計画:
- 2023年6月以降、おひさまプロジェクト連携中・連携予定の若者支援団体への研修実施
- 研修・講演活動を継続して行っていく
- 今後の計画:
- 避妊具の拡充を目指すために海外の製薬会社の財団へ連絡、提案書の作成
- 今後の計画と変更点:
- 海外の製薬会社の財団に限らず、国内の製薬会社とその財団へも提案を行う方向に変更。
- 2023年6月までに国内の製薬会社と打ち合わせを実施済(2社)。海外・国内企業問わず、今後も製薬会社およびその財団との接点は広げ提案していく予定。
- 今後の計画と変更点:
2023年4月~2024年3月
- 当初計画:兵庫県内の自治体で2024年度中のSIB運用開始を見据えて提案書を作成し、首長はじめ市議会議員等に働きかける
- 今後の計画と変更点:
- SIB運用ではなく、2024年度中に自治体予算で避妊薬の公費負担を行う提案書を作成し、市区町村の議員や長などに働きかける。
- 変更の背景:
- すでに市議や前市長への働きかけやヒアリングを実施。その中で、SIB運用は失敗事例も多く、自治体として進めにくいことが発覚。代わりに自治体の予算で避妊薬の公費負担を行えるよう、兵庫県内のみならず他市区町村の自治体へも提案を行っている。
- 今後の計画と変更点:
◆助成事業の目的と照らし合わせ 効果・課題と展望:
【Ⅰ】次の5つの評価軸それぞれについて、当事業において当てはまる具体的事例を挙げた。あるいは、当てはまる事が現時点では無い場合、その点を今後の課題として具体的にどのように考えるかを記載。
とくに、助成申請書の3-5で5つの評価軸について記載した「課題と考えることとそれへの対策」に関連させて、どのように変化したのかも記載。
(1)当事者主体の徹底した確保
「支援される側」と「支援する側」となりやすいため、常に対等な関係であり続けるための姿勢を模索するためのアクションを行っている。 実際の現場に訪れて当事者の理解を深めたり、勉強会に参加することを行っている。
具体的には、おひさまプロジェクトとの連携の提案を行っている2団体を実際に訪れ、見学を行った。また、他団体へも提案を行う中で現場支援をしている中での様子や課題感をヒアリングすることでも理解を深めている。
また、おひさまLINEにおいては表記の工夫やイラストの工夫を通じて、「妊娠」を「にんしん」と表記するなどの表現の工夫をしている。妊娠という漢字には女偏が入っていることから、「妊娠の主体となる人は女性だけである」というイメージの強化につながっていると考えたことや、妊娠という漢字を読めないような方の妊娠不安にこそ私たちは手を差し伸べたいと考えたことからこのような表記とした。
さまざまなマイノリティー性のある当事者を取り残さず、支援を届けたい層にきちんと届けられるよう、表現・表記にも最大限の配慮をしている。
(2)法制度・社会変革への機動力
申請時に挙がっていた課題として①緊急避妊薬OTC化(薬局でアクセスできるようにする)の議論があまり進んでいないこと、②新型コロナウイルスの影響でオンライン診療に関しての指針が再度変更になる可能性のあること、③はどめ規定をはじめとするさまざまな制約により教育現場における性教育が進まないという状況があった。
①に関しては、すでに一部薬局での販売が始まるなど議論が進んだ様子が見られ、大きな課題ではなくなった。一方で、費用が高く金銭的に余裕のない人や若者の手に入りにくいという課題は残っている。
この点に関し、保険適用にしていくことができないか政策提言を行ったところ、保険適用ではなく公費負担の仕組みを作る方が実現可能性が高いとのことで、与党の中で制度化できるよう提案を行っている。
②に関しては、おひさまプロジェクトでは当初オンライン診療を主軸に考えていたが、プロジェクトを進めて行く中で処方から郵送に時間がかかってしまい、緊急避妊薬の服用リミットである72時間以内に手元に届かないことなどの課題が表出した。そのため、現在はオンライン診療ではなく病院での処方を主軸に切り替え、全国に展開して行くことを目指している。
③に関しては、すでに自民党の勉強会に参加し、おひさまプロジェクトについての話や避妊薬へのアクセスをめぐる課題の共有などを行っており、法律や条例をつくる政治家に直接働きかけられる土台づくりを始められている。
(3)社会における認知度の向上力
現状、緊急避妊薬や妊娠不安などは少数の女性の問題であるという認識がまだまだ根強い。社会全体で広く知ってもらうために、全世代にアプローチする必要がある。
自治体や教育現場での研修や講演会といった草の根活動としては、保護者や教員、若者支援に関わる職員向けの研修を継続的に行っている。さらに、企業向けの研修の販売準備も進めており、教育現場以外の場で働く人々にも認知拡大を目指している。
新聞・雑誌などへの寄稿などの活動では、佼成新聞にて代表鶴田が毎月連載を行なっている。
SNSでのより活発な発信としては、ソウレッジに関わる社員やボランティアスタッフのSNS上での発信の強化を行なっている。
さらに、認知度向上のために全く違う分野で活動する団体との連携としては、申請時より連携済であったTERA Energy以外にも、若年女性をターゲットとした商品やサービスを提供している企業へ連携の提案を行なっており、連携が実現すればより広い層にアプローチできるようになる。
(4)ステークホルダーとの関係構築力(相反する立場をとる利害関係者との関係性を良好に築いたり保持したりする力)
政党の勉強会や研修に参加する回数が増加している。性教育や避妊具の拡充に消極的な姿勢をとっている政党でもおひさまプロジェクトに関心を持つ議員との接点も増えており、避妊薬の公費負担の制度についても提案を進めている。
教職員や保護者への性教育研修などについても、賛同してくれる教員や保護者を巻き込みながら、性教育に消極的な教職員や保護者へも寧に根気強く対話を行い、研修の導入・実施などを進めている。
(5)持続力
申請時に課題として挙げていた緊急避妊薬のOTC化議論が平行線をたどっているという点は、(2)に記載の通り解消されてきている。
一方で、緊急避妊薬が高価であるという点は引き続き課題が残っており、安定して無償提供を行うために自治体や他の団体と連携して仕組みづくりを行う必要がある。
具体的な方法としては、SIB(ソーシャル・インパクト・ボンドのこと。官民連携の一つの形であり、地方自治体が抱えている社会課題を民間企業に委託)の提案を行う計画だったが、自治体や議員への提案の結果、SIBではなく自治体予算での公費負担を行う提案を進めており、公的な資金を元に持続して行く形を作っていこうとしている。
【Ⅱ】Ⅰの評価軸はいずれも、強化するには連携力が潜在的に重要であり、その一助として次の項目を考える。
(1)当事業が取り組む社会的課題の根底にある社会的要因/背景(根本課題)は何だと考えるか。
【日本全体での包括的性教育の遅れ】
学習指導要綱において性交について扱わないと決められている「はどめ規定」や性教育バッシングによる教育現場の萎縮がある。
【若年妊娠当事者を責めるような風潮】
若年妊娠の背景には正しい性教育が行われていないことによる知識不足や虐待がある。しかし、妊娠するからだを持った人だけが責任や負担を強いられ、人生の選択肢を制限され、もう一方は逃げることもできる、という非対称性が存在する。
【緊急避妊薬へのアクセスのハードルの高さ】
経済的(高価)・地理的(病院が遠い)・物理的(障害があって自力で病院へ行けない)・心理的(誰にも相談できない)要因により、若者のアクセスが困難となっている。
(2)その根本課題の解決にどのように貢献できそうだと考えるか。
【日本全体での包括的性教育の遅れ】
学校内外で子どもたちが関わる大人への性教育を、教職員・保護者・若者支援団体職員・企業従業員への性教育研修を進めることで、子どもたちが学校内外で大人から正しい性知識を得られる機会を増やすことと、性教育を身近に感じる大人が増えることで性教育バッシングの風潮を緩和して行くことができる。
【若年妊娠当事者を責めるような風潮】
包括的性教育と同じく、責めてしまう周囲の人が性知識を身につけることで若年妊娠の当事者が責められる現状が緩和することに貢献できると考えている。また、緊急避妊薬へのアクセスを改善することで若年妊娠自体を減らすことにも貢献できると考えている。
【緊急避妊薬へのアクセスのハードルの高さ】
経済的(高価)・地理的(病院が遠い)・物理的(障害があって自力で病院へ行けない)・心理的(誰にも相談できない)などの要因があるが、おひさまプロジェクトを通じて経済的な要因を取り除く。
(3)そのような貢献にむけて、どのような活動との協力/連携が有効だと考えるか。
既に研修等で連携を進めている教育現場や若者支援団体に加え、企業への研修等企業との連携など、草の根で多数の人に性知識を届ける機会を作って行く連携が必要だと考えている。
また、制度を変革し、緊急避妊薬へのアクセスのハードルを下げて行くためには、医師や医療従事者、自治体や政党との連携も欠かせないと考えている。 ■