ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第11回助成
NPO法人レインボーコミュニティcoLLabo
SJF助成事業最終報告(25年1月)
◆助成事業名:『性的マイノリティ女性の地域と世代を超えたオンライン上のコミュニティ構築と実態調査』
レズビアンやバイセクシュアル女性などのセクシュアルマイノリティ女性(以下「性的マイノリティ女性」と記す)は、性的マイノリティであることに加え、女性であることでの生きにくさを抱えている。そこには、見えにくさ(カミングアウトや発信の問題から、当事者にとっても不可視化されている現実)、声が届かないために自ずと対応する公的制度や民間サービスが不足し、コミュニティの不在といった課題があると考えている。そのため、本事業では2点を目的とする。
1)性的マイノリティ女性が、世代、名乗り(アイデンティティ)、住む地域や個人のネットワーク、生活形態を超えつながり、自己を肯定し、多様なロールモデルを知って未来を切り開いていく力をつけられるようなしくみを作ること
2)社会制度は待っていて与えられるものではない。人生の困難を軽くできるよう、自ら社会に変化を求めていく動きを学び、拡げていくこと
◆助成金額 : 290万円
◆助成事業期間 : 2023年1月~2024年12月
◆実施した事業と内容(主に2024年度について):
1.みらいふWeb (記事は今期分のもので、公開日と「タイトル」)
ライターやフォトグラファー等協力者を増員し、第2弾取材を夏以降に実施してコンテンツを制作した。
- 9組のカップル・かぞくの「みらいふストーリー」が公開となった。
[みらいふストーリー:多様なセクシュアルマイノリティ女性が人生で出会う喜びや困難にどのように向き合い、挑戦をしてきているかを描いたライフストーリー]
2024/12/4…「2023年アメリカで「ふうふ」になったふたり、その多幸感を日本でも」
12/18…「「パートナーと結婚したい」同性婚法制化を願うカップルの切実な想い」
1/11…「「ロールモデルになりたい」飲食店経営者、医療従事者であるレズビアンカップルの“家族”以上の関係性」
- セクシュアリティ探索のコンテンツ制作とみらいふWebとの連携
みらいふWeb内発信者に、「せくたんストーリー」にも協力していただいた…3件
2.コミュニティ構築(コメント参加、プログラム参加)、事業認知向上の活動
- みらいふWebのPR(SNS強化、講師派遣の機会にて)
- みらいふWeb参加を促進する取組(オンラインプログラムとの連動)
みらいふ編集会議:2024/6/8、7/6、9/7、11/2
みらいふ会議:8/3、10/5、12/7
みらいふプログラム(ケアを話す会)8/24、10/19、12/21
みらいふプログラム11/10(アジア出身者と日本出身者の対話)
みらいふプログラム11/16(おひとり編)
- 事業認知向上の活動
24年9月14-15日 さっぽろレインボープライドでのブース運営=写真下、他地域は計画断念(マンパワーの問題)
3.調査
- 当事者の実態やニーズを調査 随時
- 専門相談員による調査
coLLaboLINE実施日、対話による各地の当事者からの聞き取り
- 専門家から状況をうかがう 随時
- 登録時アンケート等の活用、参加者、賛同団体の意見を反映 随時
- 他団体との連携調査 24年9月14日開始、2025年のTRPまでの予定
「女性の健康と日常生活」アンケート(オンライン調査、67問)(2025年12月末現在回答数約200)
4.課題解決に向かう市民を育てる下地
- みらいふWebで「トライストーリー」発信の強化[トライストーリー:みらいふストーリーの内個別のテーマでの挑戦や工夫を描いたもので、課題解決に役立つ情報に接近したいニーズに対応]
2024/11/27…「【同性婚訴訟】「結婚の自由をすべての人に訴訟」の原告」
12/11…「【保険】同性パートナーに受取人に」
12/25…「【同性婚訴訟応援】同性婚実現を望むことは、単に結婚したいからではない」
2025/1/15…「【アイデンティティ】オープンリーレズビアンとして生きるまで」
1/22…「【結婚式】結婚式を挙げることで同性カップルの存在を可視化する」
- みらいふニュースの発信[みらいふニュース:当事者の困りごとの解決のヒントや知識など情報提供をするコンテンツ]
2024/7/9…「【coLLaboLINE】東京以外からも、いろんなセクシュアリティの方が相談。恋愛やパートナーシップ、将来の生き方、相談にみる私たち」
8/18…「【coLLaboLINE】20代、30代は社会的にも大きなことが多い年代。どんな悩みが多い?」
10/3…「【研究紹介】結婚制度ではない「パートナーシップ制度」の意味がわかる研究ー当事者の社会への関心を高め、さらなる変化を促す」
10/25…「【解説】同性カップルが同居を始めるとき、知っておきたいポイント5(弁護士執筆)」
11/7…「【グループ紹介】NPO法人北海道レインボー・リソースセンターL-Port」
12/27…「【解説】カミングアウトしていないカップルこそ、公正証書を作成しよう!(弁護士執筆)」
*25年1月末現在、みらいふストーリー、みらいふニュース計32本制作済(順次公開)
◆事業計画の達成度 :
1.みらいふWeb
性的マイノリティ女性のリアルを発信するサイトは、試行錯誤のβ版を経て、2024年4月に正式公開を達成した。その後、新たな制作メンバーで発信魅力を高めたコンテンツ制作を再スタートし、発信の枠組みができ、概ね達成されたと考えている。中心となるコンテンツ「みらいふストーリー」は合計32本公開できた(2025年1月末現在)が、進行遅れによる未達成が残った(1月末現在、4件取材し制作中)。
セクシュアリティを探索し、自己受容し、その後を支えるストーリー等を発信する「せくたん」ページは、独立で公開し、参画する20代メンバーの背景や問題意識により多言語に対応した枠組みができた。そしてストーリーは4本公開となったが、単独での進行が困難となったため、みらいふWebにも「せくたんストーリー」を包含する形での連携を進めている。せくたんストーリーは、2025年1月末現在5本追加制作済み(順次公開)。
2-1)コミュニティ構築
Webサイトを核とした参加型コミュニティ構想は、Web構築の計画変更と、当事者のコミュニティニーズに基づき、①コメント参加、②プログラム参加という緩やかな参加からコミュニティ化を目指す計画に変更されてきた。50名のコミュニティ参加者(みらいふエントリー登録者)を目標としてきたが、計46名(17組と12名)と数値的には近く達した。
- コメント参加:「みらいふストーリー」の記事末尾に設置した「ちょこっとみらいふシェア!」からコメントを送ることで関わる参加方法。コンテンツが増えるにつれ参加する方があったが、微増に止まった。
- プログラム参加:夏より「みらいふ会議」を隔月で公開した。また、2023年より行ってきた当事者ニーズに応じたプログラムは「みらいふプログラム」の冠で統一し3回実施した。テーマにより参加者数にはばらつきが見られ、みらいふWebへの緩やかな入口となるには、参加の効果をWebとつなぐしかけが必要と考えている。(テーマ:ケア・老後、ひとり単位での将来、日本と中国のセクシュアリティを巡る経験等)
2-2)調査
みらいふWebとつながるコミュニティを作り、そこで声を集めていく(調査)という元の構想それ自体は、事業進行に伴い大幅な見直しをした。実際的な調査的切口として、「①専門相談員による実態・ニーズ把握」、「③登録時アンケートの活用やその他意見を反映」は、みらいふWebのコンテンツやコミュニティ構築の計画見直しに活かしている。
一方、調査(声を発する)に十分なコミュニティを形成していないことや、「②専門家との連携」により、セクシュアルマイノリティ女性の調査や研究が別途必要と動機を強めた。そして、本事業単体での調査実施はせず、他団体との連携で実態調査を開始した。複数の団体・専門家を交えたコンソーシアム型調査を開始した(「女性の健康と日常生活アンケート」、期間:2024年9月14日~2025年6月頃まで予定)。
3課題解決に向かう当事者を育てる下地作り
みらいふWebでは、「みらいふストーリー」の内、セクシュアルマイノリティ女性が直面する課題解決に取り組む経験を「トライストーリー」として発信している。公開からこれまでに、24本のトライストーリー記事を公開し、28種のタグの記事を集積した(2025年1月末現在)。
また、「みらいふニュース」では、専門職と相談のもと課題解決に役立つ情報・知識や社会資源等の発信を強化している。これまでに6本の該当記事が公開された(2025年1月末現在)。このように困りごとや生きにくさ、課題は解決に向かえるという事例を伝えることで、行動を起こすヒントになるという意味で、初期の目標は達成されてきていると考える。
◆助成事業の成果:
<みらいふWebという基盤構築>
全国各地に暮らす当事者の生活や人生と、困難を乗り越えるための工夫や挑戦を可視化して届けるWebサイトの大枠が出来た。当事者が存在することは知っており、アイデンティティ形成には以前ほどの葛藤を要さずに済む人も出てきた。しかし、環境因等によりセクシュアルマイノリティ女性の人生を生き抜くイメージが持てずにいる。そうしたとき、ロールモデルとなるような情報を得ることで、保守的なジェンダー規範などで束縛されてきた力を解放し、自分らしい生き方を選べる一助となる。
さらに、みらいふWebは、個々の経験や声がSNSで流れて消えるのではなく、困った、おかしいと思いながら封じられてきた思いや声をすくいとり、集積する場であり、コミュニティ的機能により経験をシェアし共感し合うことによってエンパワーされる機会を提供する。同時に、無関心だった市民にとっても、経験を聴くことで当事者に対する認識が変容していく機会となるであろう。
<コミュニティベースの調査の開始>
セクシュアルマイノリティ女性が生きていく上での不安や課題には、共通項があると同時に、世代や地域により優先する問題が多様であることも伺えてきた。本事業の構想通りではなかったが、コミュニティ発信となる調査をスタートしたことは、当事者支援団体、法律家や医療者等専門職との意見交換の賜物である。この調査の集計、分析は先になるが、しかるべき機関等へのアドボカシーに結果を活かすことで、不可視化されてきた人たちに対する認識を変え、支援や制度保証につなげる一助としたい。調査に協力した方々の思いに応えることにつながる。
◆助成事業の目的と照らし合わせ 効果・課題と展望:
【Ⅰ】次の5つの評価軸それぞれについて、当事業において当てはまる具体的事例を挙げた。あるいは、当てはまる事が現時点では無い場合、その点を今後の課題として具体的にどのように考えるかを記載。
とくに、助成申請書の3-5で5つの評価軸について記載した「課題と考えることとそれへの対策」に関連させて、どのように変化したのかも記載。
(1)当事者主体の徹底した確保
セクシュアルアイデンティティで細分化することなく連帯できるかを課題にあげてきた。当事者を中心とした運営体制であることはもちろん、協力者のアイデンティティが偏らないよう、決めたくない、パンセクシュアル、ノンバイナリーなど多様な方をコンテンツに含めた。セクシュアリティを分類せず、ご本人の名乗りのまま表記するようにし、多様性を伝えることが当事者主体の徹底に通じると思う。協力者の経験に即して記事種(タグ)を増やし、日本で暮らすアジアの方の経験を発信し(準備中)、より柔軟に広い世代や地域など複合的な視野で取り組むことも当事者性の強化につながると考えている。
(2)法制度・社会変革への機動力
当事者の中でも、社会の問題として社会に働きかける意識をもつかどうかには濃淡があることを課題としてきた。みらいふWebでは、婚姻平等を求めた訴訟で、原告や応援する人々の声を発信することで、進行中の訴訟との連動で、法制度・社会変革への一歩を呼びかける発信を行った。記事に反応し共感を表すコメントが寄せられたことには感触を得ている。また、記事を読んで自分も保険について調べて見直してみたという感想もある。本事業が一歩を起こすきっかけになったという効果を直接捕捉する手立てが少ないのがネックだが、引き続き、各自が幸福になるために、小さくとも何か一歩を起こしている姿に触れてもらうことが、変革を求める力につながると信じて続けていきたい。
(3)社会における認知度の向上力
GA4の結果と照合したところ、みらいふWebを正式公開して約10カ月、その内約45%のアクティブユーザーはここ3カ月間に訪れており、時間軸と共に増加していることが伺える。また、法人HPと比較し2倍のユーザーを得た。最終半年の動きを見ると、以下のような3つの山が見られた。TRP2024で効果を実感し、9月にさっぽろレインボープライド2024でもブース出展し認知向上に取り組んだが、その際は北海道の方の利用が急増した。また、講演をする機会には本事業の広報もするが、7月の急増も多摩地区での講演後の関連と推測できる。最後に12月の山は、初めて九州の方の記事が公開され、SNSでの広報効果も相乗しただろうが、各地の当事者の姿を伝えることが認知度向上の上でも重要だと認識した(2024年末現在、8都道府県の方を取材)。
(4)ステークホルダーとの関係構築力(相反する立場をとる利害関係者との関係性を良好に築いたり保持したりする力)
重要なステークホルダーを、女性が中心の性的マイノリティ当事者団体、参加する当事者、専門性や技術をもつ協力者ととらえてきた。10月から「みらいふ会議」を公開プログラムとして行い関心をもつ当事者との直接対話の機会を作り始めた。賛同団体との連携は、例えばみらいふWebに寄稿を依頼するように細く長くの関係性に移行しており、9月から他団体と協働でオンライン調査を開始した。専門性をもつ協力者との継続的関係では、有償で関わっていただく基準や書面を整え、アライの方と連携したり、活動を通じて専門性を向上してもらう支援も行っている。
(5)持続力
Webで有用な発信を続け、認知向上し、共感を集め、オンライン上にコミュニティを作るには専門性を補完することが課題であった。専門性をもつ協力者とのさらなる出会い、コンテンツのテンプレート化(法律・研究・社会資源情報)により運営エネルギーは効率化しつつあると思う。
Webの記事制作体制を立て直す必要が度重なり、コミュニティ構築と認知向上、活動財政基盤の獲得には十分取り組めなかった。今後、オンライン上のコミュニティは他団体との協働で試験的に行い、各世代、各地域のコミュニティ理解を深めていく予定である。
【Ⅱ】Ⅰの評価軸はいずれも、強化するには連携力が潜在的に重要であり、その一助として次の項目を考える。
(1)当事業が取り組む社会的課題の根底にある社会的要因/背景(根本課題)は何だと考えるか。
社会は、性的マイノリティ女性が存在することは知るようになったが、生きる上での困難や課題があることは未だ理解していない。それゆえに、社会には差別や偏見、無理解が残り、存在を前提とする制度は少ない。こうした状況下で、性的マイノリティ女性がカミングアウトし、困難を訴え、声をあげることはとても少ないという悪循環がある。ジェンダーマイノリティに比べ、性的指向は矮小化され、個人化されやすく、自助努力に向かいやすい。また、社会的課題との認識ももちにくく、変化や幸福追求を諦めやすい。この構造打開するには、ロールモデルをもつこと、カミングアウトの経験や権利を訴える学習とピアの支えが有効と思われるが、それを提供するコミュニティは当事者の身近には必ずしもない。
(2)その根本課題の解決にどのように貢献できそうだと考えるか。
当事者は、カップルやかぞく単位になった時に、社会の理不尽さに直面し対処しようという意思をもちやすい。みらいふWebは、どこに住む人にとっても行動を起こした多様なロールモデルとの出会いをつなぎ、変化の可能性があることや希望を持てることを知ってもらい、その人の行動を支えることに通じる。また、オンライン上のコミュニティが実働すれば、住む地域による格差を超えることにつながる。そして、コミュニティで行う調査は、「性的マイノリティ女性」の課題を浮き彫りにし社会に理解を求めていく根拠が明確となる。当事者がその回答を見て、困難を感じているのは自分だけではなかったとエンパワーされアクションするきっかけにもなるだろう。
(3)他団体と連携したプロジェクトのアイディア、あるいは具体的な構想、あるいは希望などはあるか。
【Ⅰ】の(5)で述べたように、オンライン上のコミュニティは2025年度、本事業とは別枠で他団体協働でパイロット実施を計画立案中である。当事者の世代によりコミュニティに求めるニーズが異なるであろうことなど課題もあるが、実践から実態を把握し進めていく。また、他団体協働で開始したオンライン調査では、本邦のセクシュアルマイノリティ女性の生活や社会的・医療的な課題についての基礎調査となると期待しており、結果・考察等の分析とそれを活かす方途について、しっかり関わっていき、今後の調査研究についても、目的意識を共有した個人や団体連携で取り組めたらと希望している。■