ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第8回助成
NPO法人 監獄人権センター=SJF助成事業中間報告(2020年6月)
◆団体概要:
拘禁施設内の人権侵害の事実を調査し、国内外に公表する。
必要なケースについては弁護士による助言、訴訟提起などにより個別的な救済を図る。
刑事拘禁に関する国際人権諸基準を研究し、紹介しながら人権条約の批准を求める。
◆助成事業名:『重い罪を犯した人の社会復帰と刑罰のあり方~無期刑・終身刑に関する政策提言』
日本でも、超党派の議員連盟において死刑制度が廃止された場合の代替刑の検討が始まるなか、「仮釈放のない終身刑」の是非が国際的な問題となっている。
犯罪者を「更生の可能性がない人間」と見なし、社会との繋がりを生涯絶つというこの刑罰の実態を調査・研究したうえで、運用のあり方に疑問を呈し、国連の国際基準の改訂にもNGOの立場から関わるピナル・リフォーム・インターナショナル(PRI)のメンバーを講師に招いたシンポジウムの開催、アメリカの刑務所の更生プログラムによる終身刑受刑者の立ち直りを描いたドキュメンタリー映画の上映・講演と参加者との対話、重い罪を犯した人の社会復帰について問題提起するキャンペーン、法務省・国会への政策提言等を通じ、無期刑・終身刑の望ましいあり方について提案する。
厳罰化を求める世論の高まりが顕著な日本において、統計等の根拠に基づいた正しい情報を市民に提供したうえで、重い罪を犯した人の社会復帰と刑罰のあり方を議論し検討する。誰もが排除されない、生きる希望のある社会づくりに貢献する。
◆事業計画 :
A)アメリカの刑務所の更生プログラムによる終身刑受刑者の立ち直りを描いたドキュメンタリー映画「ライファーズ」の無料上映と講師(映画制作者、元受刑者等を想定)による講演・ディスカッションを行い(年2回、各回50~70名程度の参加を想定)、重い罪を犯した人の更生の可能性について、参加した市民とともに考え議論する。 ⇒新型コロナウイルスの影響により、実施できる見通しが立つまで延期
B)世界の刑事司法制度の改革に取り組むイギリスのNGO、ピナル・リフォーム・インターナショナル(PRI)のメンバーを講師に招いたシンポジウムを開催し(年1回)、国際基準としての終身刑のあり方を学ぶ。 ⇒新型コロナウイルスの影響により延期となった「国連犯罪防止会議」の開催と同時期まで延期
C)法務省、国会に対して、罪を犯した人の社会復帰が可能な刑罰の検討と、無期刑のあり方、終身刑が導入された場合にもたらす影響についての政策提言を行う。
D)A、Bの内容(講師の発言や配布資料、来場者からの意見等)を利用し、ウェブサイトやSNS、監獄人権センター機関誌「CPRニュースレター」で、重い罪を犯した人の更生について問題提起するキャンペーンを行う(年2回程度)。
E)本事業実施メンバーが2020年4月下旬に京都で開催される「国連犯罪防止会議」に参加、サイドイベントに登壇し、国連や各国の刑事司法関係者(日本も含む)に「日本の無期刑の現状と終身刑のあり方」について問題提起・情報提供を行う。 ⇒新型コロナウイルスの影響により開催延期
◆助成金額 : 100万円
◆助成事業期間 : 2020年1月~2020年12月(当初予定)
◆実施した事業と内容:
【2020年1月~6月】
無期刑、終身刑に関する報道、調査等の収集。無期刑受刑者からの手紙相談への対応。
事業計画C)【3月4日】国会議員、メディアを対象とする院内セミナー「国際基準から見た終身刑・日本の無期刑の問題点」を参議院議員会館で開催。IWJ で生中継した。
内容:終身刑に関する国際情勢、日本における無期懲役刑の実情、死刑の代替刑について考える
参加:議員8名、秘書8名、メディア5名。参加議員は「日本の死刑制度の今後を考える議員の会」メンバーが中心。質問、意見も多数あり、仮釈放のない終身刑導入の問題を提起できた。
事業計画D)【6月7日】映画『ライファーズ』、『プリズン・サークル』をテーマとした無料オンラインセミナー開催。映画『ライファーズ』の上映会は前述の事情で延期となったが、同作を基に制作された映画『プリズン・サークル』がメディアで話題になり、受刑者の処遇や社会復帰に対する関心も高まっている時期であった事から、オンラインでの開催を実施した。当日の模様は編集後、後日Youtubeで無料公開する予定。
ゲスト:坂上香氏(映画監督)聞き手:海渡雄一
内容:映画『ライファーズ 終身刑を超えて』(2004年)で紹介された、アメリカの刑務所で行われる「TC(Therapeutic Community=回復共同体)」プログラムについて。プログラムを受けた受刑者の再犯率が低いという点について。受刑者の”人生のやり直し”について。
参加:75名(刑務所職員、弁護士、研究者、当事者支援団体、元受刑者、支援者など)。事前に多くの質問・意見が寄せられ、参加者の関心の高さがうかがえた。「共感はするのに何も出来てない自分に虚無感がある。暴力のない世界へ繋がる小さな行動を教えて欲しい」といった率直な思いも寄せられた。
事業計画C)国連自由権規約委員会・第7回政府報告書審査(日本に対する審査)NGOレポート作成。無期懲役の問題を含むレポートを作成(作業継続中・8月完成予定)。
(写真上=院内セミナー「国際基準から見た終身刑・日本の無期刑の問題点」を参議院議員会館で開催/2020年3月4日)
◆助成事業の目的と照らし合わせ 効果・課題と展望:
【Ⅰ】次の5つの評価軸(※)それぞれについて、当事業において当てはまる具体的事例。あるいは、当てはまる事が現時点では無い場合、その点を今後の課題として具体的にどのように考えるか(自力での解決が難しい場合、他とのどのように連携できることを望むか)。
※この評価軸はソーシャル・ジャスティス基金がこれまでの助成事業の成果効果を分析した結果、アドボカシーを成功に導く重要な評価軸として導出した。
(1)当事者主体の徹底力
弁護士、市民だけでなく、長期刑で服役した元受刑者や支援者も関心を寄せ、活動に参加している
(2)法制度・社会変革への機動力
院内セミナーを通じ、本事業や弊会の活動への理解を示している複数の国会議員と日常的に連絡が取れる体制が構築されつつある。
(3)社会における認知度の向上力
「映画」をテーマとしたオンラインイベントに、本事業のテーマに元々関心がある層以外の層が参加した。
(4)ステークホルダーとの関係構築力(相反する立場をとる利害関係者との関係性を良好に築いたり保持したりする力)
「映画」をテーマとしたオンラインイベントに刑務所職員が参加した。本年年末頃に国会議員を通じて、法務省との面談の実施を計画し調整中。
(5)持続力
団体設立時から蓄積しているデータや経験が大いに役立っており、新たに加わったプロジェクトメンバーにも直ぐに共有できている。新型コロナウイルスの影響で延期を余儀なくされた計画についても、延期までの期間も中断することなく、情報収集や関係構築に努める。
【Ⅱ】Ⅰの評価軸はいずれも、強化するには連携力が潜在的に重要であり、その一助として次の項目を考える。
(1)当事業が取り組む社会的課題の根底にある社会的要因/背景(根本課題)は何だと考えるか。
国民の厳罰化意識が高いことと、罪を犯した人や失態した人は誹謗中傷されるべきであるという国民の意識。
行政、福祉、更生保護の現場で、制度化・システム化や効率化が重視されている事。
(2)その根本課題の解決にどのように貢献できそうだと考えるか。
刑罰の本来のあり方や運用実態等を含め、正しい情報を市民に提供し、対話する。行政、福祉、更生保護の現場で、罪を犯した人の社会復帰をより良いものにしたいと考えている人達とつながりを持つ。
(3)そのような貢献にむけて、どのような活動との協力/連携が有効だと考えるか。
映画等、市民が参加しやすい分野との連携。地域生活定着支援センター、更生保護法人、社会福祉士等との情報交換。
◆今後の事業予定:
事業計画C)国連自由権規約委員会・第7回政府報告書審査(日本に対する審査)NGOレポート作成。無期懲役の問題を含むレポートを作成、8月提出、10月審査予定。
事業計画A,B,E)延期となっている事業の実施。
事業計画C)12月末までに、国会議員・法務省との面談。
事業計画D)8月頃までに、6月7日実施のオンラインイベントのYoutube公開とSNS、ニュースレターでの関連情報の発信。
※無期刑、終身刑に関する報道、調査等の収集、無期刑受刑者からの手紙相談への対応、ウェブ・SNSでのキャンペーン、ニュースレターの記事作成、メディアへの情報提供。