ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第8回助成
NPO法人 ピッコラーレ=SJF助成事業中間報告(2020年6月)
◆団体概要:
2015年12月、にんしんSOS東京として活動を開始。より公共性の高い事業の拡大を目的とし、2018年11月、後継団体NPO法人ピッコラーレを設立。2019年4月よりすべての事業を移管し、運営を開始して妊娠葛藤相談窓口の運営を基幹事業とし、行政からの業務受託や研修事業、projectHOME事業(妊婦のための拠点づくり事業)を行なっている。相談窓口は365日16時から24時までを開設時間とし、電話・メールを受けつける他、必要に応じて、同行支援(対面での面談・病院/行政など関係機関への同行)を実施している。相談支援員は医療・福祉系の国家資格保持者により構成され、オリジナルのコールセンター、電子カルテシステムを導入し、相談業務にあたっている。
◆助成事業名:『若年妊婦のアドボカシー促進のための白書作成事業』
本事業の目的は、ピッコラーレが運営する妊娠葛藤相談窓口(にんしんSOS東京)に寄せられた声を白書としてまとめ、妊娠に関する諸課題の提示と、アドボカシー活動につなげることを目的とする。相談窓口に寄せられる「妊娠したかもしれない」、「思いがけない妊娠をしてしまった、どうしよう」といった「妊娠葛藤」を抱える相談者の約70%が10代〜20代の若年者である。そのほとんどが誰にも相談せず孤立し、一人で葛藤を抱え込んでいる。なぜ、孤立しなければならなかったのか。この白書では、私たちが聞き取った若年者たちの声から、若年妊娠にまつわる課題を整理し、社会全体への啓発につなげていく。
◆事業計画 :
事業開始当初は、9月発行予定で進めていたが、新型コロナウイルス感染症の影響や、データ分析の方法の見直しを行ったこともあり、発刊が遅れ、現在は12月発行を目指している
2019年8月 事業立ち上げ
2020年6月 データベース作成完了
2020年7月 白書原稿制作開始
2020年10月 白書原稿完成
2020年11月 印刷・製本
2020年12月 発行 配布/販売開始
2021年1〜3月 国会議員へのロビイング活動&院内集会&関係団体・行政窓口の訪問活動
◆助成金額 : 100万円
◆助成事業期間 : 2020年1月~2020年12月(当初予定)
◆実施した事業と内容:
2020年6月末:2015年12月1日〜2019年12月31日の3200件(人)のケースを相談内容別にレイヤーを分けての分類終了。
*分類作業を行うなかで見えてきたこと:
・地域とのつながりを持たない妊婦は、相対的に問題が複雑になってしまう要素が多い。背景に、非正規雇用、DV、貧困、虐待、暴力など、本人自身では解決できない課題を背負わされてきたにもかかわらず自分の力でサバイブして生きてきているのだということが、分類作業からも見えてきている。
・一方で、性や妊娠に関する知識の不足が顕著であり、性教育の機会が絶対的に不足していることにくわえ、特に、妊娠に関する内容は、ネット情報に頼りきっている現状もはっきりと見えてきた。
・避妊の失敗による妊娠を回避するための方法として、アフターピルの服用があるが、アフターピルは医師の処方箋が必要であったり、費用も8000〜15000円と高額、また、高校生は保護者同伴でないと処方できない、と、医療機関で断られるなど、若年層には利用しにくい状況があることが見えている。
・同行支援を行なったケースを通し「妊娠はだれのものか」を改めて突きつけられている。例えば、親権の壁。未成年には妊娠をどうするか、育てるかどうか、などについての自己決定権がない。虐待のある環境下でも親権者の同意を求められる。分析はこれからだが、医療機関の変容や、若年妊婦を包括的に支援できる法整備の必要性などの根拠となるデータとなるのではないかと予想している。
・子どもの虐待死のうち、母親だけが加害者になる0日・0ヶ月児の死亡事例を「虐待」と位置付けることへの違和感も抱くようになっている。避妊の選択肢の少なさ、若年妊娠に対する社会資源の使いにくさ、法整備の不備などと、0日・0ヶ月児の死亡は切り離すことのできない問題であることも見えてきつつある。
(写真上=安心な居場所を持たず、孤立している妊婦のための「HOME」を2020年4月にオープン)
◆助成事業の目的と照らし合わせ 効果・課題と展望:
【Ⅰ】次の5つの評価軸(※)それぞれについて、当事業において当てはまる具体的事例。あるいは、当てはまる事が現時点では無い場合、その点を今後の課題として具体的にどのように考えるか(自力での解決が難しい場合、他とのどのように連携できることを望むか)。
※この評価軸はソーシャル・ジャスティス基金がこれまでの助成事業の成果効果を分析した結果、アドボカシーを成功に導く重要な評価軸として導出した。
(1)当事者主体の徹底力
研究者や、統計調査などの専門家ではなく、妊娠葛藤相談窓口で実際に相談者の声を聞いている相談員が、相談員の視点から分類、分析をしている。電子カルテのデータ抽出方法も何度も検討し、やり直しを繰り返し、ベストな分類方法を模索しながら進めてきた。
(2)法制度・社会変革への機動力
コロナ禍のなか、若年妊娠に注目が集まっているこの時期に、妊娠葛藤を包括的に絡めとる法律が存在しないこと、母体保護法、売春防止法、児童福祉法、母子保健法、生活保護法などに、妊娠葛藤の視点を盛り込むことなどを提言する白書を発行することは、一定程度以上のインパクトがあると考える。
(3)社会における認知度の向上力
コロナ禍、若年妊娠がクローズアップされるようになるとともに、ピッコラーレに、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌などからの取材が増えている。その機会に白書制作中であることを伝えると「どこにもない白書」であると認識され、「ぜひニュースとして扱いたい」と言われている。そのため、12月発行後は一定程度の認知度が上がると思われる。
(4)ステークホルダーとの関係構築力(相反する立場をとる利害関係者との関係性を良好に築いたり保持したりする力)
医療機関や行政の窓口で、不快な思いをし、私たちに相談をしてくる相談者も少なくない。私たちは、電話やメールの相談だけでなく、面談・同行を行っていることから、彼女たちに不快な思いをさせた相手と相対することがよくある。その際、相談者の背景や、彼女たちの最善の利益は何か、相談窓口から見える相談者のアセスメントを伝えると、彼らの表情が変わることがよくある。最近では、要対協のメンバーに加えてもらうことも多くなっている。
また、若年妊娠を懲罰的に対処することで押さえ込もうと考えている政治家や医師、教師などにも、本白書は、本人だけの問題でなく、社会で受け止め、解決する必要のある課題であるという、新たな視点を提供し、これをもとに、研修などで若年妊婦の背景を考えあえるだろう。そのことは、若年妊娠を偏見の目で見ている人たちの行動変容をもたらす起爆剤となると考えている。
(5)持続力
「妊娠葛藤」という課題は、様々な課題を内包しているため、今後も、一つ一つの課題(例えば中絶、若年男子など)に焦点を当てて白書を作成していく必要に迫られると予想される。
【Ⅱ】Ⅰの評価軸はいずれも、強化するには連携力が潜在的に重要であり、その一助として次の項目を考える。
(1)当事業が取り組む社会的課題の根底にある社会的要因/背景(根本課題)は何だと考えるか。
>妊娠・出産が自己責任とされていること。
>妊娠葛藤に対しての、無関心、無理解。
>貧困・暴力・虐待など社会的病理。
>性教育の不足
>避妊へのアクセスの悪さ
今、社会は、底が抜けたような状態となっており、弱者は真っ先に切り捨てられ、排除され、いないものとしてあつかわれている。妊婦も、現代社会においては弱者である。妊娠・出産は保険診療ではない(医療費は自己負担)し、若年妊娠は、医療機関でも教育機関でも、また、社会的にも懲罰的に扱われ、妊婦から社会の居場所を奪っている。
(2)その根本課題の解決にどのように貢献できそうだと考えるか。
政策提言、地方行政への提言を行う。
医療機関への働きかけなどを行い、妊娠・出産周りの医療を保険診療とするよう提言。
(3)そのような貢献にむけて、どのような活動との協力/連携が有効だと考えるか。
虐待、DV、貧困、#なんでないの などの社会課題の解決を目指している団体と連携をし、社会の網の目からこぼれ落ちている人たちの声を一つ一つ、社会に伝えていき、この問題は、どこか遠くで起きていることではなく、すぐ隣にあるのだ、ということを、様々な角度から発言し続けること。
※ 思いがけない妊娠にいたる前の避妊へのアクセスを、もっと安価に迅速に行えるようにしていく必要がある。アフターピルや低用量ピルをコンビニエンスストアで購入できるようにする、避妊シールや注射の導入。また、中絶手術費用の無料化、中絶薬の認可、など、提言していかなければならない課題は尽きない。
◆今後の事業予定:
3200件のデータ分類ができたので、今後は、データ分析に入る。
同行・面談を行ったケース(52件)と、中絶については、数量的分析だけではなく内容分析を行い、小特集とする。
白書のメイン特集記事である、「社会から排除される若年妊娠」のペルソナ設定を行い、いかに社会から排除され、支援につながることを困難にしているかを明らかにしていく。
→2020年9月中旬までにまとめたい
→2020年9月末までに監修:湯澤直美さんチェック
→2020年10月中旬〜ページ組、デザインの作業に。
→2020年11月中旬〜印刷・製本