ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)第7回助成
NPO法人 国際子ども権利センター=SJF助成事業中間報告(2019年6月)
◆団体概要:
【ビジョン】
すべての子どもがあらゆる暴力から守られ、子どもの権利、特に参加の権利を実現していく社会を目指します。
【これまでのあゆみ】
1992年、関西でユニセフのためにボランティア活動をしていた数人が、子どもの権利を日本社会に広め、子どもの権利の視点から国際協力をすることを目的として、設立しました。
設立後、ブラジルのストリートチルドレンの虐殺に対して抗議キャンペーンを行い、また日比国際児(JFC)のために国籍法改正運動やフィリピンのNGOに対する資金協力をおこないました。
1997年からはインドの児童労働問題にとりくみ、インドの子どもを日本に招聘し、子どもの視点から児童労働の問題を解決するためにはどうすればよいのか、一般の人々と子どもとともに考えるキャンペーン事業をおこないました。
2004年からは、カンボジアで子どもの権利普及と子どもたちが人身売買や児童労働の被害にあわないよう子どもたちへの啓発活動、おとなへの生計向上支援活動をおこなっています。
国内では2018年より脳科学に基づく子育て講座の開催などを通じて、子どもへの暴力をなくす取り組みを継続しています。
◆助成事業名:『子ども自身によるアドボカシー促進のための子どもの権利普及事業
~マイノリティの子どもに焦点をあてて~』
『子どもたちが自分の権利を守る30の方法(仮)』 を出版。出版記念セミナー(仮称)、および、マイノリティの子どもグループ対象の出版本を使った子どもの権利学習ワークショップを実施します。
①出版記念セミナー(仮称)は原稿執筆者やNGO関係者と連携し、一般公開で行います。
②外国につながる子どもたちやLGBT子どもたちのグループにかかわりのある団体の協力のもと、子どもと共に本を使ったワークショップを実施します。その過程で子どもたちの意見等をまとめた文書を作成します。
それぞれに直面する問題は異なっていても、子どもの権利条約や移民の子どもに関する一般的意見など国際人権基準を使うことによってマイノリティの子どもが権利を回復するアドボカシーを効果的に行いうることを、アドボカシーカフェやHP、SNSで示すことで、全国で同じ悩みを持つ子どもやNPOが運動を起こしやすくします。
助成終了後は、当該文書を学校関係者(教育委員会等)に提出することを目指します。
また、出版物及び子どもの権利ワークショップ事業を収益化させることで、今後の啓発・アドボカシー活動の土台をつくります。
◆事業計画 :
【6月~9月】 ワークショップを3団体(東京シューレ、にじーず、すたんどばいみー)の協力のもと、それぞれの子どもたちに対して、出版予定の本の原稿を使ったワークショップを、1団体に対して3回実施。
ワークショップでの活動内容、活動方法
・クイズやランキングを使い、子どもの権利条約や子どもの権利について考えるアクティビティを実施。子どもの権利の本のそれぞれのグループに該当するトピックの箇所を読んでもらい、コメントをもらう。
「このような権利があります。」
→子どもたち自身で考える。「自分が置かれている状況はどうだろう?」「こんなことが嫌だった。」
→子どもたちからの提案。「どうすればその状況は変わるだろうか?」「先生がこんな風に言ってくれればよかったのに…」「このように理解してほしかった。」
⇒ポストイット等に書き出し、話し合いや発表をする。
「あなたにとって、こんな学校だったらいいなと思う学校は、どんな学校ですか?」
「あなたにとって、こんな先生だったらいいなと思う先生は、どんな先生ですか?」
「学校やその他の場所で、暴力(身体的、精神的、言葉の暴力、性的暴力)を受けたことはありますか?」
という質問に対して、ディスカッションもしくはアンケート形式で答えてもらう。
【10月12日】子どもの権利条約30周年イベント(出版記念シンポジウム・チャリティコンサート)を「広げよう!子どもの権利条約キャンペーン」の賛同イベントとして実施。庄野真代さん出演。場所は聖心女子大学ブリット記念ホール。
【11月~12月】アドボカシーカフェ
◆助成金額 : 100万円
◆助成事業期間 : 2019年1月~2019年12月
◆実施した事業と内容:
- 出版本の編集・進捗管理
31名の執筆者に原稿を依頼し、30のトピックと6つのコラム原稿を書いてもらった。それらをチェックし、子どもの権利と関連する記述をし、子どもたちにとって読みやすく、また、子どもが自分で権利を守っていくためのヒントになるように修正し、執筆者に了解を得たり、執筆者に書き直してもらうよう要請した。
- 子どもの権利30周年イベント(出版記念シンポジウムとコンサート)の企画管理
登壇者、日程、会場の調整し日程と場所を決定した。内容は以下のとおりで計画を立てた。
第1部は執筆者が登壇するシンポジウム、第2部は庄野真代さんが歌を歌いながら、子どもには歌を通じて表現したり発達する権利があること、子ども食堂における経験を語るトークを交えることを検討。
- 3団体と子どもへのワークショップ開催に向けた準備
4/3 理事2名、インターン1名が「すたんどばいみー」活動場所を訪問。ワークショップ実施のための打ち合わせを行う。すたんどばいみーの教室に通う外国につながる子どもたちが多く住むいちょう団地(活動場所)の今の状況を見学。
(写真=学習教室の拠点で、すたんどばいみーのスタッフと)
5/10「にじーず」の担当者とワークショップ実施のための打ち合わせ。
5/31「東京シューレ」担当者と電話で打ち合わせ。その後、メールで数回の打ち合わせ
- 6/23 LGBTの子どもたちの居場所「にじーず」におけるワークショップを実施
- 9つの子どもの権利クイズを通して、政府には子どもの権利条約に定められている子どもの権利を守っていく責任、特に、子どもの意見を聴く責任や子ども最善の利益の原則を守る責任があること、それらを守っていない場合は、国連子どもの権利委員会から勧告されること、守っているかどうかについての報告には政府だけでなく、市民や子どもも参加できることを伝えた。
- 子どもの権利ランキングのアクティビティを通して、子どもの権利には様々な権利があり、どれも重要であるが、それぞれの子どもや状況によって優先すべき子どもの権利があること、何を優先すべきかは子どもの声を聴きながら考えて行くことが重要であることを伝えた。
- 出版予定の子どもの権利の本に執筆した「LGBTと子どもの権利」の文章を読み、追記した方がいい内容などについて子ども若者たちから意見を出してもらった。
- アンケートで、上記の事業計画で示した質問を含む問いに答えてもらった。
(写真=自分にとって大事な権利を考えるダイヤモンドランキングと子どもの権利カード)
- 事業実施のための内部ミーティング
担当者2名による定期的(月1~2回程度)なミーティングを実施、メールでも相談。
チームメンバー(理事3名、インターン1名、スタッフ1名)によるミーティングを実施、メールでも相談。
- 本事業を通じた組織基盤強化
これまでの組織の知見(海外事業、子ども参加事業など)をどのように本事業に活かしていくのか、本事業を通じて支援者を獲得する方策について、全理事及びアドバイザーと戦略を検討した。
◆今後の事業予定とその課題や展望:
【今後の事業予定】
<助成期間内>
2019年6月~9月出版本のゲラ校正。執筆者とのやりとり
2019年6月~9月 出版本を活用した子ども向けワークショップの実施
2019年10月 子どもの権利条約イベント(出版記念シンポジウム・コンサート)の実施
2019年11月~12月 アドボカシーカフェ/子どもの声を文書化する
ワークショップを通じて文書化された子どもたちの声をプライバシーに配慮し子どもの意思を尊重しながら、社会に発信する。特に受けてきた暴力に関しては、現在、政府が策定過程にある子どもに対する暴力撤廃に向けた国別行動計画に反映されるよう政府に提出する。
<助成期間後>
子どもの声を活かして、子どもに対するワークショップのカリキュラム案、教材あるいは広報物の制作を行う。目的は、子どもが自分自身の声を発信しやすくするための環境づくり。具体的には子どもの声を聴けるおとなを増やすための制作物とする。
ワークショップを実施した3団体の子どもたち同士の交流を通じ、共通点を見つけることでより自分たちの声を発信したり、周囲に働きかける力を強められるようサポートする。
子どもたちの意思を尊重しつつ、教育委員会、文部科学省へマイノリティグループの子どもの権利保障に関する提言書をまとめる。
またカンボジア事業での活動経験を活かし、子どもから子どもへ権利を伝える活動がカンボジアでどのような成果を生んでいるのかを、子どもたちに共有。カンボジアの子どもと国内の子どもの交流も視野にいれて、国内外問わず、子どもたちが自身の権利を知り、声をあげることをサポートしていく。
将来、子どもサポーター養成事業の実施を検討しているが、今回の事業を通して、どのようなサポーターが必要とされているか、どのような研修が必要かを検討する。
【課題と展望】
事業を実施するうえで、結果的に子どもを利用しないかたちで子どもの声を聴いていくことが重要であるが、そのためには子どもたちと信頼関係を築くことと子どもの最善の利益を考慮して行動する心構えが必要となる。
子どもとの信頼関係をわずか3回のワークショップでいかに築くかというのが課題である。特に東京シューレの子どもたちは入校したばかりの子どもが多く、まだ安心して自分の気持ちを話せるという段階にはない。
助成期間内で、子どもたちが公の場で発言することを目指すのではなく、子どもたちがワークショップを通じてどのようなことを感じ、どのように行動したいと思うのかは、協力団体と子どもたちと共に丁寧にすすめていく必要がある。
また、LGBTの居場所のにじーずの場合、そこで話されたことは外に持ち出さないというルールがあるため、話された内容を表に出すことができない。そのため、表に出すことを許可するかを選べるアンケート形式で意見を求め、報告書掲載可能かどうかも選んでもらった。
また、LGBTの子どもとの最後のワークショップは、居場所のにじーずで開催するのではなく、ほかの場所で開催し、LGBTの友だちをありのまま受け入れる「アライ」(仲間という意味)の子どもたちも含め、アイデンティティがわからないようなかたちでワークショップを実施する。