ソーシャル・ジャスティス・ダイアログ2013
わたしたちは、どういう未来を創るのか
~社会的公正と「新しい」未来をシェアしよう~ 開催報告
2013年6月22日、日比谷図書文化会館にて、SJF主催のダイアログを開催いたしました。SJF助成先の3団体を含め、日本に横たわる様々なテーマに地道に取り組んできた団体から、6名のゲストをお迎えしました。私たちがこれから向かう未来は市民が引っ張って行く社会となるよう、市民的価値を明らかにし共有するプロセスを大切にした対話が、参加者とともに繰り広げられました。
◆ ゲスト ◆
◇ 藤村 靖之さん(発明家 / 非電化工房 主催)
◇ 吉岡 利代 さん(国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ 日本代表代理)
◇ 原田 謙介 さん(NPO法人YouthCreate代表)
◇ 松浦 亮輔 さん(監獄人権センター スタッフ)
◇ 中村 国生 さん(「多様な学び保障法」を実現する会 事務局長)
◇ エディ さん(レインボープライド愛媛 代表)
◆ おもなプログラム ◆
◇ 助成団体の中間報告と質疑応答
◇ パネルディスカッションと質疑応答
◇ 参加者とゲストとのグループディスカッションやダイアログ
カフェ・オーナー 上村 英明(SJF運営委員長 / 市民外交センター代表)
~ 動画とともに報告いたします。(以下 敬称 略)~
助成団体の中間報告
◇ 監獄人権センター 松浦 亮輔 <SJFの担当運営委員 辻 利夫>
・SJF助成の目的は、受刑経験者が社会復帰しやすい環境を整備することだ。SJF助成の目的だ。
・SJFと共催のアドボカシーカフェ等を通し、多様な層からの参加を得てネットワークを広げることができた。また、その議論の中で、受刑経験者と地域社会とのコミュニケーションを活かし生活困窮者の支援の一環として対処したり、刑事手続きに入る手前での福祉的支援で対処したりすることがポイントとなった。
・中間報告の詳細は http://socialjustice.jp/p/2012midreport3/
◇ 「多様な学び保障法」を実現する会 中村 国生 <SJFの担当運営委員 樋口蓉子>
・子どもの多様な学びを実現するための立法を目指す活動に対して、SJFは助成した。
・年間20万人の子どもが、現行の学校教育法からは押し出されてしまっている状況の解決に向けて制度変革が必要と考え立法の働きかけを行ってきた。すべての「子どもの学習権を保障」することの重要性は、党派をこえて認識が共有できることが分かった。
・SJFの助成により作成したパンフレットにより理解者や賛同者の増加に注力した。
・中間報告の詳細は http://socialjustice.jp/p/2012midreport2/
◇ レインボープライド愛媛 エディ <SJFの担当運営委員 轟木洋子>
・地方都市・松山における性的マイノリティの理解を目指す社会対話の挑戦に対し、SJFは助成した。
・定期発行の地域情報誌「ホヤケン!」などを活用し社会理解を進める企画を多数開催している。「ホヤケン!」は、性的マイノリティの顔の代わりであり、生の声を伝える手段でもあり、幅広く手に取ってもらいやすい雑誌を目指している。
・SJFのアドボカシーカフェを参考に、松山市男女共同参画イベントとして「日本で同性婚は認められるか」について市民の熟議イベントを開催する予定だ。
・中間報告の詳細は http://socialjustice.jp/p/2012midreport1/
~3団体は共通して、社会全体で問題を解決していこうと試みている。今、憲法改正が取りざたされているが、これによる活動への支障はどうか?(参加者)~
・ 拷問規律に関し、「拷問は絶対に禁止する」という条項が、から“絶対に”という文言が、特に議論されないまま外されそうだ。これは国際法の流れに反している。(松浦)
・ 教育においても権利の制約や国家中心的な考え方が強められてきており危惧している。また、子どもの学習権を多様に保障しようという私たちの主張が、教育の市場化や規制緩和に利用される懸念、混同されて理解される懸念を感じている。(中村)
・ 各政党に意識調査をお願いした際、自民党は、性的マイノリティの問題は人権問題としては考えていないと回答してきた。(エディ)
~ストリートカルチャーを通して子どもたちをエンパワーメントする活動をしているNPOで、事業収入をメインにしているが、資金繰りには常に悩んでいる。どんな工夫をしているか?(参加者)~
・監獄人権の活動分野は事業収入が見込めない分野のため、寄附を継続していただく努力が重要となっている。(松浦)
・国際環境NGOで活動しているが、寄附の税額控除のメリットをマスコミにより発信してほしい。(参加者)
パネルディスカッション
◇ 藤村 靖之; エネルギーとお金を使わないで得られる豊かさを探るテーマパークを那須に6年前から建設している。世界中の人がお金からしか幸せを得られないという実感が強くなってきているが、発明家として選択肢を広げてみたい。那須も原発事故の影響を受け、2年間、建設を中止した。子どもを放射能から守るために大人として何とかしたいと思っている。
◇ 吉岡 利代; ヒューマン・ライツ・ウォッチは世界2大人権NGOの一つ。4年前に東京オフィスが開設された。これは、外交に力のある日本に人権の分野でもリーダーシップをとってもうことを目指すものだ。政策提言をしたり、世界中の調査員が集めた情報を発信するために翻訳してプレスリリースしたりもしている。寄附は、独立性を保つため、100%私的な資金で支えていただいている。
◇ 原田 謙介; “政治と若い人をつなぐ”ために、今年の1月にYouthCreateというNPO法人を立ち上げた、27歳。学生時代には、投票率をあげるためにivoteという団体を起こし、この活動は、インターネット選挙運動解禁につながった。選挙に特化しない方針だ。Voter’s Barという地方議員と若い人の飲み会を全国で企画している。
~SJFの助成団体の報告についてどう感じるか?(上村 英明)~
(藤村)私は60歳代後半で、社会不正義を最もしてきた世代でもある。私の世代の性で、正義を振りかざして、過激に攻撃して、挫折することを繰り返してきた。そして30年かかり学んだことは、“ひとは、正しいことではなく、楽しいことが好きなのではないか”ということだった。SJFは、正しさを求めながら、やわらかく、やさしく、たのしくという姿勢が横溢しているので頼もしく感じた。
~上から目線で正義を振りかざすことで失うことを考えるところから進めたい。若い世代からの忌憚のない意見は?(上村)~
(吉岡)SJFの助成3団体が、声を上げられない人たちの声を取り上げて届けていることに感銘した。当事者自身が気づいていない声を見つけて広げて行くことは大切だ。日本は敷かれたレールの数が少ないうえ、そこに乗らないと生きにくいと、私自身は感じている。
(原田)3団体が行政や議員へもアプローチされている点、励まされた。政治へアプローチするより経済を回した方がいいじゃん、若い同世代に言われることがあるが、実際に活動されている3団体の例は、反証として勉強になった。
~違う方向性の人たちに対してのアプローチはどのように?(上村)~
(藤村)「選択肢が一つに限られている時は、だれかの罠にはまっていることだ」という諺を創った。発明家の本分は、選択肢を広げるところまでで、その先は、自分たちの哲学に則って選べばよい。40年間、外国をほっつき歩いてきた。アフリカ人は、日々をエンジョイする名人だったが、2000年あたりから、不幸だという言葉が増えた。人と比べ、経済成長さえすればいいという考えが蔓延し、人と人との憎しみが増幅した。発明家として私は、社会がきっと幸せになるのだろうなと思う選択肢を広げる。
(吉岡)日本は難民鎖国だ。背景の違う人たちにとって生きづらい社会だ。私は活動を通して、支援というより難民から学ぶことが多い。例えば、ビルマ難民が異なる宗教のコミュニティでも生活していく様から学ばされた。お互い学び合う姿勢が大切だ。
(原田)なんとなく選挙にいかない人たちは、考えるきっかけがないからではないか。何らかの分野で活動されている方は多いが、政治については知らない。自分の活動が、どの政党や政治家の活動に近いか知ろうとしない。“政治ってカッコいい”くらいが世の中楽しい。飲み会などのアンケートで「彼氏・彼女にするなら、投票に絶対に行かない人と行く人では、どっちを選びますか?」ときくと、「行く人」を選ぶ。ほら、行こう!という具合に投票に向いてもらう。
~色々な社会活動をする人がいるにもかかわらず、レールや選択肢が少なく感じたり、政治へ意識が向かわなかったり、といった矛盾は何なのか?(上村)~
(藤村)奇跡と言われた高度経済成長で得られた物質的豊かさ、その代償として大きく失ったものは、国としての知性である“人の痛みを感じる感性”、“自分の意志で国の方向を定める主体性”、“みんなで合意形成していく力”だ。国の知性が底をついている“文明の転換期”にある今、文明をいい方向にひっぱっていくのは市民だ。私のように長く生きた者は、今日のゲストのような若い人たちの縁の下の力持ちにならなければいけない。
(吉岡) はざま世代かと思う。趣味としては自由に何でもできるが、新しいレールを創ることができない。この自由や豊かさをどう使っていくのかがライフテーマだ。
(原田)私のようにレールを無視した人間から見ると、いつかレールを乗り換えようと思っている人たちは多いと思う。また、3.11は、今までのレールは続いていかないのだと考えるきっかけとなり、就職が決まっていてもNPOを立ち上げ被災地に入って支援活動をしている人たちがいる。
~社会課題への取り組みを広くつなげていくには?(上村)~
(藤村)“市民が主役”という政治を全く裏表なく実践しているソウル市長がいる。2000年の韓国総選挙で落選運動をし、市民の幸せや平和に反する候補者を落選させた。日本に先行する韓国の実例で、楽観視しており、若い人たちに引き続きがんばってほしい。
(原田)政治と距離を置いても、民間の側から何か変えようとしている人は多いと思う。一緒にやりましょうと言いたい。なお、サッカーが政治より100倍好きで、タコ壺的な活動にならないよう幅広くコミュニケーションをとれていると思う。
(吉岡)若い世代はライバル意識が薄く、“楽しく”を好む。ソーシャル飲み会と称し、若手政治家や助成する側も助成される側も一緒の飲み会に日頃から参加している。みんなで楽しく横の広がりを強めていきたい。
会場との対話から
◇ 学生の時は価値観が多様だが、社会人になるとレールが狭まるように感じている。レールを広げる意味でも、NPOやNGOで社会経験を積んでから起業した方がうまくいくと思う。このような意見は世界的にみてどうか?(参加者)
(吉岡)中・高を英米で過ごした経験があるが、欧米社会では、NGOに求められていることが多い。米では、政界とNGO業界とを行き来するひとが多い。
◇一見まったく異なる活動をしている6名のゲストながら、人と人との違いを認め合うということを大切にして活動されているという点が共通だと思う。(参加者)
(藤村)今日のグループディスカッションで感じたのは、若い方々が人の痛みが分かり弱者への思いやりが強いことだ。これはクリエイティブなエネルギーとなるだろう。
◇ マイノリティ対マジョリティといった枠にはめ込むのではなく、一人一人の個性の違いを認め合える社会をつくりたい。(参加者)
(中村)上村さんが問題提起した“市民的価値”とは、“人は多様であるということを根源的に認められる市民社会”だと思う。多様性を突き詰めると、共存・共生のために必要なのは、“人権”という価値の共有であり、それが普遍的価値として生まれてくのだと思う。
(エディ)各々が自己表現し、無理解を取り除いていきたい。また、マイノリティの中での差別がなくなるよう本当の思いを出す対話の訓練をして、感情のままに多様な方々を排除してしまうことのないようにしていきたい。
◇ 2030年には“参加型社会”を創りたい。議論して合意形成し、手を動かし汗をかく中で活動に深まりが生まれる社会だ。(参加者)
(SJF副運営委員長 黒田かをり)
私たち一人一人いろんな問題を抱えている。現場で活動している人と当事者ではない人とが想像力を働かせて交流できると、活動に広がりが生まれる。より現場に近いところを共有する機会をつくる必要性を感じている。
今後の企画予定のご案内
◇7月18日(木) SJFアドボカシーカフェ
国連「健康に対する権利」の特別報告者のアナンド・グローバー氏が、ジュネーブで行われた国連人権理事会で、正式な報告書と日本政府に対する勧告を発表たことを受け、ゲストに国際NGOヒューマン・ライツ・ナウ代表の伊藤和子さんをお迎えし、皆さまと話し合う場を設ける予定です。今年2月26日のSJFアドボカシーカフェ のテーマを引き継ぐ企画となります。
@文京シビックセンター4Fシルバーホール、 18:30~21:00(18:15開場)
関連リンク
◇「多様な学び保障法」を実現する会 http://aejapan.org/wp/
◇ 監獄人権センター http://www.cpr.jca.apc.org/
◇ レインボープライド愛媛 http://rainbowpride-ehime.org/
◇ 非電化工房 http://www.hidenka.net/indexj.htm
◇ 国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ http://www.hrw.org/ja
◇ NPO法人YouthCreate http://youth-create.jp/