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ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第11回助成最終報告

一般社団法人NewScene(2024年8月)

助成事業名・事業目的

2023年統一地方選20代・30代女性立候補者等への質的調査の実施および若年女性等の立候補環境を改善するアドボカシー活動

 日本で、20代・30代の若年女性が政治家に立候補し、選挙活動をする際に直面する困難に関して、FIFTYS PROJECTが2023年春統一地方選で支援する、ジェンダー平等に貢献することを主軸に集まった20代、30代の女性立候補者等*への質的調査を実施する。その後インタビュー・アンケート内容を学術的手法に則り分析、日本において、20代、30代の若年女性が直面する政治家への立候補および選挙活動の困難について明らかにする。

 その調査結果をもとに、改善すべき問題とその解決策を明確化、国、地方自治体、メディアそれぞれに対してアドボカシー活動(政策提言)を展開し、20代・30代の若年女性が政治家に立候補し、選挙活動しやすい環境整備を実現する。

*対象:トランスジェンダー女性を含む女性、ノンバイナリー、Xジェンダー等

 

助成金額 : 300万円 

助成事業期間 : 2023年1月~24年7月

実施事業の内容: 

【選挙関連事業】

 2023年4月の統一地方選挙でジェンダー平等の実現を目指す20代・30代の女性(トランス女性を含む)、Xジェンダー、ノンバイナリーの方の立候補を呼びかけ、当選に向けて以下のような支援を行なった。

・候補者支援

  • 立候補を考える方との個別面談
  • 候補者コミュニティの運営(定期的なオンラインミーティング、候補者のグループLINEなど、候補者を孤立させないネットワークづくり)
  • 選挙準備CAMP(2022年11月)、候補者お披露目イベント(2023年1月)、統一地方選振り返りイベント(2023年5月)開催
  • 選挙準備に向けた連続講座(全6回、オンライン)、政策勉強会の実施。
  • 個別相談会の実施
  • ボランティアによる各候補者紹介記事の公開

・選挙ボランティアと候補者を繋ぐ活動

  • 投票以上のアクションがしたい人向けにイベント開催(参加者30名)
  • FIFTYS PROJECT COMMUNITY(ボランティアコミュニティ)の運営
  • ボランティアポータルサイトの開設

・広報

  • 「私たちの人生に『政治家』になる選択肢を」 パンフレット制作・配布
  • 「FIFTYS PAPER」の制作・配布
  • 「ハラスメントのない選挙運動を!」ポスターの作成、配布

 結果として、統一地方選挙ではFIFTYS PROJECTとして29名の候補者を支援し、24名の女性議員が誕生した。

-都道府県議会議員選挙 2人挑戦 当選0人

-政令指定都市議会議員議会選挙 2人挑戦 当選1人

-一般市区町村議会議員選挙 25人挑戦 当選23人

-それ以降も5名の候補者を支援し、2名の自治体議員が誕生した。

 

【候補者、ボランティアの発掘】
・ジェンダー平等を基礎から学ぶFIFTYS PROJECTゼミ開講
 2023年10月から2024年3月まで全6回各2時間の勉強会を月に1度実施。
300名を超える参加があり、イベント内で交流会も実施することで、選挙ボランティアや立候補に関心がある人の輪を広げた。
 第2回目も9月より開催予定、現地での視聴会も全国16か所で実施予定。

・自治体の定例議会後にFIFTYS PROJECT 議会報告会を定期的に開催。これまでに2度開催。今後立候補を検討している女性たちや、選挙期間中にボランティアをした人などが参加している。当選後も女性たちをひとりにせず、支え合えるコミュニティとして今後も育んでいきたい。

・統一地方選から1周年を記念し、FIFTYS PROJECT FESと題し、フェミニズムや議員活動について学んだり、フェミニズム団体による出展等も通し親睦を深め、今後についてそれぞれができることを考えるイベントを開催、100名以上が参加した。

Kaida SJF

 

FIFTYS PROJECTオーガナイザー育成講座の開講

 ジェンダーに関する課題を地域から取り組むオーガナイザーの育成を目的とした講座を2024年5月から実施。全国の10代〜30代の女性、Xジェンダー、ノンバイナリーの方を対象の応募をかけたところ、申し込みが10名の定員をオーバーしたため、枠を広げて14名が受講中。それぞれが住んでいる地域に根差したアクションを行い、11月に報告会を予定。今後ゼミと合わせて定期開催の予定。

 

【調査関連事業】

「統一地方選挙に出馬した女性候補者が体験した制度課題および社会課題についての調査」8月28日発表
 社会調査支援機構チキラボに依頼した調査報告書が完成した。
 統一地方選後の5月13日に、支援対象者向けの振り返りの会を開催した。この会には21名が参加し、ワークショップ形式で立候補前~選挙終了までの「ポジティブ・ネガティブな体験や内面」と「助けられたサポート・サポートの不足や不満」について共有した他、アンケート調査も実施した。

 アンケート調査の結果、回答者の全員が立候補の動機として「国政や地方政治に、女性の声を反映させるため」と回答した。

 しかし、立候補を決める段階から選挙期間の間に経験したこととして、回答者の71.4%が「性別に基づく侮蔑的な態度や発言」を選択、また、47.7%が「年齢、婚姻状況、出産や育児などプライベートな事柄についての批判や中傷」を選択しており、女性の声を政治に反映させたいと考える候補者に対して、性別を理由としたハラスメントが存在することが、改めて浮き彫りになった。
調査結果はこちらから

 

・記者会見

 8月30日、上記調査結果について、当団体代表の能條桃子と調査をになった荻上チキ氏で記者会見を実施した。
 その内容は、朝日新聞、東京新聞、毎日新聞はじめ大手主要メディアでも取り上げられた。

-朝日新聞 出馬女性7割「有権者からハラスメント 」
-毎日新聞「かわいい女の子」発言も 選挙中ハラスメント、女性候補らに調査
-東京新聞 「デートしたい時に電話していい?」女性候補者が選挙で受けた侮蔑や中傷の数々 支援団体が報告
-ポリタスTV 2023年統一地方選に立候補した女性たちによる声の調査結果発表 中継

 

・2024年7月、議会内におけるいじめ・ハラスメントに関する実態を把握するため、アンケート調査をFIFTYS PROJECT所属議員に実施。多くの議員が、同僚議員から「他の議員よりも不当に評価をされていると感じた」「SNSでの誹謗中傷があった」「性別に基づく侮蔑的な発言を受けた」「セクシュアリティや性的関係について聞かれた」などと回答した。1年生議員であることに加えて30代以下の女性であることで、不利益を被ったり、議員としての職務を全うすることを阻害されてしまったりしてはいけない。引き続き、議員との連携をとりながら、議会内におけるハラスメントを防止していくための取り組みを模索したい。

 

【政策提言】

 FIFTYS PROJECTの呼びかけを見て当時世田谷区議会議員に立候補していたおのみずきさんを応援していた女性たちが、おのさんの当選後、議会傍聴に行ったところ、おのさんの質問中に年配の男性議員が大きな声で喋り出すという光景に出くわした。そこで「議員間のハラスメント」の根絶及び防止を盛り込んだハラスメント条例の改正を求めて署名を集める​​「議会ハラスメントをなくそう陳情アクション」を立ち上げた。2023年11月に1428の署名を世田谷区議会に提出、審査の結果「継続審議」となった。

 FIFTYS PROJECTでは立候補する女性だけでなく、女性候補者や議員を応援する女性たちのネットワークが重要であると考えている。今回のケースのように選挙のあとも議員を支えているチームは多い。陳情や政策提言を行う際に議員と市民が協働できる関係性を今後も育んでいきたい。

   

助成事業の達成度:

 達成度として、もともと量的調査を予定していた部分は予算やリソースを鑑み、質的調査となったが、専門機関とも連携することで、若年女性等マイノリティが出馬する際の困難、また、望ましい動機付けもあわせて可視化できた。

 また、その結果を以って記者会見を開き、大手メディア含む様々な媒体でも注目された点は、一定の評価ができると思う。

 一方で、国、地方自治体に対するアドボカシー活動は容易ではないことも実感した。選挙の前後は関心が高いこともあり、アドボカシー活動の展開がしやすいと感じるが、選挙がないときに効果的なアクションをすることは難しいと感じる。そのため、選挙が近づいた際には、今回の調査をもとに、必要なアドボカシーを適切な相手にしていきたい。

 今回の調査の結果をもとに、次回2027年の統一地方選挙への立候補を考えている人へのアプローチを進めたいと考えている。例えば、都市部以外での立候補者は移住している女性が多かったことから、移住者コミュニティへの呼びかけをすることや、FIFTYS PROJECTが心理的安全性を提供できたという結果から、より心理的安全性を必要とするマイノリティ(障がいを持つ女性、トランスジェンダー女性、クィアなど)にとってもサポートを提供できるコミュニティであることのアピールなどをしたい。

 

助成事業の成果:

 FIFTYS PROJECTは、女性やマイノリティが議員になること自体が、既存のジェンダー規範によって否定的に捉えられがちな社会において、そのような偏見を払拭するために大きな貢献をしているプロジェクトである。特に、ジェンダーや多様性に基づくバイアスを乗り越え、女性が積極的に政治の場に参画できる環境を整えることは非常に重要である。FIFTYS PROJECTの活動を通じて、25人の女性たちが議員として選出され、それぞれの立場で強いリーダーシップを発揮し、地域や社会に貢献している。さらに、議員にならなかったとしても、ボランティアやオーガナイザーなど、多様な形で政治に関わる機会が用意されており、これまで政治参画がタブー視されてきた女性たちが一歩を踏み出すための後押しとなっている。

 こうした一連の活動が、社会の認識を徐々に変え、政治の世界における新たな道を切り開いていることは間違いない。また、ジェンダーやマイノリティとしての苦しい経験を背負いながら議員になった彼女たちは、共同親権に関する議論や女性支援新法の整備、予期せぬ妊娠に対するサポートなど、社会的に困難な状況に置かれた人々の権利と尊厳を守るため、実際の議会で鋭い質問を展開し、積極的に活動している。このような取り組みは、単なる法制度の改革に留まらず、社会全体の意識を変革し、より多様で包括的な未来を目指すための大きな一歩である

 一方で、議員になるにも、議員になった後も、ハラスメント等の被害にあっていること自体は許されざることであるし、その改善なしに根本的な問題解決はできない。その中で、今回の支援・調査によって困りごとを可視化し、今後のアドボカシー、また次回の選挙戦に向けた戦略を立てられることは、大きな意義があったと思う。

 確かに現時点では、まだ具体的な法制度の整備には至っていない。しかし、FIFTYS PROJECTのゼミは間もなく全国16か所で開催される予定である。これは、オンラインだけでなく現地での参加も可能となり、プロジェクトの輪が確実に広がりつつあることを示している。こうした活動を通じて、FIFTYS PROJECTはこの社会にとっての希望の光となり、女性やマイノリティの声が主体的に反映される未来の実現に向けた歩みを重ねていると感じている。

 

助成事業の目的と照らし合わせた成果・課題と展望:   

【Ⅰ】次の5つの評価軸それぞれについて、当事業において当てはまる具体的事例。あるいは、当てはまる事が現時点では無い場合、その点を今後の課題として具体的にどのように考えるか(自力での解決が難しい場合、他とのどのように連携できることを望むか)。

(1)当事者主体の徹底した確保

 若年女性の立候補の壁、また、24年7月に新たに行った議会内でのハラスメント等を明らかにするための調査対象を、FIFTYS PROJECTで支援してきた方々にすることで、トランスジェンダー女性を含む女性、ノンバイナリー、Xジェンダー等の10-30代の当事者が対象となることはもちろん、一定期間共に過ごした間柄でこそ出てきた結果やニーズもあると思う。

 また、本プロジェクトは、性的マイノリティを含む10代、20代の女性で運営されており、その点からも当事者主体の確保は徹底されている。加えて、FIFTYS PROJECTゼミを開始したことで、出馬可能な20.30代だけでなく、政治の場に声の届きにくい10代のユースとも繋がれるようになり、当事者性は一層強化されていると思う。

(2)法制度・社会変革への機動力

 アドボカシーは、FIFTYS PROJECTで応援した議員たちが、直接に議会質問や議員活動の中でそれぞれの地域やニーズ、現状に即したものを支援者の声を聴きながら展開しており、ジェンダー平等を進めたい市民と議員が協働することの意義を感じている。議員と応援する仲間を全国に増やす中で、具体的な法整備に繋げていきたい。

(3)社会における認知度の向上力

 調査結果に限らず、FIFTYS PROJECTはすでにNHKを含む大手メディアにも複数回取り上げられている。
 また、ゼミ生が1回目は300名を超え、その後のFIFTYS PROJECT FESや現在募集中の第2回目となるFIFTYS PROJECTゼミも参加者は3桁を超えており、成長、拡大を続けていると感じている。

(4)ステークホルダーとの関係構築力(相反する立場をとる利害関係者との関係性を良好に築いたり保持したりする力)

 全国にFIFTYS PROJECTで支援した議員が26名誕生し、うち一名は国会議員になった。また、2回目の調査においては、同様の取組をする団体と質問内容等を通じて連携し進めている。目指すゴールを共にしながらターゲットが少しずつ異なる同様の団体とも繋がりながら、これまで以上に様々なステークホルダーと関係を築き、声を上げていきたい。

(5)持続力

 2回目のクラウドファンディングが900万円以上を集め終わったところで、来年度の運営が可能となった。また、それに加えて持続的な運営のためにマンスリーサポーター制度を導入し、現在200名を超える支援者から毎月約38万円の支援をいただける形が整っている。また、YUIみらいによる1500万円の支援を受け活動基盤は整いつつある。引き続き継続的な活動のための地盤を整えていきたい。

 

【Ⅱ】Ⅰの評価軸はいずれも、強化するには連携力が潜在的に重要であり、その一助として次の項目を考える。

(1)当事業が取り組む社会的課題の根底にある社会的要因/背景(根本課題)は何だと考えるか。

 選挙経験についての調査を通じ、20代、30代のジェンダー平等を推進したい女性や性的マイノリティが出馬をするには、そもそも出馬を後押しするような動機づけや、ロードマップ的な情報的サポート、孤立を感じずに済むような情緒的サポート、活動を十分に行うための道具的サポートなど、あらゆる方面からの支えが必要であり、かつ不足していることがわかった。同時に、7割がハラスメントを経験した。

 それのみならず、議員となった後も、1年生議員であることに加えて30代以下の女性、マイノリティであることで、不利益を被ったり、議員としての職務を全うすることを阻害されてしまう事象が調査によって明らかになった。

 これらに対する議会や仕組み全体の変革なしには、若年女性等の議員が増えることは非常に困難と思う。

(2)その根本課題の解決にどのように貢献できそうだと考えるか。

 今回の調査でまずは困難や有用なサポートを可視化できたのは非常に有意義であったと思う。また、調査の中ではネガティブな反応だけでなく、選挙活動を通じて経験した周囲からの好意的な反応についての声も多く寄せられた。そのようなポジティブな成功体験をロールモデルとして提示していくこともこれまでにない貢献の仕方になるのではないかと思う。

 それに加え、次回2027年の統一地方選挙への立候補を考えている人へのアプローチも、都市部以外での立候補者は移住している女性が多かったことから、移住者コミュニティへの呼びかけをすることや、FIFTYS PROJECTが心理的安全性を提供できたという結果から、より心理的安全性を必要とするマイノリティ(障がいを持つ女性、トランスジェンダー女性、クィアなど)にとってもサポートを提供できるコミュニティであることのアピールなどをする。

 同時に、心理的安全性を担保した選挙を展開できるオーガナイザーも養成することで、出馬の一歩を踏み出そうというひとをより具体的にサポートしたいと感じている。

(3)他団体と連携したプロジェクトのアイディア、あるいは具体的な構想、あるいは希望などはあるか。

 議会内でのハラスメントが深刻だという報告をFIFTYS PROJECTの議員からを受けている。FIFTYS PROJECT内で完結するのではなく、他の女性議員を支援する団体等と協力することで、議会内のハラスメントの実態調査とハラスメント防止条例の制定等、議会が女性たちにとって安心して働ける環境となるようなアクションを一層加速したいと思っている。■

 

 

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